歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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お待たせいたしました。やっと舞台が終わり、一つの山を越えましたので、急ピッチで書きました。
まあこの後すぐに朗読会の練習があって、また忙しくなるのですが……。

ペースを早められるよう、精進していきます。


4大都市遠征 準備編
4大都市遠征開始


 時刻は午後2時。相変わらず美しく整備された城内を、僕とキスカさんは走っている。キスカさんは僕のはるか前を行き、僕はそれを追いかけている。

 

「もっと走れ人型! ウチらが最後とか嫌だからな! 全員の目線がウチらに集中するとかアウトだからな!」

 

 そう言いながら、キスカさんは綺麗なフォームで走る。足音も軽やかで、オーガとは思えない。普通の魔物を基準にすれば相当速く走っている、のだが。

 

「いや、走ることに関しては間違いなく僕の方が速いんですけど……」

 

 風、しかも速度制御の魔法を扱う僕からしてみれば、それはお世辞にも速いとは言えない速度だった。

 

「そりゃ速度制御魔法なんて使ったら誰だって猛スピードで走れるわ! そんなの反則だからな! ウチを置いていかないくらいの絶妙なスピードで走れ!」

 

 風魔法を使うと確実にキスカさんを置いて行ってしまうので、普通に走っているわけなのだが、そうすると今度は僕がキスカさんに追いつけない。で、追いつけなければ追いつけないで文句を言われる。

 どんな理不尽なんだ、これ。

 

「じゃあ僕はどうすればいいんですか……?」

 

「知らん。ウチに速度合わせりゃ良いんじゃないの? 『速度制御』の魔法なんだから調節も出来るんでしょ?」

 

「あー……いや、疲れるからあまりやりたくないんですけど……」

 

 いつもは加速全開で解放しているのでさほど疲れはないのだが、速度を調整するとなると大分制御に気を遣わなくてはならない。速度調整というのはすごく疲れるものなのだが……仕方ない、やってみるか。

 

「解放」

 

 キスカさんと同じくらいの速度をイメージして、魔力を解放する。体が一気に軽くなり、あっという間にキスカさんと横並びになった。

 

「おお、やればできるじゃん! 流石天才!」

 

「あなたに言われると嫌味に聞こえるんでやめてください」

 

 軽口を叩きながら、僕たちは大魔王城の廊下を走る。

 朝の話合いから数時間。僕たちは大魔王様の呼び出しを受け、玉座の間へと向かっていた。

 

 呼び出されたのは8匹らしい。僕と、キスカさんと、他6匹。

 8匹呼ばれたということは、それが朝言っていた4大都市に出向くメンバー、ということだろうか。

 

「おーい人型! どこまで行ってんだ! もう着いたぞー!」

 

 キスカさんに言われて顔を上げると、いつの間にか玉座の間を通り過ぎていた。いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。

 

「すいません、すぐ戻ります!」

 

 僕は風魔法を最高速まで引き上げて、一気にキスカさんの許に戻る。魔法を解除すると、体がずっしりと重くなる感覚がした。ふぅーっ、と息を吐いて、重い体に感覚が慣れるまで待つ。

 

「まったく、走りながら考え事なんかしてるからだ。入るぞ、人型」

 

 キスカさんは失礼しまぁーすと大声で言いながら、まるで学校の教員室に入るような気軽さで玉座の間に入っていく。

 僕がキスカさんを追いかけるような形で部屋の中に入ると、中央に5匹の魔物が居た。

1匹はカミラさんだ。それと、この大魔王城でまだ見たことの無いデーモンの女性が2匹。魔法使い然としたローブを着込み、フードを目深に被った魔物が1匹。石のように固まった状態のガーゴイルが1匹だ。

 

「うわぁ、ウチらが最後かよ……人型が遅いからぁ!」

 

「キスカさんちゃんと数えてください。ここに呼ばれてるのは8匹。今居るのは僕たち含めて7匹です」

 

 そう。今ここにいるのは7匹だ。

 玉座には大魔王様が座っていて、その左側、いつもはカミラさんが立っている所にはユージーンが居た。右側にはイグナシオさんがいつも通りに立っているが、流石に居心地が悪そうだ。大魔王様とユージーンは流石に除くとして、イグナシオさんが8匹目と考えることも出来るけどそれはきっと違うだろう。イグナシオさんが呼び出された魔物なら、カミラさんもいつもの位置に居るはずだ。なのにカミラさんだけ中央にいて、イグナシオさんはいつもの位置。これはちょっとおかしいと思う。

 だから、きっと8匹目はイグナシオさんではない。まだ遅れてくる1匹が居るはずなのだ。

 

「……ふむ。なるほどね。確かに7匹しか居ないわ」

 

 キスカさんも僕と同じ結論に至ったようで、説明する前に自分で納得した様子だった。キスカさん、脳筋に見えて結構頭いいよなぁと思う。

 

「おい人型? 今何か失礼なこと考えなかった?」

 

「えっ!? ……な、なにも。何でですか?」

 

「女の勘だよ」

 

「……なんですかそのあてにならない根拠は。別に、あなたに失礼なことなんて考えてないですよ」

 

「へーぇ、そうなんだー? ……ま、今回はそういうことにしとくわ」

 

 なんとか誤魔化せたみたいだが、しかし図星である。やけに鋭いな。女の勘とやらには気をつけた方が良いかもしれない。

 

「やあ、青年、キスカたん。遅かったな」

 

 そんな話をしていると、いつの間にかカミラさんが僕たちの近くまで来ていた。

 

「げ、カミラ……今ウチのことたん付けで呼んだよな? 面倒くさいモードって事だよな? ……ウチ、帰りたいんだけど」

 

「そんなつれないことを言うなよキスカたん! 私はちょびっとだけでも君の血を飲めれば十分なのだ!」

 

「配給の血で我慢しろー! わざわざ女の子の血だけを集めてもらってんだろ? それでいいじゃん、別に!」

 

「配給の物は色んなうら若き乙女の血が混ざってしまって、雑味が多くてあまり美味しくないものが多いのだ。本当に美味い血という物はな、恥じらいある乙女のうなじに噛みつき味わう生き血なのだ。配給の物でも美味いものはあるが……やはり、生き血を啜る喜びには代えがたい! ヴァンパイアの本能が叫ぶのだ……目の前の女を喰らえと!」

 

「あんた最低だよこの変態ヴァンパイア!」

 

 目の前で繰り広げられていくいつもの光景。この2匹が揃うとその場所は格別にうるさくなる。僕の部屋でこれをやられて、静かに本を読むことが出来なくてブチ切れた記憶もある。

 

「なぜだ! なぜキスカたんは私に血を吸わせてくれないのだ! 先っちょだけ! 先っちょだけで良いからぁ!」

 

「なんの先っちょだよいい加減にしろ! 大体女の子ならこの場にウチ以外にも居るだろ! セシルとセシリアのところに行って来いよ!」

 

 そう言ってキスカさんは2匹のデーモンを指さした。

 2匹の内右のデーモンは、紫ベースに赤の装飾が入ったブラウスを着て、ブラウスと同じ紫色のフレアスカートをはいている。髪は赤のショートヘア。左側頭部にはねじくれた黄色い角が一本生えている。

 左のデーモンも、殆ど同じ服装をしている。違うのはブラウスの色だ。ベースは変わらず紫で、装飾が緑色になっている。髪は赤のストレートロング。こちらは右側頭部にねじくれた黄色い角が一本生えている。

 

「ああ、彼女たちか。2匹ともかわいいよな。やはりあの2匹もうら若き乙女故、1度は血を吸いたいのだがな。何度迫っても許してくれんのだ」

 

「ちょっと待てお前! ウチ以外の子にもそんなことしてたのかよ!」

 

 カミラさんの惨状を見れば被害者がキスカさんだけでないことなど予想がつくと思うけど……。キスカさんもカミラさんも大魔王軍の初期メンバーなのだから、相当長く一緒に居るはずなのに、キスカさんは気づいていなかったんだろうか?

 

「何を言っているのだキスカ! 我が大魔王軍にうら若き乙女が入ってくれば、『ちょっとそこのお嬢さん、私に血を吸わせていただけないかな?』と声をかけるのは当たり前だろう!」

 

「それが当たり前なのはあんただけだよ!」

 

 鋭いツッコミが部屋に響き渡る。流石に騒がしくなってきたな。2匹共、ここは玉座の間だと言うことを忘れてるんじゃないだろうか。そろそろ止めないとと思い、口を開きかけたその時、僕たちの真横から誰かが話しかけてきた。

 

「先輩方、ちょっと騒がしいです! いつものコントは2匹だけの時にしてください!」

 

「それに、私たちの居ないところで勝手に私たちの話するとか、ちょっと失礼じゃないかしら?」

 

 声の方を見ると、そこにいたのは先程の2匹のデーモン。セシルとセシリアと呼ばれた魔物だった。

 

「セシルたんとセシリアたんじゃないか! 君たちから話しかけてくるなんて珍しい!そうだ、ちょうど喉が渇いていてな?」

 

「吸わせません。私、ヴァンパイアになるのなんて嫌です」

 

 2匹が近くにいるのを認識した瞬間に血をねだりにいったカミラさんだったが言い切る前に拒否された。流石に素早いな。慣れているんだろうか?

 

「私も嫌ね。カミラ姉さんみたいにはなりたくないわ」

 

「失礼な! たとえヴァンパイアになったとしても私みたいな残念な女にはならんぞ!」

 

 ええ……自分で残念って言っちゃうんですかカミラさん……。

 

「それに、寿命を延ばし魔力を増やす吸血と、対象を同族に変える吸血は違うのだ!……私はもう2度と、ヴァンパイアを増やしたりはしない」

 

「はいはい、わかったから黙ってなってカミラ。ごめんね、セシリア。それとセシル。流石にうるさすぎた」

 

「本当ですよキスカ先輩。ここ、玉座の間なんですからね。あんまりうるさすぎると、大魔王様怒っちゃいますよ? ねー、大魔王様!」

 

 そこでみんな、一斉に大魔王様の方を見る。当の大魔王様はにこやかな笑顔でこちらを見ている様子だったが、話を振られたのを認識するとわたわたと慌てだし、頭を抱えてうんうんうなって、何かを思い出したかのように晴れやかな顔になった。

 そして、大魔王としての顔になった大魔王様は、

 

「ええ。カミラ、キスカ。あなたたちは少し、場所をわきまえるということを覚えた方が良いですね。流石に私も怒らざるを得ません!」

 

 なんて、ドヤ顔で言うのだった。

 

「……大魔王様。今の間の長さだと説得力皆無ですよ」

 

 僕のその言葉に、セシルさんとセシリアさんを含む全員が頷く。大魔王様はあからさまにしょんぼりした様子になって、玉座の上で膝を抱えてしまった。

 

「……大魔王様は放っておくとして、「酷いですよアラン!」放っておくとして! あなた方に、自己紹介がまだでしたね」

 

 セシルさんとセシリアさんとは、僕は初対面だ。もちろん今の会話でもどっちがどっちかわかっていない。相手の名前を聞くときは、まず自分から。僕が今1番下っ端なんだし、挨拶はきちんとした方が良いだろう。

 

「アランです。つい1ヶ月ほど前、大魔王軍に入隊して、この城にやって来ました。よろしくお願いします」

 

 僕が自分の名を名乗ると、ショートヘアの方が優しく微笑んだ。

 

「ご丁寧にどうも。私はセシルです。横の妙に大人びていて、目上にも敬語を使わない失礼な子が妹のセシリア」

 

「セシリアよ。あなたが魔王軍で名を馳せていた天才魔法剣士君ね。風属性使い同士、よろしくね」

 

 2匹のデーモンはそれぞれに名を名乗る。ショートヘアのデーモンはセシルと名乗り、ストレートロングのデーモンはセシリアと名乗った。2匹は姉妹らしい。

 

「2匹共ただのデーモンじゃない。アークデーモンなんだ。魔法の威力は凄まじいぞ?ウチなんか相性悪いから、2匹と模擬戦すると苦戦するんだー」

 

「それでも私達が勝てたことは一度も無いじゃない。2人掛かりで行っても辛勝が精一杯って、キスカ姉さんどれだけ強いのよ」

 

 デーモン。悪魔。古種族の一つ。膨大な魔力を持ち、肉体も弱くないという優秀な種族。角付きが産まれやすいことでも有名だ。魔力と筋力のどちらかに特化したような個体が多く、基本的には、魔力特化の個体、肉体特化個体、そしてその二つのバランスが取れている個体の3種類がいる。しかし、稀に魔力と筋力が共に平均を超えた特殊な個体が産まれることがあり、それを魔界ではアークデーモンと呼ぶ。

 姉妹揃ってアークデーモン。信じられないが、溢れ出る底の知れない魔力や、強靱な肉体がその事実をありありと示している。

 

 しかし、アークデーモン2人掛かりでやっと勝てるキスカさんって、本当にどれだけ強いんだろうか……。

 

「すっいませーん! 遅くなりましたー!」

 

 突如玉座の間に響き渡る声。快活な女性の声だ。声の主は猛ダッシュで中央までやって来て、急ブレーキをかけて停止。すぐに大袈裟な動きで大魔王様に敬礼をすると、大声で話し始めた。

 

「大魔王軍所属、人型魔物のルーシア! 招集に応じ参上しました! 遅くなってしまい、大変申し訳ありません!」

 

 その少女はルーシアと名乗った。桃色のショートヘア。前髪を青い髪留めで止めている。革製の鎧を身につけ、背中にはオーガが使うような大ぶりのバトルアックスが吊られていた。

 招集に応じ参上したと言っていたので、彼女が最後の1匹なのだろう。いつの間にか立ち直ってルーシアの到着を確認した大魔王様は、わざとらしく咳払いをした。

 

「呼び出した物は全員来たようなので、始めましょう。今日、皆さんをここに呼び出したのは他でもありません。以前よりの私の目的である、魔界平和化の件がいよいよ進もうとしています。ここにいる魔王ユージーンは私の考えに賛同し、協力してくれることになりました。魔王、挨拶を」

 

 いつになく真面目なトーンで大魔王様は言った。話を振られたユージーンは軽く頷き、話し始める。

 

「魔王ユージーンだ。魔界全土の平和化。これは今までになされたことのない、新しい取り組みである。今代の大魔王が描く理想の世界とやらを、私も見てみたくなった。私は、我々魔王軍はここに、魔界平和化計画に全面的に協力することを誓おう」

 

玉座の間がざわつく。いや、ざわつくと言うよりは、1匹だけやけに喚いている。

 

「ついに! ついに我らの悲願が達成される日が近づいているんですね……! 感! 激! です! うっひょー!」

 

 ルーシアさんである。うるさい。

 

「ルーシア、少し静かに。話はまだ終わっていません」

 

「はい! 失礼しました!」

 

 大魔王様に怒られて、口を閉じるルーシアさん。その顔がみるみる真っ赤に染まっていき、次第にプルプル震えだして、ぷはーっ!と口から息を吐く。

 

 ……もしかして、息も止めてたのだろうか。騒がしい。

 

「……話を、続けましょう。私たちの魔界平和化計画、その次なる一歩は、地方領主との協力を結ぶことです。即ち、新たなルールを作り、それを徹底させる」

 

「新たな法はこちらで作ってある。これを地方領主たちに伝え、守らせるように契約を結ぶのだ」

 

「これはなるべく迅速である方が良い。なので、4つの都市に赴き、直接これを伝える方法をとりたいと考えました。あなたたち8匹は、これから4つのチームに別れ、北東、北西、南東、南西にあるそれぞれの都市に遠征に行っていただきたい」

 

 大魔王様はそこで言葉を切り、大きく息を吸った。

 

「4大都市遠征。その開始を今、ここに宣言します」




アニタ「お久しぶりです皆様!用語解説、始まりますよー!」

用語解説コーナー!

アニタ「今回も私、大魔王アニタと?」

カミラ「カミラ・ヴァンプでお送りする」

アニタ「さて、今回は『突然変異種』について説明するんでしたよね?」

カミラ「そうですね。そんなような話で終わっていたはず」

アニタ「ではでは、突然変異種とは。通常その種ではあり得ないような筋力や魔力量を持った魔物の事です。近場で言えば、人型を遙かに超える魔力量と肉体の強力さを持つ私だとか、オーガなのに角付きであるイグナシオとかですね」

カミラ「アークデーモンも突然変異種に入りますね。セシルやセシリアがそうだ」

アニタ「ええ。魔界全体としては珍しい変異種ですが、強い魔物を片っ端から集めてきてる大魔王城ではよく見る物ですね」

カミラ「ふむ。もう説明することは終わりかな?」

アニタ「そうですね。最近ここの文字数が少ないですが、ピンポイントな所を解説しているからと言うのが理由です。手抜きではないんですよ?」

カミラ「読者の皆様の中に、『ここの設定気になるけどわからない。教えて底辺作者!』と言う方がいたら遠慮無く質問して欲しい。採用して、ここのコーナーで扱うかも知れないぞ」

アニタ「感想欄に質問を寄せてもいいのでしょうか……?怖いので、一応私たちはメッセージで質問することをお勧めします。もちろん、感想欄に書いてもらっても構いませんよ!」

カミラ「それでは今回はこのへんで。さらばだ!」

アニタ「バイバーイ!」






アニタ「……ここでこんな事言ってもどうせ質問なんて来ませんよねぇ。完全に感想が欲しいだけじゃないですかこの底辺作者」

カミラ「本当に。見苦しいものだな」

アニタ「……ん?あら?……あぁ!カメラ回ってますよカミラ」

カミラ「おっと失礼。あなた方読者は何も見なかった。いいね?」

アニタ「ば、バイバーイ!」

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