nameless   作:兎一号

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何をどこまでやるとR18なんでしょうか?


神崎蓮奈の感情忘却

私は今、お好み焼き屋かげうらでお好み焼きを食べている。

 

「お前、良く食うな。」

「病院の食事って美味しくないのよ。」

「知ってるけどさ。」

 

銀色のへらを持った影浦雅人が呆れた様に私の前に座ってこちらを見詰めて来る。私は彼が焼いたお好み焼きを食べる。これで5枚目だ。そして6枚目を注文したばかり。論功行賞で貰った150万の殆どはここに還元されるのだろう。

 

「今日は酒飲まないのか?」

「流石に腹に穴が開いた後にお酒を飲む勇気はないよ。一応、薬も出てるし。」

「そうか。」

「そう。」

 

箸でお好み焼きを切ってお好み焼きを食べた。刈谷裕子は学校で面接の練習があるとかでいない。

 

「お前、これ食べ終わったら何するだ?」

「お好み焼き食べたら?特にすることはないかな。防衛任務は入ってないし、高校から特に宿題が出てるわけじゃないし。」

「じゃあ、暇だな?」

「ん、まぁ。暇だけど。」

「よし、少し付き合え。」

「何に?」

「大学から出てる宿題。お前の所もなんかあるだろ?」

 

そう言われて大学から来ていた封筒の中にそれらしいものが入っていたのを思い出した。

 

「と言うか、影浦君。大学受かってたんだね。」

「どういう意味だ、おい。」

「裕子と話してたの。根付メディア対策室長殴ったでしょう?だから推薦もらえないんじゃないかって。」

 

そういうと彼は舌打ちをした。私はそんな影浦雅人を見て笑みを浮かべる。

 

「裕子も影浦君が心配なのよ。」

「あいつはそんな奴じゃねぇよ。」

「そんなことないわよ。裕子、影浦君の事ライバルだって言ってたよ?」

 

影浦雅人は驚いた表情を浮かべた。数回瞬きをした後、ありえねぇと呟いた。

 

「裕子も何だかんだで口が悪いところとか、影浦君にそっくりね。」

「あいつ、お前の前でそんなに口が悪いところ見せてたか?」

「影浦君と喧嘩してる時とか?」

「あぁ、まぁ。そうだな。」

 

影浦雅人と刈谷裕子はよく口喧嘩をする。それでもよく一緒にいるので本気で喧嘩しているわけではないと思っている。

 

「影浦君も何か注文したら?奢ってあげるわよ?」

「いらねぇよ。お前の見てるだけで腹いっぱいになる。」

「そう?」

 

私は最後の一口を食べた。そして新しいお好み焼きの具が来た。私はそれを受け取って影浦雅人のほうへ差し出した。あきれたようなため息のあと、それを受け取って鉄板で焼き始めた。私はその様子をワクワクしながら見ていた。

 

「お前、昔はこんなに食べてなかったよな。」

「あっちにいた時は、食べ物は本当に貴重だったからね。ふふ、もう昔の生活に戻れないかも。」

「別に、戻る必要ないだろう。ずっとここにいればいい。」

「うーん、それは、どうだろう。」

 

そういうと影浦雅人は鉄板から目を離して私のほうを見てきた。

 

「どういう意味だよ。」

「借りがあるの。命の恩人に恩返しをしてない。」

「腹に一回目の穴が開いた時に助けてくれたって人のことか?」

「そう。」

「忘れちまえよ、借りなんて。」

 

影浦雅人の言葉に私は呆けた。そして数回瞬きをした後、「どういう意味?」と尋ねた。

 

「そのまんまの意味だよ。借りなんて、忘れてしまえ。相手だって何を貸したかなんて覚えてねぇだろう。」

 

影浦雅人は不機嫌そうにそういった。彼らしくないと思った。何かあったのだろうか。私はただ黙って影浦雅人の言葉を聞いていた。彼の言葉にどう返していいのか、わからなかったからだ。

 

「なら、私がここにいる理由もなくなるんだけど。」

「あ?」

「4年前、影浦君お好み焼き奢ってくれたでしょう?」

「あぁ、朝も昼も食べねぇって言ってたからな。」

「私を心配して、貴方は食事をくれた。その恩がある。」

 

私がそういうと影浦雅人は不機嫌そうな顔をした。

 

「お前は、俺に恩があるから一緒にいるって。そういう事か?」

 

私は視線を下げた。昔は、そうだった。恩を返しまでここにいるつもりだった。それから先延ばしにして、次の場所に行くのに躊躇っていた。どうして、私は次の場所に行かない?いつだって、そうしていたのに。

 

「おい、聞いてるのか?」

「わからない。」

「あ!?」

「最初はそうだった。でも、私は君に借りを返せたと思っているの。なのに、私はここいる。君の前で、君の焼いたお好み焼きを食べている。私の欲望のために。空腹という欲望のために。ねぇ、私はどうしてここにいると思う?」

 

私はまだ包帯の巻かれている手を見ながらそう尋ねた。真っ白な包帯が手からあふれ出す血で真っ赤に染まっていくような。そんな気がした。その血はやがて腕を通り服の袖を汚していく。そんなのが見える気がする。

 

「そんなのは、俺にわかるかよ。」

 

私はいつか目の前の彼を殺すのだろうか。彼が私を裏切れば、殺すのだろうか。殺せるのだろうか。今までの奴らと同じように。

 

「お前が、ここにいたいからじゃないのか。」

「私が、ここにいたい?」

 

私がここにいたい。どうして。私は、ここにいたい。人は他人から受けた感情しか知らない。他人からその感情をもらえなければ、人はその感情を知ることはできない。だから、私は相手が送ってきた感情をそのまま返している。感情を知らない私にはそれ以外に感情を知る方法はなかった。それは良い感情は決して多くはない。それでも感情を知るには、それが一番良かった。

 

私はきっと感情が知りたかった。自分になくて、他人が持っているものがどうしようもなく欲しかった。隣の芝は青い。そんな言葉があった気がする。ここにいたいというのはいったい私が受け取ってきた感情の中でどういった感情が一番当てはまるのだろうか。

 

わからない事は、恐ろしい事だ。だから、私は知りたかった。そう、彼らならくれると思った。未だに、私の知らない感情を。あの場所(戦場)では知ることのできない感情を。

 

「貴方はいったい私に何を教えたの?」

 

かすれた声が漏れた。その声を聴いた影浦はまた、眉をひそめた。

 

知っている。

その言葉を、その意味を。でも、それは、私には許容できる重さの感情ではない。

 

「どういう意味だ?」

「人はね、他人からもらった感情以外、知ることは出来ないんだって。だから、貴方は私に何の感情を向けていたの?私に何を教えたいの?」

 

私が首をかしげてそう尋ねると、彼は視線を鉄板に落とした。そして焼きあがっていたお好み焼きを皿の上に乗せた。そして彼は私にそれを差し出してきた。私はそれを受け取った。そして一口食べた。私は彼からの返答を待った。しかし、結局影浦雅人は私の質問に答えてくれなかった。お好み焼きを食べる私を見つめるだけだった。

 

「これから、用事は?」

「今日は特にはないけど…。」

「なら、少し良いか?」

「私は、大丈夫。」

「そうか。」

 

影浦雅人は私にそういうと私の手を引いた。会計を済ませ、彼の家に向かった。手を引かれるまま、彼の部屋に入っていった。部屋のドアを閉め、振り返って影浦雅人は真っ直ぐ私を見つめてきた。私は改めて影浦雅人という人間をじっくりと見た。癖の強い黒い髪。綺麗な黄色い瞳。マスクをしているため今はわからないが、マスクの下には犬のようなギザギザの歯がある。だんだん、気まずくなってきた私は影浦雅人から視線をそらした。影浦雅人は私の手を勢い良く引いた。

 

「うわっ。」

 

私の体は振り回され、ベッドにぶつかりそのまま倒れこんだ。倒れこんだ私の手を彼は掴み、私を仰向けにした。私の上に跨り、影浦雅人は私を見下ろす。

 

「お前は、俺への恩を返すためにここにいるんだよな。なら、その恩。今ここで返してもらう。」

 

私は驚いた表情で彼を見つめた。彼の左手は私の両手を掴み、ベッドに抑え込んだ。私の頭の上に私の両手を置き、彼は顔を近づけてきた。右手でマスクを外した。それをどこかにポンッと投げた。私はこれから行われることに身に覚えがあった。強く瞳を閉じた。

 

「ぁっ。」

 

息が漏れた。首筋に唇が這う。掴まれたままの手に力が籠る。それはそのまま上へ向かう。右手が体の上をいったり来たりする。

 

「ん、ぅ。」

 

耳に舌が這う。吐き出す息が震える。涙が出ていた。どうしてだろう。どうして、悲しいのだろう。

影浦雅人が少しだけ離れた。閉じていた瞳を開いて、私は影浦雅人の顔を見た。眉を寄せて酷く悲しげだった。

 

「嫌だろ。殴ってでも抵抗しろよ。何でやられたままなんだよ。」

「恩を返せって、言ったから。」

「ふざけんなよ…。なら、お前は俺が足りねぇっつったら、何回でもやられるつもりかよ。」

「されるのは、初めてじゃない。前の奴は私が何を言っても辞めてはくれなかった。だから、無駄でしょ。」

 

そう言うと影浦雅人はとても驚いた顔をした。私の両手を押さえていた手がゆっくりと離れていく。

 

「クソッ。」

 

そう悪態を吐く彼はどこか酷く悔しそうだった。

 

「悪い。」

「貴方が悪いわけじゃ無いわ。」

 

右手が私の頬に触れた。

 

「私は、人間としては欠陥してる。私には、わからない。」

「お前は、欠陥なんじゃねぇ。忘れてんだよ。自分から感情を向けることを忘れてんだ。だから、俺に刺さらねぇなんて事になるんだ。俺を初めて刺した時、言ったな。『感情を表に出すのは久しぶりだ』って。」

 

懐かしい話だ。私がここに帰って来たばかりの頃の話だ。まだ、如月結城だった頃の話。

 

「お前は自分から感情を表に出す事を忘れたんだ。」

 

彼は額を私の額にあわせた。

 

「なあ、ここにいろよ。ずっとここにいろ。それじゃあ、ダメなのか?」

「私は、貴方を怒らせたの?」

 

私は影浦雅人の頬に触れた。

 

「そんなんじゃねぇよ。ただ、どうしようもなくお前が好きなんだ。」

「すき…?」

「ああ、好きだ。俺は神崎蓮奈が好きだ。」

 

私はどうしていいのかわからなかった。私に跨っていた彼は私の上から退いた。私は起き上がる気にはならなかった。

 

「わからない。私には、わからないわ。」

「お前は忘れただけだって言っただろ?すぐに思い出させてやるよ。神崎蓮奈は俺に愛されてんだ。」

 

影浦雅人は私の横に寝転がった。先ほどとは遠いがいつもより近い場所に彼の顔があった。私は体を横に向け、彼の方を向いた。私は彼の胸に顔を当てた。彼の手が私の体を抱きしめた。心臓が脈打つ音が早い。緊張しているのだろうか?

影浦雅人の体温は暖かく心地よかった。私は影浦雅人の腕の中で彼を見上げた。手を伸ばして赤い彼の頬に触る。

 

「照れてるの?」

「こんな風に言うつもりはなかったんだよ。もっと、こう…、雰囲気とかあんだろ。」

「確かに雰囲気もへったくれもないわね。」

 

彼は私が見上げてくるのが嫌だったのか強く抱きしめられた。

 

「絶対、その恩人のところに行くのか?」

「そうね。そうじゃないと心残りが出来るもの。」

「そうか。」

「うん。」

 

影浦雅人の手が私の頭を撫でる。少しぎこちない。

 

「迷ったら…。」

「何?」

「俺たちの所とその恩人の所。迷ったら、俺を刺せ。そしたら、連れ帰ってやる。俺がお前を、絶対だ。」

「わかった、絶対よ。」

「ああ、絶対だ。」

 

私は刈谷裕子が私にするように影浦雅人の胸に頭を擦る。猫が甘えるように。そのせいか髪のリボンが緩んでしまったようだ。

 

「ありがとう。」

「ああ。」

 

リボンがスルスルと解かれた。

 

「綺麗な金色。」

「私も貴方の黒い髪、好きよ。」

 

そう言うと彼は私を抱きしめていた手を緩め体を起こした。親指で唇を撫でた。それから彼は私に顔を近づけた。

 

「好きだ、神崎。」

「私は…、ん、んん。」

口の中にヌルッとした感覚が襲った。初めての感覚に私は戸惑いを覚えた。私は影浦雅人の服を強く握りしめた。

 

「んぅ……、ん。はぁっ、あ…。」

 

何をどうしていいのかわからない。タイツを履いている足がベッドを乱して行く。シーツが段々とシワをつくる。心臓が早く脈打っている。酷く煩い。影浦雅人が少しだけ顔を離した。

 

「は…っ、はぁ……。」

 

吐き出す息がとても熱い。肺は沢山の空気を必要としている。

 

「ーーー。」

 

影浦雅人が何か呟いた気がした。私にはその時、何かを正常に判断する余裕はなかった。ただ、さっきより穏やかな表情の彼を見てよかったと、思うただけだった。

 

影浦雅人の顔がもう一度近づいてきた。彼の右手は私の頭の裏にまわった。彼の左手は私の右手を握った。

あぁ、逃げられないのだろうと。そう思った。私はこれから彼に食べられてしまうのだろうか。でも、それもいいと思う私が確かにいた。

 

「んっ……、ふ、ぅん…。」

 

熱い。口の中が酷く熱い。口の中だけじゃない。身体中が熱い。

 

「…ん、んん、…はっ。」

 

艶めかしい水音が耳に残る。深く滑り込ませ、撫でるように抜かれる。舌が柔らかく歯齦をなぞる。ゾワっと背中に何かが駆け抜けて行く。彼を掴む手に力が篭る。

 

「は……、ぁっ。」

 

やがて舌を抜かれ、唇を離されていくと唾液は細く糸を引く。

 

彼の手が少し冷たくて気持ち良いと思ったのを覚えている。

 

神崎から刺さる感情がゾクゾクしたのを覚えている。




お疲れ様でした。

あっれー、私は週刊少年誌の夢書いてたよね…?
ドウシテコウナッタ。

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