歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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長らくお待たせいたしました。リアルの事情や、他の作品の優先により、こちらの方に中々手を付けられずにいました。
他の作品のペースも上げていこうと思っているので、最強魔王のペースも上げていけたらなぁ、と。思っています。(思っているだけ)


『城塞都市』シトロン

 視界を埋め尽くす白銀の壁。これは恐らく、都市をまるまる取り囲むように建てられている。中の様子をのぞき見ることは出来ない。見た目のイメージとしては、大魔王城の城門の真逆と言ったところだろうか。大魔王城の城門は、ここまで大きくは無いけれど。

 中に入るべく門に近づくと、両端に立つオークの番兵が、手に持つ槍をバッテンに交差させた。

 

「「ここは城塞都市シトロンである。シトロンの住民、領主の許可を得た貿易商、領主への正式な客以外通す事が出来ぬ。ここを通るというならば、身分を証明せよ」」

 

 2匹のオークはぴたりと揃った声でそう言った。嫌な感じだ。完全に僕たちを見下しているのが、言葉の端から伝わってくる。

 

「私たちは大魔王城からやってきた物だ。北西領主たるジェイク・ウェイズリーに会いたい。話は通っているはずだが?」

 

 カミラさんがオークの前に立ち、微弱なプレッシャーを放ってそう言った。プレッシャーを受けたオーク2匹はぴくりと背筋を伸ばし、そして互いに顔を見合わせた。顔を正面に戻すと、再びぴたりと揃った声で、

 

「「貴様らが大魔王城の物であるという証明を」」

 

 と、そう言った。カミラさんはふぅ、と1つため息をついて、オーク2匹に右手を掲げて見せた。指に光るのは自らが大魔王軍の魔物であることを証明する銀の指輪。それを見たオーク2匹はもう一度顔を見合わせて、お互いにうなずき合った。そして大きな門が音を立てて開き、右のオークがシトロンの中に入っていった。 

 しかし、門が開いていたのはそこまでだった。門は右のオークが入っていったと同時にまた閉まってしまった

 

「確認した。しばしここで待て」

 

 残った左のオークがそう言った。まだ中に入れては貰えないようだ。

 

「まだ中に入っちゃ駄目なんですか、これ。いくら何でも厳重すぎません? 都市の入り口ですよね?」

 

「ああ。流石にな。まるで城の入り口のようだ。少し前はここまで厳重ではなかった。まったく、城塞都市なんてよく言ったものだよ。……一体、今代の領主は何を考えているのか」

 

 僕は改めて、都市を囲む壁を見上げた。高い。とても高い壁だ。よじ登る事なんて到底出来そうもないし、高すぎて空を飛べる種族でも侵入なんて出来ないだろう。……なんのためにこんなに大きな壁を作ったのだろう。防衛が目的にしても、ここまですることはないだろうに……。

 

「この鉄壁を作るのに、一体どれだけの材料を使ったんでしょうか? ……こんなもの、材料の無駄ですよ」

 

「そうだな。無駄の極みだ。こんな壁を建てる前に、することがあるだろうにな」

 

 門が開いた。中から出て来たのは、さっき入っていった右のオーク。またさっきのように門が閉まるのかと思ったが、今度は閉まらなかった。

 再び2匹揃ったオークの番兵は、また先程のように1度顔を見合わせて、揃った声で言った。

 

「「客物よ、入るが良い。中で領主がお待ちだ」」

 

「……ああ。感謝する」

 

 カミラさんが適当な返事をして中に入るのに続いて、僕とカレンも中に入った。

 門の中に広がっていた街は、中枢都市に引けを取らないほど立派で、綺麗な物だった。しっかりと舗装された道の先に立っていたのは、黒髪をオールバックに整えた紳士。種族は人型だろう。男は僕たちを見ると恭しく礼をして、にこりと微笑みかけた。

 

「ようこそおいでくださいました、大魔王軍ご一行様。ワタクシが北西地区の領主、ジェイク・ウェイズリーでございます」

 

 こいつが。この男が、北西領主なのか。その洗練された動作から執事か、執事上がりの側近だと思っていたのだが……。いまいち信じられない。

 

「……ご丁寧にどうも。私は大魔王軍所属、大魔王アニタの側近をしている、カミラ・ヴァンプという物だ」

 

「同じく大魔王軍所属のアラン・アレクサンドルです」

 

「魔王軍第4部隊所属、カレンデュラ・ビリーブハートです」

 

「ではこちらへどうぞ。なにやらお話があるそうですが、今日はもう日暮れです。皆様の宿は取ってあるので、そちらへご案内いたします」

 

 そう言うと、彼は石畳の上をカツカツと足音を立てて進み始める。僕たちは黙って、彼の後をついていくことにした。

 

 宿へと向かう道中、何匹かの魔物とすれ違った。一般物と思われる魔物や、統一された鎧を着たコボルドやオーク達も居た。彼らが噂に聞くシトロンの自警団なのだろう。ほとんどの魔物は僕たちを珍しい物でも見るような目で見ていたが、それは当たり前だ。普段この領主がどんな行動をしているかはわからないけど、領主自らが客を案内するなんていうのは、普通だったら考えられない。

 大魔王城からやってきた大魔王軍である僕たちの案内を部下に任せるのは失礼だと思っているのだろうか? ……それにしたって、腕利きの側近くらいはいると思うから、そいつに頼めばいいと思うのだが……。

 それと、もう1つ気になったことがある。すれ違った魔物皆に、何らかの違和感を感じたのだ。よく、言葉で表すことは出来ないけれど……無理矢理表すなら、『何か嘘をついている』といったところだろうか。そんなものを、どの魔物からも感じた。

 

 案内された宿は、これもまた綺麗な物だった。1階建ての建物で、北西地区らしく木製だ。まだ元の木の香りが建物から漂っているところを考えると、出来てからそんなに時間は経っていないのだろう。

 

「皆様に泊まっていただく宿はこちらです。ここは我が城塞都市1番の宿なのですよ。と言っても、ここに観光に来る魔物などいませんので、宿はお客様に使っていただくこちらしかないのですがね」

 

 その言葉を聞いた途端、今までも険しかったカミラさんの顔が、より一層険しくなった。ほんの少しプレッシャーも漏れていたいる。が、結局カミラさんはそれについてなにか言うことはなかった。

 

「皆様がここに滞在する限り、何日ここを利用していただいても構いません。宿代も全てこちらが持ちます。皆様以外のお客様はおりませんので、部屋も自由に選んでください。では、私は仕事があるので失礼します。他にわからないことがありましたら、そこにいる管理物に聞いてください。それでは、ごゆっくり」

 

 淡々とした説明を終え、深々と礼をすると、ジェイク領主は去って行った。宿の管理物に話を聞くと、部屋の鍵は全て開いていて、ジェイク領主の言うとおりどこを使っても良い。鍵は部屋の中にあるため、施錠は自由ということを教えてくれた。そして、宿内の地図を渡された。僕たちはとりあえず、入り口から左側の廊下を進んだ奥の部屋に入ることにした。

 

「カミラさんとカレンはこの部屋で寝るんですか?」

 

「ああ。そうしようと思っている。カレンも良いな?」

 

「はい。問題ないです」

 

「じゃあ、僕は隣の部屋で寝ることにします。1度、荷物を置いてきて良いですか?」

 

「ああ。荷物を置いたらまたここに来てくれ。少し話をするからな」

 

「はい。では」

 

 僕はカミラさんとカレンの部屋を出て、隣の部屋に入り、荷物を下ろした。ふぅ、とため息をつく。

 

「なんなんだろうな。この違和感」

 

 シトロンには秩序がある。物資や正式な客以外の部外物は決して中に入れず、中では自警団が見回りをしていた。閉鎖的ではあるが、魔王街に近いほどの統制が取れているだろう。だが、どうにもここに住む魔物は浮かない顔をしているのだ。何かに怯えるかのように。何か嘘をついているかのように。

 あの領主は、ここをどんな風に治めているんだろうか。彼のあの不気味なほどに丁寧な物腰は、彼の本当の姿なのか……。

 

「……考えてても仕方ないか」

 

 とりあえず、カミラさん達と明日のことを話さなければ。僕たちの遠征はまだ終わりじゃ無いんだから。

 僕は愛用の武器と、最低限の荷物だけを持ってカミラさん達の居る部屋に向かった。




用語解説コーナー!

アニタ「皆様どうもこんにちは! やっと帰って参りましたよ! 大魔王のアニタです!」

アラン「このコーナーを待っていた方っているんでしょうか? アランです」

アニタ「底辺作者は最近他の作品にお熱ですけど、そんなことは気にしません! 底辺作者が私たちだけを描くようにするために、ここいらで私たちがどかんと人気をとるのです!」

アラン「この作者の作品で1番お気に入り登録者様が多いのこれなんですけどね」

アニタ「さて、そんなメタメタな事は置いておいて、今回の用語解説はこちらです!」

 シトロン自警団について!

アニタ「シトロン自警団は、旧魔界暦において、当時の魔王率いる魔物たちに匹敵するほどの実力を誇った魔物たち、『北西連合』の名残で作られた部隊です」

アラン「北西連合は当時かなり強かったみたいですね。魔王と敵対していた魔物たちの中で、ヴァンパイア一族の次点に驚異とされていたんですよね?」

アニタ「そうですね。では少し、北西連合のお話をしましょうか。北西連合は、当時北西の頂点に君臨していた魔物、オーガのギルゴアが、その圧倒的なカリスマによって北西の強力な魔物を集め、指揮し、結成した部隊です。ギルゴアの、当時としては奇抜な作戦と、北西連合に所属する魔物たちの連携力、地上のオークやコボルド達、空中からは、有翼種の谷に住むハーピィやリザードマン達による、強力な2方面からの攻撃を得意としていました」

アラン「今の自警団には、有翼種の谷に住む魔物たちはいないんですよね?」

アニタ「ええ。ギルゴアの死後、草原に住む魔物たちと谷に住む魔物たちは次第に仲違いをし、新魔界暦になる頃には完全に決別。魔界のシステムが4つの地方と中央で統治を分ける形になっても、北西都市は決して有翼種の谷に関わろうとすることは無くなりました。それにより、今のシトロン自警団は、草原の魔物のみで構成されるようになりましたね。しかし、ギルゴアの遺した訓練法や作戦によって、依然として自警団は強力です。空中戦の利が無くなっても、彼ら自警団を崩すのは簡単にはいかないでしょう」

アラン「なるほど……」

アニタ「そんな自警団も、最近1度壊滅しています。赤肌のオーガによる自警団の皆殺し事件ですね」

アラン「ああ、キスカさんがシトロン自警団を500匹全滅させたって言うあの……」

アニタ「はい。それまで中央に次ぐ秩序を保ち、地区のほとんどを統制下に置いていた北西都市は、それにより規模を縮小せざるを得なくなってしまいました。それと同時に領主が交代。現在の北西領主ジェイク・ウェイズリーへと代わったと言うわけですね」

アラン「今回の用語解説、自警団の解説と言うよりは北西地区の解説みたいになっちゃいましたね」

アニタ「そうですねぇ、色んな所に話を飛ばしていたらそんな感じになっちゃいましたね。まあ自警団は過去の北西地区の話もしないと語れませんから、仕方ないことなんですけどね」

アラン「いつもいつも、こんな真面目な解説をしてくれると僕も助かるんですけどね」

アニタ「何を言ってるんですかアラン! 私は、いつでも真面目ですよ! 真面目も真面目、大真面目です!」

アラン「……それ、本気で言ってるんですか?」

アニタ「ほーんーきーでーすー! 私はいつでも真面目で素敵な大魔王なんですー!」

アラン「あぁ、はいはい、そうですね」

アニタ「その対応は酷くないですか!?」

アラン「そんなことより大魔王様、そろそろ時間ですよ」

アニタ「え? あ、ほんとだ! ではでは皆さん、今回はこの辺りで失礼いたします。お相手は、真面目で素敵な大魔王の、アニタと!」

アラン「アランでした」

アニタ「ばいばーい!」

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