歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

22 / 54
サブタイが思いつかないと言う罠。
センスのある人間になりたい


信じるということ

「魔王城、か」

 

 懐かしい昔の家を想い、ため息をつく。

 ここは拒絶の森。その隠し通路となる一本道だ。大魔王城から魔王城やギーグに行くときに、いちいち拒絶の森を突破するのは面倒くさい!と言うことで、大魔王様が無理やり作ったらしい。迷路のような迷いの森に直通の通路を作ってしまうとか、控えめに言ってやばいと思う。

 

 ちなみに、この通路は外からも見えないようになっているし、大魔王城の物以外は知らない通路である。

 

「なに? 人型。お前大魔王城に移ってからそんなに長くないけど、そんなに感傷に浸るほど懐かしいもんなの?」

 

 僕のため息を聞いて、キスカさんが訓練以外で珍しく真面目に話しかけてくる。

 

「まあ、長く住んでましたからね。ちょっと離れただけでも懐かしいものです」

 

「ふーん。ウチは懐かしむほど長く住んだ家なんて無かったからなぁ……もし大魔王城を離れたら、ウチもそうなるのかな?」

 

「あれ?キスカ、城を出ていったりなんかするんですか?」

 

 ちょっとイタズラっぽく、大魔王様が言う。それに対してキスカさんは笑って返す。

 

「んーん。多分、ずっと大魔王城にいるよ。ウチは出てくつもりは無い。最期の時まで、ずっと……アニタ様のために戦うよ」

 

「……信じてますからね」

 

「うん。信じてー」

 

「……あ、見えてきましたよ。魔王城」

 

 森の木々の切れた先に、そびえ立つ魔王城が見える。魔王城から大魔王城にやって来たときはかなり時間がかかったものだが、直通通路だとこんなにも早く着くとは。

 

「よーっし! じゃあ気合い入れていきますか!」

 

 そう言いながら、キスカさんは肩をぐるぐると回す。小さい背中に密集している剣同士がぶつかり、派手な金属音を立てている。

 

「まだ戦闘が始まるって決まったわけじゃないんですから、そんな気合い入れなくても……ほら、剣同士がぶつかってますし……」

 

「うっさいなー、どうしようとウチの勝手だろー?」

 

「それはそうなんですけど……」

 

 僕としては、剣が痛みそうで怖いのだ。それに音も結構不快だ。ほら、キトンなんて耳を覆っているし。

 

「ほっといてあげてください。キスカ、戦闘前は必ずあれやるんです。気合いが入るんだーって言って」

 

 まあかなりうるさいですけどね。と、大魔王様は言う。そして、ぐーっと伸びをしているキスカさんを見て、ふっと微笑んだ。

 

「さあ、行きましょう! 魔王に謁見です!」

 

 

 

 

 

 魔王城、玉座の間。

 僕たちは魔王城の裏門に到着した後、そこの門番に手続きを取ってもらって謁見を申し入れた。それは許可され、ここにいる。

 

 目の前には玉座に座るユージーン。そして、武装した魔王軍の兵士達がいる。

 

「しかし、わざわざこの城まで来ていただけるとは。連絡をいただければ、こちらから大魔王城へ伺ったというのに」

 

「いえ、2回も来ていただくのは流石に申し訳ないと。侵入者を発見できなかったこちら側の落ち度ですし、昨日の今日でまたお呼び立てするのも忍びない。それに、暴行犯の受け渡しに関しましても、私達が出向けばあなたに余計な手間を取らせない。拒絶の森の往復は手間でしょうし、我々がこの城へ伺おうということになりました」

 

 相変わらずこの2人から感じるピリピリした空気とプレッシャーが凄まじい。どちらかが少しでもおかしな言動、おかしな行動を取った瞬間に、容赦なく戦いが始まりそうな……一触即発の空気。

 

「して、そちらのケットシーが暴行犯、と言うことでよろしいか」

 

「ええ。彼女の名はキトン。我が大魔王城への侵入者であり、彼女が件の暴行犯である、と言う証言を取ることが出来ました」

 

 キトンは慌てる様子もなく前へ出て、ユージーンに対して深々と頭を下げる。

 

「して、魔王。私から1つ、あなたに言っておかねばならないことがあります」

 

「……それは、どのような?」

 

「キトンが罪を犯したその理由です」

 

 キトンが罪を犯した理由。カミラさんには、彼女は訳あって魔王兵に暴行をした、と言うことしか聞いていないので、僕も知らない。いったいどんな理由があるのだろうか。

 

「彼女の友人が魔王兵に脅され、金をとられていたようです」

 

「え? ちょっと待ってください! 魔王軍の誰かが、キトンを強請ってたって言うんですか!?」

 

 そんな、馬鹿な。魔王軍にそんな物が居るはずがない……! 僕が居た頃の魔王軍は、喧嘩っ早かったり、見た目が怖かったりしたけど……皆、良い魔物だったはずなのに!

 

「ええ。その通りです。その友人を助けるために、衝動的に手を出してしまった、と。これは問題でしょう。原因の一端は、魔王。あなたにもあります。どうか、キトンの罪を軽くしてあげられないでしょうか」

 

 ユージーンは眉をひそめ、目を閉じた。少しの間、玉座の間を静寂が支配する。

 

 何分たっただろうか。ユージーンが目を開けた。

 

「……なるほど。確かにそれは我々の落ち度だ。法を守るべき我ら魔王軍の犯した罪が原因で罪を犯したのならば、その罰も軽くなるだろう。……だが」

 

 ユージーンの纏うプレッシャーがさらに強さを増す。対して大魔王様のプレッシャーには変化がない。

 この玉座の間を、ユージーンが支配した。

 

「それは、その情報が本当ならばの話だ」

 

「というと?」

 

「そこのケットシーが嘘をついていると言うことですよ。まったくばかばかしい。私の部下が、強請などするわけがない」

 

 ユージーンは言い切った。私の部下が強請などするわけがないと。それは部下に絶対の信頼を置いている証。魔王ユージーンとしての、1番強いところだ。

 だが。

 

「……随分と自信がおありのようですね。自分の部下に対して、調査はしないと?」

 

「ええ。その通りです。私は部下に全幅の信頼を置いている。彼らはやらない。断言できます」

 

「ちょっと、待ってください」

 

 今、それは違うと、僕は言える。僕は大魔王様の斜め後ろから一歩踏みだし、2匹の会話を遮った。

 

「……アラン」

 

 ユージーンは突然の僕の発言に驚いている。だが、そんなことは構わない。 

 

「魔王様。あなたが部下に信頼を置いているというなら、尚更調査した方が良いのでは?」

 

 信じる、ということ。その一言の重さが、違った。

 

 今の僕には何が違うのかわからない。だけど、信じるというその一言は、大魔王様の方が重くて、本当だと感じたのだ。

 

「……なぜだ、アラン。私と大魔王の会話に口を挟んだのだから、当然理由を説明できるだろう?」

 

「……それは」

 

 言葉につまる。駄目だ。僕には説明できない。どうしてそう思ったのかわからないから。

 だけど。だけど、これだけは絶対に譲ってはいけない気がするのだ。

 その時。後ろから僕の肩に、誰かの手が置かれた。振り返ると、それはキスカさんだった。キスカさんは僕の顔を見て頷くと、僕を庇うように前へ出た。

 

「失礼ながら、ウチ……いや、私が。彼の言葉を代弁します」

 

 ユージーンは片眉を上げてキスカさんを見る。

 

「……ほう。名を聞きこう。大魔王の護衛殿」

 

「私はキスカ。性はありません。赤肌のオーガ族です」

 

「ふむ。では、キスカ殿。なぜあなたがアランの言葉を代弁するのか」

 

「ウチ……いや、私も、彼と同じ考えだからです。あなたがあなたの兵を信頼するならば、あなたはしっかりと調査をするべきです」

 

「……理由を」

 

「魔王様。あなたは自らの定めた法の下に公平な魔王であるはずだ」

 

「ああ。その通りだ」

 

「だからです。だからあなたはあなたの兵が潔白だと言うことを私たちに証明しなければならない。あなたは自ら定めた法を遵守する。そうしてキトにゃんに罰を与える。魔王兵暴行による重い罰を。それは正しい。あなたの言うとおり、強請の事実が嘘なのだとしたら。でも、強請が本当にあったら?あなたは不当に重い罰をキトにゃん下し、ギーグの民を脅迫し金を奪い取った罪人に……魔王兵だからと言う理由で罰を与えないことになってしまう。それでは公平でもなんでもない。あなたの『部下を信じる』は、上司であることの責任を放棄しているだけだ。そういうの、私は……ウチは!大っ嫌いだ!」

 

 ユージーンは口を開かない。ただキスカさんをじっと見て、何かを考えているようだ。

 

「……アタシは嘘ついてにゃい。アタシは嘘ついてにゃい!ニコが泣いてたから!アタシは、アタシの、友達は……ニコ、だけだから……だから!ほっとけるわけにゃかったにゃん!……アタシが、悪くにゃいとは言わにゃい。でも、でも……!」

 

 キスカさんに触発されたようにキトンが叫ぶ。しかし、感情と怒りにまかせて発言したためか続く言葉が出てこない。

 

「でも。嘘と決めつけるのはやめてあげてください、魔王。少なくとも、私はキトンが嘘をついているようには見えないのです」

 

 それを大魔王様が優しく、的確にフォローする。それに心を動かされたのだろうか。ユージーンはゆっくりと口を開いた。

 

「了解した。その件はこちらで調べよう。事実ならば、ケットシーの罪は軽くなる。そして、その兵士が今まで奪った金を返却しよう」

 

 その言葉に。

 大魔王様は安堵の声を漏らし。

 キトンはへたり込んで泣き出し。

 キスカさんは静かに微笑んだ。

 

「ケットシーの最終的な処理が決まったら、大魔王城へとお知らせしましょう。今回はそれで許していただきたい。流石に、これの事実確認は時間がかかるでしょう」

 

「はい。わかりました。それでお願いします」

 

「ケットシーを連行しろ。まだ罪状は保留だ。傷を付けたりするなよ?」

 

「「はっ!」」

 

 ユージーンの命令で2人の兵士が動き出し、キトンをどこかへ連れて行く。きっと留置場だろう。ユージーンのことだから、そこそこ良いところに入れるに違いない。

 

 これでキトンの件は終了、と言って良いのだろうか。まだ安心は出来ないが、大魔王様や僕たちに出来ることはもう無い。少しでも罪が軽くなることを祈るとしよう。

 

「魔王。私は今日、もう一つあなたに伝えたいことがあります」

 

「ほう。それは?」

 

「私が行おうとしていること。それによる、今後の魔界の方針、です」

 

 大魔王様が切り出した。魔界平和化のこと。夢物語を実現しようという話。

 

「……大魔王が政に口を出すと?」

 

 ユージーンは眉をひそめてそう言った。その声には、明確ないらだちが混ざっていた。

 

「出さねばならないのです。私がやりたいことは、魔王である内には実現できなかった。でも、どうしてもそれを実現したいのです。私は、魔界を平和にしたい」

 

「……魔界を、平和に?」

 

 ユージーンの眉間にいっそうしわが寄る。無理もない。大魔王様が言い出したことは、常識ではあり得ないことなのだから。

 

「ええ。人との争いをやめ、種族間の争いをやめ、同種の殺しあいをやめる。今よりももっと、理性的で知性的な生活を送ることで……誰かが大切な物を不条理に失う世界を、無くしたい」

 

「……人との争いをやめる?それは本気で言っているのですか?あなたは、亡くなられた5眷属の……我が兄、イグニールの仇をとらぬと言うのか!」

 

 その瞬間、今までも凄まじかったプレッシャーがさらに増した。周りの魔王兵がばたばたと倒れていく、僕も立っているのがやっとの程の重圧。その中でも大魔王様は平然と立って、話を続ける。

 

「とらない。私はもう、憎しみを連鎖させるようなことをしたくない。人との争いがあるからイグニールは死んだ。ニコトエも、メロウも、アトラスも、ガルグイユもそう。だから憎みあう必要の無い世界を作るんです。私たちが

私たちの手で!」

 

「そんな世界など出来るわけがない! 憎しみは続くのだ。人のある限り。人界のある限り! あなたは、人との争いをやめると言った、人を殲滅するのではなく、戦いをやめると言ったのだ!人が生きたまま、憎むのをやめると!」

 

 ユージーンの姿が、段々と人型から竜の姿へと変わっていく。黒い鎧はそのままに。肌は硬質な鱗へと変わり、手からは鋭い爪が生え、長いしっぽが現れる。

 

 リザードマン。

 その体を竜へと変えることの出来る、旧魔界暦から存在する古種族。火属性を得意とするドラゴンの血筋。

 

「ならば、貴様も仇だ。大魔王、俺は貴様を殺して大魔王になる。そして人との戦争を始めるのだ。憎しみを持つ物による、復讐の戦争を!」

 

 最後に殻を破るようにして現れた翼を羽ばたかせ、ユージーンは瞬時に大魔王様の目の前へと移動する。大魔王様を狙い、鋭い回し蹴りを放つ。

 

 だが。

 

 ガギン、と耳障りな音が響く。ユージーンの足と大魔王様の間には、盾のようにそびえる剣とキスカさんの姿があった。

 

「やぁっとウチの本来の出番かぁ。今回は戦闘ないのかと思って頭使っちゃったから、あんま激しい戦闘はしたくないんだけど……なぁっ!」

 

 キスカさんは剣を前に押し出すようにしてユージーンを弾き飛ばし、盾のような剣を肩に担ぐように構えた。色のなかった線のような装飾が、微かな魔力を放ちながら橙色に光る。

 

「かかってきなよ魔王様。アニタ様が出張るまでもねぇ」

 

 ゆっくりと体勢を立て直すユージーンを見ながら、キスカさんは不敵に笑う。

 

「あんたはウチで十分だ」




第2回!用語解説コーナー!

アニタ「こんにちは!今回もやって来ましたこのコーナー、今回も私大魔王アニタと?」

アラン「対魔王軍兵士、アランでやっていきます」

アニタ「ではでは、さっそく今回のお題を出しましょう!今回のお題は-?」

魔物とは何か!

アニタ「です!」

アラン「魔物とは何か、って、魔物は魔物ですよ。これをどう解説するんですか」

アニタ「我々魔物達の一般常識と、画面の向こうの人間達の一般常識は違うものです。そんな認識のズレをお伝えすることによって、今までよくわからなかった描写がわかってくるかなー?って」

アラン「完全に解説のタイミング間違ってますよね。2話くらいでやるべきでしたよねこれ」

アニタ「それは言わないお約束。と言うわけで、早速解説していきますよ!」

アラン「お願いします」

アニタ「まずは、旧魔界暦の魔界の話から。旧魔界暦の頃、魔界は戦闘力至上主義でした。力の強い方が偉い。と。ガチで強いものが魔王、大魔王になって、かなーり本気で人間と戦ってた頃ですね」

アラン「今はなんだか人界との戦争が当たり前になって、やる気が無くなったら戦争やめたりしてますもんね。納得いかないけど」

アニタ「この時に、魔物の遺伝子に『強い魔物には従う』と言う本能が刻み込まれているのでしょう。どれだけ反抗的な魔物でも、ちょっと力の差を見せつけたらすぐに言うこと聞いたりします」

アラン「逆に弱い物の言うことは誰も聞かない。それが魔物、ですね」

アニタ「その『強い物には従う』という本能が、魔王、大魔王には強い物しかなれない、ということに関わってきます」

アラン「なるほど。どれだけ素晴らしい政を行おうと弱ければ魔物は付いてこない。だからこそ、魔王や大魔王には強さも必要なわけなんですね」

アニタ「そういうことです」

アラン「魔物は力の強さで優劣を決め、強いと思ったら徹底的に従い、弱い物は見下す。そんな生き物ってことですね」

アニタ「なんか物騒な言い方してますけど、まあ、そうですね。間違ってないです。でも、最近の、新魔界暦の魔物はちょっと違うんですよ」

アラン「というと?」

アニタ「新魔界暦になって、人間と交わって産まれた魔物も多くなってきました。それにより、『強い魔物に従う』本能が少しずつ薄れてきてるんですよ」

アラン「ある程度理性的な生活を行えるようになったのも、それの影響ですか?」

アニタ「その通り。魔物は少しだけ、人間らしい考え方も手に入れました。特に人型の魔物は人間思考によっていて、魔界の常識ではあり得ない言動や行動をしたりするんですよ?」

アラン「……そーですね。本当に、あり得ない行動とりますよね」

アニタ「そうですね。そう言うところが可愛いんですけどね?」

アラン「え?」

アニタ「え?」

……少しの沈黙……

アニタ「あ!放送事故放送事故!……ごほん、え、ええと……魔物のこと、少し理解していただけたでしょうか?質問等は受けつけているので、どんどん感想お願いします!」

アラン「……オキニイリトウロクモヨロシクオネガイシマス」

アニタ「もっと感情込めて!カンペ読んでるってバレちゃうから!」

アラン「ちょっと待ってください大魔王様ストップ!口に出てる!」

アニタ「え?あ!うわぁ!なんでも無い、なんでも無いんですよ皆さん!カンペなんて読んでないです!存在しないんですからね!」

アラン「あーもう駄目だこれ!また次回!さようなら!」

次回、第3回に続く。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。