とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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以下、自分でも分からなくなったので・・・

◆サンダース戦の試合経過

サ)高地に10輌、林に10輌が向かう
知)高地裏に13輌、高地中腹に5輌、林に2輌が向かう

サ)高地の隊が、高地脇を抜けようとする知波単本隊の4輌を撃破(知:残16輌)
知)突撃隊が1輌撃破(サ:残19輌)

知)サンダース本隊と接敵、1輌撃破(サ:残18輌)
サ)知波単本隊の4輌を撃破(知:残12輌)
知)突撃隊2輌が本隊と合流

知)高地中腹に潜んでいた四式がファイアフライ他計2輌を撃破(サ:残16輌)
  チハドーザー3輌は高地中腹の掩体壕を構築した後、林に向かい陣地を構築

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サ)ケイが率いる本隊10輌とアリサが率いる別動隊6輌に分ける
知)突撃隊4輌がサンダース本隊を抑え、知波単本隊8輌がサンダース別動隊を叩く態勢をとる

知)池田車が1輌、四式が3輌撃破(サ:残12輌)
サ)池田車他3輌を撃破(知:残9輌)

知)突撃隊が1輌撃破(サ:残11輌)
サ)ケイが知波単の突撃隊を全滅させる(知:残5輌)
  セレナ車が「西住作戦」のため横転し行動不能(サ:残10輌)

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知波単本隊と、サンダース別動隊に合流した本隊が交戦

知)2輌を撃破(サ:残8輌)
サ)四式他3輌を撃破(知:残2輌)

知)、サ)西とアリサが相討ち(サ:残7輌、知:残1輌)
サ)福田車を撃破し知波単が全滅(サ:残7輌、知:残0輌)


33.理由(玉田の変化)

「申し訳ございません! 申し訳ございません!」

 

「泣くな、福田! お前が悪いんじゃない」

 

試合は終わった。今回の作戦を立案した福田は、試合後の礼の後、地面に頭を付け、ワンワン泣きながら謝罪を続けている。それを玉田や細見は止めさせようとするが、当の2人も、いや、知波単の大半の者が膝から崩れ落ち、涙を止められずにいた。

 

もちろん知波単の隊員もサンダースに勝てるとは思ってはいなかった。しかし、勝利を掴むために、根本的に考え方を改め、血の滲むような鍛錬を積み重ね、そして待望の新型戦車も導入できた。仮に前年の最下位チームであっても、今年のシーズンが始まるまではスタートラインは同じである。もしかしたら今シーズンは優勝、日本一になれるかもしれない。どのチームの選手も、そして応援するファンも始まる前はそうした淡い期待に満ち溢れている。

 

しかし現実は残酷である。刻々と劣勢の度合いが増し、それでも最後の最後まで希望を繋いでいたが・・・結局のところは残0:残7という完敗であった。使用している戦車の性能が違う、中学までの戦車道経験者の数が違う、日々練習を行う環境が違う・・・いろんな要素はあるだろうが、それでも克服したい、克服できると願い、信じ日々を送ってきた。しかし突きつけられたものは ”知波単は弱い” という現実である。そうした絶望感を隊員は受け入れられず、ただただ涙するしかなかった。

 

そんな知波単の隊の様子を、西は涙を流すことなく、ただ呆然と立ち尽くしながら見ている。

 

「(これは・・・今日のこの負けは・・・隊長としての大きさの差だ・・・)」

 

試合前からケイという人物に触れ、その人物の大きさに圧倒された。それでも西なりに勝つための工夫を重ね、努力もし、皆もよく付いてきてくれたという自負があった。しかし、実際に試合が始まってからにおいても・・・作戦を立案する力、状況を理解し次の行動に移す理解力と判断力、隊を指揮する能力・・・全てにおいて西の遥か上にケイがいた。

 

隊長としての器の違いを見せつけられた今回、これまでのように試合後に涙を流すのは容易だ。実際、今にも崩れ落ちて泣けるように思う。

しかし西は、今ここで涙を流すことは、これまで自分に付いてきてくれた、支えてくれた隊員達を冒涜するように思えた。もしこの状況におかれているのが私ではなくケイであったならどうするだろうか?・・・ 決して涙を流すことはないはずだ。隊長として皆を奮い立たせ、次の道を示すことだろう。

そう思い直し、ようやく西は言葉を口にすることが出来た。

 

「みんな! 今日は本当によくやってくれた! 玉田も、細見も、谷口も、山口も、福田もみんなみんな・・・そして勝利のためにあえて味方の盾となってくれた者、今日の試合に出れなかった者も・・・みんなみんな・・・本当によく頑張ってくれた。皆は私の誇りだ! それでも試合に勝つことが出来なかった・・・ これはもう、試合前にも言ったが、隊長である私の責任だ!」

 

知波単の隊員は皆 ”そんなことはない” と否定するが、西はそれを制して続けた。

 

「私は・・・今日の悔しさは心に刻み込んだ。今、この瞬間から前を向いて歩いてゆく。そして・・・私にはこれからも皆の力が必要だ! 私は今日この場に集まっているケイさんや、西住さんや、カチューシャさん、ダージリンさん、アンチョビさんのような立派な隊長じゃない。でも、皆と一緒に勝ちたい気持ちは誰にも負けていない! 勝手なことを言っているかもしれないが、これからも皆の力を貸してくれ!」

 

「もちろんです!」

 

「いつの日か、勝利を掴みましょうぞ!」

 

これまで下を向き続けていた隊員も、ようやく前を向けるようになった。

そのタイミングを見計らったように、ケイとナオミ、アリサが西のところに近寄ってくる。

 

「ケイさん・・・」

 

ケイの姿を見た西の動きがまた止まってしまう。もちろんケイとナオミ、アリサは敗者である知波単を詰りにきたわけではない。むしろ逆だろう。しかし・・・西にとっては、サンダースの面々は格の違いを見せつけられた、そして圧倒的勝者の存在でしかなかった。

 

ケイは真っ直ぐ西を見ている。西はその視線に向き合うことが出来ず、思わず顔を背ける。視線を逸らしたことによりなお、悔しさ、惨めさが募ってきた。泣いてはいけない・・・先ほどそう誓ったはずなのに・・・しかし想いとは裏腹に西の目にみるみる涙が滲む。

 

小さく震える西の肩を、ケイはそっと抱き寄せた。

 

「絹代、あなたはあなたらしくチームを引っ張っていけばいい。後ろを見てみなさい。チハタンズのみんなは絹代が隊長であることが誇りであるようよ」

 

そう言われた西は後ろを振り向く。そこには涙をこらえつつもグッと前を見据えた知波単の隊員の姿があった。西は嬉しいような、申し訳ないような、悔しいような、何ともいえない表情を浮かべる。それを見たケイは改めて西の肩を抱き寄せた。

 

「大和魂は・・・私達のご先祖様は、最後まで諦めずに戦ってきたのでしょ?どんなに苦しくても、どんなに辛くても・・・私はそう習ったわ。隊長が諦めた瞬間、その隊は崩壊する。絹代、あなたも日本人なら、戦車に乗るなら、そしてチハに乗るなら、そのことを忘れちゃダメ」

 

「はい!」

 

”諦めたら終わり” 使い古された言葉だが、様々な困難をポジティブに乗り切ってきたケイが言うと重みが違う。そして西が歩むのと同じように、ケイがこれから進む道も多くの困難が立ち塞がるのだろうが、そうやってこの先も乗り越えていくのだろう。ようやく西は吹っ切れたような表情になった。

 

「ケイさん、ナオミさん、アリサさん、本当に今日は有難うございました!」

 

西は3人と握手をしていく。そして最後のアリサのところで、アリサは痛いぐらいに西の手を握り返した。

 

「西さん、あなたと私の勝負は今日は相討ち。私は決してこの試合に勝ったとは思っていないわ。次はグウの音も出ないほど、こてんぱんにやっつけるから覚悟なさい!」

 

「はい、私も負けずに頑張ります!」

 

「本当のことを言うとね・・・前の全国大会じゃ、私のせいで大洗に負けた。組合せ的にはプラウダには苦戦するとは思ったけど、決勝には十分行けると思ってた。でも私のせいで・・・あんな形でケイや他の3年生の高校戦車道を終わらせてしまった・・・」

 

「アリサ殿・・・」

 

西も同じ思いを前隊長の辻に対して持っていただけに、アリサの気持ちは手に取るように理解出来る。

 

「そして次期隊長に私が選ばれた。あのケイの後によ。ただでさえあの試合のことで私のことを良く思っていない隊員は多いわ。練習やミーティングでも ”ケイならそんなことしないのに” という声もしょっちゅう聞いたわ。そんな中でひと癖もふた癖もある、大勢の隊員を率いることがどれだけ難しいか・・・」

 

「アリサさんほどではないですが、私も同じように難しさを感じています」

 

「フン! 西さんを相手にする話じゃなかったわね。なんにせよ、苦しいのはあなただけじゃない。私も・・・、いや、苦しいとかじゃないわね。私はサンダースの隊長なんだから。私はサンダースの隊長であることを誇りに思っている」

 

「それは私も同じであります」

 

「今日あなたと会えて良かったわ。次も負けないからね!」

 

「はい。私も・・・次は相討ちじゃ済ませませんので!」

 

「チッ」

思わずアリサも舌打ちするが、悪くは思っていないようである。

 

「さて・・・この後は打ち上げパーティーだな」

一連の会話を見守っていたナオミが風船ガムを膨らませながら言った。

 

「またパーティーでありますか!?」

 

「当たり前でしょ。打ち上げをしないでどうするの? ましてやここは週4でホームパーティー、サンダースの艦上よ」

 

その言葉が終わると同時に、ケイの ”何してるの? 早く来ないと遅れるわよ” との声が聞こえる。

 

「ほら・・・もう待ちきれない人が呼んでるし」

 

「アハハ! 郷にいては郷に従えですな。承知致しました」

 

「それじゃ試合の片付けもあるから14時に前夜祭やった時の集合場所に来て。他校のゲストも来るからいろいろ聞かれるとも思うけど、適当にあしらってちょうだい」

 

「有難うございます、ナオミさん」

 

~~~~~~~~

 

試合後の打ち上げのパーティー会場。

 

前夜祭は野外ステージで行われたが、今回は屋内での立食パーティーで、一般の観衆はおらず戦車道の関係者だけが集まっている。アンツィオの屋台もこのパーティーでは無料で料理がふるまわれており(もっともサンダース側が報酬を支払っているのだが)、これまで以上に大忙しとなっていた。試合の緊張感から解放されたせいか、勝ったサンダースはもとより、知波単の面々も明るさを取り戻している。前夜祭では自重していたが、普段の知波単の学園艦では食べられないアメリカナイズされたファストフードや、アンツィオのイタリア料理に興味津々で、驚きの表情を見せながらも女子高生らしく次から次へと食事を皿に取っては食べてを繰り返していた。

 

「ダージリンさん、おつかれさまでした。皆様に喜んで頂ける試合が出来たかは分かりませんが・・・」

 

ダージリンとオレンジペコのためだけに用意されたような紅茶専用ブースに居座るダージリンに西が声をかけた。

 

「いえ。こちらこそ非常に興味深く拝見しておりましたわ。勝敗は時の運。わずか3ヶ月ほどでこれほどの変貌を遂げたあなた方なら、次は別の結果となるのも期待できるでしょう」

 

「はあ・・・まあ試合内容そのものは、0対7の残存車輌以上に完敗だったのですが・・・」

 

「勇気がなければ他のすべての資質は意味をなさない」

 

「チャーチルの言葉ですね」

 

「勇気という点では、あなた方は目を見張るものがありますわ。戦う姿勢においても、これまで信じてきたものを捨てるということにおいても。ところであなたは・・・」

 

ダージリンは西の隣にいる玉田に声を掛けた。

 

「は! 知波単の副隊長をしております玉田であります」

 

「玉田さんね。変わったのは西さんだけではない。よろしければ何があなた方を変えたのか聞かせてもらえないかしら」

 

「はあ・・・あまり変えたという意識はないのですが」

 

「いえ。試合に負けて涙を流す・・・それだけをとっても3ヶ月前のあなた方しか知らない私にとっては大きな変化ですわ」

 

「確かに言われてみれば・・・これでも私は中学の時も戦車に乗っていましたが、その時には確かに負けたら悔しくて泣いていました。そうしたことも知波単では失われていたのかもしれませんね」

 

周りから見ればこのことはかなり大きな変化ではあるのだろうが、玉田の様子は ”そんなこともありましたっけ” というようなあっさりした感じであった。

 

「ではなぜこの3ヶ月でそうなったと?」

 

「1つ確実に言えるのは、私は西隊長のことが好きですし、知波単のみんなことも大好きです。そんな仲間と一緒にいい思いをしたい。戦車に乗っていたい。この思いは確実に強くなったと思います。知波単の一員として、それまでは突撃して散ることが唯一の目的であったのかもしれないのですが、そのことに私も疑問を持っていませんでしたし、むしろ誇りを持っていました。ただ、もしかしたら ”知波単だからこうあるべきだ” というのに捉われてしまっていたのかもしれません」

 

「もっと自然に・・・仲間を、戦車を大事にしたいという感じですかね、今は」

 

「あとこれは・・・西隊長を前にして言うのはおこがましいですし、隊員の皆の手前言うのは控えていたのですが・・・あの試合でパーシングを撃破した時の手応え、みんなの喜ぶ声、大洗女子学園の一員として勝ち名乗りを受けた、あのゾクッとした感触・・・あれは忘れられない。戦車に乗っていてあれほど高揚したことはありませんでした。今は私は知波単の副隊長です。出来れば皆にもあの感触を味わってほしいですし、そしてなにより、知波単の皆で大きな敵に勝てたならば・・・その時の喜びは想像もつきません!」

 

聖グロから見れば、大洗での親善試合、大学選抜との試合における知波単は、勇敢というより虚勢を張っているように見えた。しかし目の前にいる玉田の自信に溢れた姿はどう表現すればよいのか・・・

 

「1つの撃破、1つの勝利があなた方を変えたということね」

 

「うーん・・・よく分かりませんがそうなのかもしれません」

 

「でもそれならもう一つ聞いてみたいわ。なぜあなた方は日本の戦車に、それもチハにこだわっているわけ? 試合に勝つのが目的なら強力な戦車を導入すればよいということにはならなくて?」

 

「それはもう知波単で戦車に乗っているからということに尽きます。中学時代は私は九五式軽戦車に乗っていましたので、チハで突撃する知波単の姿は憧れでした。そして知波単に入学して実際にチハに乗って、それで知波単がチハに拘る理由を知り・・・もう一度でもチハを好きになってしまうとダメですね。恋人のようなものです。チャーチルに乗って黒森峰やプラウダと戦っていらっしゃるダージリン殿なら分かって頂けると思うのですが・・・あのパーシングを撃破した時の感触。同じことをたとえばセンチュリオンに乗ってやったとしても、あれほどの興奮は得られなかったと思います」

 

「分かりますわ。丸っこい砲塔にくるっと巻いてある鉢巻アンテナ。そこにちょこんと突き出た短い主砲。あの可愛いのがパーシングを撃破したならそれはもう・・・」

 

「「「はい???」」」

 

オレンジペコ、西、玉田で突っ込むことになったのはともかく・・・打ち上げのリラックスした空気は、皆の口も滑らかにしているようだった。そして同じ頃、カチューシャを前にした福田は直立不動で起立していた。




◆西車(隊長車/フラッグ車)・・・一式中戦車
 ⇒車長:西、装填手:倉橋/2年(オリ)、通信手:半田/2年(オリ)、
  操縦手:戸室/2年(オリ)

 ※(オリ)は作者のオリジナル設定。以下同じ。
  オリキャラはちばあきお氏の漫画、キャプテン、プレーボールから名前を頂いてます

◆玉田車(割り下小隊)・・・四式中戦車
 ⇒車長:玉田、砲手:松川/2年(オリ)

◇玉田僚車(割り下ご飯)・・・新チハ
 ⇒車長:浜田

◆寺本車(たまご小隊)・・・新チハ
◇寺本僚車(たまごご飯)・・・旧チハ

◆池田車(陣地構築隊/豆腐小隊)・・・チハドーザー
◇池田僚車(陣地構築隊/豆腐ご飯)・・・チハドーザー

◆名倉車(陣地構築隊/長葱小隊)・・・チハドーザー
◇名倉僚車(陣地構築隊/長葱ご飯)・・・旧チハ

◆谷口車(突撃隊/バント)・・・新チハ
 ⇒車長:谷口/2年、操縦手:丸井/1年(留年)、砲手:五十嵐/1年、
  装填手:久保/1年、通信手:小室/1年
  ※全てオリキャラ
  ※谷口は2年時にサンダース大付属から編入

◆山口車(突撃隊/牽制)・・・新チハ
 ⇒車長:山口/2年、操縦手:太田/2年、砲手:中山/2年、
  装填手:山本/2年、通信手:鈴木/2年
  ※全てオリキャラ

◆細見車(突撃隊/牛肉小隊)・・・一式中戦車
 ⇒車長:細見、操縦手:加藤/2年(オリ)、砲手:島田/2年(オリ)

◇細見僚車(突撃隊/牛肉ご飯)・・・旧チハ
 ⇒車長:横井/2年(オリ)

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