おいでませ、やまおとこ   作:大小判

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転生、1冊目

 

 

 

 

 

 

 転生者。そういう用語が二次創作界隈に存在する。

 要は人気作品に現実世界から転生したオリ主が神様から貰った特典でヒャッハーする割とポピュラーな奴なのだが、それは所詮妄想によって書き上げられたものだ。見て楽しむ分はともかく、現実でそんなことが起こるはずがない。そう思ってたのに――――

 

「萌え幼女たんハァハァ……もとい、尊き子供の命を身命を賭して守ってくれたキミを転生してあげよう。私の事はまぁ……フランクに伊達と呼んでくれ」

 

 トラックに轢かれそうになった幼女を突き飛ばして代わりに撥ねられたと思ったら、何時の間にか何もない真っ白な空間にポツンと置かれたベンチに座っていて、伊達と名乗る褌一丁の眼鏡美形男子の神様に肩を抱かれていた。本気で勘弁してほしい。

 夢は現実に。ジャンプの某大人気ヒーロー学校漫画の一節が脳裏に浮かんだ。まさか自分が二次創作の主人公みたいな境遇に陥るとは思いもしなかったけど、このまま死ぬのも怖いしお言葉に甘えて転生することにした。

 

 で、いざ転生するにしても色々決まりがあるらしく、なんでもテンプレ通りに物語に転生させた奴らが特典で好き勝手し過ぎて物語がヤバいくらい無茶苦茶になってしまったから、これからは転生させる物語をクジで決め、物語に合わせた良識ある範囲内での特典1つと、それに合わせたデメリット特典を1つ持たせて転生させるらしい。まぁ、俺自身はバトル物とかに転生してもあんまり積極的に戦いたくないので、特典についてはあんまり心配していない。ちなみにもし、特典で好き勝手し過ぎたらどうなるのかと聞いたら――――

 

「HAHAHA! その時は神の裁きが雨あられ、脳天に降り注ぐさ。ラピュタの雷100連打よろしくネっ!」

 

 陽気に笑う伊達さん。何それ怖い。

 まぁ、そんなこんなで転生する世界をクジで引くことにした。ちなみに中身は俺の理解が深い作品だけで構成されているらしい。まかり間違って死亡フラグ満載のFateとかは御免被りたい。

 意を決してクジを引くと、そこには『ポケットモンスター』と書かれてあった。これには安堵の息が出る。色々物騒な組織が現れることがあるが、比較的平和な世界観で、なにより動物好きの俺からすればモンスターとモフモフライフが満喫できる。

 

 そして次は転生物の目玉、転生特典の決定だ。これには少々悩んだが、特にバトルに積極的に関わる気が無くても、ポケモンの世界観では生活全体にポケモンと人間の共存が描かれているが、興行ではバトルが主流。新しい人生がどうなるか分からない以上、ある程度の備えは必要かと思う。というわけで、俺が望んだ特典とそれに合わせたデメリット特典はこれだ。

 

 手持ちポケモンが全て個体値最高のの6Ⅴ。

 原作メインストーリーや主要登場人物に関する記憶消去。

 

 うーん、事件に関する知識が無いのは痛いが、高確率で一般人になるであろう俺には関係のない話だな。

 

「さぁ、これからエロと幼女に満ちた物語が待っている。それでは冒険にレッツゴー!」

 

 お巡りさん、早く来てください。

 

 

 

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 こうして俺は転生した。

 有名な登山撮影家の父……というか、完全に『やまおとこ』だ。俺の父親完全に『やまおとこ』だ。オメガルビー・アルファサファイアまで出てきた恰幅のいい『やまおとこ』だ。観覧車の悲劇で有名な『やまおとこ』だ。原作の重要な話は全然分からないのに、こういうところだけ覚えてるってどうよ?

 まあ、そんな観覧車の一件以降悪名高い『やまおとこ』な父だが、実際は豪快で気の良いおじさんって感じだ。前世と合わせて精神年齢が高い俺だが普通に尊敬のできる自慢の父だ。

 

 そんな父と小柄で童顔な母との間に生まれ、ダイチと名付けられた時、何か頭に引っかかった気がした。はて?

 

 それからなんやかんやあって、俺も11歳の頃に子供の頃からの相棒であるヨーギラスと共に旅立ってから9年が経ち、すっかり大人になった。父と母の中間位の良い感じの容姿に生まれ、この度俺は婿入りする形で結婚することに。

 それに伴って荷物の整理をしていると、子供の頃から今でもつけている日記を見つけた。何だか懐かしい気持ちになり、荷物整理を終わらせてから日記を捲り始めた。

 

 

 

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 〇月✖日 にほんばれ

 

 今日は俺の誕生日。シロガネ山に登った父からプレゼントにポケモンの卵を貰った。こいつは俺のパートナーになるのだと言われ、服の下に入れて温めることに。早く生まれてこないか楽しみだ。

 

 

 ✖月○日 しめったいわ

 

 時々卵の中から音が聞こえるようになった。何が生まれてくるんだろう? シロガネ山に行ったということは、

ズバット? コダック? それともまさかヨーギラスとか? ヨーギラスだったら嬉しい。バンギラスカッコいいし。ヨーギラス来い。

 ヨーギラス来い。ヨーギラス来い。ヨーギラス来いヨーギラス来いヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラスヨーギラス……

 

 

 ■月▽日 うるおいボディ

 

 俺の思いが通じたのか、生まれてきたのはヨーギラスの♂。嬉しくて思わず抱き締めようとしたけど、カウンターと言わんばかりに【アイアンヘッド】を鳩尾に食らった。解せぬ。お腹がグルグルいってて気持ち悪い。これが個体値6Ⅴの力か。

 

 

 〇月▲日 ノーてんき

 元々狂暴で知られるバンギラスの子供であるヨーギラスは中々の暴れ者。一人前のトレーナーである父と、何故か母には懐いているが俺には中々心を開いてくれない。そんな俺に父は「まずはポケモンの目線に立ち、対等になる事が大切だ」と教えてくれた。確かに、相手は人間並みの感情を持つ生き物だ。明日から実践してみよう。

 

 

 △月✖日 すなおこし

 

 ヨーギラスの野郎、こっちが下手に出てりゃ付け上がりやがって。そんなに力を示したいなら、俺と血反吐吐くまでボクシングをして分かり合おうじゃないか。物理的に誰が主人か分からせてやる。

 

  

 ✖月■日 ひでり

 

 今日はヨーギラスの【いわおとし】を躱してアッパーを決めてやった。そしたら拳が割れて病院に行くことに。

幸いちゃんと治るらしいけど、ヨーギラス超硬い。流石岩タイプといったところか。

 

 

 ▽月○日 かんそうはだ

 

 すっかり日課となったヨーギラスとのコミュニケーション(物理)に初めて勝った。超嬉しい、と思ったのも束の間。あの野郎、腹いせのつもりか晩飯は俺の好物であるメンチカツだったのに俺の分食いやがった。許せん。

 

 

 ■月■日 あめうけざら

 

 最近自覚したんだけど、ヨーギラスはなんだかんだ言って俺の傍によく居る。言葉こそ通じないけど、今ヨーギラスが何を求めているのか、俺が何を求めているのかが分かり合える感じだ。喧嘩は相変わらず絶えないけど、ヨーギラスが近くにいるのは結構気楽だ。気を使うことのない悪友って感じで。

 

 

 ✖月✖日 ゆきがくれ

 

 ヨーギラスが俺のプリン食った。絶対に許さん。本気で泣かす。明日告白すれば両想いになれる伝説の木の下で釘バットを持ってヨーギラスを待つことにしよう。

 

 

 

 

 

 


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