精進しなくては!
あ、UA2000達成です!皆様ありがとうございます!
この調子でお気に入り登録者様も増えてくれれば……!
……すみません、調子乗りました
ユージーンと大魔王様の間に立ちふさがり、キスカさんは盾のような剣を肩に担ぐように構える。朝見たときは色のなかった線のような装飾が、だんだんと橙色に染まっていく。
「邪魔をするな。俺は大魔王に用があるのだ」
「あー、そう? 知らないなぁ。ウチ、ここから退く気無いから」
キスカさんは挑発的な態度をとる。怒り狂うユージーンは、ターゲットをキスカさんに定めたようだ。一瞬で距離を詰め、凶悪な爪を振るう。
「グルルァ!」
リザードマンは竜型と人型、その二つの姿を持つ種族だ。
竜型は強靱な肉体を持ち、高い筋力と、硬質な鱗による防御力で近接戦闘では無類の強さを誇る。
魔法の威力も高く、並大抵の魔導系の魔物では太刀打ちできないほどだ。さらにワイバーンタイプともなれば、生える翼で空まで飛べるおまけ付き。基本的にリザードマンの竜型は、全てのスペックが人型を凌駕している。
ギギギギギと、耳障りな音を響かせ、爪と刀身が激突する。攻撃を受ける形になったキスカさんは大きくのけぞり、続く回し蹴りによって真横に大きく吹き飛ばされてしまった。
リザードマンは強い。いくらオーガだとはいえ、通常よりも小柄なキスカさんでは筋力勝負ですら負けてしまう……!
「邪魔者は居なくなった。さあ、戦おう。大魔王」
邪魔をするキスカさんを退かしたユージーンは、ゆっくりと、大魔王様に向かって歩き出す。もう彼の歩を止めるものはいない。このままでは、ここで魔王対大魔王の戦いが始まってしまう。
が、その時。ユージーンの真横。ちょうどキスカさんが吹き飛ばされ激突した場所から、矢のようなスピードで何かがユージーンへと突っ込んでいった。
「……キスカさん!」
その矢は、先ほどの盾のような剣ではなく、カタナを両手で握ったキスカさんだった。キスカさんはユージーンを自分の間合いへと入れると、鎧のない左腕を目がけてカタナを閃かせる。
ガッと鈍い音がする。カタナは鱗に阻まれ、ユージーンに傷を付けることは出来なかった。
「やっぱり無理か!」
攻撃を防がれたキスカさんはすぐには動けない。そして、それは隙に繋がる。ユージーンは右拳を握り込み、目の前のキスカさん目がけてぶっ放す。
だが。ユージーンの拳はキスカさんには当たらない。拳が振り抜かれるとき、そこにキスカさんは居なかった。
まるで、風の速度魔法を使用したかのようなスピードで、彼女はユージーンの間合いから離脱していたのだ。
いや、違う。使用したかのような、ではない。使用していた。確実に。僕にはわかる。あの動きは……。
「大魔王様。キスカさん、今、風の速度魔法を使ってましたよね?」
「気づきましたか? ええ。その通り。キスカは今、風の魔法を使っています」
やっぱり。思ったとおりだ。さっきの矢のような突進もそれだろう。
だが。それには1つ問題があるのだ。彼女は赤肌。魔力がほとんど無いオーガだ。簡単な魔法行使が出来ないほど魔力が少ないはず。
「キスカさんの魔力保有量で2回も風魔法を使えるんですか?」
「……ふふ。確かにキスカは今風魔法を使っています。ですが、キスカが使っているわけではないんです。それに、キスカの属性は空ですしね」
「……? じゃあ、どうして風魔法を……?」
「まあ、見ていればわかりますよ。彼女が何をしているのか。彼女が、どういう戦い方をするのか」
大魔王様はそれっきり口を閉ざしてしまった。仕方ない。キスカさんの戦いを見て、自分で気づくしかない。今キスカさんが何をしているのか。
僕たちが話している間にも、2匹の戦いは続いていた。キスカさんは速度魔法を操り、攻撃をしては離脱をくり返している。だが、ユージーンには傷一つ付いていない。
「キスカとやら。それで俺に勝つつもりとは、笑わせる。素早いだけの、軽い攻撃をいくらしようが! 俺の鱗を砕くことは出来ない!」
そうだ。このままでは、いつかキスカさんのスタミナが尽きてやられるだけ。彼女はいったい、ここからどうするつもりなんだ?
「まあ、そうだろうね。この風切りじゃああんたを倒せない。……でも。その鱗も、鎧も!砕いてしまえば何の役にも立たない!」
キスカさんはそう言うと、カタナを鞘にしまい、背中に吊ってある棍棒のような剣を抜く。
「剣を重くしたところで変わらん。剣では鎧は砕けないのだ」
「どうかな?案外簡単に砕けちゃうかもよ?……
キスカさんはそう言うと、ほんの少しだけ、自分の剣に魔力を通した。
刀身の中心にある一本線が、空色に染まっていく。色は違えど、さっきの盾のような剣と同じように。
キスカさんは重そうな剣を軽々と振り回し、ユージーンに近づいていく。ユージーンは動かない。それは余裕の表れだろう。彼女では自分を倒せないという自信。
「へえ? 動かないんだ? じゃあ遠慮無く……」
キスカさんは剣を大きく振りかぶり、ユージーンの胴。漆黒の鎧に叩きつける。
「砕けろ」
その瞬間、ユージーンの鎧は粉々に砕け散った。
「なに……!?」
ユージーンは鎧が砕けたことに驚き、慌てて後ろに下がる。が、キスカさんはそれを読んでいた。ユージーンのバックステップに追随し、容赦なく攻撃を叩き込む。
ユージーンはそれを左腕で受ける。しかし触れただけで腕の鱗は剥がれ、刃が腕を切り裂く。竜型の恩恵である肉質の硬化によって辛うじて切断は逃れたものの、彼の左腕はもうこの戦いでは使い物にならないだろう深手を負った。
「なんだその剣は……まるで空魔法のような……」
左手をだらりとぶら下げながら、ユージーンは呟く。そうだ。硬い鎧や鱗が軽々と破壊されていく様は、まるで『物を破壊すること』に特化した空属性の魔法を行使しているかのようだった。
「へえ。まだ気づかないんだ。ま、無理もないか。
「
キスカさんの一言に、僕は心底驚いた。
「ええ。彼女は全属性の魔法武器を操り、『魔法が苦手』という赤オーガの弱点を補った剣士。『
いまだ動けないでいるユージーンに、キスカさんは空砕きを突きつけた。
「ま、そういうこと。ウチの空砕きの前じゃ、鎧や鱗なんて意味がない」
キスカさんは空砕きをゆっくりと振りかぶり。
「じゃあね。砕けな!」
無慈悲に。ユージーンへと振り下ろした。
「残念だが、砕けるのは貴様だ」
その言葉とともに、ユージーンは体をひねって空砕きの一撃を躱す。そのままキスカさんの懐へ一歩踏み込み、一発。掌底を打ち込んだ。
「カハッ……!」
次の瞬間、キスカさんは大きく後ろに吹き飛び、壁にたたきつけられた。掌底を撃ったまま静止しているユージーンは、ふうー……と鋭く息を吐き、
「掌底空破」
と一言だけ呟いた。予想外の一撃を喰らったキスカさんは、まだ立ち上がれないでいる。
「ごほっ……ごほ……はぁ、はぁ……はぁーっ」
口からは血を吐き、まさに満身創痍と言ったところだ。ユージーンと比べても、まともに戦える状態じゃない。
だが、空砕きを支えにして、ゆっくりと立ち上がる。
「……俺の掌底空破を腹に受けて立ち上がるか」
掌底空破。空魔法を掌底にまとわせて相手に撃ちこみ、敵の内臓を破壊する技。
「どうりで。やけに痛いと思ったら、内臓が破裂してたからか。っあー! 即死しなくてよかった!」
キスカさんはぶるぶると震え、尋常じゃない汗をかいていた。今のキスカさんは、立ち上がるので精一杯。
だが。そんな状況でも、キスカさんは笑っていた。
「キスカさん、下がってください! そんな状態じゃ戦えない!」
「なぁに言ってんだよぅ人型ぁ! 楽しい戦いは、これからだろ!」
キスカさんは俺に向かってそう言い、ユージーンに向き直った。
「いいのか? 貴様、死ぬぞ」
「この程度で死ぬんだったら、ウチはもう100回は死んでんよ。むしろこっからでも負ける気がしないなあ!」
……止められない。僕ではキスカさんを止められない。
僕は大魔王様の方を見る。だが、大魔王様にキスカさんを心配するようなそぶりは見られなかった。
「アラン。本当の戦いでは、内臓破裂くらいで戦闘不能になっちゃダメなんです。信じて、見ていなさい。ここからが大魔王軍の戦いですから」
「……なんですかそれ」
ああ、もう、やっぱり大魔王様はおかしい!
でも、僕が介入しても足手まといになる、だけだ。結局僕は見ていることしかできないのだ。キスカさんと、ユージーンの戦いを。
第3回!用語解説コーナー!
アニタ「さあ、今回もやってきましたよ!用語解説!」
アラン「大魔王様、なんか楽しそうですね」
アニタ「当たり前ですよ!これのおかげで出番が増えてるんですから!」
アラン「あ、はい。ソウデスネ」
アニタ「じゃあ、今回のお題に行きましょう!今回のお題はー?」
魔法属性について!
アニタ「です!」
アラン「そういえば、魔法属性に関しては一切説明してませんでしたね」
アニタ「そうなんですよ!だから、今回はややこしい魔法属性のことを皆さんに知ってもらおうと思ったって、作者が」
アラン「ま、作中じゃ説明しづらいですもんね」
アニタ「ではでは説明と行きましょう。ちょっと説明することが多いので、今回の2大魔素編と次回の5大元素編に分けてお送りしたいと思います」
アラン「わかりました」
アニタ「さて、2大魔素とは。闇と光の二つの属性のことです。この二つの属性は、旧魔界暦のころからある魔法の原型となった属性ですね」
アラン「浸食の特性を持つ闇と、浄化の特性を持つ光。これは限られた上位の魔物しか使えず、その時代は魔法を使えるというだけでやばかったんですよね?」
アニタ「はい。今でこそみんな魔法を使えますが、当時は魔法を見る=死ぬみたいな感じだったらしいですよ」
アラン「大変だったんですね……」
アニタ「新魔界暦となった今でも、2大魔素を持って産まれる魔物は少ないです。2大魔素の魔物が必ず強いというわけではありませんが、あまり見ない魔法なので注意するに越したことはないですよ?アラン」
アラン「はい。肝に銘じておきます」
アニタ「というわけで今回はこの辺で。この解説は次回、5大魔素編に続きます!」
アラン「それでは、また次回に会いましょう」
アニタ「さようならー!」