引き続き車長会議の話し合いが行われている。
「サンダース大付属に練習試合について打診したのですが・・・日程としては12月10日頃で、サンダースの学園艦内であれば可能とのことです。なんでもクリスマスシーズンは南の島に行くか、逆にアラスカ周辺でホワイトクリスマスを楽しむのが定番らしく、今年は北に行く順番らしくて・・・」
「ホワイトクリスマスとか知ってるんだな」
「いちいちうるさいわ、細見」
ちゃちゃを入れてきた細見との応酬はともかく、玉田の報告を聞く限り、この時期を逃せばケイがいる間にサンダース大付属と練習試合をするは難しそうである。
「分かった。こちらとしてはなんとかその線で調整しよう。他の条件は特にあったか?」
「いえ、参加車輌もフラッグ戦か殲滅戦にするかも、こちらに任せて頂けるとのことでした」
「まあ余裕だな・・・おそらくこれが今年最後の試合だ。私としては20輌対20輌の殲滅戦で華々しくやろうかと思っているが、どうだ?」
新戦車が導入され、隊が再編されての初戦である。西の提案通り、総力戦とすることに皆異存はなかった。
「詳しいところはお礼を兼ねて私からケイ殿に連絡して確認しておくようにしよう。何か要望事項はあるか?」
「試合会場となる場所の地図や写真があればうれしいですが・・・」
突撃隊の中心であり、相手に最初の一撃をくらわすことになるであろう谷口としては当然の要望ではある。
「というより、お前はサンダースにいたんだからその辺は分かるんじゃないのか? 今でも連絡取り合ってる奴の1人もいるだろうに」
「いえ、サンダースは演習場がいくつかある上に、たまに改造もしています。今の状況がどうなのかは分かりません。連絡取ってる人間の話についてはなんとも・・・」
細見の問いかけに対して、谷口はなんとも答えづらそうな感じで返した。
「まあ話はしてみるが、立場的にお願いしづらいところもある。あまり期待はしないでくれ」
確かに年の暮れの慌ただしい時期に無理を言って練習試合の相手をしてもらうというのはあるが、フェアプレーが信条であるケイであればおそらく話をすれば聞いてもらえる内容だろう。しかし西にはそれとは別にどうしてもお願いしたいことがあった。
その後、会議は新しい戦車の検収に立ち会う者、検収方法、またどういう使い方をするのが効果的かという話をして終了した。
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「ケイ殿、この度は年の瀬の慌ただしい時期に練習試合を受けて頂き、誠に有難うございます」
「ノープロブレムよ、絹代。それよりあなたたちも試合の後はアラスカに来ない? オーロラを見ながらのクリスマスは超ファンタスティックよ!」
「いえ、残念ながらうちのような旧型で小さい学園艦では、これからの時期の北の海は自信がありませんで。また私どもの年末の過ごし方もございますので」
”なんでそこはveryじゃなくて超なんだろう・・・” と思いつつも、西はケイの申出をやんわりと断った。
「OK、ちょっと言ってみただけよ。12月10日はちょうど銚子沖を航行してるから、そこで試合をしましょ! あなたがたのチハは・・・おっと、今は新型戦車もあるんだっけ? うちのスーパーギャラクシーで送り迎えするわよ!」
さすがにサンダースの情報網にかかれば、新型戦車の導入は筒抜けのようだ。同じく諜報機関を持っている黒森峰、プラウダ、聖グロリアーナにも既に伝わっていることだろう。もっとも練習試合をすればその内容はすぐ知れ渡るわけで、そのことは特に重要ではない。
「さすがに情報が早いですね。いろいろと中ではありましたが、とある方の努力の結晶です。もちろん試合でも使用するつもりです。戦車の輸送に関してはお手数をおかけ致しますが宜しくお願い致します」
「了解したわ。着艦する場所の地図と写真をあとで送ってちょうだい! ところで参加車輌は何輌にする?」
「ご承知済みのとおり、うちも新型戦車を導入して隊を再編したばかりです。空輸の手間もおかけ致しますのに恐縮ですが、総力戦の20輌対20輌による殲滅戦でお願い出来ないかと・・・」
「20対20? イーブンで?」
「はい。それで実はもう一つお願いがございまして・・・貴校の参加車輌の半数は、二軍などの控えの選手でお願いしたいのです」
「ふーん・・・なるほどね・・・」
申出を聞いたケイも少しばかり沈黙する。
「分かったわ。絹代らしい粋なクリスマスプレゼントね。感謝するわ!」
いろいろと含みを持った感じであったが、ケイは西の申出を了解した。
「有難うございます。ただ実際のところはクリスマスプレゼントというようなものではなく、そうしてもらわないと普通に20対20で戦っても結果は見えてますので・・・実はうちの戦車隊に貴校の二軍にいた者がいるのですが、その者は今我が隊一の戦車乗りであります。そう考えると、戦車の差以上に基盤となる隊員の質がそもそも違うように感じておりまして・・・」
「タカコ(谷口)のことね」
「ご存知なんですか!?」
「500人の名前と顔と特徴がすぐに一致しないようなら、ここで隊長は務まりはしないわ。あなたも ”海賊とよばれた男” は観たでしょう? ああでなければ大きな組織はまとまらないわ。もっともアリサは未だに ”なんなのよ、もー!” って苦しんでるけどね。まああの子は今まで自分のことで必死だっただろうから」
女子高生ならかなりハードルが高いであろうことを、事もなげにケイは言ってのけた。ケイの言う ”海賊とよばれた男” のくだりは、劇中で常務が記憶を辿りながら空白の社員名簿の項目を次々と埋めてゆき、それを見た店主が ”これが私の財産目録か” と言った内容を指しているのだろう。
「もっとも当時のサンダースはあまりいい雰囲気じゃなかったからね・・・それに対してタカコは真面目すぎた・・・頑固で一途なところがあるから、知波単の水がフィットしたのかもしれないわね」
「ところで20対20というのは、隊を再編したばかりだから・・・というわけでもないのでしょ?」
「そこまでお見通しですか・・・」
西は改めてケイの洞察力に驚嘆した。
「我が知波単が20対20で試合をすることはまずありません。予備車輌を含めても30輌ないですし、公式戦では全国大会の決勝までいかないとその機会はないですから。となると、必然隊員を選りすぐって戦うことになるのですが、我々にとって目下のところ差し迫った決戦は大洗女子学園との一戦。次が三戦目となりますので私の中ではこれで終わりとするつもりです。悔いを残さぬ上でも厳選した精鋭で戦いたいと考えています。しかしながら、私を慕い、信頼してくれて、そして技量も決して低くはない隊員の中から選ばないといけないというのは、私にとっては想像以上に苦しい、辛い作業でして・・・500人の隊員を抱えるケイ殿からすれば小さい悩みでしょうが・・・」
「そんなことないわ。多かろうが少なかろうがやることは一緒よ。実を言うとね・・・私がフェアプレーを重視するのは決して ”正々堂々と戦う” というだけの話じゃないの。フェアに物事を処理しなければ、さっきの話じゃないけど大きな組織は維持できないのよ。公正に選ばれたからこそ、セレクトされた人間は自信を持って戦い、選考からもれた人間も素直に送り出すことが出来る。そしたら当然試合でアンフェアなことなんて出来ないでしょ?」
「でも、以前のサンダースは実はそうじゃなかった・・・その時の私に何かが出来たわけじゃないけど、タカコには今でも申し訳ないと思ってる・・・」
「ケイ殿・・・」
当たり前の話だが、苦しいのは西だけではない。常に明るくポジティブで、悩みなんて何もなさそうなケイも、苦しんだ経験と苦い思いを噛みしめつつ今があるのだ。
「機会があれば、そのあたりの話もゆっくりとしてあげるわ!」
「はい、是非お願いします!」
「でも試合では手加減は一切しないわよ! 知波単との試合は12月の一大イベントで、大型モニターでいろんなところで見れるようにするからね。オーディエンスの期待を裏切らないような、熱い試合を期待してるわよ!」
「はい、こちらも正々堂々と勝ちに行きます!」
内容は分からないが、あのサンダースが一大イベントと言い切るのである。規模も内容も知波単の隊員が想像出来るようなものではないだろう。
「ところで絹代はメールアドレスはないの? 電話じゃ出来ないような話もいろいろしてみたいし、今回の試合会場の地図と写真を送りたいのだけど・・・」
「私はその方面はとんと疎くて・・・申し訳ありませぬ」
「まあいいわ。2、3日でうちのホームページに試合のことを載せるつもりだし、そこに地図と写真も貼っておくわ。念のため、いつもの寺本ちゃんにURLを送っておくからそこで確認してちょうだい」
「お気遣い、本当に有難うございます」
西には内容はよく分からなかったが、欲しかった会場の地図と写真もなんとかなりそうである。
そして・・・西の想像以上にケイは大きな人物だった。一朝一夕であの人物が形成されたわけではないのだ。決して苦労を周りに見せず、500人の隊員に目配りをし、鼓舞し、常にポジティブな姿勢で隊長としてチームを引っ張っていく。西には一生かかっても到達できない領域のように思えた。
「(結局あの時のお詫びとお礼、言いそびれちゃったな・・・)」
大学選抜との試合で、知波単の不甲斐なさがあさがお中隊の崩壊の要因となったことについて、西は一言ケイに言っておきたかったのだが、おそらくケイは笑い飛ばして済ませたことだろう。
”戦車道には人生の大切な全てのことが詰まっている”
誰かが言ったセリフを、西はケイとの会話の中で改めて噛みしめていた。
◆西車(隊長車/フラッグ車)・・・一式中戦車
⇒車長:西、装填手:倉橋/2年(オリ)、通信手:半田/2年(オリ)、
操縦手:戸室/2年(オリ)
※(オリ)は作者のオリジナル設定。以下同じ。
オリキャラはちばあきお氏の漫画、キャプテン、プレーボールから名前を頂いてます
◆玉田車(割り下小隊)・・・四式中戦車
⇒車長:玉田、砲手:松川/2年(オリ)
◇玉田僚車(割り下ご飯)・・・新チハ
⇒車長:浜田
◆寺本車(たまご小隊)・・・新チハ
◇寺本僚車(たまごご飯)・・・旧チハ
◆池田車(陣地構築隊/豆腐小隊)・・・チハドーザー
◇池田僚車(陣地構築隊/豆腐ご飯)・・・チハドーザー
◆名倉車(陣地構築隊/長葱小隊)・・・チハドーザー
◇名倉僚車(陣地構築隊/長葱ご飯)・・・旧チハ
◆谷口車(突撃隊/バント)・・・新チハ
⇒車長:谷口/2年、操縦手:丸井/1年(留年)、砲手:五十嵐/1年、
装填手:久保/1年、通信手:小室/1年
※全てオリキャラ
※谷口は2年時にサンダース大付属から編入
◆山口車(突撃隊/牽制)・・・新チハ
⇒車長:山口/2年、操縦手:太田/2年、砲手:中山/2年、
装填手:山本/2年、通信手:鈴木/2年
※全てオリキャラ
◆細見車(突撃隊/牛肉小隊)・・・一式中戦車
⇒車長:細見、操縦手:加藤/2年(オリ)、砲手:島田/2年(オリ)
◇細見僚車(突撃隊/牛肉ご飯)・・・旧チハ
⇒車長:横井/2年(オリ)
◆福田車(偵察隊/みかん)・・・九五式軽戦車