歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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これ、コメディタグ付けてもいいんですかね?


復讐鬼と吸血鬼

 人界と魔界は、古くから対立し合っている。

 旧魔界暦の頃から、人界を侵略しては取り戻され、侵略しかけては阻止され、と小競り合いを続けている。

 

 どんな優しい大魔王であろうと、どれほど人界側に戦う気が無かろうと。

 人界側に『勇者』が生まれ

 魔界側に『大魔王』が存在していれば

 

 必ず、侵略と戦争は起こっていたのである。

 by、魔界史の教科書『魔界と人界の歴史』より。

 

 故に。故に理解できない。

 僕は、大魔王様の考えが、全くこれっぽっちも理解できない!

 

「なんで……!? 魔界が人界に攻め込むのは当たり前でしょう!? どうして人界侵略しないだなんて!」

 

「んー? なんで、人界侵略するのが当たり前なんです?」

 

 大魔王様は僕を真っ直ぐに見つめて、そう言った。

 

「なんでって……古くから、魔界と人界は争っているからでしょう」

 

「うふふ、理由になってないです」

 

 大魔王様はニッコリと笑う。

 

「なんども戦争をしているからって、また戦争を始めなければならない、なんて決まりはないはずです」

 

「それは、そうですけど……ありえない。僕がここまで来たのは、人と戦争するためなのに!」

 

 人と戦うために強くなった。

 人を殺すために強くなった。

 そうでなければ、僕はここまで来なかった。

 

「ここに来れば、人との戦いで最前線に居られると思ったから来たんです。それなのに、戦争をしない!? なら、あなたはどうして大魔王になったんです!」

 

 僕は感情のままに叫ぶ。特に何も考えず、頭の中に浮かんだ質問をぶつける。

 

「私がこの魔界で1番強いからです」

 

 大魔王様は、さらっとその質問に答えた。

 その声音は、先ほどまで楽しそうに、感情たっぷりに話していたのが嘘のように無感情だった。

 

 少しの沈黙。静かに凍った空気を溶かしたのは、大魔王様の大きな咳払いだった。

 

「では、質問を変えましょうか!」

 

 彼女の声は、さっきと変わらない楽しそうな声だった。

 

「あなたが、人と戦いたい理由。それを教えて下さい」

 

「僕の、理由ですか?」

 

「ええ。あなたの理由」

 

 僕の、人界侵略がしたい理由。それは。

 

 人と戦いたいから。

 人を殺したいから。

 人を、人が、人が……

 

「人が。人界が、憎いから」

 

 人が憎い。人界が憎い。

 それが僕の原動力。それが僕を構成する全て。

 そう言っても良いくらい、人が憎くて仕方が無い。

 

 だから滅ぼしたい。だから、人界を侵略したいのだ。

 

「なるほど。復讐鬼」

 

 大魔王様は納得したように目を伏せ、続いて俺を指さした。

 

「断言しましょう! 復讐は何も産みません!」

 

「……は?」

 

「考えてみてくださいよ。貴方が人界に復讐をしたとして、人界の人々が貴方に恨みを持って、魔界を滅ぼしにやって来る……。そんなシナリオ、考え付きません? だって貴方がそうなんだから。だから、復讐心を持つのは止めましょ?」

 

 復讐は、何も産まない? 復讐心を持つのは止めろ?

 

「あなたも、そんなことを言うのか」

 

 そんなの、聞き飽きた。

 魔王様に通わせて貰っていた学校でも、魔王軍でも言われたこと。

 でも、それでも僕には復讐する理由がある。収めることなんてできない、深い深い憎しみが……。

 

「あなたには、大切な物が無いんでしょうね」

 

 気づいたら、そんな言葉が口から出ていた。

 大魔王様は目を丸くしてこちらを見ている。……つい、思ったことが口に出た。魔界のトップに、なんて口を利いているんだ僕は……。

 いたたまれなくなって、逃げ出した。玉座の間を抜けて、適当に走りだす。

 

「ああ、ちょっと待って!」

 

 待てと言われても、待てない。

 城の構造もわからないため、どこに行く宛も無かったが。

 今の僕はどうしても、玉座の間に居続けられなかった。

 

 

 

「あなたには、大切な物が無いんでしょうね」

 

 その声は、随分と闇を感じさせる声だった。

 アラン・アレクサンドル。わずか18000歳にして大魔王軍に入ることを許された、大天才……。

 

 でも、あんなに精神が不安定じゃあせっかくの技量が勿体ない。

 そんな若さで我らの仲間入りを果たすなど、並みの技量では無いはずなのだ。

 

 そんな考えを張り巡らせていると、アランは玉座の間を出て行ってしまった。まったく、なんという……

 

「ああ、ちょっと待って!」

 

 アニタ様の制止も聞かず、彼はここから立ち去ってしまった。

 

「ああ、どうしましょう。私、まだ彼に何一つ説明していないのに!」

 

 ……確かに、彼の仕事も、彼の部屋も、アニタ様は何一つ

説明していなかった。

 これは久々の問題児かな、と思うと、不思議と多少ワクワクしてくる。

 

「カミラ! 追いかけていって、説明してきて!」

 

「はい。アニタ様」

 

 大魔王の命を受け、私……カミラ・ヴァンプは自らの姿を多数のコウモリへと変える。

 

 ……さて、大魔王軍教育係の腕の見せ所だな。

 

 

 

 城を彷徨い数分。

 既にしっかりと迷った。どこだ、ここは。なんだここは広すぎる。

 あのとき勢いに任せて玉座の間を出たことと、勢いに任せてとんでもないことを言ったこと。

 

 そして、話を聞かずにここまで来たことを、深く後悔している。

 

「どうした、青年。迷ったか?」

 

 突如聞こえる凜とした声。

 振り返るとそこには、あのときの玉座にいた大魔王様の側近の一人。

 大魔王様のプレッシャーに耐えた方の魔物が立っていた。

 

「……迷ってません。連れ戻しに来たって戻りませんよ。というか、どうして僕がここに居るってわかったんですか?」

 

 そう問うと、側近の女性はサラサラした長い銀髪を払い、綺麗な青い目でこちらを見据えた。

 

「君、結構生意気だよなぁ。魔王軍では許されていたのか? その態度」

 

「う……」

 

 態度のことを言われると何も反論できなくなってしまう。

 僕も決してこんな態度を取りたいわけじゃなくて、なんというか、あの大魔王様の雰囲気が素の僕を引き出すというか……。

 

「ふ……大方、アニタ様の雰囲気に当てられて素が出ている、というところかな。まあ、気持ちは分からんでもない。あの人はそういうお方だ」

 

 女性は少し頬を緩ませ、そう言った。

 

「おっと、つい脱線してしまったな。質問に答えようか。私は君を連れ戻しに来たわけじゃない。君が聞かなかった話を、代わりに伝えに来た。それと、何故君を見つけられたか、と言うのはだな」

 

 そのとき、チチチッ、と言う鳴き声が聞こえた。声の方を振り向くと、小さな黒いコウモリが一匹飛んできて、女性の指にとまった。

 

「この子達のおかげだ。では、自己紹介をしよう。私はカミラ・ヴァンプ。ヴァンパイア族の生き残りさ」

 

 ヴァンパイア族。旧魔界歴において再凶の種族として名を轟かせた、凶悪な種族。

 生き物の血を飲むことで寿命を延ばし、殺されない限り半永久的に生き続ける生命力。

 魔力の高い人型の魔物ですら凌駕する魔力を持ち、身体能力も高い。

 また、自らの体をコウモリへと変えることが出来、索敵能力も高いと言う。

 

 だが、旧魔界暦の終わりの頃。その力を危険視した当時の魔王と大魔王が結託し、殲滅。ヴァンパイア族は絶滅したと言われている。

 

「ヴァンパイア族に、生き残りが……?」

 

「ああ。といっても、もう私だけだがね。子を成すつもりも無いし、正真正銘最後の生き残り、というわけだな」

 

 指にとまったコウモリは、カミラの指に溶け込んで消えた。それは紛れもなく、彼女がヴァンパイアであることの証明だった。

 新魔界暦にはヴァンパイアは存在しないと言われていたため、驚きを隠せない僕が居る。

 

「驚くのも無理は無い。大魔王城の情報は外部にはほとんど伝わらないし、私自身この城に来るまで自分の存在を必死に隠していたからな」

 

「……なるほど。確かに、ヴァンパイア族がまだ生きているなんて情報が魔界に広まったら、すぐに処刑されそうですしね。あの魔王ならやりかねません」

 

「そうだな。だが私は見つかってもただでは処刑されんぞ? 現魔王を道連れにして死ぬくらいはできるさ」

 

 末恐ろしい。魔王様と差し違えるとか堂々と言えるなんて。

 現魔王様はかなり好戦的な人だ。賢く、強く、隙が無い。

 歴代魔王の中でも間違いなく上位に入るほどの実力を備え、現大魔王が居なければ間違いなく大魔王になっていただろう存在である。

 

「さて、ではさっそく仕事の話だが……」

 

 カミラさんが切り出す。大魔王軍に入って初めて、僕に与えられる仕事とはなんだろう。生唾をゴクリと飲み込んで次の言葉に備える。

 

「二日間無い」

 

 無いのか

 嘘だろ

 

「どういうことですか!? 仕事が無いって!」

 

「と言うのもなぁ。ここ、大魔王城は広い。都市一つ分くらいは広い。だから、初めに中を一通り案内しておかないと、今の君みたいに迷うヤツが出る」

 

 今の君みたいには余計だが、図星なので黙っておく。

 

「だから、二日間は城見学。それと、軍の皆と城内の執事達の紹介だな」

 

「……なるほど。わかりました」

 

 まあ、仕方ないと言えば仕方ないだろう。道がわからなければ仕事のしようも無いわけだし。

 

「ところで、僕が寝泊まりする場所はあるんですか? 住み込みとは聞きましたけど」

 

「ああ。もちろん。今から案内しよう」

 

 

 

 

「ここが……」

 

 カミラさんに案内され、たどり着いたのはそこそこ大きめの部屋。

 案内されるとき、背の高い窓だらけの建物に入った。

 デザインは見たことが無いが、見た感じ複数の部屋が集まってできた貸し屋、みたいな物だろうか?

 ……建物の中に建物が入ってて、その建物に入るとか意味がわからない。

 

「一室まるまる君の物。トイレも風呂も完備。下には購買がある。有事の際は使えなくなるけどな」

 

「なんでこんな良さげなところを?」

 

 質問をすると、カミラさんは僕の部屋のベッドにドスンと座り、ふふんと鼻を鳴らした。

 

「大魔王軍の特権というヤツだよ? 青年。これと同じような建物が何棟かあって、大魔王軍は全員そこで暮らしてる。大魔王様はこの建物を、あぱーと、とか言ってただろうか。君もそう呼ぶと良い」

 

 あぱーと。不思議な響きだ。そして随分と画期的だ。

 これが魔界に広まれば、魔界の土地問題は一気に解決するだろう。

 ……広まるのかな、これ。

 

「さて、今日はこんなところかな。……アニタ様に言われたこと、よく考えておけ。必ず、君の運命を左右するものだからな」

 

 そう言って、カミラさんはベッドから降りて部屋の出口へ歩いていった。

 体が崩れ、崩れたところから無数のコウモリが飛び立っていく中、カミラさんは

 

「また明日だ。青年」

 

 とだけ言って、部屋から去っていった。

 

「また明日、か」

 

 とんでもない職場に来てしまったものだ、と思う。正直、第一印象は想像とも理想ともかけ離れたものだった。

 

「戦争する気のない大魔王と、生き残ったヴァンパイアが居る職場、か」

 

 これから、大変そうだ。




作中の二日間は、明日、明後日の二日間、と言うことです。
わかりづらくて申し訳ないです。

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