週刊オリジナルランキングに載ったことが理由なのかはわかりませんが、お気に入り登録者様が一気に増えました。皆様に最大級の感謝を。ありがとうございます!
これからも精進していくのでよろしくお願いいたします。
ちなみに今回の投稿が遅れたのは私生活が忙しかったのとドラゴンクエストライバルズにハマっていたからです。この馬鹿野郎と罵ってくれても良いのですよ?
「そうだ、カレン」
僕たちは、魔王街を真っ直ぐ抜けて、中枢都市の外へ出た。
たわいない会話をしながら南西の関所に向かっている途中、カミラさんがぽつりと呟いたのだ。
「君はどうして魔王軍に入ろうと思ったんだ?」
そこまで突っ込んだことを聞くか、と。そう思った。カレンとはまだ出会って数時間。とてもそんな話をする間柄では無いと僕は思う。
しかし、カミラさんの質問を受けたカレンは、しばらく考え込んだ後に、
「……私には、姓があるんです」
と。話を始めたのだ。
この魔界での、姓というものの話をしよう。
僕たち魔物には、基本的に姓はない。だが、姓を持つ魔物も居る。
旧魔界暦の体制に、貴族というものが存在した。位の高い魔物。その種族の上に立つべき魔物。そして……その中から、魔王が、大魔王が選ばれるという、魔界にとって重要な魔物たち。
旧魔界暦にも姓を持つ魔物は少なかった。数少ない優秀な魔物である、貴族のみが姓を名乗ることを許されたのだ。
そして、今現在新魔界暦における姓とは、旧魔界暦の貴族の血筋の名残である。すなわち、貴族の末裔のみが持つことの出来る名前だ。
物事には当然例外も存在する。例えば僕、アラン・アレクサンドルのような、貴族の血を持たない物も姓を持つことがある。
そういった魔物は、姓を持つ物の養子になった魔物である。僕の場合はユージーンの養子扱いであるため、ユージーンと同じ『アレクサンドル』という姓を持っているわけだ。
つまり、姓を持つというカレンは、貴族の末裔か、その養子か、どちらかであると言える。
「姓、か。珍しいな」
「はい。『ビリーブハート』って言うんですけど。デーモンの中では、結構位の高い姓でした」
「ビリーブハートの血筋か!」
カレンが自らの姓を名乗ると、カミラさんは驚いた様子でそう言った。
「知ってるんですか?」
「知っている。ブレイブハートと共にデーモンを纏め上げた、デーモンの中でもトップクラスの魔物たちだった。確か魔力の高い個体の多い血筋で、1度魔王にもなったことがあるはずだ」
なんと。そんなにすごい血筋なのか。そうだとすれば、魔王軍に居るのも納得だ。入るだけの能力は充分にあるだろうし、もしかすれば、このまま大魔王軍にやってくることもあるかもしれない。
「カミラ様はご存じだったんですね。はい。そのビリーブハートです。父様がよく言っていました。『私たちの血筋は尊いものだ。旧魔界暦の時分には魔王にも選ばれたことのある、素晴らしいものだ。私たちはこの血を未来へと継いでいかなければならぬ』って」
カレンは楽しそうにそう言った。父が好きなのだろう。それに、自分の血筋も愛しているのだろう。それがひしと感じられる声音だった。
「ビリーブハートはいつになっても変わらないのだな。私と関わりのあったビリーブハートもそんなやつだった。父君は元気にしているのか?」
カミラさんがそう問うと、カレンは表情を暗くして、手をぐっと、固く握った。
その様子を見て、カミラさんは心配そうにカレンの顔をのぞき込んだ。
「……カレン、君の父君は……」
「亡くなりました」
カレンは、何かの覚悟を固めたように、はっきりとそう言った。
「私だけを除いて、ビリーブハートは全滅しました。10000年前の、人魔大戦の時に」
「……そう、か」
「父様も、母様も、兄様も……皆居なくなって。それでも必死に生き延びて……私は、1匹になりました」
カレンは、おもむろに赤黒い空を見上げた。
……珍しくも無い話だ。特に、大戦の終盤は勇者が魔界で暴れ回っていた。あの大魔王様と拮抗する力を持っていたという勇者と出会ってしまえば、いくら強いと言えどもデーモンでは相手にならないだろう。
……本当に、考えるだけでも虫酸が走る。やっぱり人を許すことなど出来はしない。
「私、泣きました。泣いて、泣いて……それで、私も死のうかとも思いました。でも、そのうち思い出したんです。父様が言っていた、血を未来へと継がねばならぬって言葉を。だとしたら、私は死ぬわけにはいかない。死んじゃいけないなら、強くならなきゃいけない」
「だから、魔王軍を目指した、と。そう言うことか」
はい、とカレンは返事をした。きっと彼女は、大変な苦労をしたことだろう。僕と違ってツテも無かった。自分だけで力を付けて、自力で中枢都市までたどり着いて、魔王軍の付属学校に入った。
それに、どれほどの努力が必要かなんて僕にはわからない。だけど、彼女は途方も無い努力の末にここに立っているのだ。
「……なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするな。すまない、カレン」
「え? あぁあ、い、いいんですよそんな! 確かに質問をしたのはカミラ様ですけど、重い話をしだしたのは私なんですから!」
わたわたと慌てながらそう言ったカレンに、カミラさんが少し笑った。うん。微笑ましいんだろう、きっと。経験の浅い僕でもわかる。カレンは真っ直ぐで、良い魔物だ。
「あれ!? 何で笑ってるんですかカミラ様!」
「いや、すまない。……ふふ、ふ……ふぅ。カレン」
「……? はい」
「カレンデュラ・ビリーブハート」
「は、はい!」
「君はいずれ、大魔王軍に来るだろう。それまで精進することだ」
「え、えぇー!? 私が、大魔王軍にぃ!?」
今日何度目かのカレンの絶叫が辺りに響く。さっきと同じように、また他のチームの視線が集まってきて、カレンは慌てて口を塞いだ。よく驚く子だなぁと、そう思った。
カレンは真っ直ぐだ。彼女が進む道には未来があるだろう。彼女は強くなって、生き残って、ビリーブハートの血を継いでいく。
……じゃあ。僕は? 僕の進む道には、未来があるのか?
──復讐が終われば、何も無い──
僕は頭をぶんぶんと振った。最近はこんな、弱気な思考が多くなってる気がする。……影響、されているんだろうか。大魔王様に。
「……大丈夫ですか? アランさん」
「え? ……あぁ、大丈夫。なんでも無いよ」
どうやら心配されてしまっていたみたいだ。大丈夫だと言うと、それなら良かった、と彼女は笑った。
気づけば、もう南西の関所に着いていた。オラクルに向かうルーシアさん、リンドさん、カイムの3匹は、南西都市方面へと向かって行った。
僕たちは、そのまま北西の関所へと向かう。今日のうちに北西地区へたどり着けるかどうか、と言ったところだろうか。
太陽は、もう既に傾きかけていた。
「カミラさん、今日はどこで眠りましょうか」
今のうちに野宿の相談を。こういうのは先に決めておいたほうが良い。
「もう決めるのか? ……うーむ、そうだなぁ。北西の関所に着くころにはもうすっかり暗いだろう。さっきの南西の関所にあったように、北西の関所にも小さい小屋がある。そこで寝ることにしようか」
「あれ、小屋なんてありましたっけ?」
記憶をほじくり返したが、ついさっきの事なのに全然思い出せない。そう言えば、考え事をしていてろくに南西の関所なんて見てなかったかもしれない。
「青年……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ちょっと考え事してただけですから。小屋ですよね、思い出しました」
そう言って僕は少しだけ歩く足を速くした。考えない。考えないことにしよう。
今は、この仕事を終わらせることだけを考えるんだ。
今回は用語解説お休みです。ごめんなさい。