ひねくれボッチでも恋がしたい! 作:いのり
目の前の少女の名前は雪ノ下雪乃。
難関校と言われているうちの中でも国際教養科J組という偏差値が普通クラスよりも2、3ほど高いクラスに在席しており、しかもそのクラスでトップの成績を誇っている。
何故ボッチの俺がこんなにも詳しいのか、別にストーキングしたとかではない、単純に噂として耳に入ったのだ。
「そんなところに何時までも立っていないで座ったら?」
「あ、ああ......いや、やっぱり俺は良いよ」
「どういう意味かしら?」
「突然来て恋したいから教えてくれなんてわけわからないこと言われても困るよな。平塚先生には俺の方から言っておくから今回の事は忘れてくれ」
俺は軽く謝罪を込めてお辞儀をして扉に手をかけた所で引き止められた。
「待ちなさい....」
「?」
「この依頼を私は受けると言ったのよ。一度受けた依頼は最後までやりとおすわ」
俺を睨み有無を言わさない圧力を感じて、空いている席に座った。
「それで貴方の名前は?」
「比企谷八幡です....」
「そう、私は雪ノ下雪乃よ。それで恋をしたいという依頼だったけれど具体的にはどうしたいのかしら?」
具体的に....雪ノ下の口から言われたとき考えてみたが分からなかった。
恋はしたい。
けどクラスであるような恋なら俺はしたくないと思っている。
「分からない.....」
「ごめんなさい。恋をしたことが無いから相談に来たのだったわね。失念していたわ。そうね.....好きな人、とかはいるのかしら?」
好きな人。その言葉に合う人は一体どんな人なのだろうか。
可愛いと思った人?
性格がいい人?
分からない。
俺には人を好きになる定義というものが何も分からなかった。
可愛いと思う人はいる。
現に目の前の雪ノ下雪乃のという少女は容姿がずば抜けていると言っていいほど整っているし成績もいい。
だがだからと言って好きかどうかで聞かれれば好きではないだろう。
「いない...と思う」
「はぁ...これは予想以上に重症みたいね」
「雪ノ下、邪魔するぞ」
「先生....ノックを」
「悪い悪い。比企谷の相談に手こずっているようだな」
「あまりにも本人自信が理解していないので」
「そうか....あ、そうだ。言い忘れていた。比企谷」
「なんですか」
「お前の依頼が完遂できるまで、お前にはこの部に入って活動をしてもらう。勿論異論抗議質問口答え等一切禁止だ」
「.......どういう意味ですか?」
「どうもこうもあるまい。君の悩みを解決するにはなるべく多く雪ノ下の側に置いておくのが良いと判断した」
「平塚先生。それは先程の依頼に含まれる。ということですか?」
「ああ。勿論その通りだ。だから比企谷の依頼が完遂すれば比企谷は自由だ」
「......分かりました。些か言いたいこともありますが依頼というなら納得しましょう」
「俺は納得してないんだが?」
「私みたいな可愛い女の子と同じ部活をやれるのよ?感謝こそしても文句なんて無いと思うのだけれど」
「.....清々しいまでに自分に自信があるみたいだな」
「ええ。貴方とは違ってね」
「俺は自分に自信が無いんじゃない。周りに合わせるのが嫌だから目立たないようにしているだけだ」
「それは貴方に自信が無いからでしょう?私は別に普段から周りに合わせてなんていないわ」
「周りに合わせないでどうやって友達作ったりするんだよ」
「そうね、確かに作りづらいかもしれないわね。でもだからなに?友達ってそこまで必要なものかしら?私この年まで友達がいないと困ることなんて無かったから分からないのだけれど」
「.....困るだろ。体育の時とか2人組作れとか言われたとき。残った奴が俺の顔見た時の顔思い出しただけで卑屈になるわ」
「それは貴方に自信が無いからよ。さっきも言ったけれど自分に自信があれば相手の意見なんてどうでも良いものなのよ、相手は所詮他人なのだから.....例えそれが血の繋がった兄弟や姉妹であっても」
「雪ノ下........」
「まあな。血が繋がってるって言っても兄弟や姉妹なんて一番近い他人みたいなもんだからな」
「.....そうね。大変遺憾だけれど今の貴方の言葉には賛成するわ」
「さて、私は仕事があるから職員室に戻るが比企谷、明日もちゃんと部活に出るようにな」
「どうして平塚先生がそこまで言うんですか?」
「ん?当たり前じゃないか。私はここの顧問だ」
「え?.......」
「それじゃあな」
平塚先生は放心している俺を放置してそのまま部室を出ていった。
「さて。そこで何時までも放心している、放心谷君。私の話を聞いてもらえるかしら?」
「放心谷ってなんだよ....」
「さて現状、私から貴方に何かをしてあげられる事はないわ」
「ああ」
「それでも何とかはするつもりよ。時間はかかるかもしれないけれど」
「悪いな....」
「.......驚いたわ。貴方謝れるのね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「ひねくれてる社会不適合者、かしらね」
「おい、それもう悪口だろ。自覚あるけど」
「ならいいじゃない。それにまだ自覚があるだけましよ。あと私は雪ノ下雪乃よ。お前ではないわ、比企谷君」
「自覚があるだけましって誉めてんの?えーと...雪ノ下、さん」
「大丈夫、安心して。ちゃんと貶しているわ。それに気持ち悪いからさんは付けないでちょうだい」
「うっ.....なんか俺のHPバーが赤まできてるんですが?何故そんなに話の中でナチュラルに俺のこと罵れるの?」
「あら貴方のメンタルはその程度だったのね。唯一の取り柄くらい持っておいた方が良いわよ。それに別に罵っているわけではないわ。貴方を見て思ったことを口にしてるだけよ。つまり貴方自身が罵られるような言動、顔などしてるからじゃないかしら?」
「おーい、最後の顔って完全に悪口だろそれ。それに俺は目が腐ってるだけで顔は悪くない」
「.....自分でそこまで自信満々に言えるなんてある意味才能ね.....神は二物を与えずとは言うけれど、自信過剰になれることが唯一与えられたなんて同情してしまうわ」
「.......雪ノ下さ.......雪ノ下だって自信過剰だろ?」
「私の何処が自信過剰と言うのかしら?」
「自分の事可愛いとか思ってるだろ?」
「ええ思ってるわよ。でもそれは自信過剰ではないわ。実際に可愛いのだからしょうがないのよ」
「........分かった、俺の負けだ.....」
「なんの勝負をしていたのか分からないのだけれど.....」
「ああ、もういいよ....」
これ以上続けたら迷わずに部室の扉を開けて走り出しちゃうかもしれない。
コンコンと俺達が話し終えるのを待っていたかのように扉がノックされた。
「どうぞ」
「し、失礼します。平塚先生から言われてきたんだけど.....あれ!どうしてここにヒッキーがいるの!?」
こっちを指差しながらヒッキーと言ってることから俺に対してヒッキーと言っているようだ。
今部室に入ってきたのは同じクラスの....えーと....リア充だ。
なんかギャル意識してます!みたいな頭と口調、そして語尾にしを付けることからギャル意識してるリア充だ。
何故リア充かって?高校生でギャルなんて皆リア充だろ。知らんけど。
「ヒッキーて俺、お前と一度も話したことないよな?何?というか初対面じゃね?ってレベルなんだが」
「彼女の名前は由比ヶ浜結衣さんよ」
「へえー」
「へえーて!ヒッキー同じクラスなのに酷いし!」
「いやだって一度も話たことない奴なんて同じクラスでも違うクラスでも同じだろ?」
「それは言えるわね」
「なんか二人で結託してる!?もう酷いよ...二人が楽しそうに話してて全然入れなくて10分くらい扉の前で話し声聞こえなくなるの待ってたのに....」
俺達の会話、外まで聞こえてたのか...今度から音量に気を付けよ....てか10分も待ってるとかどんだけだよ...なんだこれが友達作りに最も必要とされるテクニックの空気を読むってやつか?てか空気読むならさっさと入ってきて俺を助けてくれれば良かったのに。
「ん、んん....それで由比ヶ浜さん。貴方は用事があってここに来たのではないのかしら?」
「あ、そうだった。平塚先生から聞いたんだけどここって生徒のお願い叶えてくれるんだよね!?」
え?そうだったの?
でも俺の依頼も願いみたいなものだしそうだったのか?
「それは違うわ。この部は飢えた魚に餌を与えるのではなく、餌の摂り方を教え、自立を促すの」
そうだったのか、初めてこの部の方針なるものを聞いた気がする。
「へ、へえー。なんか凄いね」
うん、この顔は絶対理解してないな。
「それで由比ヶ浜さんは何を依頼しにきたのかしら?」
「あ、うん!そうそう!私....実はお菓子作りが苦手というか料理全般苦手で。お礼を言いたい男の子がいて一緒にお菓子もいれてお礼を言いたいんだけど上手く作れなくて....だから上手く作れるように手伝ってほしいの!」
ヒロインは未だ決めていないので、誰をヒロインにしてほしいという声があればそちらを尊重してヒロインにしたいと思います。