歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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交渉の結果は

「本当に。アランとカレンは無事に中央に帰すのだろうな?」

 

 ……厄介なことになった。非常に、厄介なことに。

 

「えぇ、勿論ですとも。カミラ・ヴァンプ。あなたが余計な動きをしなければ。また、彼らが愚かでなければ、無事に中央にたどり着くでしょう」

 

 残念なことだが、交渉は失敗した。この北西都市シトロンにアニタ様の定める新たな法が徹底されることはない。……全く、いつ嗅ぎ付けられたのだろうか。彼らに私をヴァンパイアだと知られただけで、私は彼らに逆らうことができなくなった。

 アニタ様の描く平和とは、こんなにも脆いものだったのだろうか。いや、やはり。私がここに来るべきでは無かったのかもしれない。

 

 事の起こりは早朝まで遡る。嫌な夢を見て寝付けなかった私は、分身を解除して、何をするでもなく宿屋の入り口にボーッと立っていた。大魔王軍に入る前、私が精神的にどうしようもなくなったときによくしていた事だった。

 

 そこに、領主は現れた。

 

「お迎えに上がりました。大魔王軍御一行様」

 

 それがさも当然のように、昨日と同じ笑みを投げ掛けながら彼はそう言った。

 

「……随分と、早いのだな。この時間はどう考えても非常識だと思うが?」

 

「そうですか? それは申し訳ありません。ワタクシ、毎日この時間に仕事に向かうので、他の物も同じだと思っておりました」

 

「……そうか」

 

 それはなんとまあ、やる気に満ち溢れていることで。

 

「しかし、ということは他のお二方はまだ起きていらっしゃらないのですか?」

 

「ああ。2匹は寝ている。私は、寝付けなくてここにいるだけだ」

 

「なるほど。……ですが、それならあなたは何をしていたのです? ワタクシの迎えを待っていたのでもなく、ただ寝付けなかっただけならば散歩でもしていたのかと予想もできましょうが、どうもそういう様子でない。ワタクシには、ただそこに立ち尽くしているだけのように見えました。まるで、幽鬼のように」

 

「……言い得て妙だな。その通り、私はここに立っていただけだ。何をするでもなく、立ち尽くしていた。どうも無償にそうしたくなるときがあるのだ」

 

「……はぁ。あなたは随分と、不思議な方のようで」

 

「そうだな。多少、変わっているかもしれない」

 

「さて、ワタクシはどういたしましょうか。時間が早いと言うのなら、また改めて迎えに伺う形にしますか? 長旅お疲れでしょうから、お二方を早く起こしてしまうのも酷でしょう」

 

「……いや、いい」

 

 彼の提案に、私は異を唱えた。本来ならば、この男の言う通りにまた後で来てもらい、3匹で交渉に望むべきなのだろう。だが、私は。

 

「と、言いますと?」

 

「私1匹で行くよ。案内してくれないか」

 

 今、どうしてもカレンとアランに会いたくなかったのだ。そんな、下らない理由で。私はたった1匹で、交渉の席に着くことにしたのだった。

 

 

 

 

「では、どうぞお入りください。カミラ・ヴァンプ様」

 

 この男の仕事場は、そう遠くない場所にあった。恐らく、都市の真ん中。大魔王城と比べれば、圧倒的にスケールの劣る城のような建物が、この男の仕事場だった。少なくとも、前領主が治めていた頃にはこんな建物は無かったと断言できる。なんとも、まあ、贅沢の限りを尽くしているものだ。

 

 城の中、案内された部屋の扉を開くと、そこには鎧を着込んだ4匹の魔物と、小綺麗な格好をした1匹のハーピィがいた。

 

「ジェイク様! 待ちわびておりましたわ。さぁ、さぁ、早くこちらにいらして?」

 

 ハーピィは領主の姿を確認するやいなや、花が咲いたような笑顔になって、領主を手招きする。そのハーピィの声や、仕草のひとつひとつが妙に妖艶で、油断すると取り込まれてしまいそうな魅力を感じた。この女に隙を見せてはいけない、と、何となく思った。

 

「マチルダ、客が来ているんだ。控えてくれ」

 

「まあ、申し訳ありませんでした、ジェイク様」

 

「では、カミラ様、お掛けください」

 

 私は言われた通りにソファーに腰かける。長テーブルを挟んで反対側に、領主とマチルダと呼ばれたハーピィが座った。

 

「では、改めて自己紹介を。ワタクシ、現城塞都市シトロン領主、ジェイク・ウェイズリーです」

 

「大魔王軍所属、大魔王アニタ・アウジェニオ・シルヴァの側近である、カミラ・ヴァンプだ」

 

「私、城塞都市の秘書を務めております、マチルダです。姓の無い身分ではありますが、何卒よろしくお願い致しますわ」

 

「では、本題に入らせていただきたい。今回私がここを訪れた理由は、中央で作られた新たな法を地方都市に知らせ、定着させるためだ」

 

「新たな法、と言いますと?」

 

「ここに書類がある。確認していただきたい」

 

 私は2匹分の書類を取りだし、それを受け渡した。

 

「この法は、中央に敷かれていた法を強化し、全ての地域で運用できるようにしたもの。一定以上の秩序を守るための法だ。まあ、平たく言えば……この北西地域が平和になるように治めて貰いたい、ということだな」

 

 私はそれきり口を閉じ、彼らが確認を終えるまで待つ。やがて確認を終えた2匹が顔をあげると、私は彼らに問う。

 

「この法を、徹底していただけるだろうか?」

 

 果たして彼らの答えはどちらなのか。一瞬の沈黙に、額を汗が伝う。2匹は顔を見合わせ、ひとつ頷いた。もう、答えは決まっているようだった。

 

「お断り、させていただきます」

 

 NOと、返ってきた。

 

「それは、なぜ?」

 

「北西地域全土の守護と治安の維持など、ワタクシ共には到底出来やしないからです」

 

「自警団がいるだろう。立派な鎧を来た、統率のとれた優秀な兵士たちが」

 

「カミラ様もご存じでしょう。シトロンの自警団はその数を減らし、大幅に戦力を落としているのです。謎の赤オーガによってね。現在北西地域を荒らし回っている山賊団の存在をご存じでしょう? ワタクシどもはそれらから都市を守るので精一杯。損失を考えると攻めに出るのもリスクが高く、こんな状態では都市以外の場所の守護など不可能です。ワタクシどもが全域を守護する前提の法を敷けるほど、ワタクシどもに余裕はないのです」

 

「力が足りないのならば魔王軍の派遣だってあるだろう。北西地方はあまり魔王軍に支援を要請することはないようだが、いつでも貸与すると言われている力をなぜ使わない? それは領主として、怠慢なのではないか? こんな城や、都市を囲む巨大な壁を作れるほどの金と資材があるのだ。まさか、金が足りずに呼べない、何て言い訳はするまいな?」

 

「……ふむ……」

 

 領主が言葉に詰まる。私は事実を話しているだけだ。勝手に追い詰められているのは領主自身の自業自得。これで魔王軍を派遣し山賊団を潰せば、目下の脅威が無くなった北西地方の統治は容易くなるだろう。時間はかかるだろうが、法の徹底は出来るはずだ。

 

 やれやれ、今回の任務は無事達成か。この重要な局面で、何かやらかさなくてよかった、と。そう安堵した時だった。

 

「解放」

 

 と、聞こえた。紛れもない、女の声で。次の瞬間、左胸に衝撃を感じる。それと同時に、攻撃を受けた左胸がコウモリへと変わり、部屋に飛び散った。はす向かいにいる、妖艶な雰囲気をまとう(ハーピィ)が、ニヤリと笑った。

 

 ダメージはない。当たり前だ。だってそれがヴァンパイアなのだから。攻撃を受けた箇所がコウモリに変わり、散ることでダメージを無効にするのがヴァンパイアの特徴だ。

 

 つまり、攻撃を受けた今、私はこの場にいる魔物たちに自分がヴァンパイアだと語ったのと同じというわけで。

 

「まぁ、まぁ、ごめんなさい。私、少々口が滑ってしまいまして。しかしあなた。今、私の魔法を受けた胸が、コウモリになりませんでした? これはおかしいですわ。だって、それは……」

 

 旧魔界歴の折りに滅ぼされた、ヴァンパイアと同じではありませんか!

 

 さも驚いたかのようにそう語るマチルダは畳み掛けるかのように私に問いかける。

 

「お尋ねいたしますわ、カミラ・ヴァンプ様。あなた様は、ヴァンパイアですか? ……大魔王様は、ヴァンパイアの生き残りを殺すこともせず、自分の城に匿っていた、と。そういうことでよろしいのでしょうか?」

 

 ……ああ、クソ。だから私を外に出すのはいけないと言ったのに。

 

「……ああ。マチルダ、あなたの言う通りだ」

 

 確信をもって放たれたマチルダの質問に、絶対的な証拠を見せつけてしまった私は、ただ肯定することしかできなかった。

 




用語解説のコーナー!

アニタ「どうも皆様おはようございます! 大魔王のアニタですよ!」

アラン「大魔王軍のアランです」

キスカ「同じく大魔王軍のキスカだ」

アニタ「さあ、作者が散々サボってきたこのコーナー、久しぶりに復活です!」

アラン「最近面倒くさくなってきてるとか言ってましたね。これだから底辺だと……」

アニタ「ま、面倒くさいとか自業自得なんですけどね。さてさて、今回解説するのはこちらです!」

 オーガについて!

キスカ「で、ウチが呼び出されたんだな、これ。つってもさぁ、割りと解説することなくねぇ? 本編で結構色んな事はなしてると思うんだけど。そこんとこどうなのさ、大魔王様」

アニタ「まあ、うちから既に2匹いますからね、オーガ。まあ、その辺は作者に考えがあるのでしょう! 私たちを喋らせているのは作者! 私たちはなにも考えなくても、作者が必要なことを言わせてくれますよ!」

アラン「このコーナー始まって以来の1番ひどいメタ発言ですね今の……」

キスカ「んじゃ喋るか。ええと、何話しゃいいんだ? あー、色分けの細かい話しでもするか?」

アニタ「是非是非!」

キスカ「あいよー。そもそもウチらオーガは、赤、青、黒の3つの肌色がある。それによって、魔力の保有量がわかるんだけどさぁ。それ以上に、肌色ってのはウチらの一生に大きな影響を与えるんだよ」

アニタ「と、言いますと?」

キスカ「ハブられるのさ。ある一色だけな。えーと、じゃあ、人型。何色がハブられると思う? 言ってみな?」

アラン「ええと、赤ですか?」

キスカ「ぶぶー、ハズレー。正解は逆。黒がハブられるんだ」

アラン「えぇ? オーガは、黒の方が優秀なんですよね?」

キスカ「ま、その通りなんだけどさ。人型は黒のオーガと赤のオーガ、どっちをよく見る?」

アラン「ええと……赤ですね。そりゃ赤の方が数も多いみたいですし」

キスカ「だからだよ。赤の方が数が多い。そして、数が少ない黒のオーガは優秀だ。ウチら赤を、脅かす可能性がある」

アニタ「そもそも、赤と青のオーガは魔法を行使出来る回数に大差はないと聞きます。一方、黒は確実に数回、魔法を行使出来る。例えばその一族のオーガが赤だったとして、黒と戦えば大体黒が勝つでしょう。だから黒がハブられるってことですね」

キスカ「重要なところ全部言いやがるな大魔王様め……。ま、そんなところ。大体追放されたり、そうでなくても一緒のところには住ませない。ウチとしてはそんなことしたら、復讐で逆にやられるかもしれないって思うんだけどなぁ。オーガってほんと頭弱いよね」

アニタ「まあ、赤と青の方が数では勝ってるわけですし、黒単独ではやられるだけでしょうからねぇ……。そんな反乱が起こることも稀ですよ、きっと。そんなことが起きていないからこそ、未だ黒オーガは希少な存在な訳ですからね」

キスカ「ま、いくらオーガだろうとオーガ1匹倒すのは苦戦するもんだしな。相当技量がある奴じゃないと厳しいだろ。その点、ウチは技量特化だから? オーガだっていともあっさり殺せるんだけどなー」

アラン「そのわりには、いつもイグナシオさんに負けてますけどね」

キスカ「うっせー! やんのか人型ぁ!」

アラン「えぇやりますよ! 今度こそ1発くらいは攻撃を当ててやりますとも!」

キスカ「よく言った! 訓練場にいくぞ! ぶっとばしてやるからなぁ!」

アニタ「え、ちょ、待ってくださ……行っちゃった。ふぅ、2匹が行っちゃったことですし、今日はこの辺で終わりにしておきましょうか。お相手は、大魔王アニタと、大魔王軍のアランとキスカでした。バイバーイ!」

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