nameless   作:兎一号

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荒船隊vs諏訪隊vs三雲隊

「あ、神崎さんじゃないっすか!模擬戦しに来たんすか?」

 

C級のランク戦ブースでブラブラしていた私に話しかけてきたのは米屋だった。

 

「あぁ、米屋ちゃん。まあ、そんな所ね。もう一回剣の腕を磨き直さないと、って思って。」

 

そう言うと米屋はうへーと言った顔をした。

 

「何よ、その顔は。」

「だって神崎さん。今でも十分に強いじゃないっすか。俺、勝ち越した事無いっすよ。」

「それは米屋ちゃんが弱いだけでしょう?」

「うわっ、傷ついた。流石にそれは傷つきました。」

 

そう言ってガクッと米屋は肩を落とした。私は辺りをキョロキョロと見回してお目当ての人間を探した。しかし、お目当ての人間の人影が見当たらない。

 

「太刀川ちゃん、何処にいるか知らない?さっきらずっと探してるのよ。」

「太刀川さんっすか?」

「うん。作戦室に行ってみたんだけど、唯我しかいなくって面倒だったわ。」

「あぁ、そうなんすか。防衛任務じゃないっすか?」

「そうかしら…。それか、また忍田本部長に掴まったかのどちらかね。なら米屋ちゃん付き合ってよ。暇でしょう?」

「残念。俺、これから古寺とランク戦見に行くんすよ。」

「ランク戦?」

 

私が首を傾げると米屋は少し驚いた顔をした。

 

「あれ?知らないんすか?今日は玉狛第二の二試合目っすよ。」

「あぁ、今日だったんだ。ほら、私ランク関係ないから。興味なくって。」

「まぁ、そうっすけど。どうっすか、一緒に。」

「そうねぇ、太刀川ちゃんは見当たらないし。そうしようかしら。」

 

私は米屋と共にランク戦会場へ向かった。会場にはC級隊員が主だが、嵐山隊や茶野隊がいた。

 

「あら、今日の解説東さんなのね。来て良かったわ。」

「玉狛第二には興味ないのか?」

「無いわね。私からしたら、雑兵に代わりないもの。そんな事より、東さんの解説の方がよっぽど重要ね。」

 

苦笑いを浮かべる米屋が視界の端に誰かを捕らえたらしい。

 

「おーい、こっちこっち。」

 

後ろを見るとそこには正隊員最年少の黒江がいた。私が小さく手を振ると小さく頭を下げてきた。

 

「ここ、空いてるよ。」

 

黒江は米屋を一瞥した。

 

「そこまで警戒しなくても…。」

「警戒なんてしてません。」

「今日加古さんは?」

「米屋先輩には関係ありません。」

 

そうツンツンした言い方をする子だ。古寺も挨拶をするが、帰ってきた言葉は『どうも。』だけだった。それでも古寺は少し照れていた。彼は辻ほどではないが照れ屋さんなのだろうか。

 

「一試合で8点取ったの?」

「おう、そうらしいな。」

 

緑川はそう言えば8対2で負けていたな。

 

「駿が負けたんですか?8対2で?」

「おう、良い試合だったぜ。」

 

そしてその後に自分は未だに空閑と試合が出来ていないと不満がこぼれていた。私はここに来る途中で買ったジンジャーエールを飲んだ。マップは市街地Cの様だ。坂道に家が点在しているスナイパーにとても有利なマップだ。

 

「ああ、そう言う事か。」

 

私は頬杖を付いて呟いた。これは少し詰まらなくなりそうだ。まぁ、彼らが勝てる保障など何処にもないのだが。

 

「今頃、諏訪ちゃんとかはキレてそう。」

「あぁ、そうですね。」

「あの人はなんだかんだ言って分かりやすい人だからねぇ。荒船ちゃんとかはどうしてこのマップを選んだのかって考えてそう。」

 

私がくすくすと笑いながらそう言うと隣に座っていた古寺が相槌を打ってくれる。そして画面には転送開始と言う文字が出た。いよいよ彼らも中位か。中位はまだどうにかなるかもしれないけれど、上位となるとあの三人では太刀打ちできないだろう。今季A級からB級に落ちた二宮隊や影浦隊に勝てるとは思えない。それに負けて欲しくないとも思う。負けると何だかムカつく。

 

「神崎先輩?どうして不機嫌になってるんですか?」

「不機嫌になってない。」

「いや、それはないでしょ。神崎さん。思いっきり眉間に皺よってますよ。」

「不機嫌じゃない!」

 

落ち着かない。ざわざわと常に風に靡されている気分だ。古寺と米屋がお互いに顔を見合わせている。私はどうにかしようとジンジャーエールのストローを咥える。

 

「どうしたんでしょう?」

「さあ?」

 

私はスクリーンに目を向けた。荒船隊と諏訪隊の全員が高台を目指して走っている。荒船隊に高台を取られると諏訪隊はまずなすすべがなくなってしまう。三雲隊は高台を目指さず、部隊の集合を優先させたようだ。そして高台をとった荒船隊はスナイパーを構える。

 

「いやー、本当に。あの子の威力は化け物よね。」

 

雨取がアイビスを撃ったのを見て私はそう呟いた。

 

「古寺君、出来る?」

「いや、無理ですから。わかって聞いてますよね、神崎先輩。」

「うん、聞いてみただけ。」

「神崎先輩なら、出来るんじゃないですか?」

「流石にアイビスじゃ無理だよ。ブラックトリガー使わないと。」

「ブラックトリガー使ったら出来るんですね。」

「うん、この子は優秀な子だよ。」

 

私は逆十字に手を当てて自慢げにそう言った。すると古寺は苦笑いを浮かべる。私には彼の苦笑いの意味が分からず、首を傾げた。

 

再びスクリーンに視線を戻すとそこには諏訪に追われる荒船の姿があった。玉狛に視線を向けすぎてバッグワームで消えた諏訪隊に気付かなかったようだ。車を盾にしてショットガンの銃弾を防ぐ荒船。そんな荒船を援護する様に半崎が諏訪を狙ってヘッドショットした。

 

「あら、凄いわね。」

「あーっと、荒船隊半崎隊員が隙を狙っていた諏訪隊長緊急脱出か!?」

 

しかし、諏訪は半崎のイーグレットをシールドでガードした。

 

「これで半崎ちゃんの位置が割れちゃったわね。」

「そうですね。」

「半崎ちゃんは結構いいセンスだからね。あれが頭じゃなくて胸だったら諏訪ちゃん一発アウトだったわね。」

「何だか楽しそうですね、神崎先輩。」

「そう?まぁ、スナイパーの戦闘は良く見るわね。私がスナイパーって言うのもあるんだろうけどね。だから荒船隊の記録は良く見るわ。見てるとこう、多分楽しいんだと思う。」

「神崎先輩って見かけによらず好戦的ですよね。」

 

意外そうに古寺が行ってくるので『そうかしら。』と、私は返した。私は確かに好戦的な性格をしていると思う。いや、別に戦闘が好きな訳では無い。ただ、私は戦闘に慣れ過ぎてしまって、戦闘をしていない状態が受け入れられないのかもしれない。彼らにとって平穏が日常なら、私にとって平穏は非日常だ。この4年間で大分慣れてきたが、それでもどこかで立ち止まってしまう時がある。ここにいる事が私にとっての最良なのかと。

そして荒船に追いつこうとしていた諏訪に穂刈からの一発が決まった。足を持ってかれた諏訪が頑張って荒船に追いつこうとするが、追いつけない。そしてこれで諏訪隊のマスコット笹森が追い付いた。

 

「これは、白髪が半崎ちゃんを持って行くかしらね。」

「さぁ、どうでしょうか。」

 

バックワームを着た白髪が半崎の後方を取っていた。半崎が後ろを向いた時、白髪は既に屋上へと上がっていた。そこから半崎に切りかかったが、半崎が後ろに体を逸らした事で急所を外した。それは白髪にもわかったのだろう。とどめを刺しに行こうとしたが、堤も上に上がってきておりそれも叶わなかった。

 

「半崎隊員、緊急脱出!」

「スナイパーは寄られるとこうなります。寄らせちゃダメですね。」

「皆、凸砂練習したらいいじゃない。」

「とつすな?なんすか、それ?」

 

私の言葉に米屋がそう尋ねてきた。

 

「突撃するスナイパー、略して凸砂。最近の私のお気に入り。」

「スナイパーが突撃したってしょうがないじゃないっすか。受け太刀出来ないし。」

「躱せばいいじゃない。それにやる事は銃手と変わらないわ。バックワームを着ないで突っ込むのよ。」

「それって利点あるんすか?」

 

と怪訝な表情で米屋がうかがってくる。

 

「あるわよ。アイビス持って特攻して来たらどうする?」

「え?そりゃ、アイビス撃たれる前に斬るしかないんじゃないっすか?」

「そうね。米屋ちゃんにはそれしか対策がとれないでしょう?集中シールドでも相殺できないアイビスの威力で撃てば、まず確実に相手を削る事が出来る。それに凸砂は撃つ距離を選ぶことが出来るわ。それは10メートルなのか、20メートルなのか。はたまた、70メートルなのか。貴方の槍の範囲内にいなきゃ怖いものなんてないわ。旋空や幻踊の射程に入らないで貴方を撃つのは確かに簡単な事じゃない。でも、それは訓練すればどうとでもなる事よ。スコープを覗かないで狙った的に当てる技術と相手の行動を先読みして先に銃口を動かす技術があれば、あれだけの距離を取らなくても十分に相手を撃ち殺せるわ。まあ、欠点としては受け太刀が出来ない事と、外すと寿命が縮むって事かしら。」

「やっぱ難しいじゃないっすか。」

「まあ、簡単じゃないわ。でも、楽しいわよ。なんなら教えてあげましょうか?古寺ちゃん。」

 

今まで聞きに徹していた古寺に振ってみた。

 

「えっ!?い、いえ。大丈夫です…。」

「そう?ま、止まっている的に全弾狙った場所に当たる様にならないと話にならないわね。」

 

そう言うと隣の古寺は凄く暗い顔をしていた。

 

「どうしたの?」

「やっぱ今日の神崎さん、冷たいっすね。」

 

そう言う米屋の言葉に私は分からずに首を傾げるのだった。そして気が付けば堤が白髪のグラスホッパーで倒されていた。

 

「一点か。半崎のも取れていたら美味しかったのにね。」

「なんだ、神崎先輩。やっぱり玉狛の応援しるんじゃないっすか。」

「してないわよ。」

 

ニヤニヤしながら見て来る米屋にそう言った。私はまたストローを咥えるのだった。ズズッと音を立ててジンジャーエールを飲む。

グラスホッパーは昨日、緑川が教えたらしい。そして荒船が空閑を抑えるのに弧月を抜いた。

 

「スナイパー有利のこの市街地Cで以外にも荒船隊が追い詰めらると言う結果に。」

「しかぁし!ここで反撃に転じたのは剣も狙撃もマスタークラス武闘派スナイパー荒船隊長。」

 

確かに異色のスナイパーだ。でも、元々荒船が隊を作った時は荒船はアタッカーだった。確か、荒船がスナイパーを辞めた時村上が泣いたとか。そんな事を聞いた事があるな。その話をすると何故か刈谷裕子はとても楽しそうに聞いていたな。彼女は村上に会った事が無かったはずだ。一体何を想像していたのやら。何故なのだろうか。

そして緑川は荒船と白髪の対決を荒船が負けると予想した。まぁ、確かにあの白髪は戦闘慣れしている。スナイパー装備の荒船には難しい。ふむ、荒船に凸砂を教えてあげようかな。グラスホッパーにつられた荒船の足を白髪が切り落とした。しかし、少し時間をかけすぎてしまったようだ。諏訪が追い付いてしまった。屋根の上から彼らにショットガンを撃つ諏訪。

 

「諏訪ちゃん、あの距離くらい当てなさいよ。全く、下手ね。」

「落ち着いて、神崎先輩。」

「リコイルコントロールがなってないのよ。」

 

私の隣でどうどうっと言った感じに私を落ち着かせようとする古寺。私は至って落ち着いているんだけど。カメレオンを使った笹森に後ろから掴まれた空閑は少し浮いていた。身長が小さいなぁ。なんて思っていると雨取のアイビスが飛んでいった。

 

結局、玉狛が6点。諏訪隊が2点。荒船隊が1点。玉狛の順位は8位にまで浮上した。

 

「良い試合でしたね。」

「そう?つまんないわ。」

「そうですか?」

「試合が用意ドンで始まるのが詰まらない。本当の戦闘に用意ドンはないし、準備する時間なんてないもの。」

「確かに、何時召集されるか分からない状態でやるのは非常にスリルがあると言うか、何というか。」

「だから、マップの設定を一日前には出しておいて、全員が転送される時間は決まっててそれより1時間前にランダムに転送を開始するの。誰がどの順番で何処に転送されるか分からない様にしたらいいのよ。最初に攻撃手とその次に狙撃手が送られて逃げ惑う狙撃手。なんてもの見られて日には、楽しくって夜も眠れ無さそう。」

「なんですか、それ。えげつなさ過ぎますよ。」

「でも、実際の戦場って言うのはそう言うものよ。助けてほしい時にチームが来てくれるとは限らない。個人で対応できる能力って言うのも大切って話よ。」

 

私は最後のジンジャーエールを飲み切って立ちあがった。

 

「それじゃあ、私は帰るわね。」

「何か用事でもあるんすか?この後暇なら模擬戦しましょうよ。」

「うーん、残念。弟に会いに行くの。」

 

そう言うと米屋は驚いた顔をした。

 

「神崎さんに弟なんていたんすね。」

「えぇ、とっても可愛い弟が一人、ね。じゃあ、また今度やりましょう。その時は凸砂の素晴らしさをその身にじっくりと味合わせてあげるわ。」

「楽しみにしてるっすよ。」

 

大きく手を振る米屋に私は小さく手を振って答えた。




お疲れ様でした。

感想お待ちしております。

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