歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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春休みに入り、怠惰を極めております。このままではいけない……。

無事、卒業認定をいただきました。4月から専門学生です。どうでもいいネ!


昔語り:カミラと永遠を生きる吸血鬼
美しき娘(カーミュア)


 あの頃の私は、ただの村娘だった。

 魔物との戦いからしばしの時が過ぎ、人がようやく平和という言葉を思い出した頃だ。その頃に、私は人間として生を受けた。勿論、人間同士での争いもあるから完全に平和というわけではなかったが、それでも魔物と戦っていた頃よりは遙かに平和だと、皆口を揃えて言っていた。

 

 私はあの時代の魔物との戦いが終わった後に生まれたから、魔物の驚異、恐怖や、魔物との戦いの苦しさは知らなかった。ただ細々と、村娘として日々を過ごしていた。

 その日々は、しかし私にとっては楽しいものではなかった。なぜなら、私は美しかったのだ。こう言うと自分で言うなといわれるかも知れないが、事実客観視しても私は美しいと思う。少なくとも当時の村の中では、1番の美人だったのだ。絹のようにサラサラとした、美しい金髪。村では珍しい青い目。まさしく理想の美女であると、男たちは言った。それ故に……私は狙われた。

 私は、当時の村の言葉で『最も美しい』と言う意味の、カーミュアと言う名をつけられていた。そして、村の男たちの慰み者にされていた。当時の村の男たちは強く、女性は逆らえなかった。癇癪持ちも多く、1度暴れ出すと手が付けられない程だった。故に私を求めた男たちに私たち女は逆らえなかったし、私が慰み者になっていれば、少なくともその前後は男たちの機嫌がよかったのだ。だから、私を助けてくれる人などいなかった。辛かったよ。屈辱的だった。だんだんと汚れていくのが、とても……とても嫌だった事を覚えている。

 

 だから、『その時』は驚くことも、喚くこともしなかったと思う。その時、とは何か? それは私にもわからない。何が原因なのか、どういう現象だったのか。説明できることと言えば1つだけ。いつの間にか、私は人界ではなく魔界にいた。それだけだ。

 そう。魔界にいた。ただいつもの通り起きて、ただいつもの通り家事をして、ただいつもの通り……仕事をしようとしていたその時に。私はいつのまにか赤い空の下、広大な草原にぽつんと立ち尽くしていた。そして、当然のごとくゴブリンに捕まった。私にはその時は魔物の知識などなかったから、その魔物がどんな名前なのかはわからなかったけれど。

 

 私はゴブリンの村まで連れて行かれ、拘束されて地面に放置された。耳に入るのは、ギィギィという、甲高い下卑た笑い声と残酷な話し声。どうやら、私はこいつらの餌になるらしかった。

 だが、そんなことはどうでも良い。どうせ、死んだように生きていたのだ。本当に死ぬのなんて、どうってことない。その頃には、母や友達だった女の子たちにも距離を置かれていたから、心残りもなかった。ただ漠然と、これで終わるんだな、と思った。ただ、漠然と。やっと終わるんだな、と思った。

 そして、夜になった。私は人生で最後の夜空を眺めていた。空には満月が浮かび、キラキラと星が輝いていた。昼間の魔界の空はべったりと絵の具を塗ったように赤黒くて、あまり綺麗だなとは思わなかったが、夜の星空だけは、人界と変わらず綺麗なんだなと思った。

 うとうとと眠くなってきた。出来るなら、このまま眠ってしまって、寝ている間に殺されないかな、と思った。やっぱり痛いのは嫌だし、死ぬのは良くても殺されるのが怖いことに変わりはなかった。だから、せめて、命の終わりはこの最後の眠りのうちに。私の意識が消える前に考えていたのは、それだけだった。

 

 ふっと、目が覚めた。視界に写ったのは、眠る前と変わらない村の地面だった。固い地面で全く同じ体勢で寝ていたからか、体が痛かった。残念なことに、私はまだ生きていた。

 どれだけ時間が経ったかはわからない。少なくとも、辺りはまだ夜のとばりに包まれていた。

 

 そして、村に悲鳴が響いた。

 

 醜い悲鳴だ。耳をつんざくような、甲高い悲鳴だ。この悲鳴が、私をさらったゴブリンたちのものであることは疑いようがなかった。

 悲鳴は次々とあがった。私には、何が起こっているのかさっぱりわからなかった。縛られて、地面に転がされているのだから当然だ。地面を見るか空を見るかしか出来なかったからな。

 

 何分ほどそうしていただろうか。悲鳴は止み、村に静寂が訪れた。あの悲鳴がゴブリンたちのものだとすれば、この村のゴブリンは全滅してしまったのだろう。

 考えていたのは、私はこれからどうなるのだろうか、と言うこと。人界に帰ることは出来ないだろう。そもそもどうしてここ(魔界)に来たのかもわからないのだ。戻る方法など分かるはずもなかった。それに、私は拘束されている。このままじゃ動くことも出来やしない。

 このまま餓死するか、この村を襲ったであろう何者かに殺されるか。私の末路は、きっとその2つのどちらかだった。

 

 チチチッ、と。何かが鳴く音が聞こえた。それと同時に、私の目の前に大量のコウモリが飛んできた。コウモリは集まり、固まり、見る見るうちに人の形を作り上げ……そして、人になった。性別は男に見える。銀色の短髪は月の光を受けて輝き、闇に溶けるような黒い装束を纏っていた。裏地の赤いマントが風にはためいている。

 その人は、赤色に光る眼でこちらを見下していた。とても冷たい瞳だった。

 

「……お前、人間か?」

 

 その人は低いが、よく通る声でそう言った。私は頷いた。すると、その人は何か考え込むような仕草を取り、そして。唐突に私を縛る縄が切れた。

 何が起きたのかわからぬままに、その人は私の手を取り立ち上がらせた。そして、なんと驚いたことに、私はその人に抱きしめられた。

 

 私の頭は混乱の極地だった。この男も、私も何もしていないのに、なぜ私を縛る縄が切れたのか。仮にこの人が縄を切ったとして、なぜわざわざそんなことをしたのか。なぜ急に抱きしめられたのか。……なぜ男に抱きしめられているのに、妙な安心感を抱いているのか。頭がぐちゃぐちゃで、自分が何を考えているのかわからなくて、何を考えなきゃならないのかわからなくて……そして、そのうちに。

 

 ずくり、と首筋に鈍い痛みを感じた。見ると、彼は私の首筋に噛みつき、血を啜っていた。

 

 前身から力が抜け、目の前がボーッとして、立っていられなくなった。意識が遠のいて、何も考えられなくて、それで……そのまま意識を失った。

 

 真っ暗になった視界の中で、すまない、と言う声が、耳に届いたような気がした。

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、私は見慣れない天井のついたベッドに寝ていた。後で知ったのだが、ベッドについていた天井は天蓋と言うらしい。村娘だった私には縁のない代物だった。

 起きた直後はボーッとしていたが、次第に意識が鮮明になっていくと、だんだんと眠る前のことを思い出してきた。

 唐突に魔界にやってきたこと。醜い魔物に捕まったこと。急に人間らしき男が現れ、私を抱きしめ、噛みつき、そして……私の血を、啜ったこと。

 そこまで思い出したとき、私は反射的に、あの時噛みつかれた首筋に手を当てていた。そして、気づいた。

 

 傷痕がない。

 

 確かに噛みつかれたはずだった。感覚的に、血も吸われていた。あの感触は、リアルさは、夢なんかではなかったはずだ。

 だが、傷はない。痛みもない。考えられるのは、この傷が癒えるほどの時間私が眠っていたこと。あの時は5大元素もなかったから、何か超常的な力で傷が癒えた、何てことは考えられなかった。だから、可能性としては時間だけ。でも、そんなことあり得るのだろうか? 時間が経った割には、お腹も空いていなかったから。ますます訳がわからなくて……だから、私は一旦そのことを考えるのをやめた。

 次に気づいたのは髪の色だ。たまたま目に映った髪の色は今までの金ではなく、銀色だった。慌てて髪の毛を目の前に持ってこられるだけ持ってきたが、確認できる範囲は全て銀色だ。

 そして最後に、お腹の底が妙に熱いことに気がついた。それに気がついたら、いきなり体中が燃え上がるように熱くなった。何か物凄い力が、下腹部から体中を駆け巡っているようで苦しかった。

 

 突然の体の熱さに苦しんでいると、部屋の扉がノックされた。入ってきたのは、あの時の男。私を抱きしめ、噛みつき、血を啜ったあの男だ。

 彼は私の姿を見ると、一瞬目を丸くした。しかし、すぐにあの時と同じ冷たい視線に戻った。

 

「起きたのか。よく眠れたか?」

 

「……まあ、それなりに」

 

 男は私に優しく問いかけてきた。私は体の熱の苦しみで頭がボーッとしていたから、特に何かを考えることもなく、ボソボソとそう言った。

 

「……そう怯えなくていい。私はお前に何もしない。と言っても、信じては貰えないだろうがな。……魔力が大きく向上している。流れも正常だ。やれやれ、どうやら成功したらしいな」

 

「成功したって、何が? この、体の熱さと、関係あるの?」

 

「ああ、関係あるだろう。お前の体を巡る大きな魔力に、銀色に染まった髪の毛。あぁ、俺が噛みついた首筋の傷も治癒しているだろう。お前の体に起きた変化は全て、お前の存在を揺るがす1つの変化に起因する。……どうか、落ち着いて聞いて欲しい。お前はもう人間ではない」

 

 それを彼から告げられたとき、私が何を考えていたのかは……正直、覚えていない。

 

「ようこそ魔界へ。お前は、魔物になった」

 

 ただ確実に言えることは。この時は、これから先、自分が途方もなく永い時を生きることなど、全く考えてもいなかったと言うことだけだ。




用語解説のコーナー!

アニタ「どうもみなさんこんにちは! 最近、作者の友人にJK魔王って言われたアニタです!」

アラン「……JKって何ですか? アランです」

アニタ「私もわかりません。っていうか! 私は魔王じゃなくて大魔王です! そこを間違えないでいただきたい!」

アラン「まあ、大きな違いですしね。そこ」

アニタ「それでですね、今回の用語解説なんですけどね」

アラン「はい。今回は何を解説するんですか?」

アニタ「……ついに。またやってきてしまいました」

アラン「……はい。また、とは」

アニタ「ネタ切れです」

アラン「またかー……」

アニタ「本当に申し訳ありません! ちゃんと考えて、なんとかネタを出しますのでお待ちください!」

アラン「それでは、今回はこの辺りで」

アニタ「ばいばーい!」





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