歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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城案内と門番

 イグナシオさんと僕が大魔王様の元へ戻ると、大魔王様はカミラさんとの話を中断してこちらを出迎えた。

 

「お帰りなさい! ……随分と長い連れションでしたね?」

 

 大魔王様が全てを見透かしたような笑みをしていた。僕たちが何をしてきたのかバレているのかも知れない。

 

「まあ、なんだ。なかなか出なかったのよ。でだなご主人。すまんが俺ぁこれで訓練に戻らして貰うわ」

 

「あら、そうですか? 残念ですが……まあ、イグナシオですもんね。訓練、頑張って下さいね!」

 

 大魔王様がバイバイとばかりに手を振ると、イグナシオさんはさっと手を上げて答えた。

 どすどすと音を立てて去るイグナシオさんが、不意に僕の方へ振り返る。僕を捉えるその目は、少し寂しそうに見えた。

 

「さて、次の目的地はどこですか? カミラ」

 

「今日は正門を案内して、それで終わりにしようかと」

 

「……正門?」

 

 正門なら僕がここへ来るときに1度見ている。改めて案内されるような場所では無いと思うのだが……

 

「まあ、黙って付いてこい青年。説明しなきゃならないこともあるからな」

 

と言うカミラさん。……まあ、とりあえず付いていこう。

 

 

 

 食堂から正門まではかなり距離が近かった。と言うのも、食堂からいわゆる『城エリア』であり、あぱーとや訓練場などがある、『居住エリア』とでも呼ぶべきであるあの広大な土地より、比較的狭いからである。

 まあ、比較的狭いだけであり、もちろん広いと言えば広いのだが。

 

「で。昨日も見た正門な訳ですが」

 

 昨日と何ら変わりない。そびえ立つ漆黒の城門がそこにあった。

 

「んー……本当に変わりないかな? ほら、門番、とか」

 

「門番……?」

 

 カミラさんに言われて、門番を見る。これも昨日と変わりなく、オー……

 

「ゴブリンだ……」

 

クではなかった。そこには、昨日僕を玉座の間へと案内してくれたゴブリンの老執事。キースさんがそこに居た。

 

「おや、大魔王様とカミラ様。それに、アラン殿ではありませんか。お出かけですか?」

 

 にこやかに言うキースさん。

 

「いいえ。アランへの城案内です、翁」

 

「そうでしたか。ここの門番の制度の説明に?」

 

「ええ。丁度今日はキース殿が番をする日なので、青年を驚かせてやろうと」

 

 僕をおいてどんどんと話が進む。……それにしても、カミラさんも、大魔王様も、彼に敬意を払って話しているように見える。……ただの執事ではないのか?

 

「カミラさん、彼、何者なんです? ただの執事じゃないんですか?」

 

「彼はな、前々回の人界との戦いで、大魔王の側近として戦い、ゴブリンでありながら当時の勇者を五体満足で葬った伝説中の伝説のお方だ」

 

「……え!?」

 

 勇者を五体満足で……? それはとんでもないことではないか? 大魔王の側近でありながら、もしかして当時の魔王よりも強いのでは……。

 

「そんなに大袈裟なことではありませんよ。そうですね……ただ、ちょっと運が良かっただけでしょう」

 

と、あくまでにこやかに言うキースさん。何というか、この姿を見ているとそんなに凄みは感じない。

 

「って、そういえばカミラさん。ここで説明したかった事って? 後、昨日の門番はオークの人だったのに、なんで今日はキースさんなんです?」

 

「ああ、説明しよう。ここの門番、交代制なんだ」

 

「……わざわざここまで来た意味、ありますか?」

 

「……ないな」

 

 ええ……無いのか……。

 

 

 

 

 

「そういえば。キースさんって、執事なんですよね?」

 

「ええ。執事長をやらせていただいています」

 

 せっかくここまで来たのだからと、キースさんとお話しすることにした僕である。

しかし彼の落ち着いた立ち振る舞いは見事な物で、立ち方一つとってもぴしっとしている。

 故に門番には見えない。

 

「……執事長の仕事は、門番の時は無いんですか?」

 

 わかりきった質問。この城のことだし、門番しつつ他の仕事とか、大魔王様じゃなきゃ出来ないだろう。

 

「執事長の仕事もありますよ?」

 

 あるのかよ

 なんなんだこの城は

 

「まあ、私ほどになりますと他の使用人の教育もしっかりしておりますから。ある程度指示をすればそこの埋め合わせはしてくれますよ。皆、頼りになる使用人達です」

 

 しみじみと言うキース殿。

 

「まあ私含め皆仕事は適当にやっておりますが」

 

 とんでもないことをさらっと言うキース殿。

 

「ええっ……ちょ、ちょっと待ってください、適当!? 適当ですか!?」

 

「ええ。適当です」

 

「城内の掃除も?」

 

「適当です」

 

「あんなに美味しかった料理も?」

 

「もちろん適当です」

 

「大魔王様のスケジュール管理とか……」

 

「大魔王様は畑仕事か散歩くらいしかすることがありませんので、そもそもスケジュールなど……」

 

「……この、門番も?」

 

「ええ。それはもう適当に」

 

 なんかもう駄目だこの城。今までの僕たちをあざ笑っているようにしか思えない。

 

 

 

 

「さて、もうそろそろ日も落ちてきましたね」

 

 空を見上げながら大魔王様が言う。赤黒かった空はもうほぼ真っ黒に染まり、月も見えかけている。

 

「帰りましょうか。アラン、カミラ」

 

「これから何時間歩いてあぱーとまでかえるんですか……?」

 

「青年。考えてはいけない」

 

 城門のキースさんと別れ、元来た道を戻り出す僕たち。

 今日は色々と衝撃の1日だった、と纏めて見ようとしても、衝撃的すぎてさっぱり纏まらない。簡単な言葉じゃ表現できそうもないのだ。しかし、この城のぶっ飛び具合は、印象にだけは、非常にに強く残ったのだった。

 

 故に、僕は。

 大魔王様を心から信用することが出来ない。


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