卒業生の皆様、卒業おめでとうございます。私も今年高校卒業でございます。まだ卒業式前なので卒業してないどころか卒業認定通ってるかもわからないけど。酷いね!
新しい場所でも皆様がご活躍になれることを祈っております。なんちゃって。
再び2匹の部屋に入ると、2匹とも装備を外してかなりリラックスしていた。まるで、ある程度の警戒心を持って剣を持ってきた僕が馬鹿みたいだ。
「ああ、来たか、アラン。まあ座れ」
「……2匹とも、武装しなくて大丈夫なんですか? 一応、警戒心は持っておいたほうが……」
「宿の入り口に私が立っている。分身だよ。何かあれば魔法で対処できるようにしてある。それに、カレンも魔法型だ。地元素だから咄嗟の防御は出来るだろう。なあ、カレン?」
「はい。一応」
「……なるほど」
……魔法中心で戦える魔物って便利だなぁ。僕は剣を手放すと逃げるくらいしか出来ないからなんかずるいとさえ思ってしまう。いや、まぁ。速度の乗った蹴りとかそこそこの威力は出るけど。
「じゃあ、始めましょうか。明日からどうするかの話し合い」
まあ、話し合いと言ってもほとんど話すことはないのだけど。誰が中心に話を進めるのか、その間僕たちはどうするのか、とか。そんな感じ。カミラさんが話をして、僕が警戒をして、カレンが詠唱を待機しておく。カレンは有事の際に壁を貼って中と外を隔離したり、僕たちの身を守ったりする。そんな感じでまとまった。話し合いは滞りなく済んだけど、1つ、問題点を挙げるとするなら。
「ま、こんな感じですか。無難だけど安全だしこれで良いですよね?」
「ん? ああ、そうだな。それでいいと思う」
カミラさんがずっと上の空だったと言うことだ。話し合いの最中ずーっとぼーっとしていて、頷くだけ。何か深刻に考え事をしているようだけど……まあ、十中八九あの、オークの村の襲撃に関することだろう。そんなに引きずるならあの時に話してくれればよかったのに。……ここまで引きずって、領主と話す場でポカをされたら堪らない。
まぁ、この場が失敗すれば必然的に魔界平和化が失敗に近づくって事で、可能性は低いけど人界侵攻の方に話が行くこともあるから僕にとっては悪いことばかりでもないんだけど。
とりあえず、明日もこんなネガティブモードだったら何か言うとして、今はそっとしておこう。カミラさんには悩み事は僕には話さないと言われてしまっているわけで、ここで話題にするのも違う気がする。カレンがどうにかしてくれることにちょっと期待して、この場は退散するとしよう。
「……ふぅ」
じゃあ、僕は寝ますね、と。そう言って部屋から出て行ったアランを見送り、私はため息をつく。
……色々なことがあった。本当に、色々なことが。そのせいで、アラン、カレンを交えての明日に向けての話し合いにも身が入らなかった。
──もし、私が。あの夜、きちんと見回りをしていれば。きっとあんな事には……
「カミラ様」
「っ! ……あぁ、カレンか」
不意に、後ろから声をかけられた。当たり前だが、カレンだ。……あぁ、駄目だ駄目だ。落ち着いたせいか、思考が後ろを向いてしまってる。今、私が弱みを見せるわけには行かない。1度深呼吸をして、カレンに向き直る。
「なんだ、カレ……ン?」
カレンはお盆を持っていた。お盆の上には、湯気の立つカップが置かれている。あれは……紅茶、か?
「この部屋、キッチンまでありますからびっくりです。なので、ちょっと……お茶を淹れてみました。飲みましょう、カミラ様」
「……ああ」
私はカップを受け取り、まず中身を見た。少し濁った、灰色のお茶。これは、確か……デーモンの伝統の物だったか。カップに口をつけ、1口飲む。想像したよりも甘く、それでいて味が引き締まっていて、しつこくない。これはレモンが入っているのだろう。……ここまでの疲れが溶けていくようだった。
「気を遣わせてしまったな」
「え? い、いえ、そう言うわけじゃ! その、たまたまこの部屋にキッチンがあったので、ふと思い立ってお茶を淹れただけで……」
「これ、デーモン伝統のお茶だろう? 疲労回復と、リラックス効果のある物だ。それに、レモンも入っているな。こんなものを出しておいて、気を遣ったわけじゃないなんて言うわけじゃないだろうな?」
「あぅ……流石、カミラ様です。全部お見通しなんですね」
「紅茶にはうるさいんだ、私は」
「……お味の程は?」
「美味い。文句なしだ」
「そうですか! よかった……」
1口、もう1口と、紅茶を口に含む。涙が出そうになるのを堪え、紅茶も飲まずに私を見つめるカレンに笑いかける。
「カミラ様」
「どうした、カレン。お前も早く飲まないと冷めるぞ?」
「……何か、思い詰めてること。ありますよね?」
「……」
「よかったら、話してくれませんか?」
「……できない」
「どうして?」
「私は、このパーティを纏める物だ。私が、弱音を吐くわけにはいかない」
私が不安定じゃ示しがつかないんだ。私のミスで村の襲撃を止められなかった。そのせいでルカとリカが死んだ。そして、カレンを支える役目をアランにさせてしまった。駄目だ。だめだめだ、私は。だからせめて、せめて弱音を吐くわけには……
「カミラ様」
「っ! あ、すまない。少し、考え事を」
「酷い顔してます、カミラ様。そんなお顔で明日、ジェイク領主との交渉をするつもりですか?」
「……」
「話してください。私、カミラ様の助けになりたいんです。カミラ様にも、アランさんにも助けて貰いっぱなしで……。私も何か、皆さんの役に立ちたいんです」
「……長くなるぞ」
「はい」
「聞くに堪えないことだぞ」
「そんなことありません」
「……本当に、いいんだな?」
「はい」
「……ありがとう」
それから、私は全てを話した。村が襲撃された夜、私が見回りを怠ったことを、後悔していること。そのせいで、ルカとリカが死んでしまったと、そう思っていること。
「……私が気を付けていれば、村の被害も最小限に抑えられただろう。そうすれば、きっと彼女たちも……」
「カミラ様」
カレンが私の言葉を遮った。
「それは、多分、駄目です」
とても悲しそうな顔をしてそう言った。
「……それは、どういう?」
「そんなの、違います。カミラ様だけのせいなんかじゃありません。私が気づくのがもう少し早ければよかったとか、無理にでも仲直りさせていればとか……後悔や、自分のせいだと思うことだってたくさん、あります。きっと、アランさんにも。だから駄目です。全部自分のせいにするのは……ずるい、です」
……全部自分のせいにするのは、ずるい。自分1人で罪悪感を背負うのは、ずるいことなのか。……確かにそうだ。私だけが悔しいわけじゃないし、私だけが罪悪感を抱いていたわけじゃないだろう。目の前で2匹の死を目の当たりにしたアランや、実際にリカを介錯したカレンは、きっと……私よりも、もっと、もっと辛かったはずだ。そんなことにも、私は気づかなかった。
「……はは。最低だ、私は」
手の届かなかったことを全部自分のせいにして、誰にも打ち明けず無理をして。結局私は、自分が悪いと思っています、私は無理をして頑張っていますと、アランやカレンにアピールしたかっただけなのではないか? ……そんなの、1匹よがりで、最低だ。
「……やっぱり、私はここに来るべきじゃ無かったのかも……」
「ああ、もう! どうしてカミラ様はそうやって考えを後ろ向きに持っていくんですか!」
「それは、その」
「皆後悔してます皆悪かったですでいいじゃないですか! ……ここに滞在する以上、また山賊団とかかわることがあるかも知れません。その時に八つ当たりするとかで良いじゃないですか! ……前を向かなきゃ、先に進む事なんて出来ないんですから!」
「……それ、は」
その言葉には重みがあった。先に進んでいる物の、重みが。
カレンはきっと、その通りに生きている。何があっても、最終的には前を向いて、先に進んできたのだろう。なら、私は?
進んでいない。1歩すら進んでいない。あの時に囚われたまま、あの後悔に縛られたまま、私は進んでいないのだ。だから、私は……。
「カレン」
「はい」
「君の言うとおりだ。私はずっと後ろを向いて生きていて、1歩も前に進んでいなかった。なにがあっても自分の、自分1匹のせいにして、言い訳をして、同じ所に留まり続けていた」
「……はい」
「正直、私はわからない。どうすれば先に進めるのか。どうすれば、前を向けるのか。きっと、今すぐには進めないと思う」
それは、過去に私の罪があるから。私の残してきた、1番大きな後悔があるからだ。この罪を濯がないかぎり、私は永遠に前を向くことが出来ないままだ。
「だから。いつか前に進むために、カレンに打ち明けさせてくれ。私の1番の罪、1番の後悔を」
「わかりました。それで、カミラ様が楽になるのなら、私聞きます」
「……ありがとう」
……ああ。この話を誰かにするのは初めてだ。1番に親しいと思っているアニタにも、この話はしなかったから。震える手を握りしめ、震える声をなんとか抑えて……私は、語り始める。
「この話は、旧魔界暦。人の暦では、暗雲の時代と呼ばれている頃。人間だった私が、ヴァンパイアと出会ったところから始まる話だ」
時間が無いので用語解説は後日記載します。