とことん真面目に知波単学園   作:玉ねぎ島

16 / 41
オリキャラの整理です

◇谷口車(新チハ)
・車長:谷口/2年(2年時に編入) ・操縦手:丸井/1年(2回目の1年生)
・砲手:五十嵐/1年 ・通信手or装填手:久保/1年

◇山口車(旧チハ)
・車長:山口/2年 ・操縦手:太田/2年
・砲手:中山/2年 ・通信手:山本/2年

それぞれちばあきおのキャプテン、プレーボールからです。



16.下知(すき焼き作戦)

「あわわわ・・・」

 

「こら、福田! 指示を出せ!」

 

「も、申し訳ありません! しかし・・・」

 

敵・味方に分かれての模擬戦を行っているのだが、高速で目まぐるしく動き回る戦車を前に、福田の判断・指示はまるで追いつけなかった。

 

~~~~~~~~

 

前日の全体教練・車長会議を踏まえ、知波単が今回編み出した戦術は

 

①2輌が速度を活かして敵部隊を攪乱

②攪乱する車輌の援護射撃を行うとともに敵車輌の分断につとめる

③孤立した敵車輌を、2or3輌で、なるべく背後(死角)から接近する

④1輌が敵砲塔を引き付け、残りの1or2輌が反対側に回り攻撃する

⑤決して深追いせず、一撃離脱を基本とする

⑥一撃での撃破が難しいため、まず履帯損傷を狙う

⑦二手に分かれた小隊は、別の二手に分かれた小隊と新たに小隊を組み、再度攻撃を行う

 

というものである。

⑦をもう少し説明すると、ABCとDEFがそれぞれ小隊を編成し、それぞれの小隊がAとBC、DとEFに分かれ、分かれた先でAとEF、BCとDとで新たに小隊を編成し直して別の攻撃をしかけるというものである。

①~⑥までは行えたとしても、想定はしていたが、やはり⑦の実行が極めて困難であった。

 

1回目の演習でその困難さに直面した福田は、2回目の演習において西の立会いを依頼した。

 

「これは・・・さすがに無理だな・・・」

西も縦横無尽に走り回るチハを戦場で新たに再編成するという困難さを目の当たりにした。

しかも砲煙と走行の砂埃で視界そのものもよろしくない。

さらに言えば、同じ隊での模擬戦となるため敵も味方も同じチハというのがさらに困難を極めた。

 

その後、稜線射撃、行進間射撃の演習を行い、本日の教練は終了。

教練後に改めて車長が集まり、本日の内容を踏まえて作戦会議が行われることになった。

 

~~~~~~~~

 

「大役を仰せつかりながら、その役目を果たせず誠に申し訳ございません! しかし実際にこの作戦を実行するにあたっては・・・」

 

「福田が気にすることはない。我々も2回の演習で、敵味方入り乱れての混戦の中で、新たに隊を編成するのがどれだけ困難かを痛感している」

 

会議の冒頭で福田が指示を満足に行えなかったことを詫びた。

その後歯切れの悪いところはあったが、玉田がすかさずフォローを入れた。その後特に福田を詰る声が挙がらなかったことからも皆同じように思っていたと見える。

2回目の演習で福田に立ち会った西は、その困難であることを認識し、状況によっては福田を守らないといけないと考えていたがその必要はなさそうである。

こうしたことからも西は皆の変化・成長を感じ取っていた。

 

「しかし、そうなると臨機応変にその場で隊を編成するというのは無理そうですね」

細見が切り出し、その後に池田が続いた。

 

「となると、小隊を固定して行うことになるが、3輌で小隊を編成して分離攻撃するというのもなかなか難しいぞ。他2輌の動きや状況を把握するのは難しいし、かえってこちらが分断されることになりかねん」

 

「となると、2輌小隊か・・・」

 

「出来れば数の優位さは3対1で保ちたかったがな・・・」

自らの案にこだわっているわけではないが、なんとか数的優位さを保てないかと西も思案する。

 

「2輌なら十分連携は取れると思います」

西の苦心を打開するかのように谷口が答えた。

 

「今日はじめて山口さんのチハと小隊を組みましたが、2輌ですとまだ双方の状況把握はなんとか可能です。逆に言えば、敵車輌の位置や状況を把握して瞬時に次の攻撃に移るには2輌が限界かもしれません。山口さんは今日自分と組んでみてどうでしたか?」

 

「まあ谷口のフォローがあったしな。2輌で組むにしても、片方がリードし、もう片方が従うという編成は必要だと思う」

初めて車長会議に参加したとは思えない落ち着きで山口が答えた。

 

なお今日の教練の前に、西が以前の中山車の役割変更を伝えた。中山は車長→砲手兼装填手、山口が砲手兼装填手→車長となったのだが、中山自身窮地で弱気になる自分の性格を認識していたのか、車長の座を降りることには特に抵抗はなかった様子ではあったのだが・・・

 

「そうか・・・ところで今日から車長が山口になったが、中山は大丈夫か? くさってなどいなかったか?」

西が今日一日気に掛けていた質問を山口にぶつけた。

 

「まあ最初は ”別に何も落ち度はなかったのに・・・” とぶつくさ言ってましたが、あの通りの気分屋ですからね。あとの射撃訓練では ”こっちの方が向いてるわ” と呑気に言ってましたよ。うちらも少し気を使ってたのに、取り越し苦労でしたわ」

 

「こちらも谷口となら小隊組むのも安心だし、そうなるとそれぞれの役割分担も明確になるだろうし、それほど心配しなくても大丈夫だと思いますよ」

 

西の望むおそらくベストの回答を山口はした。

西もそれを聞いて安心し ”よろしく頼む” と伝える。

 

「それよりか今ふっと思ったんですけど、うちと谷口は序盤の攪乱が作戦の主ですよね。それなら役目が一段落したところで、他の小隊のフォローにそれぞれ回るってのはどうですかね?」

 

「なるほど! 2輌小隊を基本として、そこに私と山口さんのチハが臨機応変に対応して3対1の局面を作るということですね。小隊長車がもう1輌をフォローし、我々2輌が局面に応じてそれぞれ小隊の攻撃に参加する。ここまで役割分担が明確になれば出来るのではないでしょうか!」

 

「うむ! 妙案だ!」

山口と谷口が考えた3対1の数的優位を可能な限り作り得る作戦に、西も満足した。

 

「ほか何か今日の教練で気付いたことはないか?」

西がさらなる意見を求める。

 

「福田の指示が長くなると、こちらも聞き取りづらいし、理解が追いつきません。判別のしやすい部隊名は必要かと・・・」

玉田が西に部隊名の下知を求めた。

 

「なるほど・・・確かに大学選抜との試合でも ”あさがお”、”たんぽぽ”、”ひまわり”と命名されていたしな」

 

「であれば・・・すき焼きの具はどうだ? 牛肉、豆腐、長葱、しいたけみたいに。これが本当の ”すき焼き作戦” だ!」

 

「「「(・・・いや、隊長・・・さすがにそれは・・・)」」」

西の提案に多くの車長はそのように考えたのだが、細見の一言がその思案を引き裂いた。

 

「じゃあ私は牛肉!」

 

「ずるいぞ細見!じゃあ私は卵だ!」

 

細見の言葉に寺本ものってしまった。

その後は、 ”私は豆腐だ” という具の選択にとどまらず、”豆腐は焼き豆腐なのか?” 、とか ”すき焼きに入れるのはしらたきじゃなくて糸こんにゃくだろ!” といったまるで部隊名とは関係ない話まで飛び交う始末。

結果、西の裁定を待つしかなかった。

 

「では細見車は牛肉!」

 

「やったぁ!」

 

「ちょっと待って下さい! 牛肉は隊長車じゃないんですか?」

 

「いや、別に隊長車は ”隊長車” のままでいいだろ」

玉田の質問に、西はそれが正しいのか正しくないのかよく分からないような回答をする。

 

「まあ、隊長がそう決めたのならいいんですけど・・・」

そう呟いたのは玉田だったが、多くの者が牛肉に未練があるようだった。

 

結果、玉田車=割り下、細見車=牛肉、池田車=豆腐、名倉車=長葱、寺本車=卵となった。

基本この5台が小隊長車となり、僚車をフォローすることになる。

 

「別動隊の谷口と山口、福田は別の部隊名をつけよう。何がいい?」

西が尋ねた。

 

「自分のところは谷口にまかせるよ」

なんでもいいよ、という感じで山口が答える。

 

「じゃあ・・・自分は野球好きなので言いやすい野球用語で・・・自分がバント、山口さんが牽制でいいですか?」

 

「「「(また地味なところを・・・)」」」

ホームランとか、三塁打とか威勢のよさそうな言葉が出てこないのが谷口らしいといえばそうなのだが。

 

「ああ、それでいいよ」

変わらず山口が無頓着に答えた。

 

「では福田は ”みかん” でお願いします」

 

「おお! 確かにみかんは福田にピッタリだな!」

西がそれはいいとばかりに同意する。福田に似合う果物といえば林檎か蜜柑。しかし福田はどちらかといえば寒冷地よりも温暖な地の方が合っている気がする。林檎といえばKV2の装填手(ニーナ)がピッタリだから、それだとやはり福田は蜜柑だなと、西は勝手に想像を膨らませていた。

 

「よし! それでは明日から ”すき焼き作戦” 開始だ! パンツァーフォー!」

 

「「「(・・・)」」」

 

 ”こんな影響されやすい人だったっけ??” と思わざるを得なかったのだが、それはそれとして、まだまだ知波単の変革は始まったばかりである。

ゆっくりではあるが、歩みの一歩が確かな前進であることを皆感じ取っていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。