歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

35 / 54
よくよく考えてみたら中枢都市ギーグを抜けるまでの道がクッソ長かった件について。
まだまだ準備編は終わりそうにないですね……。集合魔王城にしておけば良かった。


4大都市遠征 権力:北西都市シトロン 前編
ギーグを抜けるまで。:チームシトロン


 大魔王様が4大都市遠征開始を宣言し、各都市に向かう12匹の魔物たちは、固まって玉座の間を出た。

 固まって、と言っても、各チームごとに分かれてはいる。長い道程を行くチームであるし、大魔王軍メンバーは顔見知りが多くても、魔王軍の物ははじめましてだ。早めに親睦を深めておくに越したことはない。

 

 尚、今回は拒絶の森は普通に抜ける。直通の抜け道を知らされるのは大魔王軍の物だけであり、ユージーンにも教えていないらしい。ユージーンはこの城に出入りする度にこの面倒な森を真っ正面から抜けているわけだ。ちょっと同情する。

 今回の遠征は魔王軍のメンバーも居るため、抜け道を使うのはダメ。らしい。

 

「では、改めて自己紹介をしておこうか。うーん、まずは、カレンデュラから始めてくれ」

 

「は、はい!」

 

 カミラさんが切り出した。どうやらカレンデュラから自己紹介をさせるみたいだ。カミラさんからのご氏名に、カレンデュラは返事をするが、ちょっと声が裏返っている。……緊張しているのだろうか。

 

「私、カレンデュラと言います。魔王軍の先輩方は、親しみを持ってカレンと呼んでくれます。お二方もそう呼んでください。種族はデーモン。属性は闇、地です。得意魔法は結界系。よろしくお願いします!」

 

 緊張している割にはしっかりした自己紹介が終わった。僕たちが聞きたい内容は全て詰まっていたので、なかなか良い自己紹介だったと言えるだろう。属性と魔法まで言ってくれたのは、流石ユージーン直轄の魔王軍と言ったところか。

 

「ああ。よろしく、カレン。では……私の自己紹介と行こうか。私はカミラ。属性は闇。得意魔法は精神系。そして、種族は……ヴァンパイア」

 

「へぇー! ヴァンパイアなんですか! ……えぇ!? ヴァンパイアなんですかぁ!?」

 

 カレンの驚きの声に、周りの、特に魔王軍メンバーの目がシトロンチームに集まる。

 ヴァンパイア、という言葉に反応したのだろう。セシルさんやキスカさんが、混乱する魔王軍メンバーに説明をしているのが見える。

 冷静に説明してはいるが、僕もそこそこ驚いている。だって、カミラさんは大魔王軍で身を隠しているのだ。それなのに、自分がヴァンパイアだって、同じチームとは言え部外者なカレンに話すなんて……。

 

「カミラさん、良いんですかそんなこと言って! これで外にヴァンパイアが生き残ってるって知られたら……」

 

「ああ。問題ない。魔界平和化を達成すれば、私が種族を隠す必要も無くなる。もちろん私が魔界に反旗を翻せば処刑されるだろうが、そうしない限り手出しはしない、という法が、新しい法にはある。ならば、今私の種族を明かそうが問題はない」

 

「……それは、そうですけど……」

 

 慌てて質問をした僕に、カミラさんはさらりと答えた。まるで、そんなことは問題ではないかのように。

 確かにカミラさんの言っていることは正しいけど、それは問題なく遠征が成功した場合であって、失敗してしまったときが考慮されていない。

 失敗したときはまた大魔王様が匿うのだろうけど、魔界平和化が失敗したことで大魔王様の信用はある程度落ちるはず。それにヴァンパイアを匿っていることまで広まってしまえば、魔界内で暴動が起きる可能性もある。

 ……悪いことを考えても仕方ないのはわかるけど、僕としては今回のカミラさんの行動は、納得がいかない。

 

 他3匹の魔王軍メンバーは、なんとかなだめられたようだ。キスカさんとセシルさんが何か言いたそうな目でカミラさんを見ている。その視線を感じたのか、カミラさんは1つため息をつくと、そこそこ大量のコウモリを後ろに向けて飛ばした。

 キスカさんたちの許へ飛んでいったコウモリは、一昨日見た小さいカミラさんを形作る。説明のために分身を飛ばしたのだろうか。

 

「……本当に、ヴァンパイアなんですね。カミラ様……」

 

 それを見て、未だ信じられなさそうな目を向けていたカレンもようやく信じるに至ったようだ。

 顔を紅潮させ、うっとりとした目でカミラ様、と……

 ちょっと待て。何かがおかしい。

 

「……ふむ、カレン。後で時間のあるとき、血を吸わせて貰えないか? 私はうら若き乙女の血が大好きでな」

 

「え? ……カミラ様のお願いでしたらなるべくお聞きしたいんですけど……私、ヴァンパイアになるのは、ちょっと……」

 

「心配はない。所謂食事の吸血と、眷属を作る吸血は別物なのだ。私はもうヴァンパイアを増やすつもりはないんだ。純粋に、食事をさせていただけると嬉しいかな」

 

「それでしたら、はい! 喜んで! 私なんかの血でよろしいのでしたら、いくらでも!」

 

「ああ……ありがとう……!」

 

 おかしい。絶対におかしい! そんな、嘘だ、まさか……カミラさんのナンパが成功するなんて……!?

 というかカミラさん。声は紳士的……淑女的? の格好いい声なのに、顔がすごくだらしなくニヤニヤしてるのをやめてくださいよ。見てられないです。本当に。

 一応、口には出さないが、僕はカミラさんへの軽蔑の意味を込めて、ひたすらじとーっとカミラさんを睨むことにした。この駄目ヴァンパイア、これから調子に乗らないかが心配である。

 

「青年」

 

 と、ここまでだらしない顔だったカミラさんが急に真面目な顔になって、僕にウィスパーで話しかけてきた。

 

「……なんです?」

 

 カレンは真っ赤になって身悶えていて、周りが見えていなさそうだ。しっかりと内緒話は成功しそうなので、僕もウィスパーで返事をする。

 

「……私も、自分からヴァンパイアであると積極的に言おうとしたわけではない。……アニタ様が、な。そういう方針というだけだ。あいつが頑固になったら私では逆らえん。楽観的ではあるが、アニタ様なりに考えていることもあるのだろうよ。そういうことだ」

 

「……なるほど」

 

 まあ、つまり大魔王様が原因って事ですね。……やっぱり、僕はあの魔物を信用できないな。

 

 と、ふと気づくと、何時の間にかもう大魔王城の門までやって来ていた。

 ここを抜けて、いよいよ拒絶の森に入った。鬱蒼とした森を、規定のルートを歩くことによって突破していく。

 

「さて。なんだかんだ色々な説明も済んだところだ。次は、青年の番だぞ。自己紹介」

 

「ん? あ、ああ、はい。わかりました」

 

 一連のごたごたで、すっかり自己紹介の事を忘れていた。僕は軽く咳払いをして、喋ることを考える。

 

「僕はアラン。種族は……人型。で、属性は風。得意魔法は速度制御。……ああ、あと、得物も言っておいた方が良いか。得物は片手直剣だ。よろしく、カレン」

 

「はい! アランさん、よろしくお願い……あ、アラン、さん? って……元魔王様の側近で天才剣士のアランさんですかぁっ!?」

 

 カレン、2度目の絶叫。彼女の常識からしてみれば、とんでもないことの連続なのだろう。心中、お察しします。僕も大魔王城に来た始めの頃はそんな感じでした。

 

「うん。そのアランであってる」

 

「うわ、うわ、うわぁぁぁぁ……! 私、もしかしてとんでもないチームに入っちゃったのかもぉ……」

 

 うん。これからきっと、もっと驚くことの連続だと思う。その時まで彼女の心臓が持つか心配である。

 そして、魔王軍メンバー。僕を見るんじゃない。ものすごい射貫くような視線を喰らって鬱陶しい。特に……確か、キシリアとか言うやつ。なんか羨望の眼差しで僕を見てる。やめてほしい。

 

 そんなことをしているうちに、何時の間にか拒絶の森を抜けてしまっていた。

 ここからは魔王城を通り抜けて、魔王街の門を出て……。南西都市への関所を突破、南西組と分かれて、北西都市への関所まで行って……って、結構長いな。

 でも、まあ。なんだかんだカレンも悪い子じゃなさそうだし、このチームなら楽しい遠征になるだろう。朝の時のような不安は、多少は解消できた。

 

 1番先頭を歩く僕たちシトロンチームは、魔王城の裏門を開く。少し強くなってきた日差しに、僕は額に流れる汗をぬぐった。




用語解説コーナー!

アニタ「皆さんどうも。これから4大都市遠征編が終わるまで出番のない大魔王です」

ユージーン「同じく。出番のない魔王だ」

アラン「ちょっと、2匹とも! どういう始め方してるんですか! 大魔王様はテンション上げて! ユージーンは乗らないで! ああ、もう! アランです!」

アニタ「だってぇ……出番ないんですもん……」

ユージーン「俺はそこまで悲観するほど、ここまで出番があったわけじゃないがな。なんとなくだ」

オンブラ「魔王様。あなたがゆる……大魔王様にに影響されると私たちが困ります。しゃっきりしてください。さもないと……バラしますよ」

ユージーン「さて、真面目にやっていこうか」

アニタ「ええーと……な、名前知らないけどあなた! 今私のことゆるふわって言おうとしました!? ていうか私が呼んだのは魔王とアランだけで、あなたは呼んでないんですけど!」

オンブラ「オンブラです。言おうとしていません。そして、私は魔王様の側近です。魔王様について行くのは当然でしょう」

アニタ「む……それは、そうですけど……」

アラン「あー、もう良いから始めましょう。時間無くなりますよ」

アニタ「あ、はい。今回解説する用語はこちらです!」

 魔王軍のシステムについて!

アニタ「ということなので、今回は元魔王軍のアランに加えて、現魔王であるユージーンにも来て頂きました!」

ユージーン「改めて、現魔王ユージーンだ。今日はよろしく頼む」

オンブラ「現魔王側近、オンブラです。以後お見知りおきを」

アニタ「まあ、呼んでないのが若干1名いらっしゃいますが、早速始めていきましょう!」

アラン「あ、ちょっと待ってください。魔王軍なら、大魔王様も率いていたことがありましたよね? 元魔王ですし。わざわざユージーンを呼ばなくても良かったのでは?」

アニタ「あー、それはですね。おそらく、私が魔王だった頃の魔王軍、前魔王軍と、現魔王の魔王軍ではシステムに若干の違いがあるからです。その辺りは私も説明できますけど、やっぱり今まさに軍を率いている魔王にお話を聞くのが1番だと思いまして」

ユージーン「俺もそれに了承したわけだ」

アラン「……なるほど」

アニタ「もう質問オッケーですか? それじゃあ参りましょう、用語解説、その1!」

 魔王軍にはどうやって入るのか!?

アニタ「これを魔王にお聞きしたいと思います!」

ユージーン「ふむ。皆、魔王街に学校があるのは知っているな? 基礎の読み書きや戦い方を教える学校だ」

アニタ「はい。知ってます」

ユージーン「まず条件1は、そこの卒業生であること。今現在、魔界は無法地帯であり、生き残るには戦わなければならない魔物が多い中であるが、やはり我流で戦う物と戦い方を知るものでは差が大きい。学校を卒業できるくらいでなければ話にならんな」

アラン「あー、懐かしいですね、学校。皆弱いくせに僕に喧嘩売ってきて鬱陶しかったですよ」

オンブラ「アラン・アレクサンドル。地味なエリートアピールはやめなさい。魔王様の意向で学校に入れたというのに、問題ばかり起こして。成績は良かったですが、それだけじゃいけないんですからね。何度私が……もとい、魔王様が頭を悩ませたことか……」

アラン「なんですオンブラさん。妬ましいんですか?」

オンブラ「だぁれがぁ、あなたのことを妬みますか。私は少なくともアラン・アレクサンドルよりは強いので。妬む要素が1つもないので」

アラン「負け惜しみかよ」

オンブラ「舐めんじゃねえぞクソガキが」

アラン「なんですか?」

オンブラ「なんですか?」

アニタ「あーもう! 何で喧嘩になってるんですか2匹とも! 話が進まないんで喧嘩をやめてください!」

アラン「チッ」

オンブラ「チッ」

アニタ「はい、はい! もう終わり! 魔王、次の条件話してください」

ユージーン「ああ。2つ目の条件だな。2つ目は俺に実力を認められること、だ」

アニタ「へ? 魔王に認められるって、どうすればみとめられるんです?」

ユージーン「俺と戦ってある程度の基準を満たしたと俺が思えば合格にしている」

アニタ「へ、へぇ……すごいことするんですねぇ……」

ユージーン「大魔王が率いていたときはどんな条件だったんだ?」

アニタ「へ? ああ、私の時ですか? 私の時は、その前の魔王からの引継ぎと、私が強いと思った魔物のかき集めです」

アラン「大魔王軍と大して変わらないじゃないですか」

アニタ「まあ私、それくらいしか出来ませんしね」

オンブラ「何でこの方が魔王を務められたのか謎ですね」

ユージーン「まあとりあえず、魔王軍の入隊の仕方はこれで以上だ」

アニタ「あ、はい。ありがとうございました。続いては、こちらですね」

 部隊について!

アニタ「これについては、そうですね……アランに聞きましょうか」

アラン「はい。わかりました。じゃあ、まずは部隊名称からですかね。ええと、魔王軍は基本的に4つの部隊に分かれます。第1部隊である精鋭部隊。第2部隊である突撃部隊。第3部隊である魔擊部隊。第4部隊である拘束部隊の4つですね」

ユージーン「部隊で役割をわけることによって訓練の効率化と、連携の取りやすさを重視している」

アラン「第2~第4は言葉の通り、それぞれ物理攻撃、魔法攻撃、拘束魔法が得意な物で組まれた部隊ですね。そして、第1部隊。精鋭部隊ですが、これは魔王に認められた、一握りの強物が集められた部隊です。基本的に、遠征や危険任務に就くのはこの部隊ですね。僕も精鋭出身です」

オンブラ「加速馬鹿のくせにまともな解説が出来たんですね。大魔王様のお守りしか出来ないと思ってました」

アラン「お褒めいただきどうも」

アニタ「だぁから! 喧嘩を始めないでくださいよ! ていうか流れ弾で私のこと馬鹿にするのやめません!?」

ユージーン「大魔王。他には解説することはないのか?」

アニタ「あ、そうでした。まだあと1つ、あります」

 魔王軍はどういうお仕事をしているの?

アニタ「です!」

オンブラ「それでは……これは私が説明をしましょうか。魔王軍が行っている仕事は、魔王城の警備、魔王街の警備、他、4大都市付近で起きたトラブルの解決などですね。主に治安維持が目的にされています」

アニタ「なるほどなるほど。わかりやすいですね!」

オンブラ「当然です。魔王様の側近ですから」

アラン「隠密しか能が無いくせに勝ち誇った顔をするのはやめてください。馬鹿みたいですよ」

オンブラ「なんです?」

アラン「なんですか?」

アニタ「ああ、もうまた始まる! とりあえず、今回はここまでで! それでは皆さんまた次回、お相手は、大魔王アニタと!」

ユージーン「魔王ユージーンと」

オンブラ「黙りなさいこの加速馬鹿!」

アラン「うるさいですよこの隠密馬鹿!」

アニタ「ああええと! 大魔王軍のアランと、魔王側近のオンブラでした! バイバイ! ……もう2匹とも! いい加減にしなさーい」

ユージーン「……騒がしくてすまんな」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。