歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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今回のお話は、アラン君とキスカが本屋でわちゃわちゃしてた間リンドとジェイドが何をしていたのか、と言う物です。

新キャラ2匹の誰得回、始まります。


ジェイドの珍しい休日

 体の外側でパキパキと乾いた音がする。固く閉ざされていた意識に光が差し込む。どうやら……今回も、ワタシは無事に起動されたようだ。

 ワタシの石のような無骨な肌が、ひび割れ、剥がれ落ちていく。中から出てくるのは紫色の悪魔。

 

「おはようジェイド。遅れてごめん」

 

 ワタシの有効化された耳に入ってくるのは、敬愛する友の声。

 遅れて有効化されたまぶたを開けると、ワタシの目はその敬愛する友、リンドの姿を捉えた。

 

「気にすることはない。我が友よ……ワタシがここに訪れたのはついさっきだ……」

 

 ひび割れた声を発すると共に、ワタシが纏っていた石の肌は全て剥がれ落ちた。完全に休眠モードから覚醒したと言えよう。

 

「……ジェイド、ここに来たのは何時?」

 

「10時頃だと記憶している……」

 

「今は午後1時だよ。やっぱり待たせてたんじゃないか。僕」

 

 リンドから現在の時刻を聞き、ワタシは驚いた。

 ここに来てから3時間も経っていたとは。ワタシの感覚ではせいぜい1時間程度だと思っていたのだが。

 

「ふむ……そんなにも時間が経っていたとは……正直、驚いている……」

 

 ワタシは驚いた、と言う気持ちを素直に口に出す。

 ワタシは自らの気持ちをなるべく口に出すようにしている。

 というのも、昔からよく言われるのだ。『お前は何を考えているのか分からない』と。ワタシは常に無表情で、声にも感情が表れないから不気味だというのだ。

 お前は感情がないのかと言われたこともある。

 ワタシも魔物故、それなりの感情は持っている。驚きもするし、喜びもする。実際、声の調子なんかも変わっていると思うのだが、他の物にしてみれば何も変わらないらしい。

 

 それ故、ワタシは感情を口に出すようにしている。ワタシは驚いた。ワタシは嬉しい。ワタシは怒っている。言葉にすることで、相手にワタシの感じているものを伝えるようにしているのだ。

 

 初対面の物には嘘をつくなと言われることも多いが。まったくもって理解できない。

 

「休眠モード中は時間の感じ方が違うんだっけ? ここに来てから僕が来るまでの時間、何分くらいに感じてたの?」

 

「1時間と言ったところだ……さほど待っていないだろう……?」

 

「1時間って……それ、だいぶ待ってる方だと思うよ」

 

 リンドの言葉に、ワタシはゆっくりと首をかしげる。そうだろうか。1時間程度ならそう待った方でもない。

 

 ここまでの会話でも分かるだろう。ワタシたちガーゴイルと他の魔物には、明確な意識の違いがある。これが、ガーゴイルが他の魔物と比べて『得体の知れない』理由だろう。

 まあ、ワタシにとってはそんなことはどうでも良いのだが。

 

「相変わらずだね。ジェイドは」

 

 リンドは僅かに笑い、ワタシの隣に腰掛ける。

 

「今日は何をするのだ……?」

 

「ジェイドの隣で本を読む。軽い雑談なんかしながらさ」

 

 彼はワタシの隣で本を読むのが好きらしい。それも雑談をしながら。休日はこうして大魔王城の中庭で彼と会い、話をするのだが、彼はよくワタシの隣で他愛のない話をしながら本を読むのだ。

 

「毎度の事だが……ワタシと話をしながら本を読めるのか? 集中力が途切れるだろう……?」

 

「それこそ毎度のことさ。言ってるだろ? 君の静かな声は聞いていて心地良いんだ。君の声なら、本を読む邪魔にはならない」

 

 そう言って彼は自らの世界に閉じこもる。と言っても完全に閉じこもるわけではないが。かなり集中しているように見えて、彼はワタシの話すことをよく聞いている。不思議な男だ。

 

「遠征の準備は済んだのか……?」

 

 彼は基本、本を読み出すと会話がなくなるので、話を振るのはワタシの役割だ。雑談でもしながら、と言ったのは彼なのだが。まったく仕方のない奴だ。

 

 ちなみにワタシは話を振るのは得意ではなかったのだが、彼のおかげでだいぶ鍛えられた。

 

「……済ませたよ。癪だけど」

 

 彼の返答を聞いて思い出す。彼のペアは、あのやかましい人型の女だったな。ルーシアと言っただろうか。

 

「大丈夫なのか、リンド。君はうるさい物は嫌いだったはずだが……」

 

「大丈夫じゃないよ……今から頭痛い。まったく、大魔王様はなんであんなのと組ませるんだよ……」

 

 リンドは相当腹を立てているようだ。それはそうだろう。彼はうるさい魔物が一番嫌いなのだから。

 

「まあ、彼女のことだ。何か考えがあるのだろう……」

 

「考えがあっても理解できなきゃ意味ないじゃないか。それに説明すらしないであなたには足りないものがあるーなんて……僕には、考え無しにしか思えないな」

 

 リンドは愚痴をこぼしながらも、手に持つ本を食い入るように見つめている。

 

「ふむ……そうだろうか……?」

 

「そうだよ。そうに決まってる」

 

 やはり、ワタシには何か考えがあるようにしか思えぬのだが……まあ、ワタシにも大魔王の狙いはわからない。ここは、黙っておくことにしよう。

 

 しばらく無言が続く。正直、ネタ切れである。鍛えられたと言っても苦手な物は苦手だ。

 

 

ふと空を見上げると、頭の上をチチチ……と鳴きながら、数匹のコウモリが飛んでいった。

 

「む……カミラ殿か」

 

 この大魔王城を飛ぶコウモリは、十中八九カミラ殿と言って良いだろう。カミラ殿はよく、城内の情報収集や人探しなどでコウモリを飛ばしている。

 

「そう言えば。ここに来る前カミラさんに会ったんだ。キスカさんを探してたけど、いなかったって言ってた」

 

「む? キスカ殿を?」

 

「まあカミラさんのことだから、どうせまた血を吸わせてくれって言いに行きたかったんだと思うけど」

 

 カミラ殿はよくその用件でキスカ殿に絡みに行っている。故に、その予想は理にかなっている。

 もし彼女が真面目な用件でキスカ殿を探していたとしたら、まともな予想を立てられないカミラ殿は、正直哀れである。

 

「そうだ。ジェイド、お腹空いてない?」

 

「……そうだな。ワタシは今腹を空かせいる……」

 

 嘘だ。腹は減っていない。ガーゴイルも生きるために栄養を必要とするが、栄養を欲して体が何かサインを出すということはないのだ。

 我々ガーゴイルは休眠モードに入ることにより、エネルギー消費を抑える。活動する必要がないときは極力休眠することによって、食事を取らずに長時間稼働しつづけることが出来る。

 食事は覚醒したとき、少し取るだけで十分だ。今朝軽い食事を取ったので、ワタシは後3日ほど何も食べなくても問題ない。

 

 が、我が友が『お腹が空いているか』と問うた時は、いつも『腹を空かせている』と答える。

 

 この質問をするときは彼が腹を空かせているときだからだ。どうやら素直に腹が空いていると言うのが気恥ずかしいらしい。まったくもって理解できない。自分の素直な気持ちは正直に言葉にしないと伝わらないと思うのだが。

 

「そっか。じゃあ、魔王街まで行こう」

 

「ふむ。いつも通りに……む?」

 

「行こう。魔王街。良いお店見つけたんだ」

 

 なんと。彼から魔王街に行こうなどと言われるとは。正直、非常に驚いた。……今日は、珍しい一日になりそうだ。

 

 

 

 

 時は変わり、時刻は14時48分である。

 ワタシとリンドは珍しく、2匹で魔王街を歩いていた。正確には歩いているのはリンドだけだ。ワタシは飛んでいる。

 

「……しかし、珍しいな。インドアで、基本部屋に閉じこもって本ばかり読んでいて、中庭に出てくるにも面倒くさがって数十分はぐだぐだと時間を過ごしている君が、ワタシに魔王街まで行こうなどと持ちかけるとは……。正直、ワタシは驚いている」

 

「君は普段僕をどういう目で見ているんだよ……」

 

 言ったとおりの見方である。リンドはどうしようもないものぐさな男だ。こと魔法と本に関しては素晴らしい行動力を示すのだが、それ以外がダメダメすぎる。

 

 食料を買うのが面倒くさいから買ってきてくれと言われたことは、1回や2回では済まない。それが魔王街まで出てきて、飯屋に行こうなどとは。

 正直、感動している。

 

「生暖かい目で僕を見るのはやめろ。普段はそんなに表情変わらないくせに、なんでこういう時だけ分かりやすくなるんだよ」

 

「む。そんなに分かりやすく表情が変わっていたか?」

 

 正直実感はない。いつもと変わらぬように思う。

 

「それはもう。ジェイドはいつもそうだよ」

 

「ふむ……」

 

 そうなのか。表情などの情報は客観的に見た物が全てだ。特に、ワタシと最も長く一緒に居るリンドの言うことだから、本当にそうなのだろう。こういった外見の情報を提供してくれる存在というのは、正直ありがたい。

 

「着いた。ここだよ」

 

 他愛の無い話をしているうちに、目的の店へ着いたらしい。店の看板を見上げると、そこにはグルトン飯屋とでかでかと書かれていた。

 というか、木の看板に直接掘られていた。掘りが雑なせいで解読するのに数十秒の時間を要した。

 

「何固まってるの? 入ろう、ジェイド」

 

「……うむ」

 

 本当に良い店なのだろうか。食事を頻繁に取る必要が無いといえど、味覚はある。ただ栄養を摂取するだけの行為でも、美味くない食事では多少の抵抗感を持ってしまう。

正直、不安である。

 

「いらっしゃい! 何名様で?」

 

「2匹です」

 

「2名様ご案内でぇす!」

 

 店主の威勢の良い声が店内にこだまする。狭い店なのだから、そんなにも大きな声を出すのは無駄だと思うのだが。

 正直、理解できない。

 

 ワタシとリンドは店中央ど真ん中の席に案内され、メニュー表が出された。メニュー表に載っているのは魔王街ではメジャーな料理たちである。甘味類が豊富なのが多少目を引くくらいだ。

 

「ここは料理も美味しいけど、甘味も美味しいんだ。ジェイドも好きな物頼みなよ」

 

 リンドはもう注文を決めたようで、ワタシが決めるのを待っているようだ。待たせるのもよくない。ワタシはメニューを見た中で、目に付いた料理2つを注文することにした。

 

「ワタシは決定した。リンドも決めたのだろう?」

 

「うん。じゃあ店員さんを呼ぼうか」

 

 リンドが店員を呼び、料理を注文する。

 彼はホワイトラビットシチューと黒パン。ギーグオレンジの砂糖漬けにブドウ酒を。ワタシはソフトミートビーフの入ったパイシチューと、木イチゴの砂糖漬けを注文した。

 

 店員が下がると、ワタシは軽く店内を見渡した。

 店は繁盛しているようで、ほとんどの席が埋まっている。ふむ。最初は不安だったが、ここは人気のある店のようだ。ならば飯が不味いということはないだろう。

 

 安堵して椅子に深く座り直す。少し視線を後ろに向けると、見慣れたダーククリムゾンの髪の毛が見えた。

 

「ジェイドとリンドじゃないですか。奇遇ですね!」

 

 視線の先には、満面の笑みでこちらに手を振る大魔王と、少々眉間に皺の寄った魔王があった。

 

 先程の言葉を訂正しよう。今日は珍しい日だ。きっとワタシの一生に2度もないくらいの、非常に珍しい日だ。

 

 




用語解説コーナー!

アニタ「はーい!今回のお話の最後にちょっとだけ出た大魔王のアニタですよ!」

アラン「お久しぶりです。アランです」

アニタ「まあ、色々とありましたが……ついに、用語解説に戻ってきましたよ!やったね!」

アラン「企画倒れ寸前でしたけどね?もはや完全に企画倒れしていたと言っても過言じゃないと思いますよ?」

アニタ「まあまあそれは置いときましょうよ。今ネタがあるって事が重要なんです」

アラン「それで、今回解説する用語とはいったい?」

アニタ「はい!満を持して、この用語を解説しまっす!」

プレッシャーとは何か!

アニタ「です!」

アラン「おおっと……これは……」

アニタ「まあ1話に多少の解説は入ってましたけど、プレッシャーが何なのかという細かい説明は入れてませんでしたしねー」

アラン「皆さんニュアンスで受け入れていただいて、ありがとうございました。今回で正体が分かりますよ」

アニタ「さて、解説しましょう。プレッシャーとは、何か。じつはこれ、よく分かってません!」

アラン「は?」

アニタ「アランが怖い!?わ、わかりましたよちゃんと説明しますって!え、ええとですね。本当に分かってないんですけど……その魔物の技量、魔力、筋力などなどを総合した『強さ』がオーラになった物、ですかね?」

アラン「ちゃんと説明できるじゃないですか……」

アニタ「そのオーラが強ければそれは物理攻撃にもなり得ます。私の1割オーラがそんな感じですね。皆気絶しちゃいます」

アラン「魔法も無効化するって言ってましたよね。正直それ、普通におかしいんですよ?」

アニタ「自覚はありますのでスルーで。で、実はこのプレッシャー、どんな魔物でも発してるんです。それを制御できなかったり、微弱なために感じ取れなかったりして」

アラン「僕が知っている中で感じ取れるほどのプレッシャーを出せるのは大魔王様とユージーン、カミラさんだけですけど……?」

アニタ「まあそうですね。私たちは相手を威圧するためにある程度コントロール出来るようにしてますし。あ、身近なところで感じとれるプレッシャーを出せる他の魔物は、キースとかですかね?」

アラン「勇者殺しを成した伝説……まあ、出せますよね」

アニタ「まあそんなわけで、これがプレッシャーという物です。恐らく今後強烈なプレッシャーを放ってくる魔物は殆どいないんじゃないかな?と思います」

アラン「居たとしても、それは隠れた相当の手練れ……と言うわけですね?」

アニタ「はい。でも、もしそんなのが出てきたら、是非この大魔王城に勧誘をお願いしますね、アラン!」

アラン「……善処します」

アニタ「それでは今回はこの辺で!バイバーイ!」

アラン「また次回!」

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