作戦決行当日になって、とんでもないことが起こった。ロンがドラゴンに噛まれてしまったのだ。しかも、
「ごめん。マルフォイに勘づかれたかもしれないんだ。」
「どういうこと?」
「さっきマルフォイが病室に来て、僕が図書室から借りた本を持っていったらしいんだ。僕、その本にチャーリーからもらった手紙を挟んでて…。」
医務室のベッドに横になっているロンは、痛みと申し訳なさで顔が羊皮紙みたいな色になっている。
「大丈夫よ!あたしがロンの代わりをする!」
「アリスだけじゃ無理だよ。ハリーと君とじゃ、もう一人君がいないとあの箱を持てない。」
「じゃあ、私もやるわ。」
満を持して、といった風に、それまでじっと黙っていたハーマイオニーがそう言いはなった。
「ハーマイオニーといえば規律、規律といえばハーマイオニーなのに?」
「ぢょ、ハリー、ふふ、それ面白すぎ!」
「笑ってる場合じゃないわよ、アリス!」
…というわけで、作戦はロンを除いた三人で行うことになった。
作戦はおおむね上手くいった。透明マントに三人は狭かったが、(あたしが小さいおかげで)なんとかなったし、三人の方がより楽にドラゴンを運ぶことができた。
チャーリーと久々の再会を果たし、ドラゴンを無事届け終える。ほっとしたあたしたちは、すぐさま寮に戻ろうと足を早めていた。そのとき、
「リル!」
闇の中に現れたのは、リルの真っ白な体だった。あたしの小さな呼びかけに振り返るが、すぐに反対方向へと歩き出した。何やら右後ろ足を引きずっている。
「アリス、リルは猫なんだから、夜中に出歩いていても怒られないわよ。」
「違うわ、リル、怪我してたの。あたし、捕まえてくるっ!二人はさきに戻ってて!」
そう言うと、あたしはリルを追い、元きた道を走り出した。ハリーとハーマイオニーが後ろで声をかけるが気にしない。
「リル、リル…!つかまえた!」
やっとリルを捕まえたのは、先ほどドラゴンを渡した塔だった。リルは、みぃ、みぃと声をあげるが、捕まえられた主があたしだとわかると、すぐに落ち着いて腕の中に収まった。あたしはいつも持ち歩いている猫用クッキーをリルに与えながら
「リル、あなたその足でよくここまで歩けたわね…。寮で手当てしてあげるからね。」
と呟いた。
すでにハリーたちと別れた場所からは遠く離れてしまい、追い付くことは不可能だ。仕方ない、一人で戻るかと目をあげたあたしは、ここにあってはいけないあるものを目にしてしまった。
「え、何で透明マントがここに…?」
アリスの笑いのツボがなんかおかしい気がする。