歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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怒濤の連続投稿であーる……この投稿ペースの気紛れさはきっと、永遠に治りませぬな……


女としての渇望

 ある時、どうしてヴァンパイアを増やさないのかと、ヴラドに問うたことがある。何年も、何万年も、何十万年も、私たちは2匹で暮らしてきた。私が来る前は、ずっと1匹で。ヴァンパイアには吸血による仲間作りがあるのに、どうして2匹きりで生活を続けるのか、なんとなく気になったのだ。それに対して、ヴラドは静かに、たった一言だけを告げた。

 

 力に溺れるからだ、と。

 

 

 

 

 どうしても、退きたくないと思った。ヴラドと番いになって、日々がさらに楽しくなってから、時を刻むごとに大きくなっていった欲求があった。

 

「どうしても、私は。あなたの子を産みたいのです、ヴラド」

 

 それは、女としての渇望。想い人の子を孕みたいという欲求だった。

 私とて、乙女であった。男共に蹂躙されても尚、届かないとわかっていても尚、素敵な恋と、夫と子供との生活は憧れだったのだ。そんな気持ちも蹂躙され続けるうちに薄れ、魔物となってからはほとんど忘れ去っていたが……ヴラドと番いになってから、むくむくとその気持ちが蘇ってきたのだ。

 

「何度も言っているように、無闇にヴァンパイアを増やすのは得策とは思えない。俺と、お前は、奇跡のような物だと思うのだ。魔界の中でも最高位に位置するであろう力を持って、それに驕らず、自分達が平穏に生きるだけを願っているというのは。俺自身、魔物としては異常な思考であると思うし、お前は元々人間だったから平穏を求めてもおかしくはない。だが、俺とお前から生まれる子は、魔物だ。純粋ではないにしろ、魔物の若者なのだ」

 

 しかし、当のヴラドはこのように否定的である。だが、やめろと言われてやめる程、軽い気持ちでもない。私は感情の赴くままに、論理的ではない反論で切り返す。

 

「それは、教育次第でどうにでもなります。私と、あなたの子ですから、きっと穏やかに生きてくれるはず。そのはずなのです。そう教育すれば良いのです!」

 

「必ずそうなるとは言えない。俺たちの力は、確実に今の魔界をひっくり返せる力なのだ。慎重に、ならなければいけない」

 

「……そうですか。わかりました。ええ、わかりましたとも。それでは私、眠ります。お休みなさい」

 

 そう言って、過去最高に聞き分けがなくなった私は2匹の寝室のベッドから降り、部屋の扉へと向かって歩き始めた。

 

「待て、どこへ行くのだ? 眠るなら、ここで……」

 

「私の部屋で眠ります。久しぶりに昔の気分に浸るのも良いでしょう。では、お休みなさい」

 

 思いきり力を込めて扉を開け、バタンと閉める。ここに来てから傷1つ付かぬよう手入れをしてきた綺麗な装飾の扉が傷つくことなど気にも留めずに。

 

 怒っていた、私は。自分でも信じられないほど苛烈に。

 

 

 翌日から私の反抗は始まった。まず、彼を起こさない。食事を作らない。狩りにも1匹で勝手に出掛けるし、ストックしておいた血液も余さず飲み干してやった。掃除もしない。食器も片付けない。床も共にしない。私が彼のためにしてきた全てを放り出して、自由気ままに過ごしてやった。

 最初こそヴラドは私に何事かと問うてきたが、その内何も言わなくなった。そんな彼の姿を見て流石に心が揺らいだが、彼の子を見るためなのだと心を持ち直し、徹底的に反抗してやった。

 

 だが、まあ、そんな反抗は長い事続かないものである。段々ただ黙々と家のことを済ませるヴラドを見るのが辛くなってきたし、ヴラドと話さないことが、ヴラドと共に床につかないことが、どうしようもなく寂しくて仕方がなくなってしまったのだ。これが惚れた弱みというやつなのだろう。思うよりも弱すぎた自分の意志というものに、私はがっくりと肩を落とした。

 

 

 ちらり、と、食堂の扉の影から自らの食事を用意するヴラドの姿を見る。その姿が目に入ると同時に、話したい、と言う欲求が膨れあがってくるが、それをぐっと抑える。

 

 ヴラド、怒っているだろうか、寂しそうだな、謝ろうかな、と言う心の声も無視する。

 

 やがて、食事の用意を終えたヴラドが並べた皿は、2匹分だった。いつも私は自分の分は自分で用意しているし、ヴラドも自分の分しか作っていない。つまり、2匹分用意されていると言うことは。

 

「話したいことがあるならこちらへ来ると良い。出来たての食事が待っているぞ」

 

 普通に。監視しているのがバレていた。私がバレないようにと注意しながらヴラドを見張っていて、それが彼にバレなかったことなど1度としてなかった事を思い出して、途轍もなくやるせない気持ちになった。

 

 とりあえず、彼の言うとおりに席に着く。用意されていたのは、私が初めてここに来たときに振る舞われたミノス牛のシチューと、パンだった。

 

「これ……」

 

「懐かしいだろう? ふと思い立って、作ってみたんだ。ほら、食べると良い」

 

 スプーンを手にとって、シチューを掬い、口に運ぶ。もう遠い遠い昔の記憶が、鮮明に蘇る気がした。うん、とても懐かしい味だなと、そう強く感じた。

 

「カミラ、子供の件なんだがな」

 

「……私、退きませんからね。こんな懐かしい食事で言うことを聞くと思ったら大間違いですから」

 

 子供の話になって急にスイッチが入る私である。もう自分自身が限界ギリギリのくせに、こうして意地を張ってしまうのは何だったのだろう。今思い出してみても不思議な感覚だ。

 そして、警戒心全開で気を張った私に、思いも寄らぬ答えが返ってきた。

 

「ああ、いや、そうじゃなくてだな。その……作っても、良いのではないかと思う。子供」

 

 カシャン、と、スプーンを落とした。何を言っているのかしばらく理解できなかった。

 

「その、カミラ? どうした、固まっているぞ? ……俺はまた、カミラに余計なことを言っただろうか……」

 

 そして、理解して、涙が溢れた。嬉しくて嬉しくて堪らなかった。もはや椅子が倒れるのもヴラドが倒れるのも気にせずに、ありったけの力を込めてヴラドに飛びついた。

 

「なっ!? その、カミラ、泣かないでほし……うぉぅ!?」

 

 バシャーン、と音を立てて、床に付いた私たちの体がコウモリに変わる。そして、コウモリが私たちを形作るときは、まだ絡み合ったままの状態だった。

 

「私、ヴラドに出会ってから嬉しいこと、楽しいこと、色々ありましたけど……これ以上に、嬉しいことはありません、ヴラド!」

 

 ぎゅーっと、強くヴラドの体を抱きしめる。ヴラドから小さなうめき声が聞こえてきたが、それは敢えて気にしなかった。むしろ私が全力で抱きしめればヴラドをうめかせることくらいは出来るのだと嬉しいくらいだった。

 

「た、ただし、条件がある。産むのは1匹だけだ。その子を厳しくしつけ、育てる。自らの力に驕り高ぶらないように、な。それで良いだろう」

 

「ええ、ええ、勿論ですとも!」

 

 

 

 そうして。その晩、私たちは初めて交わった。経験の無いヴラドをリードするのは楽しく、そして彼を可愛く思えた……と言うのは、流石に生々しいかな。すまない、カレン。顔を赤くしないでほしい。

 

 

 授かった子は、男の子だった。私たちは彼に、『アーカード』と名を付けた。アーカードは腕白だったが素直で、言われたことをしっかりと考える賢い子だった。私たちはアーカードを厳しく育てたが、それと同じくらいに深く、深く愛情を注いで育てた。ヴラドと、アーカードと、私。この3匹で過ごした日々は、掛け値無く。私の永い生の中で、1番幸せな時間だったと言える。

 

 

 時は、流れ、流れ、流れた。子供だったアーカードも立派な青年になり、また魔界自体も、ある程度の安定を見せ始めていた。長かった指導者のいない魔界を旧魔界暦と呼ぶと大魔王が発表し、そして、もうしばらくで新魔界暦と暦を改め、1から魔界の歴史を刻んでいくと宣言した。

 

 旧魔界暦と新魔界暦。その移り変わりの時期が、訪れようとしていた。

 




用語解説のコーナー!

アニタ「作者よ作者、出番を与えてくれるのは嬉しいのですが、せめて1日程度でも良いから休ませて。連続投稿時は酷使される大魔王アニタです」

アラン「大魔王の威厳とはどこへ……? アランです」

アニタ「ハァイ! 作者がお風呂に入りながらなんとか用語解説のネタをひねり出したので今回も用語解説やっていきますよー! なんと、今回は久しぶりのゲストをお呼びしております! ではでは出て来てくださいなー!」

ユージーン「この作品を見てくれている画面の向こうの皆、久しいな。現魔王ユージーンだ」

アラン「ユージーンがゲストですか? って事は今回の解説は種族回?」

アニタ「そのっ通りィ! 今回はリザードマンの解説です! 拍手ー!」

ユージーン「アラン、今回の大魔王は何故あんなにテンションが高いんだ……?」

アラン「なんか、テンション上げないとやってられないんですよもー! とか言ってましたよ」

オンブラ「ハッ。元魔王でありながらこのくらいの仕事量で泣き言とは、大魔王も程度がしれますね」

アニタ「なっ、なにおう!? って言うかあなたまた来たんですね!? 呼んでるのは魔王だけなのに、なんで毎回着いてくるんですか!」

オンブラ「前回にも言ったと思いますが、魔王の側近として魔王様をお守りすることは当然のことです。どこぞのゆるふわ大魔王が何かやらかすかもしれませんし、監視の目は必要でしょう?」

アニタ「あのですねぇ……前の時も思ったんですけど、あなた私への辺り強すぎません? 私仮にも魔界のトップですよ? いくらなんでも許すからと言っても限度ってありますよね? 泣きますよ?」

オンブラ「それだから威厳が無いというのです。それに、私も相手は選びますので。誰にでも当たりが強いわけではありません」

アニタ「うわーん! もうこの魔物たち酷い! 酷いですよー!」

アラン「オンブラさん? 用語解説が進まないので口を謹んでいただけますか、出来れば永遠に」

オンブラ「嫌です。なんでこの程度のコーナーのために私が永遠に口を閉じなければならないんですか? 魔王様が直々に来てくださっているのです。多少進行が遅れるくらい、むしろご褒美というものでしょう」

アラン「虎の威を借る隠密馬鹿は公私混同が得意なようで羨ましいですね」

オンブラ「あ?」

アラン「やりますか? 相手になりますけど」

ユージーン「アランが進行を止めてどうするんだ、もう収拾が付かなくなるぞ……。大魔王、泣いてないで進めてくれ。埒があかん」

アニタ「グスッ……わかりました。今回の用語解説はこちらっ!」

 リザードマンについて!

アニタ「です!」

アラン「大体あなたは出しゃばりすぎなんですよ。何のためにその隠密があるんですか? 隠密しか出来ないくせに出しゃばるってもう存在価値が無いでしょう」

オンブラ「突進して斬る以上に色々なことが出来ますから。応用性はあなたの加速(笑)以上ですから。加速しか無く気配すら消せない、消せるほどのプレッシャーも持ってないあなたに言われたくはありません」

ユージーン「リザードマンとは、有翼種の谷や、火山に住まう竜と人型、2つの姿を持つ魔物だ」

アニタ「堅い鱗で攻撃を防ぎ、鋭い爪と凄まじい力で相手をねじ伏せるインファイトに強力な魔法、と。かなり強力な種族ですね」

アラン「そもそもですね。魔王の側近ってだけで偉ぶるのが間違いなんですよ? 魔王の側近と言えども魔界での位にしてみればその程度。大魔王軍の魔物よりはランクが1歩以上劣る……魔物は自分より強い魔物に従うんですよね? そう考えてみると、自分が生意気だと思いませんか? オンブラさん」

オンブラ「何かと思えば位で勝負? それに強い魔物に従うって……新魔界暦から見られるようになった人型の癖に思考回路は旧魔界暦ですか? 随分古めかしい頭をお持ちなんですねぇ? ね、ア・ラ・ン・さん?」

ユージーン「人型状態と竜状態の2つの形態があるリザードマンには、竜状態にも区別がある。すなわちワイバーンタイプとヒューマンタイプだ。ワイバーンタイプは竜状態時に背に翼が生える。飛行も可能だ。ヒューマンタイプは翼が無い代わりに鱗がワイバーンタイプよりも堅く、力も強いが……正直、ヒューマンタイプは劣等種という認識でいい。翼が無い時点で有翼種の谷に住まう資格も無いわけで、生まれてすぐに追い出される。可哀想だが、リザードマンはそう言う生き物だ」

アニタ「ふむふむ、なるほど……」

オンブラ「そもそも、あんな威厳も何も無いJKとか言われるくらいゆるふわなのが大魔王な時点で尊敬も何も出来ないんですが? 何か反論おありですか、加速馬鹿さん?」

アラン「……それについては、なにも反論できません……クソ……」 

アニタ「ってちょっとぉ! アラン! 否定して! 反論してくださいよぉー!」

ユージーン「……やれやれ、収拾が付かなくなってきたな、本当に。まだ解説事項も残ってはいるが……ここでお開きにしておこうか。これ以上続けても意味はなさそうだから、な。それでは、皆さん。今回の用語解説は現魔王ユージーンがお相手した。また、次回を楽しみにすると良い」

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