歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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デイブレイク:アランの騒がしい朝

 家が焼けていた。

 魔物が焼けていた。

 毎日見ていた村の風景は、燃えて、焼けて、焦げていった。

 

 どうして?と、僕は思った。

 死ぬのかな?と、僕は思った。

 

 誰がこんなことを?と、僕は思った。

 死にたくない。と、僕は思った。

 

 やがて僕は倒れた。意識は朦朧として、目の前すら霞んで見えない。

 

 もう一つも命が残っていないはずの炎の中に、一つだけ黒い影が見えた。

 

 その影は剣を携えて、金属のものであろう防具を身に纏っていた。

 

 人だ。と直感的に思った。

 人間だ。と、僕は決めつけた。

 

 やがて薄れていく意識の中で、なぜかその人間の、哀れむような顔だけが、はっきりと見えていた。

 

 深い深い穴の底。ここは記憶の溜まり場。

 記憶を繋いで、夢を見た。

 

 

 

 ぼんやりと目を開ける。ふわふわした視界の中で、黒い影を視界に収めた。人型。そして、こちらを見ている……。

 

「お前……!」

 

 僕の敵だ。村を焼いた、敵が目の前に居る!そう思った僕はベッドから飛び起き、その黒い影を押し倒した。

 

「青年……」

 

 目の前の影はそう呟いた。僕のことを青年と呼んだそいつを、僕は……ん?青年と?

 もう一度目をこらして、僕はその影をよく見る。

 

「カミラ、さん……」

 

 ロングストレートの銀髪。青い目に、美しい顔。どこからどうみてもカミラさんだ。疑う余地もない。

 

 ……やばい。やってしまった。

 そして、不運は重なる。真横から唐突に、

 

「な……何をやっているの!2匹共ぉー!」

 

と。大魔王様の絶叫が聞こえたのだ。

 

 

 

「つまり。アランはカミラを、夢で見た自分の村の仇と勘違いして押し倒した、と言う訳なのね?」

 

「はい……その通りでございます」

 

 僕は今、自分の部屋で正座し、美女2匹から尋問を受けている。

 シチュエーションだけで見ると、世の男性の魔物達は1度は直面してみたいと思うのかも知れないが、僕はそんなことはないので地獄でしかない。

 カミラさんは、

 

「正直驚きで声も出なかった。青年にこんな力があるとは、見くびってもいられないな」

 

 などと感心したようなことを言っているが、抑えきれないプレッシャーがちろちろと漏れ出している。……多分、怒っていらっしゃる。

 

「あのー、カミラさん? 怒ってらっしゃいます?」

 

 おそるおそる訪ねる。怒ってなければ良いなー、と、叶うはずもない望みを込めて……。

 

「ん? 怒ってない。私は全くこれっぽっちも怒っていないぞ青年」

 

 カミラさんはにっこりと笑いながら言う。だが、その言葉と共に漏れ出すオーラが少しだけ増した。怒ってないとか絶対嘘だ。

 

「さて……どんなお仕置きをしようか?」

 

 ほらーやっぱりー。

 

「水責めとかどうでしょう?」

 

 大魔王様がお昼のメニューを提案するかのような軽さでエグいお仕置きを提案してくる。

 

「ちょっと待ってください、僕死ぬ、それ死にます!」

 

「じゃあ高重力で押しつぶすか?」

 

「それも駄目です! 死にますから!」

 

「あ! 昔人界で行われていたとかいう、魔女狩りの再現は?」

 

「いいですねアニタ様! それに賛成だ!」

 

「あの! 僕! 魔王軍に戻ります!」

 

 死ぬくらいなら、嫌いな主を捨てて恩のある主の許へと戻りたい。あの頃はまだ平和だったと、僕は魔王軍に居た頃に想いを馳せた。……よくよく考えてみると、そんなへいわでもないな。魔王軍での生活

 

 

 

 

 

 

「すまない、ほんの出来心だったんだ! 君の反応が面白すぎてつい!」

 

「そうですよ!ほら、いじりがいがあるといじってしまいたくなるというか、つっこんで貰えるとボケたくなるというか……」

 

 事態は一転、僕の魔王軍に帰る宣言で、今度は美女2匹が僕に平謝りする番になった。だがしかし、こういうのはしっかりやり返さないと気が済まない。

 さて、どんな無理難題を押しつけて……。

 

「なあ青年? 何か企むのも良いが、私達に反撃をするとどうなるかわかってるだろうな?」

 

「……あなた達は遠い異国の魔物であるサトリかなんかですか? 魔物の心を読める能力とか備わってるんですか!?」

 

 強さと権力を使って反撃を抑え込むとか、かなりずるい気がする。

 

 

 

 

 

「まあ、あれだ。そろそろ城案内をはじめようか」

 

「……といっても、もう主要な施設はほぼ紹介したんですけどね」

 

 結局話は落ち着いて、今日の城案内に向かうことになった。しかし、主要施設はほぼ紹介したとは。今日はどこにいくつもりなんだろうか。

 

「まあ商店なんかを回るだけかな。店なんかも、簡易的な食品が売っているだけに過ぎないし特に紹介する必要もないんだが」

 

「でも、どこにどのお店があるのとか把握するのは大切ですからね。時間の短縮にもなりますし」

 

 というか。1つ疑問がある。

 大魔王様は、たびたびカミラさんに『次はどこへ行くんです?』と訪ねている。それはつまり、僕たちがどこに行くのか把握していないということだ。

 

「この城案内の回り順って、大魔王様が考えたものじゃないんですか?」

 

 僕がそう訪ねると、大魔王様はあっさりと頷いた。

 

「はい。そういうのは、カミラに一任しています」

 

「一応アニタ様の側近であり、新入りの教育係でもあるからな。私は」

 

 ということは、大魔王様が城案内についてくるのも今回が初めてってことか。……どれだけ気に入られてるんだ?僕。

 ちらりと大魔王様の方を見ると、大魔王様は僕を見てニッコリと笑った。


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