とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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小説内における時系列を。
最終章の内容は考慮しておりませんのでご了承下さい。

7月中旬:隊長が辻→西に交代
8月中旬:この小説の始まり&大洗での親善試合
8月下旬:大洗女子学園と大学選抜との試合
9月下旬:大洗女子学園との練習試合(4話)
11月初旬:大洗女子学園との再戦(20、21話)
11月下旬:新戦車導入(24話)
12月上旬:サンダースとの練習試合(30~32話)
年末年始:銚子でアンツィオとコラボイベント(35話)
1月上旬:アンツィオとの練習試合 ←←今ここ

あとがきに編成とオリキャラをまとめました


36.突撃(四次元殺法)

「あ、ありのまま今起こってる事を話すよ! 戦車がすごいスピードで走ってると思ったら、引っくり返るんだ。そしたら戦車がバンバン飛んできて・・・何を言っているのか分からないと思うけど、私も最初何が起きてるのか分からなかった。こんなの試合でいきなり見たら、頭がどうにかなりそうだよ。機動力だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。戦車でこんな戦いが出来るのかと・・・」

 

観覧用のチハに乗った、たかちゃんことカエサルが、エルヴィンにLINEを送っている。

 

知波単とアンツィオの戦いにおいて決定から1日空いたため、カルパッチョがカエサルを試合を観に来るよう誘ったのだ。大洗から試合会場である佐倉市はそう遠くはない。電車で小見川駅まできたカエサルは、知波単が用意した観覧用のチハに乗車し、来賓の銚子市長、佐倉市長と共に試合を見ている。全国大会、大学選抜との試合と、大洗もかなり奇抜な作戦を実行してきたが、今目の前で起きている常識外れな戦いはどう表現したらいいのか・・・カエサルも言葉に窮している。

 

~~~~~~~~

 

1月4日。

 

前日の夜に知波単とアンツィオの練習試合が決定、知波単は急ぎ編成と対策を立てることとなった。

そして、西はある思惑の下、受話器を取る。

 

「辻殿、急な話ですが、明日にアンツィオと練習試合を行うことになりました。それで・・・辻殿には是非四式中戦車に乗って頂きたいのです」

 

それを聞いて、通話口の向こうにいる辻が、かけている丸眼鏡をクイと動かす。

 

「西・・・分かっていると思うが、私はその手の冗談は全力で信じる人間だ。今さら二言があるとは言わせんぞ」

 

「もちろんそのつもりです。玉田には装填手として辻殿のサポートをさせます」

 

「編成はどうする?」

 

「辻殿の四式中戦車、私の一式中戦車、谷口の新チハ、福田の九五式で臨むつもりです。アンツィオはP40にセモヴェンテ1輌、CV33が4輌の予定です。試合としては殲滅戦ですが、彼我の戦力を考えるに、実質的にこちらは四式、アンツィオはP40がフラッグ車になるようなものでしょう」

 

「しかし、大洗やサンダースほどではないとはいえ、安斎のいるアンツィオは決して楽な相手ではないぞ。ましてやP40がいるというのでは。本当にそれでいいのか?」

 

「アンツィオは・・・アンチョビ殿にもう一度P40に乗ってもらいたいということで練習試合を申し込んできました。であるならば、私としては・・・やはり新型戦車導入に尽力下さった辻殿に乗ってもらわねばなりません」

 

「分かった。そこまで言うなら厚意に預かるとしよう。何時に講堂に行けばいい?」

 

「13時から講堂で会議、その後戦車の点検と輸送準備。試合は明日の午後になりますので、輸送は明日朝に行う予定です」

 

「委細承知した」

 

知波単の作戦としては、4輌がひし形を組む隊形、前の頂点を谷口の新チハ、右の頂点を西の一式中戦車、左の頂点を福田の九五式、後ろの頂点を辻の四式中戦車とし、4輌が常に連携を取れる態勢としつつ、後方の四式が敵戦車を撃破するものとした。CV33の8mm機関銃では、一番装甲の薄い九五式でもよほど運が悪くなければ撃破されることはないだろうが、相手は巧妙なデコイと共に、今回は貸与するチハドーザーで戦車を隠すことも予想される。不用意に近づくと命取りになるのは明らかである。

 

~~~~~~~~

 

1月5日午前10時。

 

チハドーザーの使い手である池田が、アンツィオに引渡すため、操縦方法・ドーザーの操作方法を教えている。そこでふと池田は、CV33の1輌が妙なそりのようなものを前方に付けているのを発見した。このあたりを自然と発見できるようになったのも、知波単改革の成果といえるのかもしれない。

 

「ぺパロニ殿、あのCV33に付いているのは?」

 

「あー、見つかっちゃったか! あれこそ今日お披露目する秘密兵器さ。大丈夫、ちゃんと戦車道連盟に使用が問題ないことは確認済みだから」

 

「ホントはカルロヴェローチェに槍とか付けたかったんだけど、それはさすがにダメだろって話になって・・・あ、あれも別に戦車を刺そうとかするわけじゃないから安心して!」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「で、これをこうしたらドーザーが持ち上がるってわけね。おっし、これで大丈夫っす! うちもタンケッテドーザー欲しいなー。この試合に勝ったらチハドーザー1台分けてくんないスか?」

 

「そんな継続高校みたいなことを言わないで下さい・・・では、健闘をお祈りしています」

 

「そっちもね!」

 

チハドーザーの引渡を終えた池田は、CV33に付いているそりのこと、そして数多くのデコイが搭載されようとしていたことを西に報告した。やはり一筋縄ではいかない。そして、主力がカルロヴェローチェであっても、その相手側、今は知波単の立場だが、これだけ脅威を感じるものなのかと。チハだからこそ出来る戦いがある、勝敗をチハのせいにしてはいけない。改めて西は思った。

 

~~~~~~~~

 

「各車、警戒を厳にして下さい」

 

今回隊の指揮は全面的に福田が行うことになった。知波単の4輌の戦車は、ひし形の隊形で進んでいる。元々の地面が刈り取られた後の水田ということで走行にも支障があるのではと心配していたが、どうも佐倉市側がローラーをかけてくれているようで交戦が想定される区域までは順調に走行できそうである。

 

「こちら谷口、CV33・・・のおそらくデコイを発見。発砲して確認します」

 

新チハの7.7mm重機関銃がデコイをなぎ倒す。

 

「もうここまでデコイを置いてるのか・・・」

 

「デコイを多く置いて、逆に本物をそれにくらます作戦に出たようだな・・・これはかなり厄介だ」

 

「まあ敵さんの8mmじゃこちらもそんなに心配はしなくていい。油断はいけないが考えすぎても相手の思うつぼだ。とにかく慎重に進もう」

 

その後、いくつかのデコイを砲撃で倒す。本物はまだ来ないのか・・・知波単の各員は焦れつつあったが、不意にデコイの辺りからエンジン音らしきものが聞こえた。 ”すわっ! 本物か!?” 知波単に緊張が走るが、その次の瞬間、西が見た光景は想像だにしないものであった。

 

CV33が文字通り飛んできたのである。それも2輌も。

 

~~~~~~~~

 

今回知波単はチハドーザーを試合に投入しないため、池田は、カエサルらと同様に観覧用に用意されたチハに乗って戦況を見ていた。デコイの陰から本物のCV33が飛んできたことに驚愕した後、周りをよく見たらジャンプ台らしきものがいくつも作られていることに気付いた。

 

「(まさか、チハドーザーをジャンプ台を作るために使うなんて・・・)」

 

いつの間にか戦場にはアンツィオが投入したCV33が4輌全部、前にそりがついたものも含めて走り回り、飛び回っている。しかし、驚愕はそれだけにとどまらなかった。

 

全速で走行するCV33が横滑りしながら急停止し、勢い余って横転し履帯を空に向けた。何が起きたのかを瞬時に理解出来なかったが、引っくり返って履帯を上に向けているCV33目がけて、別のCV33が全速で走るのを見て、池田はこれから起きることを予測した。いや、予測という確度の高いものではなく、疑念に近かったかもしれない。

 

しかし間もなく、池田の予測の通りに全速力で走行するCV33は、引っくり返っているCV33をジャンプ台にしてロングジャンプを行った。そう。大学選抜との試合でヘッツァーがカール自走臼砲を撃破した時のように・・・

 

致命傷とはならなかったが、西の乗る一式中戦車にそのロングジャンプをしたCV33の期間銃弾は何発か命中したようである。知波単の戦車はまだ1輌も撃破されてはいないが、傍目に見ても明らかに混乱しており、逆にアンツィオの戦車を1輌の撃破も出来ていない。

 

明確な混戦状態。となれば次に来るものは・・・池田にもそれは容易に推測出来る。

 

「(セモヴェンテとP40はどこにいる?・・・)」

 

ほどなく、それまでの機関銃音とは明らかに違う砲声が響くようになった。CV33が機動力で作りだした混戦の隙をついて、セモヴェンテとP40をもって撃破しようということだろう。

 

「(これはさすがにまずい・・・)」

 

実際に自分が戦っていなければ、これほど戦況が見えるものなのか・・・池田は新鮮な発見をした思いでいたが、戦況は明らかにアンツィオが主導権を握っている。それにしても飛んでいるCV33の数が多い。いかにドーザーでジャンプ台を作り、CV33自身がジャンプ台になっているにしても。引っくり返ったCV33は確かに大学選抜との試合においても白旗判定は上がっていなかったが、1度引っくり返ってそんなすぐに立て直せるものなのか?

 

池田の疑問は、目の前の不思議な光景が解決した。

 

あの「そりのついたCV33」が、そのそりを引っくり返ったCV33の下に潜らせ、お好み焼きを小手でひっくり返すようにくるっと回転させて起こしているのである。

車は急停止すると車体前部が下に沈み、それを元に戻そうとする力がはたらく。その時の作用でそりを潜らせ、くるっと起こしているのだろうが、そりを潜らせる位置もここでないと回転しないというのがあるのだろう。的確に停止しないとそれこそそりで戦車を突き刺すことになりかねない。なんにしても誰にでも出来る芸当ではない。

 

~~~~~~~~

 

知波単の混乱はまだ続いている。

 

「福田、私が囮になろう」

四式中戦車に乗った辻が、全体無線で福田に呼びかけた。

 

「心苦しいですが、現状を打開するには相手の攻撃を集中させる必要があります。誠に申し訳ございません。福田より各車へ。四式を狙ってくる敵を撃破するようにして下さい!」

 

「「了解!」」

 

「なに、こっちもせっかく四式に乗ってるんだ。簡単にやられるわけにはいかんよ」

 

知波単の思惑通り、アンツィオの攻撃は四式中戦車に集中した。おかげで知波単にとっても攻撃目標を集中させることが出来、2輌のCV33の撃破に成功した。しかしその後飛んできた戦車は・・・

 

「セ、セモヴェンテ!?」

 

確かに大学選抜との試合でCV33が飛ばしたヘッツァーは幅2.63m、重量15.75t。幅2.28m、重量13.51tのセモヴェンテを飛ばしても不思議でないがそれにしても・・・そしてカルパッチョの乗ったセモヴェンテは西の乗る一式中戦車を撃破した。

 

「(突撃という言葉は、アンツィオにこそふさわしい・・・)」

西は先のイベントで感じたことを、改めて思い知らされることとなった。




◆西車(隊長車/フラッグ車)・・・一式中戦車
 ⇒車長:西、装填手:倉橋/2年(オリ)、通信手:半田/2年(オリ)、
  操縦手:戸室/2年(オリ)

 ※(オリ)は作者のオリジナル設定。以下同じ。
  オリキャラはちばあきお氏の漫画、キャプテン、プレーボールから名前を頂いてます

◆玉田車(割り下小隊)・・・四式中戦車
 ⇒車長:玉田、砲手:松川/2年(オリ)

◇玉田僚車(割り下ご飯)・・・新チハ
 ⇒車長:浜田

◆寺本車(たまご小隊)・・・新チハ
◇寺本僚車(たまごご飯)・・・旧チハ

◆池田車(陣地構築隊/豆腐小隊)・・・チハドーザー
◇池田僚車(陣地構築隊/豆腐ご飯)・・・チハドーザー

◆名倉車(陣地構築隊/長葱小隊)・・・チハドーザー
◇名倉僚車(陣地構築隊/長葱ご飯)・・・旧チハ

◆谷口車(突撃隊/バント)・・・新チハ
 ⇒車長:谷口/2年、操縦手:丸井/1年(留年)、砲手:五十嵐/1年、
  装填手:久保/1年、通信手:小室/1年
  ※全てオリキャラ
  ※谷口は2年時にサンダース大付属から編入

◆山口車(突撃隊/牽制)・・・新チハ
 ⇒車長:山口/2年、操縦手:太田/2年、砲手:中山/2年、
  装填手:山本/2年、通信手:鈴木/2年
  ※全てオリキャラ

◆細見車(突撃隊/牛肉小隊)・・・一式中戦車
 ⇒車長:細見、操縦手:加藤/2年(オリ)、砲手:島田/2年(オリ)

◇細見僚車(突撃隊/牛肉ご飯)・・・旧チハ
 ⇒車長:横井/2年(オリ)

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