歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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侵入者は金髪碧眼

 カミラさんの声を聞き、訓練場の外へ出ると、そこにはカミラさんと倒れている女の子がいた。

 

「カミラさん、侵入者って……」

 

「この子だ」

 

 目の前の女の子を見て、カミラさんは言った。

 すうすうと寝息を立てるその子は傷だらけだ。それに風呂にも入っていないのか汚れている。ネコ耳としっぽがあることから、種族はケットシーだろう。さらりとした柔らかそうな金髪が陽の光を浴びて光っていて、その姿はまるで妖精のようだった。

 

「綺麗な子……んで? この子どーすんのカミラ」

 

「もちろんアニタ様の所へ連れて行く。青年、キスカ。手伝え」

 

「了解です」

 

僕は玉座の間に連行するべく、ケットシーの子を背負おうとする。が、いきなりキスカさんに殴られた。

 

「いった!? 何するんですかキスカさん!」

 

 僕がそう言うと、キスカさんは呆れたようにため息をついた。

 

「男が女の子を運ぼうとするとか言語道断! ウチが担いでいく。ひょろひょろした男の手伝いとか、逆に足手まといだ」

 

 と言って、キスカさんはケットシーの子をひょいと担いだ。実に軽そうに、ひょいっと。

 

「まあ気にするな青年。オーガと筋力勝負なんてするだけ無駄だからな」

 

「……僕、何も言ってないです」

 

 

 

 

 

 

「アニタ様。城内にて侵入者を発見しました。ここに連れてきていますが、意識がありません」

 

 場所は変わって、玉座の間。先にカミラさんが入って、大魔王様に報告をしている。

 

「わかりました。その物を入れなさい」

 

 大魔王様は厳かに告げる。その声を聞いて、ケットシーの子を担いだキスカさんと僕が玉座の間に入った。

 

「このケットシーが、今回の侵入者です」

 

 カミラさんの報告を受けて、大魔王様はキスカさんの肩に担がれる少女に目を向ける。その瞬間。ほんの一瞬だけ、大魔王様は驚いたように目を見張った。

 だが、すぐに調子を取り戻し、カミラさんにこの子の『処理』を告げる。

 

「とりあえず、目が覚めるまでは安静に。私のベッドで寝かせましょう。怪我をしているようなので、水魔法による回復も施しておきます。……あとの処理は私が行うのであなた方がいる必要はありませんが……」

 

 僕は正直ここから離れたくない。というのも、関わってしまったから何も知らずに処理が行われるとか、嫌なのだ。

 横の2人を見ると、2人も離れたくない様子。

 

「離れる気はなさそうですね。まあ良いです。事情聴取に付き合ってもらいましょう」

 

僕たちの様子を見た大魔王様は、あきらめたようにため息をついてそう言った。

 

「ありがとうございます」

 

と冷静に僕。

 

「りょーかい。ありがとねアニタ様」

 

と軽くキスカさん。

 

「アニタ様ナイスです。うら若き乙女の看病は私にお任せを」

 

と興奮を隠しきれない様子でカミラさん。

 

 酷い。1人だけ酷すぎる。

 

「カミラ。あなたには看病は任せません私がやります。今からまた瓶詰めの血をあげますからそれで我慢していなさい」

 

「そんな殺生な! 私が受けとるのは誰の血ですか!」

 

「キスカのです」

 

「いやっほおおおおおう!」

 

「いつの間にそんなことを!? アニタ様ぜってー許さねぇからな! 渡すなよ!? この変態にウチの血を渡すなよお!?」

 

 酷い。皆酷すぎる。帰りたい。とにかく、この場から離れたい……

 

 

 

 

 

 

それから数時間。結局キスカさんの血はカミラさんに渡り、カミラさんは狂喜乱舞しながらその血を飲み干し、キスカさんは「横暴だ! 権力の不当行使だ! パワハラだぁ!」と大暴れした……と言うのはどうでもよくて。

 

 大魔王様の寝室。いつも大魔王様が寝ているベッドに、今はケットシーの少女が寝ている。

大魔王様の寝室は綺麗に片付いていて、豪華な装飾と、ところどころに少女らしさの残る小物が大魔王様らしさを醸し出させている。

 件のケットシーはまだ目を覚まさない。ちなみに寝ている間に耳やしっぽを引っ張ったりして確認したところ、ちゃんとケットシーだということは判明した。

 風呂に入れていないため汚れは落ちていないが、大魔王様の魔法のおかげで傷は完全に治っている。

 

「目。覚ましませんね」

 

「よっぽど疲れてたんでしょう。傷だらけでしたからね。……何かから、逃げてたのかな」

 

 大魔王様は、ケットシーを悲しそうに見つめる。……どうして大魔王様は悲しそうなんだろうか。さっぱりわからない。

 

「……どうやって、ここに入ったのだろうな。この子。正直、大魔王城へ誰にも気づかれずに侵入するなんてあり得ない」

 

「そもそもー、この子が侵入したのっていつだろうね?やっぱり夜かな。昨日の夜門番してたのって誰?」

 

 キスカさんが軽く聞くと、僕の隣からすっと白い手が伸びた。

 

「……私です」

 

 大魔王様だった。

 

「なんでこの城のトップが門番やってるんですか……」

 

「なぁにやってんだよぅアニタ様ぁ……うーん、でもまぁアニタ様が気づかなかったんじゃ誰も気づけないね-。……こんなに目立つのにね」

 

 と言って、キスカさんはケットシーの金色の髪を撫でた。

 

 すると。ケットシーの子が目を開けた。焦点の合わない碧い目が、キョロキョロと辺りを見回す。

 

「ん……ここぁ……?」

 

 寝起きで舌の回らない声で、少女は尋ねる。

 

「ここは大魔王城です。そして、私が大魔王。」

 

「……大魔王……?」

 

 少女は意味がわからないというように声を上げる。寝起きで頭が回っていないのだろう。

 

「……大魔王……大魔王?大魔王!?」

 

 ぼそぼそとつぶやいて、必死に考えていた少女は次第に青ざめた顔になっていき。

 

「にゃぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

と。大魔王様の寝室に、絶叫が響き渡った。


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