ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
誠はこの工場で父と共に働いている。
誠「へぇ!恭夜の両親ってアンドロイドの開発者なんだ!」
恭夜「開発したって言っても、証明出来るものは何もないんだけど」
誠「もし君が関係者じゃなければ――」
恭夜「いっ!」
誠「このスクレイパーで――」
恭夜「うっ!」
誠「身ぐるみを剥いでやるつもりだったんだけどなぁ」
恭夜「いちいち顎を小突くな!スクレイパーなんていつ使うんだ?」
誠「そうだそうだ、設計図ってまだ残ってる?」
恭夜「俺が持ってるように見える?」
誠「いやぁ、一度は拝見したいと思ってたんだけどやっぱり難しいよね」
恭夜「それに設計者は飛行機事故で死んでる」
誠「オヤジから聞かされたよ。世界は最高の頭脳を失ったんだって今でも嘆いてるよ。開発者は?」
恭夜「父さんは俺が三歳の時、事故で死んだ。母さんはその時のショックで入院してる」
誠「……ごめん。唯城博士達までそんな災難に見舞われてたなんて知らなかったんだ」
恭夜「俺も詳しいことは教えてもらってないし、大した思い出もないから気にしなくてもいいよ」
誠「恭夜は博士達の研究を引き継いだりしないの?」
恭夜「アンドロイド自体に興味ないからなぁ」
誠「じゃあここで働く?人がいなくて困ってたんだ」
恭夜「人がいないってアンドロイドを修理してる場合じゃないだろ」
誠「僕はまだ修行の身でね……で、どう?」
恭夜「あかりと隆太の面倒を見るにはお金が必要だし、サリーに頼りきるのも良くないけど……」
誠「アハハ。そんな悩まなくても今すぐ人手が必要ってわけでもないから」
恭夜「ウーン……」
悩みに悩んだ末、もう一度提案されたら二つ返事で承諾することに決めた。
誠「そんな『何か言いたいことない?』みたいな顔されても――」
ルナ「ゲルマ、起きた」
恭夜「え?え?」
誠「今、ゲルマが起きたって言った?」
恭夜「そうなの?」
ルナ「うん」
誠「僕が確認してくるから二人はそこで待ってて!」
誠はゲルマの様子を確認するとパソコンに視線を移す。
誠「特に変化したような波形は見られない。よし、声をかけてデータを取ってみよう」
恭夜は隆太の言葉を思い出し空を見上げる。快晴だ。時刻は正午。
恭夜「腹減ったなぁ」
ルナは誠の作業を黙って見ている。
恭夜「ルナはお腹すいてる?」
ルナ「ポンデリングが食べたい」
恭夜「あっそう……」
買ってこいと言われている気分になり素っ気なく返した。
ルナ「恭夜も食べる?」
恭夜「ごめん。フレンチクルーラーの方が好きなんだ……」
ルナ「ふふふ」
恭夜「何がおかしいんだよ……」
ルナの笑顔は印象的だった。恭夜は真面目な表情で覗きこむ。
恭夜「あの……」
ルナ「どこかで会ったことある?」
恭夜「えぇ……昨日俺が聞いたよね?」
ルナ「私の刀が……」
恭夜「刀がどうかした?」
ルナ「持ってみて」
恭夜「持てばいいの?――!?」
ルナ「ね?」
恭夜「な、なんじゃこりゃ??」
刀は不自然に濡れていた。手汗ほどの不快感はない。
誠はゲルマに語りかけ続けている。
誠「やあやあ」
ゲルマ(……ここは……なんだ?)
誠「聞こえてる?君、ゲルマって言うんだろう?」
ゲルマ(俺の名を呼ぶのは誰だ?……奥にも人影が……黒い長髪の女。それに髪は結っている。もしやライナ、ライナ・リゲイリアか?)
誠「おかしいなぁ。もしかしてルナの声にしか反応しないとかかな?」
ゲルマ(この違和感は一体どこから……そもそもこの体はなんだ?動かんではないか!俺は人間ではないのか?何故だ?何が起きている?この薄汚いメガネをかけた男が全ての元凶か?)
誠「ちょっと頭の中いじらせてもらうよ――相変わらず複雑な回路で見にくい。また目が悪くなったかも」
ゲルマ(やはりこの男が俺を醜い姿に作り替えた外道か!許せん!許せん!許せん!貴様を必ず葬り去ってやる!動け!我が怒りの拳よぉぉぉ!)
ゲルマはガタガタと音を立てている。
誠「おっ!動いてきた!いいね!いいね!それじゃあ僕が命令するからその通りに行動するんだ。まず右手を頭より上に上げて――」
ゲルマは右手の拳を振り上げる。
誠「うわぁぁぁ!」
恭夜・ルナ「!!」
誠は間一髪、拳を回避したが驚いた拍子に尻をついてしまった。
誠「な、なんだよ急に!?」
ゲルマ「貴様、一体何をした?」
誠「え?何って――」
ゲルマ「答えぬのなら吐かせてやる!」
誠の胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げる。
誠「うぅ……いき……でき……」
恭夜「凄いことになってる……でも本当に完成してたのか。自我を持つアンドロイドが!」
ルナ「ゲルマ、ダメ!」
ゲルマ「ライナか?……いや、違うな」
恭夜「や、やあ!俺、恭夜って言うんだけどその人離して――」
ゲルマ「貴様は知っているのか?」
ルナ「ゲルマを直した人。だから離して」
ゲルマ「……」
恭夜「お、お前は機械の体なんだぞ。わかるか?誠が直してくれなかったら――」
ゲルマ「やはり貴様が身体を醜い姿に作り替えたのだな!許せん!」
ルナ「違う!」
恭夜「ヤバイ。あいつ機械のクセに勘違いしてるぞ。このままじゃ誠が死ぬかも……」
ゲルマ「最期に言いたいことは……ククク、声も出せないようだな」
恭夜「おい!ゲルマ!その男を殺すな!お前が元の姿に戻れなくなるぞ!」
ルナ「ゲルマ、聞いて!」
ゲルマ「ならば貴様に問おう。全ての真実を」
ゲルマは誠を投げ飛ばす。誠は壁にぶつかり意識を失った。
恭夜「へ?い、いや、殴り合いじゃなくて、こう平和的に――」
ゲルマ「問答――」
右の拳を恭夜に向ける。
ルナ「逃げて!」
恭夜「なんで!?」
ゲルマ「無用!」
ゲルマの拳は弾丸のように発射する。同時にルナが恭夜を庇うように立ちはだかった。
ルナ「――んっ!」
恭夜「――ちょっ!」
ルナは刀で受けるが容易く弾き飛ばされる。恭夜も巻き添えをくらい外に放り出された。
ルナ「うう……」
恭夜「いってぇ……」
外は快晴から一転、曇天に覆われている。ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
登場人物紹介
星宮あかり(ほしみやあかり)―女・15歳
双子の妹。
飛行機事故で両親を失う。
ツインテールが特徴的。
甘え上手で兄の隆太を意のままに操るフィクサー。
高校に通っているが、成績は良くない。
年齢に関係なく年上の人物を「~お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶ。
自他共に認める面食い。特にジャ○ーズが大好物。