歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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筆が乗ったのでもう1話。
この話、2ヶ月前くらいには思いついていて書きたくて書きたくてたまらなかったのです。

というわけで、この話からしばらくは、遠征メンバーたちの準備期間の一日を書いていきたいと思います。

なお、さっきの今なので用語解説のネタは思いついていません。ごめんなさい。


「星屑姫」を探して

「……そうだ、本を持っていこう」

 

 唐突ではあるが、僕は本を持っていくことに決めた。

 遠征の準備の話である。北西都市までは4日かかる。4日だ。その間、ずっと歩きっぱなしというわけでもないだろう。休憩も取る、睡眠も取る。装備の点検やら周りの警戒やらやることはいっぱいあるだろうが……。それでも、時間は空くだろう。

 

 ならば僕は本を読みたい。静かに本を読む時間というのは、至高のものだと僕は思う。

 

 しかし、今僕が持っている本は、全て読み尽くしてしまっている。どうしよう。これは困ったなぁ。

 

「行くか。久々に。書店に!」

 

 僕ははやる気持ちを抑えつつ、出掛ける準備をする。

 遠征の準備を長々としていたため、今日はもう遅い。書店に行くのは明日だ。待ちきれない明日なんてずいぶんと久しぶりだなぁ。大魔王城に来てからは、どちらかというと来て欲しくない明日の方が多かった……。

 

 色々なことに想いをはせるこの時の僕は、考えてもいなかった。よりにもよって、色々とやっかいなあの書店に行くことになろうとは……。

 

 

 

 

 翌日。

 書店の開店と共に突撃すべく、7時頃に部屋を出る。今朝も澄み渡る赤黒い空が僕の出発を祝福してくれている。何て素晴らしい日なんだ! これでキスカさんやカミラさんに鉢合わせたりしなければ……。

 

「あれ? おーい! 人型ー!」

 

 終わった。僕の素晴らしい日が終わった。

 

「……なんですか。キスカさん」

 

 僕を見つけ、目を輝かせてこっちへ来るキスカさん。うん。背丈の低さもあって可愛らしくはあるんだけど、今の僕には悪魔に見える。

 

「いやー、随分と早く部屋出るんだなぁと思ってさ? いつもは訓練に出てくるの8時頃じゃんかアラン。今日はやる気、あるんだな!」

 

「あ……訓練……」

 

 しまった。忘れていた。きれいさっぱり忘れていた。というより、今日は準備期間だからやらないと思っていた。

 ああ……やってしまった……なぜ連絡を怠った僕のバカ……。

 でも、「書店に行くので、明日の訓練休みます!」とかキスカさんにはどのみち言えないような気がした。

 

「んー? 何落ち込んでんだよぅアラン。あれ、もしかして訓練に早く出てきたわけじゃないの?」

 

「う゛。相変わらず鋭いですねキスカさん。……そうです。書店に行こうと思ってたんです」

 

 隠す必要もないので素直に話す。どのみち訓練に行くのだから変わらないさ。さよなら僕の素晴らしい日よ。

 

「ほう? 書店にねぇ?」

 

 じとーっとした目で睨みつけてくるキスカさん。さぁて、これから何言われるんだろうなぁ……?

 

「人型、もしかして、珍しい本とか古い本売ってる書店とか知ってる?」

 

「え? ……知ってますけど」

 

「……そか」

 

 そう言うと、キスカさんはもじもじと体を動かし始めた。

 

 おかしい。これはおかしい。いつもなら、

 

「書店行くとか女々しい奴だなぁもう! 男ならもっと男らしい趣味を持てよ!ほーら、訓練行くぞー!」

 

とか

 

「強くなりたいなら、1日も訓練を休むべきではない。休息も大事だけど続けることも大事、だぞ! ほーら、訓練行くぞー!」

 

とか言いそうなものなのだが。

 

 今目の前に居るキスカさんは、女の子らしく体をもじもじさせるだけ。大変失礼だが、変な物でも食べたのだろうか?

 

「あ、あのさ!」

 

「うわぁ!?」

 

 びっくりした。心臓に悪いから急に大声を出さないでいただきたい。特にキスカさんの大声は本当に心臓に悪い。

 

「その……昔から探してる本があるんだ。ずーっと探してるんだけど、なかなか見つかんなくて……」

 

「探してる本、ですか?」

 

 僕がそう言うと、キスカさんはこくりと頷いた。なんとまあ。キスカさんも本を読むのか。いつも筋トレか訓練か武器の手入れをしている姿しか見ないので、かなり意外だ。

 

「どんな本を探しているんですか?」

 

 そう聞くと、キスカさんはびくりと体を震わせる。顔は真っ赤。これはいよいよ本当にキスカさんらしくない。相当に恥ずかしそうなのだが、いったい何を探しているんだ?

 官能小説……いや、ヤツじゃないんだし、あり得ないか。

 

「その、その……絵本、なんだ」

 

「絵本」

 

 目をぱちくりさせて言う。絵本、か。

 

「絵本を探していることがそんなに恥ずかしいことなのか?」

 

「はっ、恥ずかしいわバカ! この歳になって絵本とか……!」

 

 うー、と唸って地面にしゃがみ込むキスカさん。しまった。考えていたことが口に出ていたみたいだ。気を付けよう。

 

「いや、そんな恥ずかしい事でもないと思いますよ。幼い頃、親が居たときの思い出を懐かしんで絵本を買う魔物って、結構いますしね」

 

「本当?」

 

 顔を上げて僕を見るキスカさん。うお、涙目だ。本当に恥ずかしいんだな……。

 

「本当です。で、本の題名はなんでしょう? ずっと探してて見つからないって事は、わからないとか?」

 

「……いや、覚えてるよ。『星屑姫』。ウチが探してる本の名前」

 

 星屑姫……星屑姫、か。

 どうしよう、知らない。僕も結構書店に入り浸る魔物だが、まったくと言って良いほど見たことがない。

 

「……ごめんなさい。僕、その本は知りませんし見たこともないです」

 

「……そっか」

 

「でも、ありそうな場所なら知ってますよ」

 

「……え?」

 

 今度はキスカさんが目をぱちくりさせる番だった。

 

「すごく、気は進まないんですけど……。本の品揃えが尋常じゃない書店が、一つだけあるんです。そこなら売ってるかも」

 

「本当!?」

 

 途端にキスカさんが目を輝かせる。なんだか今日のキスカさんは、表情がころころと変わるな。

 

「行きますか? 一緒に」

 

「うん! 頼んだぞ、人型!」

 

 こうして、僕とキスカさんは一緒に書店に行くことになったのだ。

 

 僕の知りうる限り、最もやっかいな書店に。

 

 

 

 

 中枢都市ギーグ、魔王街の裏路地。

 街の喧騒すら届かない奥深くに、その書店はある。

 

「リリィズブックショップ……ここに星屑姫があるのか?」

 

 キスカさんは怪訝な顔で言う。それもそうだろう。ボロボロの壁にはツタが張っていて、いかにもオンボロな雰囲気を醸し出している。品揃えが多いどころか、まともな店ではなさそうな感じだ。

 

 だが、それは見た目だけの話である。

 

「本当にあるかはわかりませんが、可能性は高いですよ。入りましょう」

 

「えぇー……わかった」

 

 とりあえず相応の覚悟をして、店内へ2人で入る。

 

 扉を開け、その中に入ると一転。そこは落ち着いた雰囲気を感じるダークオークの店内が僕たちを出迎えた。

 

「うわ、すご……」

 

 キスカさんの言うとおり、すごい変わりようである。オンボロコンクリートからダークオークのお洒落なお店へ大変身。それに外観からは想像も出来ない広さがあり、並び立つ本棚にはぎっしりと本が詰め込まれている。

 

「……いらっしゃい。リリィズブックショップへようこそ」

 

 奥のカウンターから、女性の声がする。少し低めの落ち着いた声。

 カウンターを除くと、居る。この店の主であるリリィが。黒髪のロングストレート。目はエメラルドのような緑色。眼鏡をかけ、セーターとロングスカートを身につけている。手には読みかけの本を持つ、まさしく清楚な文学少女。

 

「……あら?もしかして」

 

 そう。見た目は清楚な文学少女なのだ。見た目だけなら。

 

「アラン君?」

 

 そう言って、リリィは舌なめずりをする。リリィはゆっくりと僕に近づき……

 

「……えい」

 

僕に思いっきり飛びついてきた。

 

「おっと!」

 

 僕は間一髪でそれを避ける。リリィはどべしゃっと豪快な音を立てて床に叩きつけられた。その拍子に持っていた本が床に落ちる。

 

 題名。『ドキッ!団地妻との危ないヒメゴト……(はぁと)』

 

「……アラン、この、1番おっきい棚……官能小説ばっかりなんだけど!」

 

 キスカさんも気づいたようだ。この書店員の危なさに。

 

「もう……せっかく久しぶりに会えたのに、受け入れてくれないの?」

 

 リリィはゆっくりと立ち上がる。僕のことをしっかりと見据えたまま。

 

「アラン君、久しぶりに私に、精をちょーだい?」

 

 そう。何をかくそう、リリィはサキュバスなのだ。




おやすみです!

アニタ「はい、おやすみです!」

アラン「開き直ったよこの魔物……」

アニタ「だいたい、こんなスピードで更新する底辺作者が悪いんですよ!ネタもないって言うのに!」

アラン「次の投稿まで10日空けるときもあればその日に2つ投稿するときもあるって、さすがに不安定すぎるでしょう。この労力があったなら、もうちょっと期間短くして安定して投稿しろって話ですよ」

アニタ「まあ、作者への文句はこの辺にして、皆様本当に申し訳ありません。用語解説はこの次まで待っていてください!」

アラン「そもそもこのコーナーを真面目に見てくれてる方って居るんですかね?」

アニタ「いーまーすー!絶対に!ずっとシリアスだった本編のオアシス的な感じだったはずです!」

アラン「まあ、本当に見てくれてる方が居れば嬉しいですね。それでは今回はこの辺りで!」

アニタ「バイバーイ!」

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