歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

51 / 54
我らこそが魔界を統べるべきなのだと

 ある時、ヴラドが夢を語った。幼いアーカードと私を椅子に座らせ、穏やかな顔で、どこか楽しそうに語った。

 

「いつからか、世界の終わりを見たいと思ったのだ」

 

「世界の終わりを?」

 

「ああ。魔界の終わりを、と言った方が正しいだろうか。世界が1つ終わるときはきっと、醜くて、儚くて、美しいのだろう」

 

 その夢は、私たちにとって、唯一すぐに叶わないものだった。私たちは永遠に近い時を生きる魔物だ。どんなに魔界が移り変わろうと、きっと、生きてそれを見届け続けるのだ。

 

「だからこそ、魔界の終わるその様を俺は見たいと思う。それまで生きて、生きて、生き続けて……永遠の時の終わりを、魔界と共に迎えたい。カミラと、アーカードと、3匹でな」

 

 いつか魔界の終わるとき。それと同時に私たちは滅びようと。それも良いなと、私たちは笑いあった。アーカードは首をかしげていたが、いつかわかる時が来る、と、私は彼の髪を撫でながらそう言った。

 

 

 

 

 

「父上! 何故私たちはこんな魔界の辺境に閉じこもり、ただ何もせず無為な日々を過ごしているのですか! ヴァンパイアの力があれば、我らは魔界を統べることが出来る! むしろ力の弱い大魔王なんぞよりも、我らこそが魔界を統べるべきだと! そうは思わないのですか!」

 

 叫び立てるのはまだ年若いヴァンパイアにして、私の愛しい息子であるアーカード。私たちが厳しく教育をし、立派な青年となった彼は、今。私たちのあり方に、強く疑問を持っていた。

 

「俺たちが魔界を統べたところで滅ぶのが目に見えているからだ、アーカード。何の能力も持たぬ、ただ異質な力を持つだけの我々に、どうして魔界を纏めることが出来るのだ? 例えば我らが魔界を統べるとしてお前は、どう魔界を纏めるというのだ?」

 

「我らには眷族作りの吸血があります。魔界全ての魔物をヴァンパイアにしてしまえば、それでいい! それで、魔界は我らの物です!」

 

「……話にならないな。そんなことをしても何の意味も無い。そも、魔界を統べたところで何になる? もう少し冷静になって考えるのだ、アーカード。私たちは、このままでいい」

 

「でも! 力の強い物が魔界の長であるならば、我々が魔界を!」

 

「下がれ。アーカード、頭を冷やすと良い」

 

「……わかり、ました」

 

 アーカードが部屋から出て行くのを見届けると、ヴラドは大きなため息をついた。この頃のアーカードはいつもこんな感じで、魔界は我らが統べるべきだと言って聞かなかった。それが自分たちの、ひいては魔界の滅びに繋がると、賢い彼には理解できるはずなのだが、な。

 

「アーカード、考えを改めてくれれば良いのですが」

 

「1度言い出すと頑固で聞かないのはお前譲りだな、カミラ。あいつがああなったときの対応はいつも疲れるのだ」

 

「それは、アーカードがああなったのは私がいけないと言いたいのですか?」

 

「そうではない。が、まあ。お前に似ていることを考えると、どうもこのままで終わるとは思えないのだ。子がほしいと言い出したときにあんな事をしでかしたおまえの子だ。何かやらかさなければ良いがな」

 

「やっぱり、私がいけないと言っているのではありませんか! ちゃんと諭すこともせずに突き帰すヴラドもヴラドだと、私は思いますけどね」

 

「……とにかく、アーカードのケアを頼む、カミラ。あいつは俺の話を聞かないからな」

 

「また私に押しつける……まあ、いいですけれど。私も、あの子が暴走するのは困りますからね」

 

 私は姿をコウモリに変え、部屋を出たアーカードを探しに出る。と言っても、アーカードがこういう時に行く場所など大体決まっている。屋敷の中庭にそびえる大きな木の下。そこを覗いてみると案の定。子供の頃と変わらず体育座りでそこに居た。

 

「アーカード」

 

「……母上」

 

 元気が無さそうなその声に、少し笑ってしまう。さっきまではあんなに気を張っていたのに。いや、だからと言うべきなのだろうな。

 

「あまり気を落とさなくてもいいのよ。……でも、ヴァンパイアが魔界を統べるって言うのは、考えない方が良いわ。それは絶対に叶わないことで、それは私たちにとって必要の無いものだから」

 

「母上まで父上と同じ事を仰るのですか! ……必要だとか、必要でないとかの話ではないのです。ただ、僕は……ヴァンパイアがここにいるのだと、この魔界で最も強い種族なのだと! 矮小な強さで長を気取る大魔王に、その大魔王を許容する魔界に、知らしめたいだけなのです!」

 

「その必要が無い、と。私は言っているの。私たちは魔界に波風を立てなくて良い。ただ、その歴史を見届けるだけでいいの」

 

「……母上も、父上も……臆病だ」

 

「その言葉。ヴラドの前では決して言わないように。賢いあなたなら、わかっていることでしょうけれど」

 

「……少し、眠ります」

 

「わかった。夕食の前には起きるのよ」

 

「はい。おやすみなさい、母上」

 

「おやすみなさい、アーカード」

 

 アーカードがコウモリとなって飛び去っていくのを見届けながら、今度は私がため息をつく。なぜ、アーカードは私たちが魔界を統べることに拘るのだろうか。私には、それがわからなかった。そのどこか焦っているようなアーカードを心配しながら、私は夕食の準備をするべく食堂へと向かった。

 

 

 

 

 夕食の時間、ヴラドに遅れて、アーカードは暗い面持ちで食堂に現れた。

 

「アーカード、遅い。もうヴラドが席に着いていますよ」

 

家族の決まりとなっていたのが、私とアーカードが先に食堂に訪れ、ヴラドを待つ、と言うこと。このルールを決めてからアーカードが食事に遅れたことはなかったのだが。何か、嫌な予感がした。

 

「父上。やはり……私は納得がいきません」

 

 彼は開口一番そう言った。嫌な予感が、現実の物になってしまう気がした。

 

「……何度も言っている通り、我らが魔界を統べる必要は……」

 

「父上は! 何にそんなに怯えているのです!?」

 

「……なんだと?」

 

 この件に関していつも冷静に話していたヴラドの額に、青筋が立った。それは、私にもう後戻りは出来ないのだと、はっきりと伝えてきたようだった。

 

「俺が、怯えていると言ったのか? お前は」

 

「ええ、そうです。父上は怯えている。母上もだ! 世界を見届けるためだけの一生に何の意味がありますか!? 我らは永遠に世界を見届けながら、停滞し続けるだけの一生など、何の意味も無い! 我らは、こんなにも強いというのに! 魔界に名も知られず、爪痕も遺さぬままで滅びの時を待つなど、僕には出来ない! そんなこと! 僕はしたくない!」

 

「アーカード! それは愚かな考えだ!」

 

「何が愚かなのです!? 父上も、母上も、その理由も説明できずただ愚かだ愚かだと言うだけではないですか! 僕には僕の考えが愚かだなんて到底思えない、僕は! この名前を、ヴァンパイアという存在を! この魔界に知らしめたい!」

 

「……アーカード。覚えているでしょう? ヴラドが語ってくれた、私の、私たちの、夢を。生きて、生きて、生きて……この魔界の終わりを見ると。見たいと。その夢を、語ったことを」

 

「覚えていたから何だというのです? そんな夢、魔界を統べた後でも叶えられる」 

 

「そんな、夢……?」

 

 アーカードが、否定した。私たちが数万、数十万の時を超えて持ち続けた夢を、そんな夢と否定した。それが、私は悲しくて……仕方がなかった。言葉を失って、足の感覚を失って、その場にへたり込んでしまった。

 

「臆病物の父上と母上に証明しますよ。ヴァンパイアは世界を統べることが出来るということを。僕の考えが、愚かではないということを」

 

「アーカード!」

 

 アーカードだった物は既に無数のコウモリに姿を変えた。つい1秒前に見えたその姿は、もう、この食堂に存在していなかった。

 

 

 屋敷の中にはどこにも居なかった。屋敷の周囲を探すも、見つかったのは内側から破裂したと思わしき魔物の死体と、荒らされた集落の跡、濃厚な血の匂いだけだった。

 

 

 次の朝。既に、南西地区の魔物たちは、そのほぼ全てがヴァンパイアに変わっていた。




用語解説のコーナー!

アニタ「どうも皆様! カミラの過去編もついにクライマックスな雰囲気の中、その空気をぶっ壊す! 大魔王のアニタです」

アラン「せめて本編外では面白おかしくやらなきゃ気が滅入ってしまいますからね。アランです」

アニタ「さてさて、最近の作者は筆が乗るからと調子に乗って話を書き、そう言えば用語解説あるんだったと後で苦しんでいるそうですが、そんな彼が引っ張り出した解説する今回の用語はー?」

 サキュバスについて!

アニタ「です!」

アラン「思い出したかのような連続種族紹介……ネタが全然ないのがモロバレですね」

アニタ「と、言うことなので、実は今回もゲストが来ていらっしゃるんですよー。どうぞ、お入りくださいなー」

アラン「げ。あなたは……!」

リリィ「どうも。皆さん、お久しぶり、です。リリィズブックショップ店長の、リリィです」

アニタ「よろしくお願いしまーす! さてさてリリィさん、ここに来る際、オススメの本を持っていきますとのことでしたが、どんな本を持ってきてくださったのですか?」

アラン「うわぁ……やっちゃいましたね大魔王様……」

アニタ「え、何がですかアラン? 何も不味い事なんてないですよね?」

アラン「リリィの顔が輝いてる……。僕は、もう知りませんからね」

リリィ「今回オススメする本は、あいすくりぃむ、です」

アニタ「あいすくりぃむ……。なんだかとっても可愛い名前ですね。どんな内容なんですか?」

リリィ「魔物の女の子が、おクスリを使った○○○をして、どんどんと壊されていくというお話です!」

アニタ「え? ○○○っ、て……そ、それ! か、官能小説じゃないですかぁ! 女の子がなんて物を持ってるんですか! というか○○○なんて物前で言っちゃいけないでしょ! いけないですよね!? だって○○○ですよ!? 私間違ってますか!?」

アラン「あの、大魔王様? さっきからリリィよりもその……○○○、連呼してますけど?」

アニタ「……っは!? あ、しょの、えっと……ん、んもぅ! だ、だから私はサキュバスがあんまり好きじゃないんですよ! あ、アラン! 解説頼みましたからね!」

アラン「えぇ!? ま、丸投げですか……? はぁ。仕方ない。サキュバスは有翼種であり、デーモン系の魔物です」

リリィ「その中でも、特に、精を司っている、魔物が、私たち。私たちは、女しかいない。どんな種族と○○○しても、私たちが孕む子は、みんなサキュバス。私たちは、男性の精を、主に好んで、栄養にしている。食事で補うことも、できるけれど、精が恋しくなっちゃうから、あんまりやらない。でも、私は、魔王街では、ちゃんとご飯食べて生活してる」

アラン「リリィがほとんど説明してくれましたね。まあ、そんな感じの魔物がサキュバスです。サキュバスも勿論主に有翼種の谷に住んでいますが、リザードマンとはかなりいざこざがあるみたいですね。と、今回はこの辺でお開きにしますか」

リリィ「ん。久々に、アラン君に会えて、楽しかった。大魔王様にも、ありがとって、言っといて。リリィでした。バイバイ」

アラン「そう言うところはやけに律儀ですよねリリィ……。アランでした」

アニタ「最後の挨拶だけでも羞恥心を押し殺します! 大魔王アニタでした! バイバーイ! ……あぁ、もう、恥ずかしいもう! もー!」




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。