歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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カミラの過去編は今回で終了です。次回からようやく、4大都市遠征編へと帰ってきます。


ヴァンパイアの終わり

 私とヴラドは、アーカードをこのままにしてはおけないと、必死の捜索を開始した。力が落ちるのも気にせず、それなりの量のコウモリを飛ばし、魔界中をしらみ潰しに見て回った。

 

 そうして。最初にアーカードの情報をつかんだのはヴラドだった。その情報とは、狭い砦に仲間のヴァンパイアと共に立てこもり、魔王軍の攻撃により劣勢に立たされている、ということ。

 無論すぐさまヴラドはアーカードを助け出した。その途中、アーカードにヴァンパイアに作り替えられた魔物たちは、魔王軍によって全滅した。

 

 アーカードはそれに対し、怒り狂った。なぜ、仮にも同種になった物たちを助けず、私だけを助けるのですか!? それが望んだ仲間ではないとしても、確かに私たちと同じヴァンパイアなのに! と。そして、私とヴラドの制止を振り切ってもう一度、家から出ていった。

 

 次にアーカードが見つかったとき、彼はすでに瀕死だった。当時の魔王に腹を貫かれていた。彼は信じられないものを見る目で自分の体を眺めていた。最後の血からを振り絞って体をコウモリに変えた彼はどこかへと飛んでいき、そして、私たちは2度と彼を見つけることはなかった。あんな状態では、コウモリとなって逃げたところで生き延びることはないだろう。私は、息子を失ったのだ。

 

 私はそのとき、何を考えていたのだろうか。真っ白な思考の中、ぐちゃぐちゃとなにかを考えようとしては、なにも考えられず消沈していた気がする。

 ヴラドの言葉も耳に入らぬくらいに真っ白だった私は、そのあとのことはあまり、覚えていない。不甲斐ないことだが、はっきりと思い出せるのは、あとワンシーン。私たちの、終わりのシーンだけだ。

 

 私たちは住み処の場所を特定され、追い詰められていた。住み処の外には大量の魔物。新魔界暦の始まりを告げるように大魔王によって統制された、魔物たちの軍隊。彼らからは滅ぼそう、という意思を感じた。私たちは滅ぼされるのだ、とはっきりわかった。私たちは、明確な終わりの時を生きていた。

 

「……ヴラド、私……これ、は。私のせい、ですね。私が、私があなたの子を産もうなどと言わなければ。そうすれば、きっとこんなことにはならずに……私たちは、夢を叶えることが、出来たのに」

 

 私は、後悔の波に飲み込まれていた。どうして、どうして、どうして。それだけを考えていた。それだけしか考えられなかった。……自分の命が惜しかったのではない。ヴラドがあんなに楽しそうに語った夢を……叶える前に、終わりが来てしまったのが、終わりを呼び込んでしまったのが悔しくて、悔しくてしかたがなかった。

 

「カミラ」

 

 やがて、ヴラドが私の名を呟いた。もう終わりが近いとは思えぬほどの、穏やかな声だった。

 

「お前は、ヴァンパイアになったことを後悔しているか? 人から魔物になり、ヴァンパイアとして永い時を生きたことはお前にとって……幸せではなかったのだろうか?」

 

「……何を。何を、何を、何を、何を! 何をぉっ! 何を言っているのですか! ヴラド・ドラキュラァッ! そんな訳……そんな訳ないじゃないですか! 私は、私はあなたと過ごして、アーカードと過ごして! この上無いほどに幸せでした! あなたがいなければ私は! 人生を呪い、生きていることを呪い、いつまでも不幸な自分を嗤いながら死んでいた! 私に幸せを与えてくれたのは、貴方なんだ! なんで、なんでそんなことを言うんですか!」

 

 私は叫んだ。喉を絞り、力の限り叫んだ。この男が下らないことを言っているのが許せなかった。私は、この男がいたから幸せだったのに。しかし、私の糾弾を受けたヴラドは穏やかに笑っていた。

 

「……そうか。なら、こうなったのはお前のせいではないさ。俺のせいでも、アーカードのせいでもない。こうなることは運命で、俺がここで死ぬことはきっと、運命だった」

 

「……そんな、寂しいことを言わないでください、ヴラド。その言い方では、あなただけが死ぬようではありませんか。私も、一緒ですから。2匹で死んで、それで、向こうでアーカードに会うんです。ただ、私はあなたの夢を叶えられなかったのが気がかりで……」

 

「いいや。死ぬのは、俺だけだ」

 

「え……」

 

「カミラ。俺はお前と出会えてよかったよ。お前は空虚な俺の生に、何回も新たな世界を見せてくれた。退屈を消し飛ばして、彩りを俺に与えてくれた。俺が魔界の最後を見たいという夢を持てたのも、お前とアーカードがいてくれたからこそだ。だから。だからな、カミラ。俺は……お前に死んでほしくないんだ」

 

 何を。何をいっているんだろうか、この男は。ヴラドがこれまで口に出していなかった私たちへの感謝を口にした、という事実しか私にはわからなかった。ただ、それだけだないなにかが、この言葉にはこもっていると、薄々、そう感じた。

 

「カミラ。今だけ俺はお前の夫ではなく、主人として話をしよう。命令だ。俺をおいてここから逃げろ」

 

 ……そんな。そんな、そんなそんな、そんな、そんな、そんなの、そんなの。

 

「ずるい、ですよ。ヴラド」

 

「嫌だというのならば決闘といこう。お前が俺に勝てればお前はここに留まり俺と共に死ぬことを許す。そうでなければ……」

 

「無理です、そんなの。私がヴラドに勝てるはずもなければ、ヴラドを傷つけることなんてできるはずもありません」

 

「ではカミラ。生きろ。生きろ。生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて……永遠の時を生きた先で、世界の終わりを見てほしい。これが俺のお前への最後の命令で、お前への最期の願いだ」

 

 ヴラドの顔は真剣だった。悲しみなんて欠片も見えなかった。ただ自分が死ぬことを受け入れて、私が生きることを願っている。そんな顔だった。その、顔が、深く深く、私の心に突き刺さった。そんな顔をされたら、私は。彼の願いを断ることなんて出来なかった。私は流れる涙を彼に見せないように、静かにうなずいた。そしてこの体をコウモリに変えて逃げ出した。結果、私は殺されず。自分の夫を、家族を置き去りにして。その後も、のうのうと生きている。彼の夢を叶えるために。彼の命令を果たすためだけに。きっとこれは、罰なのだ。永遠の余生という、私への罰。そう思わないと、私は生きていられなかった。

 

 ドラキュラの姓を名乗るのは苦しかったから、ヴァンプという姓を名乗ることにした。

 

 私が私としてここにいるのは苦しかったから、ヴラドの口調を真似た。

 

 私が誰かと関わるときは、もう同じ間違いを犯さないと誓った。

 

 そうしてここにいるのが私なのだ。

 

 ヴァンパイアの生き残り。カミラ・ヴァンプなのだ。

 

 

 




アニタ「こんかいの用語解説はお休みです。それではまた次回お会いいたしましょう! バイバーイ!」

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