とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

20 / 41
小説内における時系列を。

7月中旬:隊長が辻→西に交代
8月中旬:この小説の始まり&大洗での親善試合
8月下旬:大洗女子学園と大学選抜との試合
9月下旬:大洗女子学園との練習試合
11月初旬:大洗女子学園との再戦 ←←今ここ

※後書きにオリキャラや設定を記載しました


20.煙幕(大洗戦開戦)

迎えた大洗女子学園との再戦の日の朝。快晴とは言えないが降雨の心配はない様子である。

2ヶ月少しで知波単と大洗女子学園とは3度接しており、各車が整備を終えた頃にはそれぞれの学校の隊員の間で自然と交流が生まれていた。

 

「西住殿! 本日は練習試合を受けて頂き誠に有難うございました!」

 

「いえ、こちらこそ宜しくお願い致します。でも正直・・・これまで経験したことがない不安を感じています。今までは私たちがチャレンジャーとして戦ってきましたので、こうして受けて立つ戦いに慣れていないというか・・・」

 

「ハッハッハ! 諦めの悪さは私共の武器でもあります! 一つお手柔らかにお願い致します!」

 

西住みほの不安を逆撫でするかのように、西はいつものよく通る声で返す。

また違う場所では、福田が磯辺を見つけて話かけていた。

 

「アヒル殿! 先日は誠に有難うございました!」

 

「しっ!」

 

「福ちゃん、今日は知波単は煙幕を使うの?」

福田を制した磯辺が小声で尋ねた。

 

「いえ・・・今回は使わないと言ってました」

磯辺の話を聞かれたくない雰囲気を感じとった福田も小声で返す。というより、そもそも知波単の作戦を大洗に伝えることがよろしくないことなのだが。

 

「そっか、なら良かった。今日はお互い頑張ろう!」

 

「はい! 宜しくお願い致します!」

 

そして午前10時。戦いの火蓋は切って落とされた。

アルファベットのL字の縦棒の上から大洗が、横棒の右から知波単がそれぞれ進軍する。

 

~~~~~~~~

 

「アヒルさん、カバさん、ウサギさん。敵は林の中に身を隠している可能性が高いです。十分に注意しながら進んで下さい。もし敵と遭遇した場合は回避することを優先して下さい。まずは相手の動きの把握に務めて下さい」

 

「了解!」

 

「心得た」

 

「分かりました!」

 

3車それぞれに返答する。知波単が大洗の作戦を読めないのと同様に、大洗も知波単がどのように戦うのか読めないでいる。以前であれば出てきたところを叩くだけでよかったのだが・・・

 

一方の知波単は、谷口、山口、細見小隊の先遣隊がL字の角を曲がり、縦棒を下から見て右側、つまり大洗の別動隊とは反対側の林を進んでいた。

L字の角の所ではチハドーザーを使用して、カタカナの「コ」の字型の掩体壕を構築している。L字の角を曲がった敵を迎撃するため、林から出てきた敵を攻撃するため、敵が大きく迂回して自軍の背後からの攻撃に備えるための3方向に対応するためのものであった。陣取るのは池田小隊と名倉小隊の4輌だが、西車、玉田車、寺本車の支援部隊が状況によって壕に入るため、またダミーの意味合いもあり計10の掩体壕の構築を急いでいた。木を覆い被せてカモフラージュしてしまえば、どの壕に戦車が潜んでいるかはほとんど分からなくなる。

 

「先遣隊へ! 敵部隊が近づいています。おそらく3台ほど」

見下ろせる高地の木を4本ほど電気ノコギリで切り、観測していた福田が先遣隊に伝えた。

 

「よし。残り1000まで近づいたら曲射で相手を砲撃。自分と山口さんが相手の前に出て陽動しますので、頃合いを見て横から牛肉小隊(注:細見小隊のこと)が襲撃して下さい。但しあくまで目的は強行偵察と陽動ですので深追いはしないで下さい」

 

「谷口、今は別に牛肉小隊じゃなくて、細見小隊でいいんじゃないか?」

 

「いや、ちょっと自分も ”牛肉” と言ってみたかったので・・・」

 

「・・・おかげですき焼きが食べたくなったじゃないか・・・」

 

「「「・・・」」」

 

全体無線を通じての西と谷口の会話に微妙な空気が流れたが、戦い自体は知波単の想定した通りにほぼ進んでいる。

 

「よし、曲射はじめ!」

谷口の号令で先遣隊の4輌と支援隊の3輌が高弾道で大洗に向けて砲撃を開始した。もちろんこれは命中させることが目的ではない。なるべく遠い距離から砲撃をして相手を惑わすため、あわよくば回避行動を行わせることで敵を分断し、その間に先遣隊が突撃するためのものであった。

 

「左の林から砲撃音! 数かなりです!」

 

「左から? この距離で?」

 

知波単の砲撃の開始は大洗も同時に認識したが、想定していなかった方向・距離から、それもかなりの数の弾着があることにみほも驚きを隠せない。とはいうものの、曲射弾道ゆえ命中することはないとそのまま前進するが、無視するわけにもいかない数の砲弾が近くに落下するようになった。福田のいる観測地点からでは正確な観測射撃は出来ないが、弾着点と敵戦車のおおよその位置は把握出来るため、その誤差の修正を指示しているためであった。

 

「各車、命中しないようジグザグに回避して下さい」

わずか3輌の戦車でここで失うわけにはいかず、みほも回避行動を命令せざるを得ない。

 

「まさか・・・この地点で全軍突撃? まあこれまでの知波単ならそうなんですけど」

 

「いや12輌で攻撃してる砲撃音じゃないし、それはないと思うけど・・・」

 

「敵戦車2輌、全速でこちらに突っ込んできます!」

 

秋山とみほの会話を切り裂くように、臨時でB1bisの車長を務めるツチヤの声が届く。

砲弾に紛れて、谷口車と山口車が突撃してきたのだった。

 

「敵戦車確認出来ました! こちらにいるのはⅣ号が隊長車、残りは三式とB1です!」

 

「よくやった、谷口! 我々は離脱して陣地に戻る。決して無理をしないよう頼むが、先遣隊で1輌でも撃破してくれると助かる!」

 

「福田! そろそろ別働隊がそちらを通過するやもしれん。観測は一旦中止して高地を降りて擬装。敵の通過に備えよ」

 

「お任せ下さい!」

 

「了解しました!」

 

西の指示にそれぞれ元気よく答えた。相手の状況が把握出来た以上、あとはどのように撃破していくか。今のところは知波単の想定通りに戦いは進んでいるが、一番難しい作業が残っている。

 

谷口車と山口車は全速で大洗の戦車に接近、また離脱しながらの砲撃を行っている。大洗の戦車もそれを迎撃しようとしているが、お互い高速で移動しているため砲撃が当たる感じはしない。

 

「全速で動いているからさすがにこっちも当たらんが、向こうも本気で当てる気はなさそうだな」

冷泉麻子が ”なんならこのまま突っ切るぞ” と言わんばかりに、みほに今後の対応の判断を求めた。

 

「はい。ただこの2輌はあくまで陽動でしょうから、別の戦車が攻撃してくる可能性があります」

果たしてみほの言葉通り、すぐに細見の小隊が大洗の左後方から突撃してきた。

 

「細見さん、絶好のタイミングだ。三式から仕留めるぞ。丸井、三式の注意をこちらに引き付けろ!」

 

「了解!」

 

「山口さん、Ⅳ号の動きを警戒して下さい。こちらがⅣ号に狙われているようであれば、Ⅳ号を砲撃してそれをさせないようにして下さい。その間にこちらが三式を引き付けます」

 

「了解! 任せろ」

 

谷口車はアリクイさんチームの三式中戦車に対し、いわばより接近し、より短い距離を離脱しながらのヒットアンドアウェイを行ったのだが、こうなると三式は谷口車の攻撃の回避と迎撃に集中せざるを得ない。その間に山口車はⅣ号を射点につかせないよう、全速で回避しながらもⅣ号に砲撃を集中させていた。想定通り、撃破を考えずに ”速く動いて、早く撃つ” ということでは、砲弾も軽く肩当式で照準を微調整できる知波単に分があった。

 

「よし、三式が食いついた」

谷口がそう呟いたところ、突如谷口車の後部から白い煙が上がり、スピードが落ちていく。

 

「これは・・・チャンスだにゃ!」

谷口車にエンジントラブルでもあったのか。それまで攻撃に晒されていた三式は、チャンス到来とばかりに狙いを定めるべく停止した。

 

” バン! ”

 

三式が停止した時間はほんのわずかであったが、その間に山口車が後方から砲撃したのだった。三式中戦車の車体の後部装甲は20mm。チハ旧砲塔でも抜ける厚さである。砲撃を受けたと同時に三式は白旗をあげた。

 

もっとも三式を攻撃するために山口車も一旦停止している。その時間も一瞬と言えるほどであったが・・・それを見逃してくれるⅣ号ではなかった。三式を撃破した直後に、山口車からも白旗があがった。

 

「山口さん、損な役回りですいません」

 

「気にするな谷口。プチ煙幕作戦では双方の戦車がスピードを落とす。今回は谷口じゃなくて自分が標的になったということだ。作戦が使えることが分かっただけでも収穫があった」

 

「B1は細見たちがなんとかするだろ。お前はⅣ号を仕留めろ」

 

「さすがにチハ1輌でⅣ号は難しいですが・・・」

撃破された山口車との交信はそこで途絶えた。

 

”プチ煙幕作戦” と呼ばれたそれは、発煙量を絞った発煙筒を谷口が車両後部に置き、併せて速度を落としてエンジントラブルがあったように欺瞞することであった。

追いかけっこをしていて、こちらが止まれば相手も止まろうとする。谷口と山口が繰り返し行った模擬戦でも同じように発生した。エンジントラブルを欺瞞することでさらにその習性を確実に行わせ、残りの1輌が停止した敵を攻撃するというものだった。

 

同じ頃、細見の小隊は2輌でB1を攻撃していたが、その装甲の厚さに苦労していた。死角である後方や側面からの砲撃を繰り返していたため撃破される心配はそれほどなかったが、履帯を狙おうにも足回りにも装甲が覆われており、活路を見出せないでいる。

 

「くっそー! 体当たりしようにも弾き飛ばされるだけだしな」

 

「細見さん、Ⅳ号はこちらで引きつけます! その間にB1を!」

 

「分かってる! 谷口、どこか弱点はないのか!?」

 

「後部を丹念に狙って、履帯か排気口に当たるのを待つしかありません」

 

「分かった! なんとかやってみる!」

細見は改めてB1bisの図面を見た。

 

「狙いは砲塔後ろのアンテナだ! その真下が排気口、左下が履帯だ! うまくいけばターレットリングに当たるかもしんない! 」

 

目標が定まったことで命中弾が確実に増えた。あわよくばⅣ号と合流してと考えていたツチヤだったが、速度に劣るB1が次々と死角から迫るするチハに囲まれてはそれも叶わず、覚悟を決めて迎撃する道を選んだ。

 

しかし、迎撃しようとスピードを緩めたその刹那、細見小隊の僚車がB1の右後ろから体当たりを敢行、その衝撃により思わぬ形でB1は細見車の前に左側面をさらけ出すことになった。

 

「今だ! 起動輪を狙え!」

臨機応変に細見車は装甲に覆われていない起動輪に砲撃目標を変えた。砲弾は見事に起動輪に命中。動けなくなったB1だが砲塔を回転させ副砲を発射。細見車を撃破した。しかしその直後、B1の背後には体当たりをしたチハが体勢を立て直し、ゼロ距離で接近していた。

 

細見僚車は的確に排気口を打ち抜き、B1から白旗をあげさせた。

 

「牛肉ご飯(注:細見小隊僚車のこと)、B1を撃破しました!」

 

「「「おおー!!」」」

 

知波単に歓喜の声が広がった。

山口車と細見車を失ったが、知波単も三式中戦車とB1bisを撃破。数的には10対4。Ⅳ号が健在とはいえ、挟み撃ちを目論んでいた大洗にとっては大打撃であった。

 

「これは・・・勝てる!」

西だけでなく知波単の隊員全員がそう思ったのだが、最大の脅威であるⅣ号が思わぬ行動に出た。

 

「モクモク用意!」

 

ちょうど谷口車がⅣ号との距離をとっていたところ、突如Ⅳ号が煙幕装置を発動。煙の中にⅣ号戦車は消えたのだった。




●●オリキャラ(OG除く)●●

◇谷口車(新チハ) ~11話で登場~
・車長:谷口/2年(2年時に編入) ・操縦手:丸井/1年(2回目の1年生)
・砲手:五十嵐/1年 ・通信手or装填手:久保/1年

◇山口車(旧チハ) ~15話で登場~
・車長:山口/2年 ・操縦手:太田/2年
・砲手:中山/2年 ・通信手:山本/2年

・半田(池田車・装填手)/2年 ~19話で登場~

それぞれちばあきおのキャプテン、プレーボールからです。


●●16話で決定した小隊名●●

◇小隊名
玉田車=割り下、細見車=牛肉、池田車=豆腐、名倉車=長葱、寺本車=卵
※小隊僚車は小隊名に「ご飯」がつく(ex.玉田小隊僚車=割り下ご飯)

◇別働車
谷口車=バント、山口車=牽制、福田車=みかん、西車=隊長車

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。