とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

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◇作者オリジナル設定 ※8話参照

学園長の直轄組織として、人事局、総務局、経理局、医務局、教育局、調度局、船務曲、艦政局といった局が連なる形が取られており、運営の意思決定は各局長の局長会議を以て行われます。

その中で総務局は伝統的に戦車隊の代表者が局長を務めており、辻が局長の任に就いています。
総務局の所掌事務は「庶務・制規」が主で、他戦車道に関わるところの大半を担っています。


22.難問(新たな枢軸)

先の大洗女子学園との練習試合は、肉薄する場面もあったものの、結果としては知波単の撃破が2に対して、大洗の撃破は9。12対6と数の上では倍の戦車で臨んだことを見れば惨敗といえる結果であった。

 

しかし、周囲はそうは取らなかった。

 

 ”あの知波単が突撃を捨てた!”

 

戦車道新聞の取材において、知波単との練習試合の感想を聞かれた西住みほは ”突撃だけではない新たに知波単の作戦に非常に苦しめられました” と答えたのだが、その言葉は読んだ者の想像を飛躍させるに十分だった。

 

実際にサンダース大付属のケイ、アンツィオ高校の安斎千代美からは ”エキサイティング! 絹代はやっぱり出来る子ね!” とか ”すごいじゃないか! いったいどうやって戦ったんだ?” といった称賛や作戦に興味津津という内容の連絡が西のところに来ていた。

 

もっとも当の知波単の隊員からすれば、前回からはマシになったが・・・という程度の話であり、なにより ”今やっていることを続けて大洗に勝てるのか?” との不安が頭をもたげていた。

 

そして、そんな知波単戦車隊の内外の思惑に関係なく難問も降りかかる。

 

~~~~~~~~

 

「いつまでも辻隊長にやって頂くわけにもいかないしな・・・」

 

「辻殿は何も仰りませんが・・・引継ぎもありますし、後任決定のタイムリミットは11月いっぱいだと思います」

 

学園艦の運営の一端を担う総務局。艦内の庶務・制規、並びに戦車道に関わるところの大半を担っているこの局は、戦車隊の代表者が局長を務めるのが伝統となっているが、西に負担を掛けまいと、未だに前隊長の辻がその任に就いている。

辻はその思いから決して口には出さないが・・・しかし、タイムリミットは確実に近づいており、局長を誰にするかを西と玉田は決めかねている。

 

「かといって、海千山千の強者揃いの局長の中でも、超人とも妖怪とも称された辻殿の後任です。下手な人間を送り込むと他局の圧力を受けて戦車道の運営に支障をきたす危険性もあります」

 

「最悪私がするしかないか・・・」

 

「いえ・・・お言葉ですが・・・裏表を演じることが出来ず、感情がそのまま言動に表れる西隊長には辻殿の後任は務まりますまい」

 

「・・・やはり次の全体教練の場で推薦や立候補者がいないか諮るしかないな・・・」

 

~~~~~~~~

 

西と玉田の話し合いから3日後の、大洗との再戦後初めてとなる全体教練。

これまで隊長の訓示がほとんであったため立ったまま行われることが多かった全体教練だが、西が隊長になって以降、より細かい周知の徹底、ならびに議論が活発化することが多くなり、自然と時間が長くなることが常態化した。そのため着席して行われる機会が増え、本日の教練も同様なのだが、西の表情がいつもよりもこわばっていることを多くの隊員が気付いていた。

 

「皆も知っている通り、総務局長となるべき人間を我が戦車隊から出さねばならぬのだが・・・残念ながら自分で言うのも何だが、私は戦車隊の中でも一番局長の任を負うにふさわしくない人間やも知れぬ。そこで、皆から推薦もしくは立候補者を募りたい」

 

当然隊員達も、総務局長を戦車隊の者から選出する必要があることを、そして同じように隊長が局長を兼任することが伝統ではあるが、西がその適任者ではないことを認識していた。とは言うものの、現在局長の任に就いている辻がどういう人物で、その後を引き継ぐことがどれほど難しいかも理解しており、簡単に西の呼びかけに対応する声が挙がる状況ではない。

 

隊員達が続く沈黙に苦痛を感じ始めた頃、1人の隊員が声をあげた。

 

「私でいいならやりますよ」

 

「いや! お前が抜けたらうちの戦車は・・・」

立候補の声に、思わず寺本が声をあげた。

 

寺本が思わず引き留めようと声をあげた立候補者の名は倉橋豊子(注オリキャラ・2年)。実は入学時に3日ほど戦車隊に所属していたのだが、当時の精神論に終始した教練と、その割には真剣に戦車道に取り組もうとはしていない上級生、物申すにも何も言うことを許されない厳しい上下関係に嫌気が差し、除隊していたのだった。

 

しかし、2年になった時に同じクラスにはサンダース大付属から編入してきた谷口がいた。中学時代は家業を手伝わざるを得なかったために戦車道を行えなかった谷口にとっては、中学時代に戦車道で名が売れていた倉橋は羨望の存在であった。知波単の現状を理解はしている谷口も無理に倉橋を戦車道に引き込むことはしなかったが、戦術面などで倉橋の意見を聞くことも多く、そうこうするうちに、倉橋自身も戦車道への思いが強くなった。また飛躍的に技術が上がり充実一途なのが傍目にも明らかな谷口を羨ましく思っていたのだが、そうした思いを抱えつつ観戦したのが、あの大洗女子学園対大学選抜の試合だった。これまでの知波単とは明らかに違う戦いぶりを目の当たりにした倉橋は、入学時の非礼を詫び、戦車道に復帰したのであった。

 

元々砲手として名を売っていた倉橋がその実力を認められるようになるにはさほど時間はかからず、大学選抜との試合以降、新たに車長となった寺本を支える存在となっていた。

 

そうした倉橋が、苦労ばかりの、そしておそらく戦車道にも支障が出るであろう総務局長の任務に名乗りを挙げたのである。

 

「大丈夫なのか?・・・倉橋・・・」

復帰までの一連の流れを知り、そして復帰以降一層戦車道に精進する姿を見ていた西も心配して声を掛ける。しかし、覚悟を決めたかのような倉橋に迷いはなかった。

 

「一度身勝手に隊を抜けた私は、本来ここには居れぬ人間です。それが皆さんのおかげでこうして改めて戦車道を歩めるようになりました。それだけで私は十分です。そして局長の任務を請けることが皆さんの少しでも役に立てるのなら喜んでやりますよ」

 

「心配ありません。超人や妖怪と言われた辻殿の後任は、私のような図太い人間しか務まりません。西隊長もあじさい会(知波単戦車隊のOG会)とはまだ疎遠なままなんでしょ?そっちもちゃんとうまくやりますよ。まあそうなると砲手としてやっていくのは難しいですが、装填手のトレーニングなら空き時間でも出来ます。今後は装填手として精進していきますんで」

 

確かに独特の威圧感があり、一方で論も立ち、劣勢でも動揺せずたじろぐことがない倉橋のような人物は、折衝の仕事にはもってこいともいえる。思いを決して戦車道の道に復帰した倉橋を、またその道から外そうとする決定には西にも抵抗はあったのだが、戦車隊のために覚悟を決めてくれた倉橋の気持ちが嬉しくもあった。

 

「そこまで言ってくれるなら、倉橋に任せたい。ただ元はと言えば、私自身の不甲斐なさから出たものだ。倉橋の身は私が責任を持って預かる。今後は私の戦車の装填手として頑張ってくれ。そして局長の任務を行う上で私に出来ることがあるなら、遠慮なく言ってくれ! 全力で支援する」

 

「ご配慮有難うございます。学園艦の運営のために、そして知波単の戦車道のために、精一杯任務を果たす所存であります!」

倉橋も力強く答えた。

 

「局との連携は今後密にしていかないといけない。倉橋が総務局長になったら、車長会議にも参加してくれ。もちろん局での決定事項の報告に限らず、作戦面でも自由に進言してもらってかまわん」

 

「そこまでのご配慮を・・・」

倉橋本人としても除隊→復帰の経緯から隊の運営に関する積極的な関与は、意欲はあっても諦めてはいたのだが・・・経緯を顧みずにその機会を与えてくれた西の配慮に感極まったようであった。

 

「いや、たとえば新しい戦車がほしいとなった時に、そこに倉橋がいなければお願いしづらいじゃないか」

 

西は口ではそういったが、実のところは車長会議に参加させることで局長の任務で困ったことがないかを把握し、必要であれば支援するためであった。また単純に経験豊富な倉橋の意見を聞きたいという思惑もあった。

 

「これまでの決定事項について、みんなも異存はないな!?」

 

「「「異議なし!」」」

多くの者が異存はなしとするところ、倉橋を引き抜かれることになる寺本が質問する。

 

「うちの戦車の砲手は誰になるんでしょうか?」

 

「そうだな・・・それもそうだしこの機会に報告しておくことがある。皆も薄々聞こえているとは思うが、辻前隊長のご尽力で我が知波単にも新しい戦車が導入されることになった。一式中戦車2輌と四式中戦車1輌だ! これらの戦車をどの小隊に振り分けるかも含めて今後隊を再編成することになる」

 

「「「おおー!!」」」

 

「「「四式まで来るのか!!」」」

 

先のあじさい会との会合において辻が明かし、以降噂としては聞いていたが、改めて西の口から導入の話を聞くに至り、場の空気は一気に盛り上がった。

 

「倉橋の後任の砲手を誰にするかは、また明日にでも伝える。いずれにせよ我々には立ち止まっている暇はない。倉橋という新たな枢軸が加わったが、ここにいる全員で進んでいくことには変わりはない。新戦車導入という新たな希望もある。先の敗戦は残念ではあるが、また一歩一歩積み重ねていこう!」

 

「「「おおー!!」」」

 

西も含め、敗戦後頭をもたげていた不安を打ち消そうとせんばかりに、皆が声をあげた。

西の言うように一歩一歩積み重ねていくしかないのである。

 

そして、隊員が決意を新たにした翌日。学園艦に紛れ込んだとある乱入者により事件は起きた。




●●オリキャラ(OG除く)●●

◇谷口車(新チハ) ~11話で登場~
・車長:谷口/2年(2年時に編入) ・操縦手:丸井/1年(2回目の1年生)
・砲手:五十嵐/1年 ・通信手or装填手:久保/1年

◇山口車(旧チハ) ~15話で登場~
・車長:山口/2年 ・操縦手:太田/2年
・砲手:中山/2年 ・通信手:山本/2年

・半田(池田車・通信手)/2年 ~19話で登場~

・倉橋(寺本車・砲手→西車・装填手)/2年 ~22話で登場~

それぞれちばあきおのキャプテン、プレーボールからです。


●●16話で決定した小隊名●●

◇小隊名
玉田車=割り下、細見車=牛肉、池田車=豆腐、名倉車=長葱、寺本車=卵
※小隊僚車は小隊名に「ご飯」がつく(ex.玉田小隊僚車=割り下ご飯)

◇別働車
谷口車=バント、山口車=牽制、福田車=みかん、西車=隊長車

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