後で見返したら会話になってないところとかありそう
4大都市遠征。北西、北東、南西、南東の4つのブロックにそれぞれ存在する都市に出向き、新たな法を伝え、それを守ると確約させる。
その開始を、大魔王様は高らかに宣言した。
「早速チーム分けですが、チームはもう決まっています。今から発表しますね」
玉座の間に緊張が走る。4大都市に向かうとなれば、行って戻ってくるまでに最低でも1週間はかかるだろう。そこまでの旅の行程では連携や信頼関係が重要になってくる。皆が思っていることは一緒だ。
つまり、自分と仲のいい魔物とチームになれますように。ということ。
これはなかなかの緊張感だと思う。そう思う。さて……僕が行くのはどの都市で、誰と行くことになるのだろうか……。
「まずは、北西都市シトロンに向かうチーム。アラン、カミラ。この二匹でいってください」
いきなり呼ばれた! 僕が向かうのはシトロンで、いっしょにいくのは……。
「ふむ。青年と一緒か。ふむ。…………ふむ。」
どこか残念そうなカミラさんである。
「……今、『うら若き乙女と一緒に行動したかった』とか思ってません? カミラさん」
「え!? あ、いや……オモッテイナイヨ、ソンナコト」
図星だな。目が泳いでいるし、物凄い棒読みだ。本当にカミラさんの嘘はわかりやすい。
「続いて、北東都市リルムに向かうチーム。キスカ、ジェイド。この二匹で行ってください」
北東都市に向かうチームに選ばれたのは、キスカさんと……ジェイドさん?
当のキスカさんは後ろを振り向くと、カチコチに固まった石状態のガーゴイルの許へ向かい、それを思い切り蹴飛ばした。
「おい、ジェイド。呼ばれたぞ。起きなよ」
あのガーゴイルがジェイドさんなのか。ジェイドさんはしばらく反応がなかったが、やがて目が赤く光り、パキパキと音を立てて動き出す。
「蹴らなくともいい……聞いていた。キスカ殿、よろしく頼む……」
ジェイドさんはそう言うと、まだ動きのぎこちない手をキスカさんに差し出した。
「……ああ、よろしく」
キスカさんはその手を取り、がっちりと握手を交わす。
ガーゴイルは鳥の姿をした石の魔物である。鳥と言ってもそのまんま鳥というわけではなく、人型の体に鳥の頭と鳥の翼がくっついているような形だ。その肉体は限りなく石に近い物であり、非常に防御力が高い。また、石像に擬態する休眠モードがあり、休眠モード中は体が完全に石に変わる。
あまりにも他の魔物と違いすぎるうえ、どこからどう産まれるのかもわかっていない、謎の多い種族である。
ジェイドさんと握手をするキスカさんはどこか不満そうだ。休眠モード中のジェイドさんを蹴ったことといい、ジェイドさんのことが嫌いなのだろうか?
「次、南西都市オラクルに向かうチーム。ルーシア、リンド。この2人で行ってください」
「りょーっかいです! リンドさん、リンドさんはどなたですか!?」
指名されたルーシアさんは、リンドさんを探して喚き出す。
「リンドさん!? リーンードーさーん!!」
しかし一向にリンドさんは名乗り出ない。僕はリンドさんが誰なのかわかっているわけだが、ルーシアさんはわからないのだろう。
ここに居る魔物は8匹。この中で今名前がわかっているのは7匹だ。
僕、カミラさん、キスカさんはもちろんとして、ガーゴイルのジェイドさん、アークデーモンのセシルさんとセシリアさん、そして、今喚いている人型のルーシアさん。
残るのは、フードを深く被った、性別も種族もわからない1匹だけである。
「あれー? おかしいなー? リンドさーん! いないんですかー!」
しかし、リンドさんはまだ名乗り出ない。次第にルーシアさん以外の視線がフードの魔物1匹に注がれる。
「リーンドさー「あの」……ん?」
ルーシアさんの言葉の最中に聞こえた、小さいがよく通る、少年の響きを持つ声。
それは確かにフードの魔物、リンドさんから聞こえたものだ。
「おお! リンドさん! あなたがリンドさんなんですね! よろしくお願いします! 私ルーシアと……あれ?」
ようやくリンドさんを見つけたルーシアさんは、はしゃぎながらリンドさんに近づいていった。が、リンドさんはそれを無視し、すれ違った。
「ちょっとリンドさーん! 無視しないでくださいよー!」
リンドさんはこれも無視。何も言わずに、玉座の前まで歩いていって、止まる。大魔王様と向き合う形だ。
「どうして、僕とルーシアさんを一緒のチームにしたんですか? 僕、嫌です」
「リンドさー……え?」
リンドさんはルーシアさんをいきなり、明確に拒絶した。ルーシアさんから驚きの声が漏れる。僕も驚いた。
「な、なんでですか? 私、リンドさんに何かしました……?」
「騒がしい人は嫌いなんです。変えてください」
リンドさんはルーシアさんをあくまでも無視し、大魔王様に話しかける。
「残念ですがリンド、これは決定です。変更することは出来ません」
「どうしてですか。……僕はあんなうるさい魔物と協力なんか出来ません」
「だからです。リンド、あなたには致命的に足りないものがある。わかっていないことがあるんです。それを見つけるためのチーム分けだと思いなさい。……南西都市オラクルに向かうのは、ルーシアと、リンドです。では、最後のチームを発表します……」
話は終わりとばかりに、大魔王様は次のチームの発表にとりかかった。リンドさんはしばらくじっと大魔王様を睨んでいたが、やがて諦めたのか、静かに後ろに下がった。
南東都市アリアに向かうのは、残った2匹。セシルさんとセシリアさんの姉妹だ。
「チーム分けは以上です」
「当日は各チームに一匹ずつ、魔王軍の魔物が着いていくことになる。皆新入り共で、実戦経験を積ませたくてな。彼らに、色々と教えてやって欲しい」
「出発は2日後の朝7時。それまでの時間は準備にあててください。当日は一度ここ、玉座の間に集合し、全員揃っているかの確認を行います。その後出発です。では、今日はこれで解散!」
大魔王様の解散の号令を受けて、この場に集まった魔物たちは各々玉座の間を出て行く。
「あ、あの!」
不機嫌そうにさっさと出て行こうとするリンドさんを、ルーシアさんは呼び止めた。
「その……ごめんなさい! 私、昔っからうるさくって……不快、ですよね。私、あんまりうるさくしないように頑張りますから……」
先ほどまでの元気が嘘のように、しょんぼりとした様子で話すルーシアさん。変わらず声は大きいが。
ルーシアさんをじっと見ていたリンドさんは、ふぅ、とため息をついた。
「僕と一緒に戦うなら、一言も喋らないでよ。……正直、耳障りだ」
それだけ言って、リンドさんは玉座の間から出て行った。取り残されたルーシアさんはしばらくそこに立ち尽くしていたが、ぐす、と鼻を鳴らして逃げるように玉座の間から立ち去った。
「あの2匹、大丈夫でしょうか?」
「まー、なるようにしかならないでしょう。アニタ様のことだからなんか考えてるはずだしー? ウチらはさっさと戻って準備準備」
大魔王様だから心配なんだけど……なんだろう、僕の頭の中では、大魔王様って考えが甘いって言うイメージしかない。
まあ、キスカさんが大丈夫というなら大丈夫だろうと、玉座の間から出ようとする。今日もカミラさんは僕の部屋で晩ご飯を食べるのかな、と思って、それを聞こうとしたのだが。一緒に帰ると思っていたカミラさんは、まだ中央にいた。
「カミラさーん! 帰らないんですか-?」
「放っとけよカミラなんて。また血を吸わせろ何て話するの、ウチ嫌なんだけど」
中央のカミラさんに呼びかける。キスカさんが文句を言うのは気にしない。すると、中央から数匹のコウモリがパタパタと飛んできて、一つに纏まった。そこから徐々に魔物の形になっていき、先程まで何もいなかったところに、幼い姿のカミラさんが構築された。
金髪のショートヘアで、目は変わらず青い。綺麗な白いワンピースを身に纏っていた。髪の色が変わっているのに、なぜだか違和感なくカミラさんだとわかる。面影があるからだろうか?
「私はアニタ様に少し話があるのでな。ここに残るから、アランとキスカは先に帰っていてくれ」
いつもより幼く、少しだけ舌足らずな声でカミラさんはそう言った。
「か、カミラさん、なんですかその姿?」
僕がそう言うと、カミラさんは不思議そうな顔をして自分の姿を見回した。
「あー……これはだな、私の幼い頃の姿だ。可愛かろう?」
「いや、そうじゃなくて! カミラさんの幼い頃の姿って言うのはわかるんですけど、なんでその姿に……」
「……ヴァンパイアはな。分身出来るのだ」
カミラさんはニヤリと笑った。
「この姿は、そうさな。10分の1の私、と言ったところか。私の体をコウモリに変え、そのコウモリが別の私を形作る。その分本体も力は落ちるが、質より量が必要なときもあろう?」
「は、はあ、なるほど。よくわからないけどわかりました」
カミラさんは本当に説明が下手だなぁと、そう思う。ただ、これに関しては僕にもわかりやすい説明が出来そうにないけど。ヴァンパイアが分身する仕組みなんてわからないし。
「とりあえず、お前は先に帰っていろ。また後でな」
「わかりました、それじゃあ僕たちは行きますね」
「ああ。しっかりと準備しろよ? 君の準備不足で私が苦労することのないようにな」
「了解です」
幼いカミラさんにそう言って、僕たちは玉座の間を出て行く。
北西都市まで行くのには、歩いて4日程かかる。準備は相応にしなければならない。道中どこかの村に寄れるかもしれないが、万一のことに備えて食糧と水は多く持っていかなければいけない。あと、他に必要なものは……。
「では、カミラ先輩、私達はこれで失礼します」
「カミラ姉さん頑張って。私も頑張るわ」
「ああ。次会うときには血を吸わせてくれよ?」
「「嫌よ(です)」」
「それは残念。それではな」
セシルとセシリアとの雑談も終わり、彼女たちが玉座の間から出て行く。
ジェイドもいつの間にか帰っていたようで、これでここにいるのは私と、イグナシオと、アニタ様と魔王ユージーンだけだ。
「驚いたな。まだ、ヴァンパイアが存在していたとは」
魔王ユージーンが、心の底から驚いた様子で話しかけてくる。まあ、そうだろう。ヴァンパイアは旧魔界暦に全滅した。それが魔界の認識だ。
「旧魔界暦のヴァンパイア掃討作戦の際、しぶとくも生き延びた、と言うわけだよ。アレを指揮していたのは魔王だったから、正直魔王には良い感情を持っていない」
「まあ、そうだろうな。同胞を皆殺しにされたわけだ。呪いもするし恨みもするか」
そうだな。彼の言うとおりだ。私は恨んでいる。
「どうしようもない、私自身のことをな」
「ん? 何か言ったか、ヴァンパイア」
ぼそりとした私の呟きが、ユージーンには届いたようだ。相当小さな声で言ったのだがな。さすがはリザードマンと言ったところか。
「いや、何も。くだらない独り言だよ。魔王ユージーン」
「……そうか。しかし、解せんなヴァンパイア」
「何が?」
「俺の前で、お前がヴァンパイアであることを示す会話をしたこと、だ。大魔王がお前を匿っていたんじゃないのか?」
「……ああ、そのことか」
確かにそれは疑問だろう。大魔王城に住み、身を隠していたヴァンパイアが、部外物の前で堂々と自分がヴァンパイアであると話す……矛盾しているな。普通に考えれば。
「魔王ユージーン。あなたはこれからアニタ様と協力するのだろう?ならばその内知ることになる。どうせ知るなら今知られても構わない。そう言うことだ。それに……アニタ様は、私を外に出すつもりみたいだからな」
そう言って私はじろりとアニタ様の方を見る。
「どういうことですかアニタ様。このような任務で私を……ヴァンパイアを、この城から外へ出すなんて」
自分で言うのもなんだが、私はこの大魔王城における最重要機密のはずだ。私の存在を外部に漏らしてはならない。魔王や地方領主に私の存在がバレれば、反乱や暴動が起きかねないのだ。それは今の魔界の体制が崩れることに繋がる。アニタ様にとって、もっとも避けねばならないことのはずだ。
「言葉、崩して良いですよ。カミラ」
「そうか、では遠慮なく。どういうことなんだ、アニタ」
言葉を崩したところで聞く内容は変わらない。ここには優秀な魔物が沢山いるのだ。この任務に就くのは私じゃなくてもいいだろう。
「カミラ。わかっているとは思いますが、私達が目指すのは平和です」
「ああ、承知している」
「私の目指す平和というのは、種族の関係ないものです。ヴァンパイアも例外ではなく。ならば、その世界を築く過程からあなたを隠すべきじゃない」
「それは理想論だ。私はかつて、魔界を脅かしたヴァンパイアの生き残りだ。……受け入れられるわけがない。今私がここから出れば、魔界平和化は叶わない!」
私たちを受け入れるものなどいない。ああ、それがわかってるから私たちは隠れ住んでいたのだ。なるべく穏便に。騒ぎを起こさないように。
だが。たった一度の過ち。それだけで、私たちは。
「……お前だけだよ。ヴァンパイアたる私を、もう何もなかった私を信用したのなんて。お前だけだ。ヴァンパイア族の生き残りを信用するのなんて」
大魔王城に来た魔物たちが私を受け入れるのは、大魔王たるアニタの側近だからだ。アニタが信頼されているから、私も信頼される。大魔王の味方だから、これから大魔王に与するものが信頼するのだ。
じゃあ、大魔王の敵だったら?
大魔王が危険な種族であるヴァンパイアを飼っているとバレたら?
「甘いよ、アニタ。タイミングを間違えている」
私を外に出すべきではない。今は、その時ではないのだ。
「……私が間違えているかどうかは、後でわかりますよ。とりあえず行きなさい。カミラ。北西都市まで」
「アニタ!」
「話は終わりです。準備に取りかかりなさい」
アニタから、弱めにだがプレッシャーが放たれた。ああ、ちょっとイラついているな。まったく、感情の高ぶりでちょっとだけ漏れたプレッシャーが、私が意図的に出した1割と同じってどういうことだ。
「……わかった。まったく、お前は普段はゆるふわな癖に、こういうところだけ頑固なんだから」
「だ、誰がゆるふわですか! もう、早く下がりなさい!」
左手を挙げて返事をし、玉座の間を後にする。
正直納得したわけではない。だが、アニタは言いだしたら聞かないのだ。仕方がない。今回は言うとおりにするしかないみたいだ。
「なにか、悪いことが起きなければいいがな」
私はそれだけを、祈るのみだ。
大魔王軍の雑談コーナー!
アニタ「さて、今回も始まりました。大魔王軍の雑談コーナー!」
アラン「ちょっと待ってください、用語解説コーナーですよね?何がどうしてこうなっているんですか!」
アニタ「底辺作者のネタ切れです(はぁと)」
アラン「アッハイ、そうですか。じゃなくて、えぇ!?こんな早くに!?完全に企画倒れじゃないですか!」
アニタ「静かにしてくださいアラン!言わなきゃバレません!」
アラン「もう、思い切り、言ってますが?」
アニタ「あ」
アラン「……」
アニタ「……」
大魔王軍の雑談コーナー!
アニタ「さて、今回も始まりました。大魔王軍の雑談コーナー!」
アラン「仕切り直した!?ちょっと待ってくださいありなんですかそれ!?」
アニタ「ほら、アランも自己紹介自己紹介!」
アラン「あ、はい。戻って参りましたアランです。じゃなくて!」
アニタ「どうしたんですか?アラン?何か問題でも?」
アラン「いや、だから用語解説」
アニタ「アラン?」
アラン「……サア、ヤッテマイリマシタネザツダンコーナー」
アニタ「よろしい。さて、今回はどんな話をしましょうか?」
アラン「あ、アニタ様、そろそろ時間ですよ!」
アニタ「え?あら本当。じゃあ、皆さん今日はこの辺で。バイバーイ!」
アラン「次までには、解説する用語を出しておきますので。それではまた!」