歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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ヴァンパイアとしての私

 私がカミラと名を改めてから、何万年が過ぎ去ったろうか。ゆっくりと過ぎていく時を最初は長いと思ったが、次第にそうは思わなくなっていた。感覚が人から魔物へ、それもヴァンパイアのものへと切り替わったのだと気づいたとき、私は嬉しくて涙してしまった。

 

 ヴラドとの関係はと言えば、そう悪い物では無かった。むしろ良い方だ。この男には、私に手を出すつもりなど微塵も無いのだと悟ったのだ。あれから何年も手を出されなければ、男性不信まで行っていたであろう私でも流石に気づく。

 それから私は、ヴラドの使用人のような物になった。料理を、掃除を、洗濯を。必要な物は全て教えて貰えた。勿論、魔界に来る前にもある程度やっていたことだから、覚えは早かった。

 

 朝起きて食事を作り、洗濯をして、掃除をして……。人だった頃とあまり変わらない生活だが、人だった頃よりも余裕はある。畑仕事などが無いからだ。茶を淹れ、休む時間があるというのは素晴らしい。人のうらやむ優雅な生活というのはこういうものなのかと、そう思った。

 

 そして。人だった頃と根本的に違うものが1つある。

 

「カミラ、準備をしておけ。今夜狩りに出る」

 

「かしこまりました、ヴラド様」

 

 狩りだ。つまり、他の魔物を襲い殺すこと。私たちは狩りに出て、魔物の血を得る必要があった。

 

 ヴラドからは、魔物の血を、命を、糧とすること。その理由と、方法も教えて貰った。

 魔物の生死は問わず。その首筋に噛みつき、血を啜ること。それが魔物を糧とする方法だ。血液はまず私たちの寿命を延ばし、次いで魔力を増やす。魔物の血液さえ飲めば、私たちは永遠に生き、永遠に力を増すことが出来る。そうして私たちは長い時を重ね、時を重ねるごとに強さを増していった。

 

 魔物から血を得る過程で、戦闘に関しても教わった。身体をコウモリに変える技術。ヴァンパイアになったことにより手に入れた、闇魔素の魔法技術。上がった身体能力を使った格闘術。ヴラドの持つ知識や技、その全てを、隅々まで叩き込まれた。

 

「……ビンを4本、ホルダーを2丁。後は……今回はいいか」

 

 満月の夜。狩りに出るのは決まってその時だ。ヴァンパイアは月に恩恵を得る。何故かはヴラドも知らないらしいが、そういう物らしい。例えば強大な敵と打ち合ったとしても、当時の魔界の魔物では、満月の下に立つヴァンパイアには傷1つ付けることは出来ない。別に満月で無くても私たちが死ぬことなどあり得ないのだが、満月で無いときに狩りに出たことは最後まで無かったか。

 

 用意したビンは保存用。なんらかの理由によって狩りに出られなくなることも考慮し、血を蓄えておこうという私の提案で持っていくことにしたものだ。血は鮮度が落ちすぎれば私たちに利益をもたらさなくなるのだが、それでも血を保存しておくことは重要だと私は思ったのだ。

 

 

 軽く体をほぐし、体に魔力を循環させ、調子を確かめる。当然だが、すこぶる健康だ。狩りに影響など出まい。

 

「準備が済みました」

 

 ヴラドの許へ行き、準備完了を知らせると共に、ビンが2本刺さったホルダーを手渡す。彼がそれを装着し、私ももう1つのホルダーを身につける。

 

「うむ。では行こうか。今夜の狩りに」

 

「……はい」

 

 そうして、狩りは始まる。

 

 

 近隣に住み着き、集落を築いたゴブリンを、闇魔法による影からの浸食で拘束する。一様に影に縫い付けられたかのように動けない様を無様に思いながら、私はそっと1匹のゴブリンに近づき、首筋に口づけをする。コクン、コクンと飲み下せば、広がるのは脂っこいギトギトとした味。

 

 1体のゴブリンから血を抜ききった私は、口の中に残る、それだけでは寿命すら増えない程度の量の血をペッと吐き出す。

 

「……不味い」

 

 男の血は不味い。単純に臭いのだ、女の血に比べて。だから、私はあまり男の血は好まない。それに、ゴブリンという種族。脂っこいドロドロの血は喉に張り付いて来るから嫌いだ。

 

 まあ、でも。手を出してしまったものは仕方がない。集落のゴブリンを殺し尽くし、血を絞り尽くす。ある程度の血は残しておいて、ビンに入れて保管する。それを繰り返して30分。狩りは終わった。

 

「終わりだな。帰ろう」

 

「はい。口直しに食事でもいかがです? 手早く出来る物を用意します」

 

「頼む」

 

 あくまで彼の使用人として。家事をして、狩りをして、そうして生きていく。これが、ヴァンパイアになった私。ヴァンパイアとしての、日常だ。

 

 

 

 

 私たちが魔物の1匹も居なくなった集落を立ち去ろうとしていたその時。背後から、『圧』を感じた。振り返ると、そこには、1本角を持つ年若い1匹のデーモンが立っていた。

 姿は、筋力タイプのデーモンの平均よりも体の引き締まったそれ。しかし、体から放たれる魔力とも違うそれは、相手が私よりも明らかに格上だと言うことを告げていた。

 

「……デーモン、か」

 

「ヴラド様。この、圧は……?」

 

 これが私の初めて受けたプレッシャー。そして、そのデーモンの男は。

 

 後に、バーミリオン・グレイブハートと名乗る男。魔界に大魔王制度を確立し、最初の大魔王になる男だった。

 

「……お前たちは何だ? 人のような姿をしているが、人とは違う。魔力、筋力、そして……魔物の血を吸っていた。魔界各地を歩いたが、そんな魔物ついぞ見たことが無い。お前たちは、何だ?」

 

 デーモンの男はそう問うた。私はちらりとヴラドを見る。いつになく険しい顔をした彼が、私を庇うようにして前に出た。

 

「私たちは……ヴァンパイア」

 

 ヴラドは彼の問いにそう答えた。そして、あのデーモンの放っているものと同じ(プレッシャー)を放つ。

 

 プレッシャーとプレッシャーがぶつかり合う。情けないことにまだ弱かった私はよろめき、立っていることすらままならなかった。彼らが放ったのは、それ程の重圧だった。

 

 2匹は睨み合ったまま動かなかった。時が止まったような睨み合いは数分続き……そして、先に動いたのはヴラドだった。

 

 ヴラドが自らを構成する体の一部をコウモリに変える。そして、傍目には間抜けとしか思えない無策の突進をデーモンに仕掛ける。

 デーモンはつまらなそうにため息をついて、一言。

 

「開放」

 

 そう呟いた。作り出されたのは高濃度の闇の弾丸。それがデーモンの前方を壁のように覆う。しかし……それは発射される前に、消えた。

 

 デーモンが攻撃を受けたのは背後から。攻撃を加えたのは、あの時ヴラドから飛び立ったコウモリたちが形づくるヴラドの分身だ。唐突に背後から攻撃されたデーモンは目を剥き、突進の勢いそのままに放たれたヴラドの蹴りをもろに受けた。

 

「……流石に堅い」

 

 ヴラドの蹴りを食らったデーモンは大きく吹き飛ばされたが、空中で体制を整え、何事も無かったかのように着地して見せた。

 

「……あなた方を、侮っていたことを謝罪しよう。魔界各地を歩く中で、俺に攻撃を当てた物はついぞ居なかった。魔界を知るためにここまで歩いてきたというのにこれでは、歩いた意味が無いというものだよ」

 

 次の瞬間、デーモンの姿がかき消えた。私にはそのように見えただけで、ヴラドはその姿をしっかり補足していたようだが。

 

 デーモンの拳がヴラドの腹へと叩き込まれる。しかし、拳があたる頃にはそこはコウモリの塊となっていて、ダメージなど通らない。デーモンは隙を晒すだけだ。その隙を見逃さず、ヴラドはデーモンの顔に拳を叩き込む。

 

 そこから、凄まじい殴り合いが始まった。有利なのはヴラドだが、デーモンも負けてはいなかった。反撃を貰う位置を調整し、ヴラドのカウンターを最小限のダメージに抑えたのだ。そして、反撃をする。しかし、デーモンの攻撃は通じない。その繰り返しだ。

 凄まじい戦いだった。見えない。一挙手一投足その全てが見えない。かろうじて『何をしているか』がわかるのみで、それ以外は何もわからない。どう動いているのだろう。何故そんな動きが出来るのだろう。初めて見る高度な戦いに、じっとりと冷や汗をかく。

 

 そして、ヴラドとデーモンが一定の距離をとった。戦闘の小休止に、再びデーモンが口を開く。

 

「……危険、だ」

 

 デーモンのヴラドと私を見る目は敵意に満ちあふれていた。しかし、動かない。先程まで迸っていた殺気も、プレッシャーも、彼からは放たれていなかった。まるで、これ以上戦いを続ける意志はないというように。

 

「その力は、この魔界を滅ぼしかねない程危険な力だ。いつの日か、俺が、あなた方を滅ぼす。魔界のために」

 

 それだけを言って、デーモンは踵を返した。こちらに背を向け、去っていくデーモンを、しかしヴラドは追わなかった。

 

「……ヴラド様、追わなくて良いのですか?」

 

「良い。追ったところで、彼を仕留めるのは骨が折れそうだ」

 

 そうして。デーモンを見逃す形で私たちも住処に帰る。思えば、この時ヴラドを無理矢理にでも説得して彼を倒していれば、あるいは。あれも、起こらなかったのだろう。

 

 やっぱり。これも、私のせいだったのだろう。

 




アニタ「今回は、作者への愚痴と文句を言っていきたいと思います。どうもみなさん、大魔王アニタです」

アラン「後書き使って何をやろうとしてるんですかあなたは。お久しぶりです、アランです」

アニタ「そう! お久しぶりなんですよ! 何やってたんですか底辺作者は!」

アラン「なんでも学校企画のミュージカルの練習やら高校時代とは比べものにならない程のハードスケジュールな時間割やらで疲れまくってて書く気力が出なかったらしいですよ」

アニタ「学校がどれだけ厳しいかわかりませんけどね、1度始めたものは最後までやれって言う話ですよ! この話、あとどれだけ残ってると思ってるんですか!」

アラン「あ、それだけじゃないらしくて」

アニタ「はい? 他はどんなことで忙しいんですか?」

アラン「モンハンXXにドハマリしてるらしいです」

アニタ「……はいぃ?」

アラン「本当に忙しいんですかね作者は……」

アニタ「ゲームにかまけてないで私達の話の続きを書け! 待っていてくれる方に失礼だと思わないんですかクソ作者ぁ! 早く話進めて本編に私の出番をよこせコラァ!」

アラン「結局あなたは本編に出たいだけなんですね……」

アニタ「あぁ、もう、イライラが止まらない! 私ちょっと畑見にいってきます! アラン、締めといてください!」

アラン「え、あ、ちょっと! ……本当に言っちゃったよ……。あー、みなさん、大魔王様の愚痴という名の作者の言い訳に付き合っていただきありがとうございました。次はなるべく早く更新するらしいので期待せずに待ってやって下さい。それでは、アランでした。また次回!」

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