歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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ついに開始しますよ。4大都市遠征。


タイトルダブってるのにようやく気づいたので変えました。作者は阿呆。


出発の日

 時刻は午前4時。魔界に朝がやって来た。今日、僕は大魔王城にやって来てから初めての……遠征に、出る。

 この遠征がどれほど危険なのか。それはわからない。少数による遠征だから、危険と言えば危険だ。だけど、魔王軍時代からほぼ負け無しだった僕に、カミラさんまで着いてきてくれるなら、それ程危険ではないようにも思える。

 特に僕は1対多が得意な戦法を取るから、相手が余程の格上でない限りは不利にならないのだ。……戦闘面での心配は、ほぼ無いだろうか。

 懸念事項と言えば、魔王軍から着いてくる新入りってやつだ。死なれても困るからしっかり守らないとな。

 とは言え、これは最悪の事態に関しての心配であって、僕たちの仕事は話し合い。新たに決められた法を伝え、それを管理区域に定着させろと伝えることだ。

 いくら魔物が血気盛んと言えども、表立って大魔王に逆らうほどではないだろう。故に、戦闘とかにはならないと思う。

 まあ、用心するに越したことはないけれど。

 朝食を済ませた僕は、用意しておいた荷物を持ち、部屋を出る。時刻は4時半。出発は7時で、ここから玉座の間までは2時間程だから。時間の余裕は十分ある。階段を下ってあぱーとから出ると、キスカさんに出会った。

 

「おう、人型。おはよう」

 

「おはようございます。キスカさん」

 

 今日も気合いを入れているのか、オーガの民族衣装を身に纏っている。身につけている武器は3本。これは、魔王城へ行ったときと変わらず。風切り、空砕き、地壁の3本だ。

 キスカさんに訓練をつけて貰い始めてから、僕の起床時刻は大分早くなった。ここに来た頃は朝5時に僕の部屋にやって来たカミラさんに早いなんて言っていたけど、今や毎朝5時起きだ。

 そのせいで、朝はキスカさんとばったり会うことが多い。キスカさんにあぱーとの前で会うと、訓練場までダッシュ! 風魔法は禁止! とか言われるからあんまり会いたくはないんだけど。

 まあ、どうせ訓練場まで走ったところで大したことはないし、今回みたいな遠征などの仕事の時はそれくらいの時間に起きなければならないから、助かってはいるんだけどね。

 

「今日は玉座の間までダッシュとか、しないんですか?」

 

「あー、それも良いけど、たまにはゆっくり歩いていくのもいいだろ。時間に余裕はあるわけだしな」

 

「へぇ、珍しいですね。キスカさんがそんなこと言うなんて」

 

「ウチだって、たまにはのんびり歩きたいときもあるのさ」

 

 そんなこんなで、僕とキスカさんはいつも通り、2匹で玉座の間に向かうことになった。

 

 

 

 時刻、午前6時半。

 玉座の間にたどり着いた僕たちは、その重い扉を開けた。

 中には既に僕たち以外の6匹が居た。玉座には変わらず大魔王様が座り、その隣には、ユージーンが魔王軍支給の鎧を着た2匹と、ローブを着た2匹の、合計4匹の魔物を連れて立っていた。

 

「皆さん揃いましたね。これからあなたたちには、それぞれ指定された4大都市に赴いて貰います」

 

 僕とキスカさんがやって来たのを見て、大魔王様が口を開く。今日は真面目な仕事と言うこともあって、しっかり大魔王モードだ。

 

「危険もあるでしょう。予想外の事態が起きるかもしれません。ですが、あなたたちは私が招いた強物、大魔王軍の兵士です。無事に、帰ってくることを信じています」

 

 いつになく真剣な大魔王様の姿を見て、僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。この緊迫感。普段はゆるふわだが、やはり大魔王様は大魔王様なのだと改めて思う。

 

「それでは今回、遠征に着いていく魔王軍のメンバーを紹介しよう。キーファ、前に出ろ」

 

「はっ! 魔王軍第2部隊所属、キーファであります! よろしくお願いします!」

 

 前に出たのは、正面から見て1番左側に立っていた魔物。魔王軍支給の鎧を着込み、腰には片手用の直剣をぶら下げている、オークの男だ。

 

「キーファは北東都市リルムへ向かうチームに着いていってもらう」

 

「はっ!」

 

 キーファがそのまま前に進み出ると、僕の隣に居たキスカさんがゆっくりとキーファの許へと向かった。

 

「ウチはキスカ。リルムに向かうのはウチと、そこで休眠モードになって固まってるジェイドだよ。よろしく」

 

 キスカさんはにこやかに笑い、握手をすべく手を差し出した。

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

キーファは恐る恐るキスカさんの手を握る。キスカさんの威圧感に圧されているのだろう。尋常じゃなく汗を掻いているように見えた。

 

「次。カレンデュラ、前に出ろ」

 

「はい! 魔王軍第4部隊所属、カレンデュラです! よろしくお願いします!」

 

 続いて前に出たのは、先程左から2番目に居たローブを着たデーモンの女の子。第4部隊と言うことは、拘束部隊か。デーモンにしては珍しいのではないだろうか。

 

「カレンデュラは、北西都市シトロンへ向かうチームに着いていってもらう」

 

「はい!」

 

 キーファと同じように前に進み出たカレンデュラを、今度はカミラさんが迎える。

 しかし、カミラさんの許に女の子が来るってまずいんじゃないだろうか。この真剣な場で『可愛いお嬢さん、血を吸わせていただけないかな?』なんて言ったら何もかもが台無しだ。

 

「ようこそ。可愛いお嬢さん」

 

 ちょっと待ってくださいカミラさん。本当にそれやるんですか。思いとどまってくれませんか? それ今やったらまずいですって。

 

「私がシトロンに向かうチームの物だ。名をカミラという。よろしくお願いする」

 

「あ、はい……よろしくお願い、します……」

 

 しかし、カミラさんの対応は僕の想像とは全く違い、実に紳士的な物だった。いや、カミラさんは女性だから淑女的? なのか? ……よくわからなくなってきた。

 流れるような綺麗な動作で差し出されたカミラさんの手を取ったカレンデュラは、顔を赤くし、目をうっとりとさせていた。……まあ、確かにカミラさん、こういう時は格好いいからなぁ。しかし、女の子同士でも惚れたりするのだろうか?

 

「次。キシリア、前に出ろ」

 

「は!」

 

 百合のように可憐ながら、凜として強い意志を感じる声を発して、鎧姿の女の子が前に出る。

 

「魔王軍第2部隊所属! キシリア! よろしくお願いします!」

 

種族は……オーガ。黒肌か。背中には大剣を吊っている。しかし、彼女はオーラが違う。経験を積めば、いずれは第1部隊所属にまで出世するだろう。……大剣持ちの、オーガ。なんだか少し羨ましいな。

 

「キシリアは、南東都市アリアに向かうチームに着いていってもらう」

 

「は!」

 

前の2匹と同じように前に進み出たキシリアを、セシルさんとセシリアさんが2匹で迎えた。

 

「私たちがアリアに向かうチームです。キシリアさん、歓迎します!」

 

「あんまり堅くならないでね。私たちもそうだから、あなたも自然体で居てくれると嬉しいわ」

 

「あ……はい! よろしくお願いします!」

 

 2匹のアークデーモンに囲まれて、緊張からか多少体を堅くしたように見えたキシリアだったが、セシルさんとセシリアさんが優しく話しかけたことによって多少は緊張がほぐれたようだった。

 

「次。カイム、前に出ろ」

 

「……はい」

 

 最後に前に出たのはローブの男。彼は……なんの種族だ?

 辛うじて種族を判断できそうなのは、背中に揺れる2本の尻尾のみ。あれはおそらく狐の物のように見えるが、狐の魔物なんてこの魔界には存在しない。

 

「魔王軍第3部隊所属、カイム。よろしくお願いする」

 

 カイムのその言葉の響きに、僕はそこはかとない不気味さを感じて少し身震いした。

 

「カイムは、南西都市オラクルに行くチームに着いていってもらう」

 

「……はい」

 

「妖狐」

 

 急に近くで聞こえた声にびっくりしてヒダリヲムクト、

 リンドさんがカイムを迎えに行っているのをぼーっと見ていたら、いつの間にか、カレンデュラを引き連れてカミラさんが隣に来ていたようだ。

 

「カミラさん……。なんです? ヨウコ、ですか?」

 

「ああ。あのカイムという少年。あれは妖狐だ。極東の、我々が妖界と呼ぶ場所の魔物だな。ここにいるのは随分と珍しいが……まあ、そんなことを気にしても仕方ないだろう」

 

「……なるほど」

 

 妖界の魔物、ヨウコ……か。狐の魔物なんて、居るんだな。

 ちなみに昔僕はサトリの話持ち出していたが、極東の魔物はそれしか知らなかったりする。昔ユージーンが話してくれたから覚えていただけだ。実は妖界なんてのも初めて聞いた。

 

「以上をもって、魔王軍からの物は最後だ。ウチの新入り達をしっかりと育ててやってくれ」

 

「はい。と言うことで、これをもって全ての準備が終わりました。では……4大都市遠征。これより、開始!」

 

 大魔王様の声が玉座の間に響く。ついに。ついに始まる。

 4大都市遠征が。




 用語解説のコーナー!

アニタ「ということで、今回も始まりました用語解説! 大魔王のアニタです!」

アラン「お久しぶりです。アランです」

アニタ「今回解説するのは、こちら」

 魔界の構造について!

アニタ「です!」

アラン「次回から遠征編も本格開始しますし、今のうちに魔界がどうなっているのかを話すわけですね」

アニタ「その通り。では、解説始めていきますね。現在、魔界は5つのブロックに別れています」

アラン「南西、北西、北東、南東と、僕たちの居る大魔王城と、魔王城、魔王街のある中央ですね」

アニタ「その通り。そして、例えば、人界の人間が魔界に攻め入るとき、魔王城、大魔王城には、真っ直ぐに向かうことが出来なくなっています」

アラン「その理由は?」

アニタ「高い崖や、各都市にそびえる高い壁などで徹底的に区画が区切られているからです」

アラン「崖と壁、ですか」

アニタ「はい。人に簡単に中枢まで攻め入られないための工夫ですね。人界と魔界は『リバースポイント』と言う物で区切られていまして、人が魔界にやって来るためのポイントは1つしかありません。そのため、単純に中枢への道のりを遠くするだけでもかなり効果的なんです」

アラン「ふむ。では、その『リバースポイント』から中央区画に行くためには、どうすればいいんですか?」

アニタ「南東、北東、北西、南西の順番で区画を突破する必要があります。もちろんそれぞれの地域には領主が居ますし、兵力もあります。並大抵の実力では、中央までたどり着くことも出来ない。まあ、そこを突破してくるのが勇者って訳なんですけどね。……本当に」

アラン「なるほど。勉強になりました」

アニタ「と、こんな所で、今回の用語解説はおしまいです。ではまた次回お会いしましょう! 大魔王のアニタと!」

アラン「大魔王軍兵士のアランでした」

アニタ「ばいばい!」

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