迎えた大洗女子学園との練習試合。
場所は大洗市内。大洗女子学園8輌に対し、知波単学園は15輌で挑む。
戦車の数だけでは倍近く有利であったが・・・ ”機を見て全軍で突撃を行う” という具体性のない作戦では勝機をつかめるはずもない。結果はやる前から見えていた。
知波単学園は大洗女子学園の1輌の戦車も撃破することが出来ず、一方知波単学園の戦車は1輌残らず撃破された。文字通り完膚なきまでに叩きのめされた。
「いつにも増して楽な試合だったね」
「まあ相手の作戦分かり切っているし」
「というか、突撃自体もなんか中途半端だったよね」
決して聞こえてきたわけではないが、西にはそうした声が突き刺さっているように感じた。
「西さん!」
「西住隊長!」
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、不甲斐ない戦いをしてしまい申し訳ありませんでした」
「・・・」
西の苦悩が分かるだけに、みほとしてもなかなかかける言葉が見つからない。
「いろいろと大変かと思いますが、これからも頑張って下さい」
「いろいろと変えないといけない、やらないといけないとは思ってはいるのですが・・・なかなかうまくいきません」
西が自嘲気味に、かといって困惑しているのを隠しきれない様子で返答する。
「西さん・・・」
「あの・・・うまく言えませんが、私も戦車道に行き詰まり、一度は戦車道から離れた人間です。それでも大洗に来て、私は仲間に出会い、そして私なりの戦車道を見つけることが出来ました。今は大変でしょうが、西さんにもそんな日が来ることを信じています」
「ありがとうございます」
西には自信なげに返すしかなかった。
「隊長の迷いが全体に感染してしまっていたな」
「麻子さん?」
いつのまにか冷泉麻子が2人の近くに来ていた。
「冷泉殿、本日は有難うございました」
「そんなお礼はどうでもいい。それより今日は突撃にもいつもの勢いがなかった。いろいろと考えないといけない状況、立場なのは分かるが、それでも周りを不安にさせない、迷いを生じさせないのが隊長の役目ではないのか?」
「迷いのある突撃ほど相手にしたら楽なことはない」
「面目次第もありません・・・」
西はうなだれるしかなかった。
「それよりも知波単も信念があってチハに乗っているんだろ?それに口を挟む権利は私にはないが、それでも今日の戦いじゃチハもかわいそうだ」
「・・・!!!」
「信念を持ってチハに乗っているにも関わらず、その信念が揺らいでいる。チハにしたら支えであったものが揺らぎ、低いスペックだけをさらけ出してしまったようなものだ・・・」
「同じ戦車乗りとして・・・戦車が泣いているのは見ててツライ」
「チハが・・・泣いていたでありますか・・・」
西の目にも涙が浮かんでいた。
「戦績ほどうち(大洗)も楽な戦いはしていない。それは戦車に乗ってる中の人間も同じだ。お互い平坦な道は歩んではいない。縁あって二度も同じチームで戦った間柄だ。次会う時には苦難を乗り越えているのを期待している」
「ありがとう・・・ございます・・・」
とうとう西の目から涙がこぼれ落ちた。
麻子の横でみほも大きく頷いている。
口下手なみほは直接伝えることが出来なかったのだが、麻子が伝えたことと同じ思いだったのだろう。
「ねえ! この後はどうするの?」
一緒にそばにいた武部沙織が明るい声で話しかけてきた。
「この後は・・・訓練を兼ねて大洗の海岸で野営するつもりです」
「そっか。よかったらみんなで一緒に食事でもしながら話をしようと思ったけど、じゃあまた今度だね!」
「お気遣い、有難うございます」
西はその明るい声になんとか自分を立て直すことができたことを感謝した。
「でも、その前にみんなで潮騒の湯ですね」
五十鈴華が口を挟む。
「あっ、そうか」
「親善試合の後のあの湯は心地よかったであります」
「やっと笑顔が戻ったね! じゃあ後で温泉でね」
あんこうチームの面々はそれぞれ西に挨拶をし、歩いて向こうに行き始めた。
西は沙織の明るさに改めて感謝するとともに、こうした一人一人の個性が大洗の強さを支えているのかもしれないなと思った。
「麻子があんなに話をするなんて珍しいね!」
歩きながら沙織が声をかけた。
「ああいう真っ直ぐな人は面倒な面もあるが・・・嫌いじゃない」
「そういえば風紀一筋のそど子さんとも仲がいいですしね」
「あれはまた別だ・・・」
~~潮騒の湯~~
知波単の面々は表情が一様に重かった。
前回はサウナを見るや絶好の鍛錬の場と意気込みサウナを占領していたが、今回はそうした余裕もなく湯に浸かるのが精一杯という感じだった。
中でも福田と玉田の落ち込みようは尋常ではなかった。
福田にしてみれば、先の全体教練からの忸怩たる思いはあっただろうし、それ以上に今回も隊長の西を助けられなかったとの思いが強かっただろう。
玉田にしてみても、突撃することを進言したものの結果は惨敗。というより、目指す突撃が出来なかったこと、福田と同じく西を支えられなかった思いが強かったに違いない。
「福ちゃん、大丈夫かな・・・」
福田の落ち込みようは、先日一緒にバレーをし、戦車道の話をしたバレー部の面々も声を掛けるのが憚られるほどだった。
「ちょっと、いいかな?」
西の近くにカエサルが寄ってきた。
「あなたは三突の・・・」
「カエサルだ」
「かえ???」
「この後はどうするんだ?」
「訓練も兼ねて、大洗の海岸で野営するつもりです」
「そっか・・・よかったら野営地に行ってもいいか?うちのチームはみんな歴史好きなんだ。あなたがたも戦史研究はしてるんだろ?こういう機会もなかなかないから、みんなも連れてじっくり話がしてみたい」
「はい!私も大洗の方と話が出来るものならしてみたいと思っていました」
先ほど麻子や沙織との話の中で、改めて大洗の面々に興味を持った西からすれば、来てもらえるなら断る理由はなかった。
なお、歴女チームは4人で一緒に住んでいるから、一晩くらい皆で家を空けるのは問題なかった。
それもあって、カエサルはバレー部の面々から様子を見てきてもらえないかと頼まれていたのだが・・・
「4人で来たよー」
陽もすっかり落ちて辺りが暗くなったころ、歴女チームが野営地にやってきた。