とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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28.追憶(サンダースでの出来事)

「タカ子?」

 

「アリサか・・・」

 

「うちじゃ二軍の補欠だったアンタが、今じゃ知波単の特攻隊長だもんね。こんな時間に試合会場の視察とか、偉くなると大変ね」

 

「お前こそ隊長なんだから、会場視察とかそれこそかつての私のような二軍の補欠にさせておけばいいんじゃないのか? そもそもここはサンダースの演習場なんだし、こんな時間に視察するようなとこでもないだろ。アリサこそ地に足がついてないんじゃないのか?」

 

「うっ、うるさいわね! 隊長になるといろいろとやることも多いのよ!」

谷口に皮肉を言ったつもりが、真っ当な正論を返されて思わずアリサの声も大きくなった。

 

「・・・また、戦車に乗れるようになって良かったね・・・」

 

「ああ」

 

「隣いい?」

 

「ああ、ちょうど一息入れたかったし」

 

草の上に2人は並んで座った。

1年の時から将来を嘱望されていたアリサと二軍の補欠だった谷口とでは同学年といえど立場の違いはあったのだが、接点はそれなりにあった。もっともその接点が無くなろうとしていた状況の時に谷口は知波単に編入したのだが。そうした経緯もあり、久しぶりに会ってすぐに話がはずむという状況ではなく、並んで座ったもののなんとなく気まずい雰囲気が流れていた。

 

「そういえば隊長就任のお祝いをちゃんと言ってなかったな。改めて隊長就任おめでとう、アリサ」

 

「ありがと・・・というより、アンタあたしらに黙って知波単に行ったんだから、そっちが先じゃないの!?」

 

「それはそうだな・・・」

 

「・・・」

 

「みんな・・・心配してたんだから・・・」

 

~~~~~~~~

 

中学時代に戦車に乗っていなかった谷口にとっては、履修者が500人というサンダースにおいては当然試合に出るレベルの話ではなく、二軍でたまに戦車に乗るという状況であった。しかし、誰も手が及ばないような部品の手入れや整備、弾薬やメンテナンス管理、細やかな試合会場の視察と適切な分析、そういった姿勢を評価した当時の副隊長・・・この人物こそケイなのだが、身の回りの世話役のような形で一軍に帯同させた。一軍メンバーの中でもそうした谷口の仕事ぶりの評価は高く、そしてその時既にアリサも一軍メンバーに名を連ねていた。所属としては二軍であったが常に一軍に帯同しているという状況が8ヶ月程続いていたのだが、ある事件をきっかけに谷口はその任を解かれることになった。

 

その時にはケイは既に隊長に就任していたのだが、ちょうどサンダース内の変革を行っていた最中であり、当然それへの抵抗勢力も根強かった。またケイ自身の超ポジティブともいうべき性格を冷ややかに見ている、面白くなく思っている者も多かった。さらに言えば ”評価はフェアに。能力のある者を抜擢する、一芸に秀でた者を重用する” というのがケイの変革の柱でもあったのだが、一軍・二軍の垣根を超えたような谷口の存在はその象徴のようなものでもあったとも言えた。そのため、一軍・二軍問わずその存在を疎ましく思う者は少なくなく、そしてそうした状況において、とある練習試合でケイの判断ミスをきっかけに試合に敗れるということがあった。

 

もっともその時の戦況を見るにケイの判断は必ずしも間違っていたというものではなかったのだが、ケイと周りの人間がその判断について口論になった際に、近くにいた谷口が思わず ”状況を考えればケイがそのような判断をしたのにも理由がある” と言ってしまった。それがきっかけで ”そもそも二軍にいるはずの谷口がここにいるのはおかしい” という話になり、自らの判断ミスで試合に負けたという負い目もあってケイもそれに強く応じるわけにいかず、結果、一軍への帯同禁止、二軍で1ヶ月間戦車への乗車は禁止との処分が下された。

 

そして、処分期間だが休みの日に戦車に乗ることは問題ないだろうと、いわば自主練のような形で何人かと戦車に乗って練習していたのだが、それが問題として取り上げられ、結果その処分は無期限のものとして追加されることになった。それからひと月ほどで谷口は知波単に編入するのだが、ケイもアリサも二軍内でそうした処分が下されたことも、そして谷口がサンダースがいなくなったことを知ったのもその後の話であった。

 

~~~~~~~~

 

「うちの隊長・・・そりゃ尋常じゃない落ち込みようだったよ。私のせいだってね・・・」

 

「うん・・・」

 

「私だって、本当に心配したんだから!」

 

「うん・・・」

 

「やっぱり、戦車に乗れなくなったことが原因?」

 

「いや、そういうわけでも・・・」

 

「とにかく、うちの隊長には一言言っておいてほしいのよ。あの性格だけど、だいぶ引きずっていたみたいだし」

 

「いや・・・実は処分云々は全く関係ない話なんだ・・・」

 

「はぁー!?」

 

「ほら・・・話したこともあると思うけど、うちの家は父親が昔ながらの大工で貧乏だったから・・・だから私も中学の時は手伝いをしないといけなかったんだけど。それで私が高校に行った後はいよいよ仕事も無くなって、逆に借金が増えてという感じになって・・・恥ずかしい話だけど、夜逃げ同然で佐世保から出ていったというのがホントのところなんだ」

 

「なんなのよー! それ!?」

 

「私の実力・経験じゃ一軍はおろか、二軍でもそんなに試合に出れるとは思ってなかった。だから、戦車に乗れなくなったのは確かにショックだったけど、私は戦車の試合を見てる、いろんなアシストが出来るだけでいいとも思ってたんだ」

 

「だから、サンダースの人らのせいとかでも、ましてやケイさんやアリサのせいとかじゃ全くなくて・・・もし私が黙って出て行ったことが重荷になっていたのなら・・・本当に申し訳ない」

 

「ゴメンで済む話じゃないよ! まったく!」

 

「その通りだな・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「じゃあ、サンダースが嫌いになったわけじゃない・・・ということでいいんだね」

 

「もちろん。今知波単でこうして戦車に乗れてるのも、ケイさんやアリサ、サンダースの人達の練習や試合を見てきたからこそだ。空き時間で戦車や作戦のこととかもいろいろ教えてもらったし」

 

「よかった・・・」

 

「アリサ・・・」

 

「本当に良かったわね!」

 

「人に歴史あり、だな」

 

「!!!???」

 

「ケイさん、西隊長・・・」

いつの間にか、2人の後ろにはヘッドライトを消したケイと西が立っていた。

 

「いつからここにいらしたんですか?」

 

「そうね。アリサが大きな声で ”はぁー!?” と言った頃かしらね」

 

「結構始めからじゃないですかー!」

あまり人には見られたくない姿を見られた気恥ずかしさを紛らわすためか、アリサは思わず声をあげた。

 

「でもよく聞こえなかったから、もう一度初めからリピートしてちょうだい!」

 

「なんなんですかー! それ!?」

 

「冗談よ。でも・・・」

 

「・・・本当によかった・・・」

当時のことを思い出したのか、ケイも涙ぐんでいた。

 

「ケイさん、アリサ。黙ってサンダースを出ていってしまい、またその後も連絡せずに本当に申し訳ございませんでした!」

立ち上がった谷口は、そう言って90度に頭を下げた。

 

「ノープロブレムよ! 私の方こそ何も力になれなくて・・・本当に申し訳ないと思ってる」

 

「いえ、そんな。ケイさんは何も悪くありません。むしろ私のような者を一軍に帯同させてもらっただけで感謝してます」

 

「そうよね。だからあの試合の後も、私のために噛みついてくれたんだもんね・・・」

ケイは笑顔こそ浮かべているが、時折手で目元を拭っている。

 

「それにもう一つ謝らないといけないことがある。正直私は、タカ子は二軍でもなかなか試合に出れない選手だろうから、良かれと思ってサポートスタッフとして一軍に帯同させたんだけど・・・でも今はこうしてチハタンズの特攻隊長をしている。そういう点でも私の目は曇っていたということね」

 

「ケイさん・・・」

申し訳ないやらなんやらで、谷口も困惑を隠せないでいる。

 

「というより、なんでお2人がこんなところにいるんですか?」

 

確かにアリサの言うように、試合会場の視察というわけでもないのに西とケイがここに現れたのは不自然と言えばそうである。

 

「まあ絹代といろいろ話がしてみたかったしね。それに・・・明日は私にとって高校生活で最後の試合になる可能性が高いわ・・・少しはセンチメンタルにもなるってもんじゃない」

 

パーティーが終わった後、西はケイと2人で話をしており、その時に谷口のいきさつも聞いていた。他ケイがサンダースでしてきたこと、苦労してきたこと、いろんな話を聞かされたのだが、ケイも話をするうちに3年間のことがよみがえってきたのかもしれない。少し歩こうかと西を誘って試合会場を歩いていたところ、先に会場を歩いていた2人を発見し、そして2人が話し込んでいるのを見て、気付かれないようにライトを消して近づいてきたのであった。

 

なお、西はケイとの話の中で、大学選抜との試合で同じあさがお隊に配されながら何の力にもなれなかったことを詫びていたのだが、予想通りにケイは ”そんなのノープロブレムよ” と全く意に介さない様子であった。

 

「ケイさんの最後の試合になるかもしれない相手を務めさせて頂くのは誠に光栄なことであります!」

 

「そうね。最後に私を育ててくれたサンダースの艦上で高校戦車道を締め括るということ、そして・・・タカ子の気持ちも知ることが出来たというのはシナリオとしてはいいものかもしれないわね」

 

「ケイさん、アリサ。サンダースでいろいろとお世話になったこと、本当に感謝しております。しかし、今は私は知波単の戦車乗りです。そして西隊長は私に再び戦車に乗る機会を与えてくれた恩人でもあります。明日の試合はこちらも負けるわけにはいきません。精一杯戦いますので宜しくお願いします!」

 

「望むところだわ! 黙って出て行ったことを後悔させてやる!」

 

「言いすぎよ、アリサ。まあこちらもこれだけのビッグイベントにしたんだから簡単に負けるわけにはいかないわ。私の最後の試合、黒星で終わるわけにはいかないしね。他校のギャラリーもいるし、サンダースの底力を見せてあげるわよ!」

 

「望むところです! こちらも出し惜しみすることなく精一杯戦います!」

 

「とにかく明日はエキサイティングな試合にしましょ! じゃあねー、Good night!」

 

「はい、おやすみなさい」

 

時計はもう22時になろうとしている。明日の戦いに備え、4人はそれぞれのチームに分かれた。

 

「西隊長」

 

「なんだ?」

 

「本当に有難うございました。・・・再び戦車に乗れる道を作って頂いたこと、本当に感謝しています」

 

「礼を言うのはまだまだ先の話だ。私達はまだまだ道半ば、というより始まったばかり・・・だろ?」

 

「そうですね。明日は頑張りましょう!」

 

西は変わった。ダージリンやケイも含めいろんな人から今日言われたことだが、正直なところ、西自身変わったことは本当に自覚していなかった。ただ今は戦車に乗っているのがこれまで以上に楽しい。知波単の戦車道を変える、新しく作る。そう考え始めた頃は伝統や背負ったものとかを意識したりもしたが、今はただ戦車に乗るのが楽しい、試合に勝つために全力を注ぐことにやりがいを感じていた。変わったかは分からないが、当初とは違うところに自分はいるのかもしれない。ケイという人物に触れるうちにそう考えるようにはなった。

 

そうはいっても明日は双方譲れない試合である。ケイにとっては最後の試合であり、そしてアリサにとっても名門サンダース大付属の隊長として譲れない道があるはずだ。

 

(その船を漕いでゆけ、お前の手で漕いでゆけ、お前が消えて喜ぶ者にお前のオールをまかせるな)

 

西は明日への試合のエネルギーを蓄えるかのように、宙船の歌詞を思い浮かべながら宿舎へ歩いていた。


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