歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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お詫びと訂正

前回、キスカの属性を火と書きましたが、間違いでした。
キスカの属性は空です。既に前回の文章は訂正しました。このまま火に設定変更しても良いとも考えましたが、キスカの属性を火とすると今後の展開やキスカの戦闘において致命的な欠陥が生じるために修正した所存です。

皆様に深くお詫びします。


決着

 口元の血を手で拭い、キスカさんはユージーンにうち掛かる。

 

「……は」

 

 まるで狂戦士のように次々と叩き込まれる斬擊。ユージーンは防御してはいけない。それは自分の守りを剥がされることを意味する。下手に受ければ四肢切断。だからといって、避けに回れば一撃でも喰らった時点で死ぬ。

 

「……っははは」

 

 キスカさんの攻撃はやまない。普通はここまで攻撃を続けていれば必ずどこかで隙が生まれるものだが、その隙すら生まれない。

 

「あっ……はははははははははは!」

 

 キスカさんは笑っている。獰猛に笑っている。内臓が破裂しているはずなのに。相当な痛みを感じているはずなのに。

 まさしく楽しそうに、笑って武器を振っているのだ。

 

 キスカさんの嵐のような攻撃はひたすら回避に専念しているユージーンを壁際へと追い込み、ついにユージーンには退路がなくなった。

 

「っはぁ!」

 

 キスカさんは、壁を背にするユージーンに向かって凄まじい速さでバツ印の軌道を描くように剣を振る。

 たった一撃でも命を奪う攻撃なのに、それを2回。だが。

 

「……ふっ!」

 

 ユージーンは攻撃と攻撃の隙間を縫うように、右斜め前に回避する。受け身をとって立ち上がるが、背の片翼が切り落とされ、勢いよく血が噴き出す。

 

「っはぁー、楽しいなぁ! な? 魔王様? ウチはこんなに楽しいの久々だよ……魔界中で魔物を斬りまくってた時以来だ」

 

 キスカさんはゼェハァと荒い息ながら、まだまだ戦えるとアピールするように声を張る。

 今の戦闘に、僕は戦慄していた。怪我をしていないときと動きが明らかに違う。今の方が強い。攻撃の一つ一つが、速く、鋭く、隙がない。内臓破裂なんて大怪我をしているのに、動きが鈍るどころか速くなっている。

 

「アランは、自分と同格、もしくは自分より強い相手と、本気で殺し合いをしたことはありますか?」

 

 大魔王様は唐突に僕に話しかけてきた。考え事をしていたので少々反応が遅れたが、質問に答えるために少し考える。

 

「……ないです。魔王様となら何度も試合をしましたが、あくまで試合。イグナシオさんとやったのも試合ですし、魔王軍所属の頃はほとんど格下しか居ませんでしたから……」

 

 大魔王様は、うん、と相づちを打った。

 

「アランは今、キスカが怪我をしていないときよりも、怪我をした後の方が動きが鋭いことに疑問を持っていますね?」

 

「……え!?」

 

 僕が驚きの声を上げると、大魔王様は得意げな顔になった。しかしすぐに真面目な顔に戻って言葉を続ける。

 

「人には『意識して出せる全力』と、『追いつめられることによって引き出される本気』があります。キスカは特にその本気が強い。死にかけて、追いつめられて、退路を失った時こそ、彼女は強くなる」

 

 大魔王様はキスカさんとユージーンの戦いに目を戻す。

 

「キスカは以前、丸一日戦い続けてある街の自警団500匹を殺し尽くしたこともありますからね」

 

「……はぁ!?」

 

 途轍もないことを言われて、僕はまた驚きの声を上げる。丸一日戦い続けて500匹殺したとか、尋常じゃない。

 

「知りませんか?北西都市シトロンの自警団を潰した鬼の噂。私はあれを聞いてキスカを大魔王城に誘ったんです」

 

 

「……あれ、キスカさんだったんだ……」

 

 詳細はよくわからないが、たった1匹の魔物がシトロンの自警団を潰して、そのまま行方をくらましたと言う話が、3500年ほど前にあった。その時は、500匹居て1匹を仕留められないなんて情けないと思っていたが、その500匹を壊滅させたその魔物の、本気を見てしまうと……とても、勝てる気がしない。

 

 専門ではないが、並大抵の魔物なら上回る程の格闘術を持つユージーンが手も足も出ない。

 縦に振り下ろされる空砕きを左に躱したユージーンは、剣の軌道をずらすべく空砕きの横っ腹を右拳で思い切り叩いた。ガァンという音と共に空砕きが大きく弾かれ、キスカさんの体が空砕きに持っていかれ、大きく体勢が崩れる。

 ユージーンはその隙を逃さない。もう1発、今度はキスカさんの左胸を狙って掌底空破を叩き込もうとする。

 が、キスカさんは空砕きの吹き飛ぶ勢いに合わせて右足で地面を蹴った。その勢いのまま左足でユージーンの顔を蹴り、大きく距離をとり、にらみ合う。

 

「……なかなかやる。俺が近接戦闘で手も足も出ないとはな」

 

「お褒めいただき光栄の至り……で、いい? 正直この熱が冷める前に戦いを終わらせたいんだ。つまらないインターバルはいらないよ?」

 

「ふふ、まあ待て、すぐ終わる」

 

 そう言うと、ユージーンのプレッシャーの質が変わった。今までとは違う、本当の殺意を感じるほどに高まったプレッシャー。

 僕は彼がここまでのプレッシャーを放つところを見たことがなかった。

 

「火の元素指定。解放」

 

 ユージーンの手から不意打ち気味に凄まじい火球が放たれる。しかし、キスカさんはそれをなんなく回避。

 対象を失った火球は謁見の間の壁に当たり、壁が大きく炎上する。

 

「水の元素指定、解放」

 

 大魔王様がすぐさま水属性魔法を使用する。炎上した壁の上に小さな雨雲が出現し、壁の炎を消した。

 壁には穴が開いていた。直接的な破壊力の高さを物語っている。

 ユージーンが放った魔法は恐らく火元素中級魔法、『フレイムボール』だろう。だが、普通のフレイムボールとは威力が違う。魔王城謁見の間の、かなり硬く作られているであろう壁に穴を開け、炎上させる。ここまでの威力はフレイムボールにはないはずだ。

 彼は普通の魔物であれば詠唱が必要となる魔法を、無詠唱で、通常より高火力にして撃ちだしたのだ。

 

 本来魔法には詠唱は必要ない。魔法に必要なものは自分の作り出す魔法のイメージだ。

 

 火属性ならば、指先に火を灯すのをイメージをして解放と唱えればその通りに魔法が発動する。だが、一般の魔物はそのほとんどが詠唱をして魔法を使う。それはなぜか。

ほとんどの魔物は自分が使う魔法を明確にイメージできないから、である。

 

 先程例にあげた灯火程度なら簡単に出来るのだが、放つ魔法が強力な物になるほどそのイメージにはボロが出る。イメージが不十分だと魔法は弱くなってしまう。だからこそ、イメージの補強のために詠唱をするのだ。

 例えばフレイムボールなら、一般の魔物は『魔力は炎に、我が炎は火球となり、我らの敵を焼き尽くす』などという詠唱を挟む。上記の詠唱によってイメージは補強され、強力な火球が生み出されるというわけだ。

 

 強力な魔法を無詠唱で使うにはその魔法を何度も使用し、イメージを鍛えなければならない。上級の魔物は下級魔法から最上級にいたるまでほとんどが無詠唱で発動できる。無詠唱のメリットはいくつかある。即座に魔法を発動できること、放たれる魔法がどれかわからないこと。そして、魔法の工夫が出来ることだ。

 

 例えばユージーンのように火力を上げること。大魔王様のように雨雲を作ること。魔法はイメージの力。イメージしたことは何でも出来る。強いイメージを持てばそれだけ魔法は自由になる。

 

 上級魔法にも匹敵する威力を発揮するフレイムボールを放てるユージーンは間違いなく魔王の器。僕はユージーンが遠距離魔法を使って戦ったところを見たことが無いが、彼の本領は魔法攻撃である。

 

「……すごい魔法使うんだ。どうして今まで撃たなかったのさ? ウチに対して手抜きとか、舐めてる?」

 

「舐めてはいないさ。撃たなかった理由は二つある。一つは玉座の間への被害を抑制するため。軽い魔法でも躱されればこの部屋は滅茶苦茶だろうからな。もう一つはお前の激しい攻撃で撃つ暇がなかった」

 

 もっともだ。いくら無詠唱だろうと、あの速度で攻撃されては解放すら唱えられない。

 

「うーん、正直あの魔法連発されたらウチがキツいから……」

 

 キスカさんは瞬時にユージーンとの距離を詰める。

 

「解放」

 

 それを予想していたのか、ユージーンは即座に魔法を発動させる。巨大な炎の壁がキスカさんとユージーンの間に現れ、キスカさんの接近を遮る。

 この魔法は『ファイアウォール』だ。初級の魔法ではあるが、炎の壁系魔法の中では魔力消費と効果のバランスが一番良く、そもそも炎の壁系魔法があまり使われないこともあって大体はこの魔法が使われる。

 

 だがこれもユージーンが使うとすさまじい物になる。見る限りは上級の『フレアウォール』なみの壁だ。無闇に突っ込むと黒焦げになる。キスカさんにもそれがわかったのか、ファイアウォールに突っ込む直前でストップした。

 

「……解放」

 

 ユージーンの勢いは止まらない。炎の壁の向こうから、大量のファイアボールが突き抜けてきた。迫り来る面の攻撃をキスカさんは回避することが出来ない。キスカさんは真正面から何発も炎の弾を浴びてしまった。

 

「……散弾!?」

 

 それを見て僕は思わず叫んでしまった。あれは散弾だ。1発が拡散し、細かい炎が広範囲に飛び散る。近くで当たれば致命傷を与え、遠ければ広範囲の殲滅が出来る。昔、5大元素が発見された当初に編み出され、その魔法を発動させる難易度の高さから忘れ去られた古代魔法の一つ。ユージーンは、それを再現しているのだ。

 

「何驚いてるんですか、アラン。あれくらいなら私にも出来ます」

 

 隣の女性は本当の規格外なので置いておくにしても、ユージーンがそんな魔法を使えたなんて驚きだ。剣術だけで彼に一矢報いて、これは彼を越える日も近いな何て思っていた昔の僕が恥ずかしい。

 ユージーンは、本気になったら僕なんて相手にすらならないほどの実力を持っていたのだ。

 

 炎の散弾を喰らったキスカさんは動かない。しかしよく見ると、持っている武器が違う。よく見れば、キスカさんの武器はいつの間にか空砕きではなく、一番最初に使っていた盾のような剣に変わっていた。

 

「あの武器は、地壁。魔法武器の一つで、効果は魔法耐性と防御力の上昇です」

 

 大魔王様が解説してくれる。キスカさんを見ると、炎の散弾による被害は軽いやけど程度で済んでいるようだ。しかしいつの間に武器を切り替えたのだろうと目をこらすと、近くの床に空砕きが刺さっていた。

 

「なるほど、とっさに武器を床に突き刺して地壁を抜いたのか……」

 

 キスカさんの驚異の判断能力に唖然とする。ファイアウォールとファイアボールの間にそんなことをするなんて、僕には不可能だ。

 

 ファイアウォールが切れる。その時には既に、キスカさんは空砕きに持ち替えていた。

 

「せぁっ!」

 

 キスカさんの横なぎを、ユージーンは軽々回避。

 

「風元素指定、解放」

 

 ユージーンの放つ突風によりキスカさんは大きく吹き飛ばされる。

 

「火の元素、指定……!」

 

 そしてユージーンは即座に属性を切り替える。これでユージーンの使う属性は、火に戻った。

 

「魔力は火炎に」

 

 玉座の間にユージーンの、詠唱の序説が響き渡る。ほぼ全ての魔法を無詠唱で出せるであろうユージーンが、魔法を詠唱している。……悪寒が、全身を走り抜けた。

 

「火炎は我が手を離れ地獄の業火となりて大地を灼く」

 

 やばい。何が起こっているかを把握するより先に、そんな言葉が出てきた。凄まじい魔力の鼓動を感じる。これは、この城ごと燃やし尽くしてしまうくらいの……『最上級魔法』、なのか?

 

「風切り起動」

 

 だが。キスカさんは既にユージーンの目の前に居た。

 

 右手に握られているのは相変わらず空砕き。そして、左手にはカタナが握られていた。魔法武器のカタナ、風切りの能力によって速度魔法をかけ、一瞬でユージーンの目の前に移動したのだ。

 

「……!」

 

 ユージーンは悲鳴にならない悲鳴を上げる。回避を試みるが、もう遅い。

 

 空砕きが胸部の鱗を破壊し。

 風切りが鱗の無い無防備な肉を切り裂いた。

 

 ユージーンはたまらずダウンする。倒れたユージーンの喉元に、空砕きが突きつけられた。

 

「チェック。ウチの勝ちだ」

 

 キスカさんが勝利を宣言する。対するユージーンは、空砕きを喉元に突きつけられたまま何も言わない。ただキスカを睨みつけている。

 

「なんか言いなよ魔王。このままだと首が落ちるよ」

 

 キスカさんのドスの効いた声が玉座の間に響く。だが、それでもユージーンは無言のままだ。

 

 キスカさんは相当に苦しそうだ。内臓が破裂したままであれだけの戦闘を行ったのだから無理もない。だが、ユージーンが負けを認めなければ、動こうにも動けない。

 

「……おい! 早く負けを認めて……!」

 

 その時。

 キスカさんの後ろに『影』が現れた。姿も、気配も、匂いも、存在さえもなかった物が、今そこに現れたのだ。

 

 オンブラ。魔王ユージーンの側近。だがその存在は魔界には知られていない。知る術がないのだ。

 彼女のその隠密性能は、主である魔王ユージーンであってもその姿を発見できないほどなのだから。

 

「失礼」

 

 オンブラは逆手に構えたナイフをキスカさんの首を狙って振り下ろす。それはあまりにも急なことだった。内臓の損傷していたこともあって、キスカさんは反応が遅れた。

 

どっ、と、鈍い音がした。




第4回!用語解説コーナー!

アニタ「皆様こんにちは!大魔王のアニタです!」

アラン「大魔王軍のアランです」

アニタ「さてさて。今回は5大元素についての解説でしたね?」

アラン「はい。ささっといきましょう」

アニタ「5大元素とは。新魔界暦で見つかった地水火風空の5属性のことを言います。5大元素が見つかったとき、全ての魔物が5大元素のうち最低でもどれか一つの属性を持っていることがわかりました」

アラン「最低でも、ということは、二つ以上持っている魔物も居るんですよね?」

アニタ「ええ。例えば、今本編で必死に戦っている魔王ユージーン。彼は、火風空の3属性持ちです」

アラン「3属性は相当珍しいと聞きますが……」

アニタ「はい。非常に珍しい存在です。珍しさの度合いを表にしてみましょうか」

珍 5大元素コンプリート
  5大元素から3属性、2大魔素から1属性の合計4属性
  5大元素から4属性
  5大元素から2属性、2大魔素から1属性の合計3属性
  5大元素から1属性、2大魔素から1属性の合計2属性
  5大元素から3属性
  5大元素から2属性
  2大魔素から1属性 
普 5大元素から1属性


アニタ「5大元素コンプリートから上はそもそも現れる可能性が0に近いので省きますね」

アラン「……大魔王様の属性ってなんでしたっけ?」

アニタ「5大元素、2大魔素コンプリートですけど?」

アラン「(絶句)」

アニタ「あら……アランが固まっちゃいました。まあいいや、次行きましょう!次は各属性の特徴を表にしてみましたー!」

地 防御力特化。壁を出現させたりする防御魔法と守備力関連の強化魔法が得意。攻撃はやや苦手

水 生命力特化。唯一回復魔法を持つ。回復が得意。攻撃が苦手。

火 攻撃力特化。火力攻撃魔法と筋力関連の強化魔法が得意。壁等の防御魔法が苦手

風 機動力特化。速度制御魔法が得意。結界等の防御魔法も使える。攻撃がやや苦手。

空 破壊力特化。爆発や粉砕等の攻撃魔法が得意。防御魔法が存在しない。


アニタ「といった感じですね。あとは魔法の詳しい説明……は、本編でアランがしてくれてますね。では、これで属性のお話は終わりになります。今回のお相手は、大魔王アニタと?」

アラン「……」

アニタ「……アラン?」

アラン「……はっ!あ、アランでお送りしました!」

アニタ「バイバーイ!」


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