深夜の1時間短編作成という謎の遊びにつき合わされて書いたので初投稿です。
…最近、やけに視線を感じるようになった。
それは、執務室で執務をしている時だったり、自室で寛いでいる時だったり、はたまた風呂に入っている時であったりもした。
僕は一介の艦隊司令である。艦娘、と呼ばれる少女たちを指揮して太平洋に屯する深海棲艦を駆逐する部隊の指揮官だ。もちろん、艦娘の情報を欲する某国にも狙われる立場、なのである。
だが、最近感じる視線は…こう、何というか…熱っぽいのだ。初恋の少女が相手に送る視線のように。
…青葉あたりに調査させることにした。
神風型駆逐艦、松風。短く、外ハネしている黒髪と、綺麗な黒目、宝塚の男役のようなハキハキした喋りが印象的な艦娘だ。
旧式の駆逐艦ながら、我が艦隊では水雷戦隊のベテランとして君臨している。
そんな彼女の姿が、報告書に添付された画像にあったのだ。
まさか、そんなはずはない。今まで信頼してきた彼女が何故ここに写っているのか。
青葉に口止めの間宮の券を渡す。
ついでに人払いをさせ、報告書に本格的に目を通す。
僕が普段利用している男性士官用の風呂を覗ける場所があり、そこに松風が現れたこと。執務を行っている僕の姿を撮ったと思われる画像が松風の部屋に隠されていたこと。
頭が痛くなるようなことがそこに記されていた。
いきなりとっ捕まえるなんてことは出来ないので、鎌を掛けてみようかと考え、松風を呼び出すことにした。
「どうしたんだい、司令官。」
いつもと変わらず、ハキハキとしてとても落ち着く喋りでこちらに問いかけをしてくる松風。
やはり、彼女がこんな事をしたとは思えない。
なぁ、今から聞くことに正直に答えてくれ。
「僕が君に嘘をつくなんてあり得ないさ、さぁ、何でも聞いてくれ、バストか?ウエストか?」
そんな事は聞かないさ、ただ…この写真について何か知っているか?
見せたのは、執務している僕を盗撮した写真。
「…君、これは一体どうしたんだ?」
僕の事を狙っている某国のスパイが撮った画像だそうだ。公安が提出してくれた。何でも鎮守府内に裏切り者がいるらしい。
「裏切り者…。もしや、僕を疑っているのかい?」
まさか。逆だ、信頼しているからこそお前に話した。
ここまでの会話で、一切反応を示さない松風。もし、松風が犯人ならば、何かしらの反応を示すはずだ。
昔、高校の演劇部に入っていたので、嘘をつく演技がとても難しいことは知っている。
それでも分からない。もし、松風が嘘をついているのであれば、もはや名女優である。
「なぁ司令官。夜、時間を開けておいてくれないか?」
何故だ?
「君に伝えておきたいことがある。」
何なら今でもいい。
「そうか、僕の部屋についてきてくれ。」
…真相に迫る千載一遇のチャンスだ。ついて行くことにした。
「ベッドにでも腰掛けておいてくれ。茶を入れてくる。」
基本、艦娘寮は全室個室で構造は士官の物に準ずる。
ベッドと机と椅子、窓が一つでその反対側に扉がある。
机は整頓されている。
ふと、棚にアルバムを見つけた。
中身を見る。
…何で、僕の高校の頃の姿が⁈
そこには高校生の僕が写っていた。
カチャン。
扉に目を向けると、お盆に湯呑みを二つ載せた松風がこちらを驚きの目で見ていた。
…松風?
一瞬驚いた様子を見せた松風は、無表情になり、目からもハイライトが失われた。
「………見てしまったんだね。僕だけが覚えている、君との思い出を。」
…僕との、思い出…?
「そうさ…君が僕と一緒に演劇部で活動していた頃だ…君は覚えていないだろう?」
…僕の学校は男子校のはずだ。
「あぁ…言い忘れていたね。司令官…美奈って言えば思い出すかな…僕はオトコだよ。そして、君に恋した乙女さ。」
…⁈
…思い出す。
「まさか!って顔してるね。当たり前さ。僕から逃げるために軍に入ったんだろう?…君は、愚かだ。だからこそ愛したくなる。…さぁ、助けを呼ぶか…?それとも、このまま…
最後はただの時間切れなのか、それとも....