歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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今回は、少し短いお話です。

このカミラの過去話、かなり時間がすっ飛んでいますが、実はすっ飛ばした時間の中には考えていたエピソードが何個かあったりします。カミラとヴラドが距離を縮めた経緯とか、カミラが初めて血を吸ったときの話とか、多少のネタバレになりますが、バーミリオンとの再戦とか。カットした理由はカミラの過去編が長くなりすぎるからですが、もし機会があれば、別の話として書こうと思っています。ですので、時間ガン飛ばしの件はお許しを……。

では今回のお話をどうぞ!


人肌の恋しさを感じた時、私は

 またも時代は飛び、魔界には大魔王が生まれた。と言っても、新魔界暦ほど統率の取れた物では無い。カレンなら知っているだろうが、この時は今で言う魔王が大魔王、領主が魔王であって、各地で小競り合いを続けていたのだ。

 世代すらも移り変わり、3代目の大魔王が初代大魔王バーミリオンの意志を継ぎ、魔界の統一を目指していた頃のことだ。

 目を覚ましたのは真夜中のことだった。夢を見たのだ。久々に、人間だった頃の夢を。もう、人間の頃の記憶など、霞がかって朧気だったというのに。

 妹の夢を見た。ただ1人私の理解者だった、妹の夢を。確か、あの時は妹だけを頼りに日々を過ごしていたように思う。私がいなくなって、妹はどうしていたのだろうか。妹も私同様に美しかったから、居なくなった私の代わりに蹂躙されてしまったかもしれない。人間の頃は捨てたはずなのに、私は涙を流していた。顔も覚えていない、妹のために。

 きっと、妹に会いたかったのだろう。万の単位で昔の時に、既に死んでしまっているはずの妹に。

 

 私は、足音を立てず、息を殺してヴラドの寝室へと向かった。私が魔界に来てからこんなことなんて無かったものだから、自分でも自分の行動が不思議だった。

 

 ぎぃ、と、音を立てて重い扉が開く。真ん中にて存在感を放つベッドの中で、ヴラドは規則正しい寝息を立てて眠っている。

 

「……何をやってるんだろ、私は……」

 

 ベッドの横に立って、ヴラドの寝顔をのぞき込んだ私は、独り言を呟いた。そもそもヴラドの部屋に来て何があるのか。私は何を期待しているのか。馬鹿馬鹿しい、帰ろうと思い、踵を返したその時だった。

 

「カミラ」

 

 唐突なヴラドの声に、びくりと背筋を伸ばす。恐る恐る振り向くと、今まさにゆっくりとまぶたを開いたヴラドと目が合った。

 

「ここで、何をしている」

 

 やばい、何か、言い訳をしなくては。私はそんな焦りに支配されていた。そもそも、自分が何をしたくてここに来たのかもわかっていない。何か、何かちょうど良い言い訳はないだろうか。必死に頭を回転させて、なんとか言葉を紡ぎ出す。

 

「あ、その、夢を、見ました」

 

「夢?」

 

「えっと、もう、既に死んでいるはずの妹の夢で」

 

「ふむ」

 

「その、それで、なんだか私1人で眠るのが寂しくなってしまって!」

 

「む?」

 

「ヴラド様の顔を見られただけでも満足ではあるのですが、出来れば横で一緒に眠らせていただければと!」

 

「……ふむ」

 

 完全に、焦りに支配されていた私は。自分でも自覚していなかった心の底を、ヴラドに打ち明けていた。

 

 で。その後、私はヴラドと一緒のベッドで、俗に言う添い寝というものをしていた。

 

「緊張するな。と、言っても無理だろうが……まあ、なるべく体の緊張を解け。眠れないぞ」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 ……どうして、こんなことになったのだろう。自分の出したボロが全ての原因ではあるのだが、そう思わずにはいられなかった。吐息が近い。体温が近い。何かもう全てが近い。自分が生娘に戻ったような、そんな感覚だった。まあ、自分が初めて抱かれた時とは安心感が段違いだが。

 

「……ヴラド様」

 

「どうした? 怖いのなら、いつでも出て行って良いぞ」

 

「いえ、そうでは無いのですけど! その、どうして私と添い寝なんか……?」

 

「ふむ……お前に自覚はないのだろうが、先程お前は『1人で眠るのが寂しい』と言ったのだ。人間の頃など忘れたかのように魔物らしく振る舞うようになったお前が、1人と、そう言ったのだ」

 

「あ……」

 

 こうして、ヴラドに言われるまで気がつかなかった。嫌だった人間時代を忘れるように、意識して自分のことを1匹と言い、意識しなくても自分のことを1匹と言うようになってかなり経つというのに。まだ1人なんて言葉が出るとは思ってもみなかった。

 

「かなり弱っているだろう? 肉体ではない、精神的にだ。男嫌いだったお前が俺の隣で寝たいというのだから相当だ。だから傍らで寝てやろうと、そう思った」

 

「……別に、もう男嫌いではありません。そんなこと、とうの昔に忘れました」

 

「そんなに体を震わせているのにか?」

 

「わ、忘れたと言ったら忘れたんです! あなたは、私を何歳だと思ってるんですか!」

 

「数えていないさ。永すぎてな。それに、お前からは歳も教えて貰っていない。お前から聞いたのはその名と、お前の家族のことだけだからな」

 

「そ、そうでしたっけ……?」

 

 ヴラドが小さく笑い声をこぼした。それになんだか腹が立って、ヴラドのその堅い胸板に全力の拳を叩き込んだ。ヴラドはコウモリ化もせずに拳受け止め、ニヤリと笑った。

 

「かなり、力を上げたなカミラ。久しく訓練もしていなかったから、驚いたぞ」

 

「私の拳を微動だもせずに受け止めながら言われても、信じられません」

 

「力を上げたさ。今の拳は、それなりに痛かった」

 

「へぇ、そうですか。それは良かったですね」

 

「お前、何か怒っているのか?」

 

「怒っていません」

 

「いや。でも」

 

「怒っていませんったら!」

 

 私はベッドの中で体勢を変え、ヴラドに背を向ける形になった。不思議なことだが、いつの間にか私を包んでいた震えは収まっていた。

 

「……ヴラド様」

 

「どうした?」

 

「抱きしめて、くれませんか? ぎゅっと、ぎゅうっと、私を。肉体を壊してしまうほどに強く」

 

「……いいのか? お前は……」

 

「いいんです、ほら。震えは、止まっていますから」

 

「……ふぅ。あまり俺に願いを言わないお前の、貴重な願いだ。俺もお前にお世話になっていることだから、わかった。お前を抱きしめよう」

 

 背中から、前に。ゆっくりと手が回された。久々に男の体に包まれて、私は嫌悪感の1つもない。やっぱり、この男は他の男とは違うんだと、私は強く思った。

 

「ヴラド様」

 

「む、どうした?」

 

「……こういう時は、黙って抱きしめるものですよ」

 

「……ふむ、そうなのか。覚えておこう。お前をいつかまた抱きしめるときは、黙って抱きしめるとしよう」

 

「そういうこと言わなくて良いですから、もう! ……黙って、このまま、寝かせてください」

 

「ああ、わかった。おやすみ、カミラ」

 

「お休みなさい、ヴラド様」

 

 人肌の温もりを背中に感じながら、私は。過去のどんな時よりも安らかに眠りについて、過去のどんな時よりもぐっすりと睡眠を取った。

 

 

 

 

「ヴラド様、朝食が出来上がりました」

 

 翌朝。いつもの通りヴラドよりも先に起きた私は、朝食の用意をしてヴラドを起こす。いつもの通り、ゆっくりとその瞼を開いたヴラドは、私を見るなり微笑んだ。

 

「……なにかおかしな所がありますでしょうか?」

 

「いや、いつも通りだ。驚くほどにな。だが……お前、雰囲気が変わったよ」

 

「雰囲気、ですか?」

 

「ああ、雰囲気だ。なんだか棘が抜けて、柔らかくなったように感じる。いい顔だ」

 

「……そう、ですか」

 

 そう言って貰えて、なぜだか少し嬉しかった。この頃から私たちは、なし崩し的に1つのベッドで眠るようになった。そして……また、数え切れない時が過ぎる頃には。私たちは、番いとなって生活していた。

 




復活! 用語解説のコーナー!

アニタ「はーい、皆さんどうもです! すっごくすっごく久々の、用語解説コーナーですよー! ただいまテンションマックスの、大魔王アニタです!」

アラン「このままこのコーナーを投げっぱなしにして自然消滅にならなくてよかったと安心しているアランです」

アニタ「まぁ、復活といっても次回もまた用語解説を行えるかどうかはわからないみたいですけどね。今回は新キャラ登場に伴って解説する事が出来た! と言うことらしいので」

アラン「と、言うことは今回の用語解説は……」

アニタ「アランの察する通り。今回の解説は!」

 バーミリオン・グレイブハートについて!

アニタ「です!」

アラン「まあ、ヴラド・ドラキュラの解説をするんだったらもっと前にしてるでしょうし、そうですよね」

アニタ「ちなみにヴラド・ドラキュラに関しては、ヴァンパイア一族の長と言うこと以外私たちの時代には伝わっていないので、私たちが解説するよりも本編の方が詳しいために解説しないとのことです。まあ、そう言う設定なんだなーと流してくださいね」

アラン「じゃあ早速、バーミリオン・グレイブハートの説明をお願いします」

アニタ「バーミリオン・グレイブハートは魔界において最初に大魔王という位を築き上げた物であり、最古にして最高のアークデーモンと呼ばれる魔物です。彼が生まれたときの魔界は秩序など全くなく、無計画に人界に侵攻しては人を攫ったり、別種族を理由もなく積極的に殺したりなど、酷い有様でした。人間から手痛い反撃を貰うこともあり、酷い有様だったようです。そんな魔界を見て、このままでは魔界が滅びると感じ。魔界を纏めるために立ち上がりました」

アラン「当時の魔界、相当酷かったらしいですね。人間と魔物がまだ積極的に争っていなかった時代だったから良かったものの、当時の人間がもう少し強ければ魔界は滅びていた、とか聞きました」

アニタ「そうですね。当時は戦える人間の数が極端に少なかったらしいですし、魔法が一部の魔物、人間のみに与えられた特権でしたから。ゴブリン相手でも相当に苦戦したらしいですし、デーモン辺りの魔法を扱える魔物を相手に出来るのは相当鍛え上げられた一握りの騎士のみだったと言います。そんな戦力差だったから魔界は生き延びてこられた、というのも多分にしてあると思います」

アニタ「さて、この後の台詞も長いですので一旦台詞を区切りますね。もう既に読みにくくはありますが、読みやすさって大事ですから!」

アラン「なんだか、このコーナーのメタさ加減が上がったような気がしますね……」

アニタ「そんなこと気にしなくていいんです。続き行きますよ! まず、バーミリオンは魔界を廻りました。魔物は自らより強い物に従う。魔界を纏めたいと願うなら、自分が魔界で最強でなければならない。彼は自分の強さを確かめ、伸ばすために各地の魔物と戦ったのです」

アラン「すごいことしますね、本当……それで生き延びて魔界を纏めるのだから、凄まじいです」

アニタ「実際、彼以前にアークデーモンが居たという話は伝わっていません。魔法が扱える数少ない種族であり、魔力と筋力両方に優れる。間違いなく、当時の魔物では太刀打ちできなかったでしょう。その点を除いても、彼は相当に強い魔物だったそうです」

アラン「大魔王様と比べるとどっちが強いんでしょうね?」

アニタ「むむ? アラン、忘れたんですか? 私は、歴代最強の大魔王。いくら偉大なる初代と言えども比べる価値もないほどに力はかけ離れているでしょう。たかがちょっと強いアークデーモンくらいなら、私の敵ではないですし」

アラン「比べる手段もないのに、あっさりと言ってのけますね……」

アニタ「そんな彼はその後、本当に魔界の頂点に立ち、中央区に居城を構え、大魔王と名乗って魔界を纏め始めます。彼が上に立っていた頃には反抗する物が居ないほど彼の力は圧倒的で、それを皆がよく知っていました。彼は魔界を纏めるための案をいくつも考え、そしてそれを書物に纏めましたが……ほとんどの案を実行することなく死に、他の魔物へと大魔王の座を譲ることになりました。2代目以降、大魔王に反発する魔物たちが各地に現れ始め小競り合いになったのですが……それはまた別の話、ですね」

アラン「バーミリオンはかなり早死にをしたらしいですが、何が原因だったんですか? その辺、教わっていないんですが」

アニタ「詳しくは伝わってないんですけど、私はヴァンパイアとの接触による物だと考えています。実は、彼とヴァンパイアにはかなりの因縁があったらしいのです。彼が大魔王の座に着く直前に戦ったとか言われてますし、その後も1度交戦したとか聞きますし。彼が遺した言葉の中に、南西に住まう吸血の魔物を必ず滅ぼせ、なんて物もあったくらいですから」

アラン「ヴァンパイアとの、接触。……カミラさんは、バーミリオンに会ったことがあるんでしょうか? その時には、既に生まれていたのかな」

アニタ「どうでしょうね。カミラは昔のこと、あまり話したがりませんから。私もそんな話は聞いていません。でも、会っていたのだとしたら……初代の話、少し聞いてみたい気もしますね。さて、ではではこんな所で今回の用語解説をお開きにしたいと思います! お相手は、歴代最強の大魔王、アニタとー?」

アラン「大魔王軍所属、アランでした」

アニタ「バイバーイ!」



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