模擬戦闘を終え、ほどよくお腹がすいてきたころ。
もうそろそろお昼なので、僕たちはお昼ご飯をとろうとしたのだ。
お昼ご飯を、とろうとしたのだ。
なのに、なぜ?なぜ僕の目の前には……
「腕によりをかけました。どうぞ、お召し上がり下さい」
フルコースの料理が並んでいるのか。
時は約1時間半前まで戻る。お昼を食べようとした僕たちは、大魔王様の提案により、使用物の作った大魔王用の料理を食べよう、と言うことになった。
なんでも、期待の新人には美味しい物を食べて貰わなくてはいけません。いけません! ……とのことで、城中枢にある調理場と食堂まで向かうことになった。
ちなみに、ここの食堂は大魔王軍なら自由に利用できるらしい。様々なメニューから、自分の好きな物を頼んで食べて言いそうだ。なんとも便利である。
で、1時間ほどで到着。大魔王様が使用人に話を通すと、どうやら使用人にもこの展開は予想できていたらしい。3匹分の用意がございます、とうやうやしく言って、厨房へと戻っていった。
そこでふと気づく。3匹分の用意って、1匹分足りなくないか?
そのことを聞くと、カミラさんは笑いながら
「イグナシオは肉しか食べんのだ」
と言った。なんか納得した。
長いテーブルに座ってしばらく待っていると、料理が運び込まれてきた。
大量に。それこそ大量に。パン、スープ、肉……様々な料理がテーブルに並べられていき、気づいたら目の前にはフルコースが存在していたのだった! ……割と洒落にならない。
「これ、お昼ですか!? 夕飯じゃなくて!?」
「ええ。そうですけど?」
僕の問いに、大魔王様は不思議そうに答えた。まるでこれが当たり前のように。……いや、実際当たり前なのだろうが、それにしてもぶっ飛んでいると思う。
「さてさて、頂きましょうか!」
笑顔で手を合わせる大魔王様。
すぐ後に手を合わせるカミラさん。
すでに肉を食べているイグナシオさん。
その三人を唖然と見る僕。
僕が手を合わせていないのを見て不思議そうな顔をする大魔王様。
僕に気絶するギリギリのプレッシャーをかけてくるカミラさん。
気絶したイグナシオさん。
……部屋に帰ってご飯食べたいなぁと、この惨状を見て思ってしまうのだった。
ジューシーな肉、ふかふかのパン。上質な味付け……。渋々手を合わせて、『いただきます』して食べてみれば、その味は美味しいでは表しきれないほどの物であった。
魔王様に連れて行って貰った高級料理店の料理よりも美味しいとは、これいかに。大魔王様はいつもこんなものを食べているのか……。
ふと気づいた。静かだ。美味しい食事に集中していて気づかなかったが、やけに静かだ。大魔王様も、カミラさんも喋っていない?
ふっと顔を上げる。未だ倒れているイグナシオさん。上品に料理を口に運ぶカミラさん。
そして。積み上がった大量の皿で姿の隠れた大魔王様。
「……大魔王様!? 量! 量!」
僕がそう言った瞬間。とてつもないプレッシャーが発揮され、僕の意識は飛んだ。
意識が薄れていく中、
「食事中は、静かにするのが礼儀だ」
と言う、凜とした声だけが聞こえた。
食事中は記憶があまりない。料理は美味しかった気がするが、特に覚えていない。何か忘れたいことでもあったのだろうか?
……僕は覚えていないぞ。僕たちの三倍、いや、それ以上の量、大魔王様が軽く平らげていたことなんて覚えていない。
気がつくと僕は食後のワインを飲んでいて、カミラさんと大魔王様は仲良く話していて、イグナシオさんはちゃんと起きていた。
「新入りよぉ。少し、話があるんだが」
イグナシオさんが立ち上がり、僕の横まで来て、2人には聞こえない声で言った。
「何ですか? 急に」
「俺はお開きになったら訓練に戻るからな。その前に、言っときたいことがあるんだ。だが、まあ、ご主人やカミラの前で話すことでもねぇしな。ちょっと外で話そうや」
「……? わかりました」
そうして、席を立つ僕とイグナシオさん。大魔王様に理由を聞かれたとき、男同士の連れションだ! と理由を説明して笑っていたが、正直ちょっと辞めて欲しかった。
大事な話の内容は、次話を待て。と言うことで。
お願いします。