夜が明けて、午前8時。
昨日、カミラさんから大魔王様が魔王城へ向かうので、お前は武装してそれについていけ、との伝言を受けて、しっかりと武装して玉座の間へと向かっている。
武装して、とのことなので戦闘が発生する可能性があるのだろう。魔王軍で僕が戦って相手になるのは、ユージーンと彼女くらい……。もし戦闘が発生したとして、その2匹との戦いになる。
「大魔王様なら、2匹同時でもやれそうだけどな」
正直、僕を連れて行く理由がわからない。大魔王様は戦わないつもりなのだろうか?
「おーっす人型ぁ! 浮かない顔してんなぁ!」
後ろから思いきりどつかれて、僕は大きく体勢を崩す。この声と馬鹿力。相手はキスカさんしかいない。
「何するんですかキスカさん! オーガの筋力だと軽く叩いても僕には重いんですからもう少し手加減してくださいよ!」
抗議と共に振り返ると、そこには思った通りキスカさんがいた。
「て、うわっ……どれだけ重武装してるんですかそれ」
キスカさんの武装は凄まじかった。防具はほぼ無い。露出の高いオーガの民族衣装を着ている。重武装といえるのは武器だ。キスカさんは3本の剣を、その小さい体に背負っていたのだ。
背中にクロスするように装着された2本の剣の、うち1本は濃い水色をした、一見棍棒と見紛うような装飾の施されたごつい剣。もう1本は刀身が盾のような広さを持つ剣。そして、腰の辺りには流麗なサーベル。……これはカタナという剣だろうか? ともかく、そんなものを装備していた。
彼女は実戦でどういう戦いをするのだろうと、疑問を持たずにいられない装備だった。
「それ、全部使うんですか?」
僕が背中の剣をさしていうと、キスカさんは首を振った。
「うんにゃ、1本ずつだよ。状況に合わせて使い分ける。今回持ってきたのは1番対応範囲の広い組み合わせだし、お前の出番は無いかもな?」
「状況に合わせて使い分ける……?」
それならば2本でもいいのでは。たしかにカタナは素早い敵を相手にするのに良さそうだが、重い剣を2つ背負った状況では動きづらいし速度も落ちてしまう。棍棒のような剣は守備の硬い相手を倒すのに使えそうだが……盾のような剣と棍棒のような剣は使い方が大体同じような気がする。なんだか矛盾しているような……。
「まあ、もし戦いになったら見せてやるよ。ウチの本気のをちょっとだけ、な?」
と、キスカさんは自慢げに言って、さっさと先へ行ってしまう。
「ああ、待ってくださいよ、キスカさん!……速いな、あんなに剣を背負ってるのに」
ゴテゴテとした装備を物ともせずに、キスカさんは普段と変わらないスピードで走る。さすがはオーガの筋力と体力、なのだろうか?
「……あれ?っていうかキスカさんも呼ばれてたのか」
僕は保険的なものなのだったのかな、なんて思うと、ちょっとむかっときた。
キスカさんに遅れること数十分。ようやく玉座の間へやってくると、僕を除いてもう全員が揃っているようだった。
「遅いぞ人型ー、アニタ様を待たせるとかいけないなぁー!」
玉座の間に着くなり煽ってくるキスカさん。
「そんなに言うんだったら僕を抱えていってくれても良かったじゃないですか。キスカさんなら余裕でしょう?」
「言ってて恥ずかしくならないのか? 男なら、ウチを抱えて走れるくらいの体力つけろよ」
「女の子に無闇に触るなって言って抱えさせてくれないくせに」
キスカさんと軽口をたたき合う。キスカさんとは魔王軍にいた時みたいな絡みが出来て、少し気が楽だ。
「……しっかし、キトにゃんも速いなぁ。この子、ウチよりも速く来てたんだよ」
「アタシはケモノだからにゃ。走るのは得意にゃよ?」
いつの間にか仲良くなっている2匹である。キスカさんの方は妙なあだ名付けてるし。
「って、ちょっと待ってくださいキスカさん、あなた人をあだ名か名前で呼ぶのは認めたやつだけって言ってませんでした!?」
「おうともさ。キトにゃんはウチが認めたケットシーだからなー」
「にゃんか知らねーけどアタシ達は認め合った仲らしいにゃん。やったにゃーん!」
2匹はハイタッチ。いつの間にこんなに仲良くなっているのか。女子とは怖いものだ。
「えー、と。そろそろ出発してもいいですか……?」
ちょうど静かになったときに玉座の間に響く、酷く落ち込んだような声。全員がそちらへ振り向くと、そこには涙目の大魔王様。
いたんだ。
とは思ったが、それを言ったら泣き出してしまいそうなので口には出さない。
「あー、アニタ様いたんだ?」
このオーガ容赦ない。僕が踏みとどまった言葉を言いやがった。
「いーまーしーたー! 最初からいましたー! 一番乗りでしたー! そもそも寝室がこの近くだから絶対に一番乗りですぅー!」
取り乱して叫ぶ大魔王様。なんだろう、なんというか、あれだ。この魔物、面倒くさい。
まあ1番面倒くさいのはこの状況を予想できていたはずなのにいじりだしたキスカさんなのだが。本当に面倒くさいから、軽率にいじるのはやめていただきたい。
「大魔王様。進まないんで落ち着いてください」
「はっ!? そうでしたそうでした!」
大魔王様は大げさに咳払いをして仕切り直す。
「これから、私達は魔王城へ行きます。そこで行うことは2つ。キトンの引き渡し。その際キトンの罪が軽くなるよう交渉します。そして、魔王に今後の政治の方向性……魔界を平和にすること、その話をします」
「……にゃ?」
キトンから疑問の声が上がり、そこで話が中断された。
「魔界を平和って、にゃに?どゆこと?」
……どうやら、キトンは大魔王様が何を言ってるのかさっぱりわかっていない様子。
「大魔王様。もしかして、説明してないんですか?」
「……そういえば、言うの忘れてました」
何をやってるんだこの魔物は……。
「にゃんだそれ……頭おかしいにゃん……」
大魔王様の魔界平和計画を聞いたキトンの第一声がこれである。まあ、普通の反応だろうな、と。
「大魔王が戦争をしにゃいとか、職務放棄にも程があるんじゃにゃいか?」
「うーん……それを言われると弱いんですけどねぇ。でも、目指しちゃったものは仕方ないですよね?」
「仕方にゃいとかじゃにゃい気がするんだけどにゃあ……」
キトンがあきれたように呟く。事実その通り。大魔王の1番大きな仕事は『人界との戦争を始める』こと。それをしないとか、職務放棄以外の何物でもない。
「……でも。このままじゃどちらかが滅びるまで争いは続く。それはいけないと思うんです。私」
「ふーん。よくわかんねーけど、わかったにゃん。よーするに、ニコも悲しまにゃくなるってことで良いのかにゃ? ……ま、それにゃらいいにゃん」
そう言ってキトンは笑う。その笑顔を見て一瞬きょとんとした大魔王様だったが、すぐにそれは笑顔に変わった。
「話は終わったー? そろそろ魔王城に行こうよ。ずっとこれ背負って待ってるのも辛いからさ?」
話が一段落付いたところで、キスカさんが言う。大魔王様はその言葉にうなづき、改めて宣言する。
「では。これより私達は魔王城へと向かいます。と、いうことでしゅっぱーつ!」
酷く緩いが、これで良いのかな? これが、この大魔王城の空気なのかも知れない。皆でしゅっぱーつ! と唱えて、大魔王城を出る。
目指す場所はそう遠くない。かつて僕がいた場所……魔王城、だ。
第1回!用語解説コーナー!
アニタ「どうも、私です。大魔王のアニタです!」
アラン「いきなり何が始まったんです?大魔王様」
アニタ「それを説明する前にまず、ここはメタ空間だと言うことを理解してください、アラン」
アラン「ああ、はい、了解です」
アニタ「よろしい。では、何が始まったか?それは……用語解説コーナー!です!」
アラン「人気作品の作者様がやるようなことをどうしてまたこんな底辺作者が……」
アニタ「その人気作品の作者様の真似がしたかったらしいですよ?これやればお気に入り登録伸びるかもとか思ってるらしいです」
アラン「うわ、救えないですねそれ」
アニタ「実際よくわかんないこと多いと思いますしね?主に作者の描写不足で」
アラン「まあ、確かに?」
アニタ「ということで、今回からやっていきますこのコーナー、第1回のお題は!?」
大魔王、魔王とは何か!
アニタ「です!」
アラン「さっきからカギ括弧のついてない天の声みたいな声は誰の声です?」
アニタ「細かいことは気にしない!早速用語解説に行きますよ!まず、大魔王とは何かを話しましょう!」
アラン「ややこしいですよね。魔王もいるし大魔王もいるって」
アニタ「まあすっごく簡単に言うと、皆様の世界で言う天皇様みたいなものですかね?細かくは違いますが」
アラン「そうですね。大魔王の役割は、人界との戦争を始めること。戦争開始を宣言できるのは、魔界の大魔王だけです」
アニタ「あとは人界の勇者を待ち構え、辿り着いた勇者とラスボスとして戦う役割も持ってますね。」
アラン「まさしく某国民的RPGの大魔王、といった感じですか」
アニタ「それに対して魔王とは、魔界全体の政を行う役職ですね。皆様の世界で言う総理大臣さんのようなものです」
アラン「魔王が決めたことを地方領主に伝え、魔界全体のある程度の統制を取る、と」
アニタ「そういうことです。これが、魔王と大魔王。そして、魔王と大魔王には力がないとなれません」
アラン「それはどうしてですか?」
アニタ「それに関しては次回、『魔物とは何か!』で合わせて解説しましょう!」
アラン「あ、そういうスタイルでやっていくんですね」
アニタ「それでは今回はこの辺で!お相手は、大魔王アニタと?」
アラン「大魔王軍兵士、アランでした」
アニタ「また次回!ばいばーい!」