nameless   作:兎一号

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これからも精進いたします。


神崎蓮奈と対策会議

「神崎。」

「風間ちゃん!相変わらず小っちゃくて可愛いわね。」

 

私はそう言って10cm程小さい風間の頭を撫でた。彼は不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「ちゃん付けはこの際もう良い。頭を撫でるのは止めろ。」

 

私が頭を撫でるのを辞めると風間と一緒に歩き出した。

 

「神崎は聞いたか?」

「大規模侵攻の事?聞いたわよ。私は一回目の時がどんなだったか知らないけど、それよりも被害が大きくなるかもしれないんでしょう?大変ねぇ。」

「随分他人事だな。」

「そうね、他人事だもの。私にとっては殆ど他人事。」

 

後ろで腕を組みながらそう言った。今日の風間は私服だ。いつものあの青いジャージな戦闘服ではない。廊下をカツカツと歩いている。今は城戸さんに呼ばれてその大規模侵攻の対策をする会議に呼ばれているのだ。

 

「三輪ちゃん?」

「神崎さん、風間さん。」

 

私達の前には少しやつれて見える三輪秀次がいた。目の下には隈を作り、頭が少しぼさぼさのように感じる。

 

「どうしたの、三輪ちゃん。大丈夫?」

 

私は三輪の顔に手を当てた。そして隈を撫でた。

 

「隈も出来てる。寝てないの?」

「大丈夫です。」

「大丈夫そうには見えないわよ。今日の会議は休んだら?ねぇ、風間ちゃん。」

 

私は隣にいた風間に同意を求めた。風間もうなずいてくれた。

 

「あぁ、あまり無理をしない方が良い。城戸司令には俺から言っておこう。」

「風間ちゃんもこう言ってるし、会議が終わったら相談に乗ってあげるから。それまでは大人しく仮眠室で寝てなさい。」

 

ポンポンと三輪の頭を撫でると嫌だったみたいで手を払われた。

 

「三輪ちゃん、一つお姉さんからアドバイスあげる。」

「いりません。」

「良いから聞きなさいって。」

「……。」

「貴方の思っている事は当然私の中にもあるわ。こちらには私が持っている知識も未来予知もある。でもそれは完璧では無いわ。だから、彼から情報を貰うのよ。そうすればこちらが磐石な姿勢をとる事が出来る。近界民(あれ)はそう言う意味で飼われている。そう思えば幾分か心が楽でしょ?このまま飼い殺せばいいのよ。」

 

私はそう言って三輪に対して笑みを浮かべた。三輪は少しだけ驚いた顔をした。

 

「そんな顔されるなんて心外だわ。」

「意外だったので。」

「切り替えの早さは大切なのよ。」

 

三輪は眉間に皺をよせた。私は三輪の横を通ってそのまま会議室へと歩き出した。

 

「神崎さん、アンタは近界民が憎くないのか?」

「私の復讐は済んでるもの。でも、私の大切なモノに手を出すなら、死ぬより辛い目に合わせるわ。」

「そう、ですか。」

 

三輪はそう言うとフラフラと私達は逆の方を歩いて行った。

 

「お前の復讐は恐ろしそうだ。」

「恐ろしくない復讐なんて、あるのかしら。」

 

風間の呟きに私はそう問うた。風間はフッとそれを鼻で笑った。

 

「そうだな。」

「そうでしょう?」

 

会議室につくと城戸さんと忍田さん、林道さんがいたが、今回の報告のメインとなった人間がいなかった。

 

「城戸司令、三輪が体調不良で今回の会議は欠席するそうです。」

「そうか。」

 

城戸さんは何やら沢山のディスプレイを見詰めていた。そこには誰かとあの白髪がいた。白髪の隊服は何故か他のと違い黒かった。あ、でも。この前も隊服が黒かったかもしれない。

 

「あれが空閑の息子か?」

 

空閑の息子?城戸さんと近界民の親は知り合いなのだろうか。私は心の中でそう考えていた。

 

「そう、空閑遊真。中々の腕でしょう。」

 

彼は近界民だ。どう考えたって戦闘訓練を受けていない一般人に比べれば見栄えしてしまうのは当然だ。彼と当たってしまった一般人に私あ心の中で合掌した。ナムナム。

 

「神崎、お前はどう思う。」

「近界民の中では腕は立つ方だと思います。ですが、十二分に殺せる弱さです。」

 

そう言うと忍田さんがこちらを睨んできた。私は腕を後ろに組んで忍田さんから視線を逸らした。何故私は睨まれているんだろう。思った事を言っただけなのに。

 

「風間は、お前の目から見てどう思う。」

「まだC級なので確実な事は言えませんが、明らかに戦いなれた動きです。戦闘用トリガーを使えば、恐らくマスターレベルの実力はあるでしょう。」

「8000か。それなら一般のC級と同じにしたのはまずかったかもしれないな。初めから3000ポイントくらいにして早めにB級に上がらせるべきだった。確か、木虎は3600ポイントスタートだったろ?」

「そうしたかったけど、城戸さんに文句言われそうだったからなぁ。」

 

彼らの信頼関係がなせる業だろう。もう、信頼関係があるのかはわからない。それでも付き合いが長いからそう言ったお道化た言い方が城戸さんの前で出来るのだろう。林道支部長は煙草を弄りながらそう言っていた。

 

「奴は何故ブラックトリガーを使わない?昇格したいのならS級になるのが一番手っ取り早いだろう。」

 

確かにそうだ。だが、S級では彼らのやりたい事は出来ないだろう。

 

「またまたぁ。アイツがブラックトリガー使ったら難癖付けて取り上げる気満々の癖に。『入隊は許可したが、ブラックトリガーの使用は許可していない。』ってさ。」

「先日、訓練場の壁に穴を開けたのも玉狛の新人だそうだな。たしか『雨取千佳』。神崎、お前はその場にいたらしいな。」

「はい、いました。」

「あの子はトリオンが強すぎてね。いずれ必ず戦力になるから大目に見てやってよ。兄さんと友達が近界民に攫われて遠征部隊選抜を目指している。遊真ともう一人のチームメイト修はそれに力を貸しているんだ。」

「神崎、それは本当か?」

「本当の様です。一応、助けられる見込みは薄いと釘はさしているのですが…。」

 

私は城戸さんにそう言った。

 

「そうか。」

「神崎、君は彼らに助けに行くのは止めろ、とそう言ったのか?」

「そうは言ってません。ただ、あちらの現実を教えてあげただけです。彼らが思っている以上に、世界は残酷だと。」

 

忍田さんの問いに私は静かに答えた。私が誰よりも知っている。私の前にいる大人達よりも。目の前の大人たちが知らないとは言わない。けれど彼らは、最初近界民と手を取る事を取った。沢山の国があるから探しに行くのは困難だと、彼らは今までの犠牲に目を瞑ったのだ。そのせいで、如月有紀は死んだ。きっと彼らは私が行方を暗ませると探しはするだろう。でも、最後まで探すことはしないだろう。

私を探してくれるのは、あの二人だけだ。あの二人だけ。あの二人が私に孤独を与えた。一人でいる事に慣れ切った私に、一人でいる事の寂しさに意味を与えた。それから私は孤独が酷く恐ろしいものになった。恐ろしいものなのだと改めて思い知らされた。あの二人がいなくなったらと思うと足が竦みそうだ。

 

「神崎、大丈夫か?」

「大丈夫よ、風間ちゃん。」

 

心配そう、なのか分からないが風間がこちらを見てそう尋ねてきた。

 

「でもまぁ、何か目的があった方がやる気出るでしょう?救出だろうが、復讐だろうが。な、蒼也?」

「三輪辺りはそうでしょう。自分は別に兄の復讐をしようとは考えていません。」

 

兄…。

風間にはどうやら兄がいたらしい。そしてその兄は近界民に殺されてしまったらしい。

 

「お、遠征で少し価値観変わった?」

「自分は何も今までと変わりません。」

 

風間はそう言いきった。

 

「神崎は、どう思ってる?」

「私は、近界民がどうなろうと人間がどうなろうと知った事ではありません。滅びるなら勝手に滅びればいい。私は近界民と言う種族にも人間という種族にも特に思い入れはありませんから。」

「相変わらず、冷たいね。神崎は。」

 

林道さんは煙草を咥えながらそう言った。私の価値観は最早、変わる事は無いだろう。人の性格は生まれてきた時では無く、育った環境が作り上げるらしい。私の育った環境がそう言った物だった。ただ、それだけの事だ。後ろのドアが開き、入ってきたのは自称実力派エリートだった。

 

「どもども、遅くなってすみません。実力派エリートです。」

 

私達はそれぞれの席についた。

 

「ようし、揃ったな。では本題に入ろう。今回の議題は近く起こると予測される近界民の大規模侵攻についてだ。まずは、事の発端何だが、迅。」

「はいはい。」

 

そんな感じで会議が始まった。どうやら迅の未来予知で人が襲われたり、殺されたりした未来を見たらしい。それが一般人や隊員に見えた。だから大規模な侵攻があるだろう、という事だそうだ。

 

「襲ってくる国については、神崎。」

「はい、私が遠征に行っていた間に起こった事は資料で見ました。ラッドを使った偵察は何処の国でもやる事です。しかし、もしイルガーを放った国と同一の国ならば相手は確実にこちらの戦力をはかりに来ていたと思われます。相手はどうやら確実に次の侵攻を成功させたいと言う執念みたいなものを感じます。今まで三門市に来ていた近界民とは切り離して考え対策すべきだと思います。襲ってくる国については申し訳ありません。イルガーを所持している国は決して多くないのですが、私には見当をつける術を持ち合わせておりません。なので、ブラックトリガー持ちの近界民に聞いてみてはいかがでしょうか?」

 

私がそう提案すると城戸さんは眉を顰めた。

 

「…空閑、か…。」

「はい、少なくとも私よりは情報を持っている可能性があります。」

「分かった。神崎、空閑を呼んで来い。C級のランク戦ブースにいる。そろそろ鬼怒田開発室長もこちらにくるだろう。大会議室に案内してくれ。」

「神崎、了解。」

 

私はそう言って会議室を出て行った。ランク戦のブースにつくと何やら騒がしい。辺りを見渡した。電光掲示板には白髪と緑川が戦っていた結果が映し出されていた。8対2。最初の二回だけ。恐らくわざと勝たされたのだろう。

 

「空閑遊真。」

「お、神崎さんじゃないっすか。神崎さんも個人戦しに来たんすか?」

 

白髪の近くにいた米屋がそう尋ねてきた。

 

「空閑遊真、城戸司令がお呼びよ。ついて来て貰えるかしら。」

「?それって行かなきゃダメ?」

「別に来なくてもいいわ。城戸指令の命令を無視できるだけの正当な理由があれば。」

「あのどうして城戸指令が空閑を?」

「君の問いに答えなければならない理由を私は持ってないわ。それで、来るの?来ないの?」

「……わかった、行く。」

 

あまり納得がいっていないようだったが、白髪は行くと言った。

 

「その返事が聞けて良かったわ。」

「あの、僕もついて行っていいですか?」

「さぁ、私がつれて来いって言われたのは白髪だけだから。君についての指示は受けてない。着いてくれのは勝手だけど、怒られると思うわよ。」

「俺もついて行くぞ!」

 

今気が付いた。カピバラと陽太郎もいたようだ。

 

「好きになさい。」

「うむ、好きにするぞ。」

 

私達は何やら注目を浴びながら訓練室を出て行った。

 

「ねぇ、神崎先輩って『戦死者を選定する女(ヴァルキュリア)』なの?」

「そう呼ばれるのは久しぶりね。」

「ふぅん、だからあんなに強かったんだ。」

「強い?私が?まさか。私は強くないわ。トリガーの性能が少し特殊だから攻略が難しいだけ。私は強くないわ。」

「でも、その特殊な性能のトリガーを使いこなしてるじゃん。」

「詰る所、何が言いたいの?」

「お姉さんの懐柔?」

 

素直にそう言う彼に私は声を上げて笑った。

 

「無理無理、貴方には私の懐柔は出来ないわ。」

「どうして?」

「私は貴方を貴方として見ていないからよ。」

 

そう言うと彼は理解出来なかったようで首を傾げた。後ろの眼鏡も陽太郎もわからないでしょうと言う顔をした。

 

「私はね、小南ちゃん達皆を人間として見てるわ。」

「?」

「つまりね、人間という種族の小南と言う名前の女。人間という種族の烏丸と言う名の男。私は人間という種族として見ていても、小南個人を見ていない。個人を見なければ何を言われても響かない。同族意識を持つことはない。」

「小南先輩たちを信用してないって事?」

「そうとは違うわね。小南ちゃんの戦闘技術も信用しているし、小南ちゃんの性格も可愛いと思うわ。ただ、一生無償の信頼はしない。絵に感動を覚えても絵と同じになりたいとは思わないでしょ。」

「それって辛くないの?」

「辛くないわ。当たり前の事を辛いなんて思わないでしょ?まぁ、時々絵の方が私を絵の中へ引きずり込もうとしてくるから困るんだけどね。」

 

白髪はどうも納得がいないと言った表情で私を見上げていた。しかし、この白髪は身長が低い。約30cm近くの身長差がある。年は15歳らしいが、明らかに成長不良だ。エレベーターを乗って上の階へ上がる。そして一つの扉の前で止まる。

 

「遅れて申し訳ありません、連れて参りました。」

「おお、やっと来たか!」

「時間が惜しい、始めてくれ。」

 

入ってきて早々に城戸さんがそう言った。こうして対策会議が始まった。




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