歴代最強大魔王は平和を望んでいる   作:個人情報の流出

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復讐鬼と吸血鬼 2

 城エリアに寝室のある大魔王様と途中で別れ、あぱーとに戻る。

 広い城内を歩いているうちに、辺りはすっかり夜になった。空にきらめく星と月は、意外にも綺麗に見える。

 

「今宵は良い月だな。満月は良い。力があふれてくる」

 

 カミラさんはしみじみと言う。カミラさんの言うことは本当らしく、カミラさんの纏う魔力は昼間よりも増しているようだった。

 

「カミラさん、この後、僕の部屋に来て貰えますか?」

 

 カミラさんに聞きたいことがあった。聞きたいことがあった。カミラさんになら答えて貰えるかな、と言う不確かな思いだが。

 

「ふむ……君の部屋に、か」

 

 カミラさんは少し考えるようなそぶりを見せた後、ふっ、と笑った

 

「残念ながら青年。私はもう子作りをするつもりは無いのでな……」

 

「ちょっと待って下さいカミラさんあなたは何を言っているんですかちょっと!」

 

 身体をもじもじさせながら、色っぽい声でのカミラさんの爆弾発言である。

 

「こんな夜……男性が女性を部屋に招くとか、そう言うことだと思ったんだが……違うのか?」

 

「違いますよ! ちょっと聞きたいことがあって、それだけです!」

 

「でもぉ……招かれたとは言え夜、男性の部屋に二人きりなど……」

 

「今日の朝勝手に僕の部屋に入って二人きりだったでしょうが!ふざけないで下さいよもう!」

 

 ……なんというか、相談を持ちかける相手を間違った気がする。

 

 

 

 

 

 

「で、だ青年。私に紅茶の一つでも振る舞いたまえ?」

 

 僕の部屋について早々椅子に座り、足を組んで茶を催促するカミラさん。

 

「なんかもう……色々と諦めましたよ」

 

 溜息をついて、僕はさっと紅茶を淹れる。

 

「本当は血を振る舞って貰いたいのだがなぁ。ほら、君飲む用の血を持ってないから」

 

「だから、飲む用の血を持ってる魔物なんてどこにも居ないですって……」

 

 これじゃあ朝と何も変わらないな、と。そう思ってしまう。だけど今は朝とは違う。用事があるのは僕で、彼女を招いているのだ。

 

「じゃあ、話を始めても良いですか?」

 

 紅茶をカミラさんに出して僕も椅子に座る。

 

「ふむ。良いだろう。聞かせたまえ?」

 

 差し出された紅茶を1口飲んで、カミラさんはそう言った。

 

「僕は、大魔王様が嫌いです」

 

「ほう、それはまたどうして?」

 

「……大魔王様は平和が一番と言いました。その通り、ここは平和なんでしょう。ここは」

 

 僕の話を聞いていて、カミラさんは微笑みを崩さない。まるで僕がこれから言うことを全て見透かしているかのようだ。

 

「でも、外は……ここ以外の魔界は違う。1万年前から、それより前から……決して変わってません」

 

 争いはどこにでもある。仲間割れも、略奪も、どこにでもあるのだ。

 新魔界歴になって、魔族に人の血が混じり、大魔王が人との戦いを管理するようになって、魔王が政を行い、地方に領主が出来ても。どれだけ理性的な人に近づいても、結局魔物は魔物なのだ。

 争いは止まらない。平和にはならなかった。

 

「ここの皆さん、適当ですよね。キースさんなんて自分で適当って言ってましたし。……それが気に食わない。大魔王様も遊んでるだけ。僕は、僕たちは苦労して生きてきているのに……ここだけ、ふざけた平和を謳歌している」

 

「……そうだな。私たちは適当だ。かなりな。だけど、ここまで来るのに、私達が何年かけたか……君は知らないだろう?」

 

「何年、かけたか?」

 

 確かに、それは知らない。確か、魔王アニタが大魔王になったのが4000年前……。

 

「まあざっと3900年。土地を開拓し、城を改築し、ルールを敷き、人を集めた。物資をためこみ、店を建て、畑を作り、住居も作った……。この城は、もちろん新魔界暦始まって以来シェルターとして作られていたが、元々ここで作られる物資は、大魔王が生き長らえていられる分だけだった。それを彼女は変えたのだ。大魔王に仕える物を全て養えるようにな」

 

「……だからと言って今休んで良いという事にはならないのでは?」

 

 僕の言葉を聞いて、カミラさんはふむと頷く。

 

「……ではこれならどうだ?アニタ様は、近々現魔王と会って、話をするつもりらしい。100年前にこの制度を完成させた。そして、説得力を持たせるため……この制度で100年を過ごした。まあ、たったの100年だがな。不和の陰りもなく、ここは平和だ。この制度を魔界に浸透させる。これが、アニタ様のやろうとしていること」

 

「……」

 

「それに、今日だって何も遊んでたわけではないぞ? アニタ様自身は仕事はないと言っていたが、この城の見回りだって立派な仕事だ。彼女は自分の作った城を、自分の目で見ているのさ」

 

 何も言えなくなった。何も。無言になってうつむく僕に、カミラさんは少し大袈裟に溜息をつきながら言った。

 

「君は視野が狭い。そして、真面目だ。もちろん真面目なのは良いことだし、アニタ様のあの態度じゃ、シェルターの中で身内だけで平和を謳歌する軟弱物にしか見えないのもわかる」

 

 そう言って、カミラさんは紅茶を飲み干す。

 

「君は皆から話を聞くべきだ。イグナシオからも話を聞いたのだろう?皆の話を聞いて、それから君がどうするか考えると良いだろう。君の主義に反するならここを出て行くも良い。ここに居て、もっとアニタ様を見ていくのも良いだろう……私も、君に話をしよう私と彼女が出会ったときの話をな」

 

 そこで言葉を切り、カミラさんはカップを僕に差し出す。

 

「青年。とりあえず、おかわりを所望する」


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