nameless   作:兎一号

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namelessの就職と百合の花、薔薇の花

小南と言う女子との戦いから一晩が開けた。あの時点で相当暗かったし。彼女が自らの変化に気が付いたのは感嘆に値するだろう。もし、変化に気付いていたならだが。侵食には痛みは伴わない。ただ侵食された場所は動かなくなる。筋肉への侵食、関節への侵食、腱への侵食。取りあえずこれさえ気を付けておけば、相手に体内を侵食されているとはまず気付かれない。

 

「昨日の小南との戦闘、見させてもらった。改めて昨日の戦闘の事を聞きたい。」

 

昨日とは違い、小南、迅が増えている。

 

「気になるのは、玉狛の小南の腕が吹っ飛んだところだ。剣を振ったような動作は確認できなかった。」

 

そう、私に訪ねてきたのは小太りの男性。

 

「トリオンの侵食にはある程度コントロールが効きます。なので、小南、さんのトリガーから掌へ、掌から骨を伝って腕を侵食させました。彼女の腕が吹っ飛んだのは、彼女を腕を構成していたトリオンが侵食され、霧散したからです。彼女の腕を繋ぎとめているトリオンが無くなったので、吹っ飛んだように見えるだけです。あれは唯、小南さんの腕を振り上げた勢いで飛んでいっただけです。」

「では、彼女が緊急脱出したのは?」

 

次に訪ねてきたのは嫌味そうな顔をした男だ。

 

「同じ手法で彼女の体内を侵食し、トリオン供給器官が霧散したため緊急脱出に至りました。」

「一つ質問、いいかな。」

「はい、どうぞ。」

「君は小南のトリオン供給器官を霧散させたと言ったな。」

「はい。」

「戦闘データを確認してみると確かにトリオン供給器官とそれ通じる道の様に体内からトリオンが消えていた。君はどうやってトリオン供給器官の場所が分かったんだ?君が霧散させたのはトリオン供給器官だけだった。そこにあると確信をもって侵食させていたんだろ?」

 

林道支部長の問いに座っていた誰もが私の方を向いた。

 

「それは、ゆうきのサイドエフェクトを使用しました。」

 

私がそう言うと城戸司令は少しだけ眉を寄せた。

 

「それは一体どう言ったサイドエフェクトだ?」

「と、言っては見ましたが、私がサイドエフェクトと言う言葉を知ったのはここに来て初めて知った言葉です。本当にそれがサイドエフェクトかどうかは分かりません。予めご了承ください。」

「分かった。」

 

そう言って城戸司令は頷いた。

 

「ゆうきは8年前、左目に大きな怪我をして物が見えなくなりました。それでも、彼女の左目にはトリオンだけは白くはっきりと見えていたそうです。ブラックトリガーの仮面も同じ様に左側はトリオンだけが白くはっきりと見えます。その左側には私のトリガーで侵食した部分だけが黒くなります。そしてトリオン供給器官とトリオン伝達脳はその部分だけ通常トリオンが集中しているのでより一層白く見えます。まぁ、あれですよ。何でしたっけ。骨を折った時の…。」

「レントゲン?」

「あぁ、それです。レントゲンみたいにトリオンが集中している所は真っ白に、集中していないところは灰色みたいに見えるんです。だから、トリオン供給器官だけを綺麗に霧散させられたと言う訳です。まぁ、色の違いは極僅かです。普段はそんな面倒なことはしません。今回の相手は一人だけだったので、そうしただけです。」

「君のブラックトリガーに侵食されない方法はあるか?」

 

城戸司令は私にそう尋ねてきた。私は少し口元に手を当てた。

 

「申し訳ありませんが、私にはわかりかねます。今まで侵食出来なかったトリオンはありません。」

「君を倒す方法はどんな方法だ?」

 

私は少しだけ驚いた表情をしているだろう。

 

「城戸司令!」

 

その言葉に対して怒気を含んだように声を上げた忍田本部長。

 

「私を倒すには、そうですね。あの鎧は霧散したトリオンを吸収して硬度を増します。今までたくさんのトリオンを吸収していますから、まず傷つかないと思います。それから、鎧への攻撃もブラックトリガーに侵食される原因になります。それは仮面も同じことです。なので私を殺すには、首をはねるか、後ろから私の頭を撃ち抜くかそのどちらかだと思います。」

「そうか、わかった。nameless君、君をボーダーの隊員として認めよう。これからはボーダーの為に励んでくれ。」

「はい、誠心誠意取り組みます。」

 

私はハキハキと答えた。

 

「それから、君のご両親のことだが…。」

 

 

 

 

 

 

「はあ!?」

 

刈谷裕子は今、昨日訪れたnamelessが寝床としてるマンションを訪れていた。そして彼女の前には同じように昨日ここを訪れた影浦雅人がいた。彼の様子がおかしいのは今日会った時からわかっていた。休日の今日。二人でnamelessに会いに行く事を示し合わせたわけでは無かったが、二人は玄関で会った。今日の影浦雅人は何処か惚けていて、目の下にはクマまで作っている。一体彼に何があったのか問い詰めてみた。

すると、彼はnamelessにキスをされたと言い出したのだ。

 

「アンタ、嘘ついてないわよね。」

「嘘なんかつくかよ。」

 

影浦雅人は恥ずかしそうに額に手を当てて俯いている。

 

「本当にnamelessさんからキスしたの?アンタが迫ったんじゃないの!?」

「ちげーよ!俺はそんなチャラチャラしてねぇ!」

 

今度は刈谷裕子が頭を抱える番だった。

 

「ああ、私のnamelessさんが影浦に穢された!」

「おい、それはどう言う意味だ!だいたいテメェのじゃねぇだろ!」

「何、それは何?自分の物だって言いたいわけ?自分の物宣言してるわけ?うっわ、ないわ。」

「自分だってさっきしてたじゃねぇか!ふざけた事抜かしてんじゃねぇよ!」

 

刈谷裕子は持って来たポテトチップスの袋を乱雑に開けて数枚を口に放り込んだ。

 

「あーあ、最悪…。なんで男となんか。しかもよりにもよって影浦だよ。これならまだショタに手を出したって言われた方がマシだった。」

「テメェなぁ、あんま調子乗ってっとぶん殴るぞ。」

「殴ったらnamelessさんに言うから。泣きついてやるんだから!」

 

刈谷裕子は持って来た○ーラを開け、飲んだ。

 

「かあ!」

「オヤジかよ。」

「煩いわね、炭酸苦手なのよ。」

「なんで飲んでんだよ!」

「味は美味しいの。炭酸さえなければ完璧な飲み物なのに。」

「炭酸を全否定したな。」

 

そう言ってもう一度○―ラを飲んだ。

 

「……、お前もしかしてレズか?」

 

影浦雅人の言葉に刈谷裕子は止まった。そして刈谷裕子は視線を影浦雅人へ向いた。

 

「否定はしないわ。」

 

刈谷裕子は何も恥じらいはないとそんな風に言い放った。

 

「男は男、女は女。愛さえあれば関係ないよね。」

「……、聞かなきゃよかった。」

「大丈夫よ、これからnamelessさんもこっちに来る予定だから。」

 

影浦雅人は遠くを見るような目で外を見た。刈谷裕子は何を思ったのか嬉しそうに頬を赤らめて顔を左右に振っている。

 

「俺なんかより、よっぽどテメェの方が危ないだろ。」

「手を出した人には言われたくないわ。」

「俺は手を出された方だ!」

「ほら、ポテチでも食べて落ち着きなさいよ。」

 

影浦雅人は舌打ちをしてうすしお味のポテチを食べた。

 

「影浦は知らないの?金髪碧眼は希少なんだよ。アニメとかじゃよくいるけど、金髪も碧眼も劣勢遺伝だから、両親が金髪碧眼じゃないとまずそうならないんだから。」

「だからなんだよ。」

「namelessさんは希少価値なんだよ!10代になるころには淡い茶色とか黒髪が交じるから今も髪が綺麗な金色なのは珍しいんだから!それを、よりもよって…はぁ。」

 

影浦雅人は右手を握り、この女を殴ってやろうかという思いが心の中で確かなものになっていた。

 

「あぁあ、何処に行ったんだろう…?」

「そのうち帰ってくるだろ。アイツは暫くここにいるって言ってたから。」

「その言葉だけは信じてあげる。」

「そうかよ。」

 

二人はポテトチップスを囲みながら彼女の帰りを待つのだった。

 

「あ、ねえ。本読む?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、あんまり嬉しそうじゃないな。」

 

会議が終わり、私はこれから家が用意できるまで玉狛支部の一室を借りることになった。本部の一室でもよかったのだが、学校には玉狛の方が近い。理由はただそれだけだった。そして玉狛に帰るのに小南と迅悠一は一緒に行動するらしい。

 

「何か、喜ぶべき事があったかしら?」

「親が分かった事。」

「…あまり、興味が無かったから。親の顔も何も覚えていないもの。会ったとしても、その人が本当に私の親かなんて私には確かめる術がないもの。」

「俺達が信用できないか?」

 

私の隣を歩いていた迅悠一は立ち止まってそう尋ねてきた。私も立ち止まって彼の方を向いた。

 

「信用はしてるわ。信頼はしてない。唯それだけよ。」

「でも、君はいつか俺達を信頼するよ。」

「それはどうか知らないわ。信頼が生まれるまで私がここにいるかもわからないし。でも、そうね。仲良く出来たら、それが一番じゃないかしら。」

 

私はそう言うと、迅悠一は満足そうに頷いた。彼がどうしてそんな表情をしているのか分からず、首を傾げた。

 

「神崎、玉狛に来ないか?」

「それは、近界民にも良い奴がいるから仲良くしようぜ派になれって事?」

「強制はしないよ。」

「…ごめんさい。それは出来ないわ。」

 

小南は少し納得できないと言った表情をしていた。

 

「確かに、あっちにだって良い人がいるのは知ってるわ。でも、私はもう一生かかっても近界民と言う人種を好きにはなれないと思う。まぁ、相手が私に好意を向けて来るうちは、私も相手には好意を向けるわよ。」

 

迅悠一はそれでも満足そうな表情をしていた。私はなんだか迅悠一に腹が立って来た。

 

「私、一回家に帰るわ。制服置きっ放しだし。」

「玉狛のある場所何処かわかってるの?」

「まぁ、大体の位置は知ってるわ。それじゃ、また会いましょう。」

 

私は彼らを置いて先を歩き始めた。家に帰って制服を取って玉狛に行く。それだけだ。あそこにはある程度馴染みが出来ていたから出て行くのは少し寂しさがある。

それは、思い出が出来てしまったからか。

少し恥ずかしくなって来た。若気の至り…。恐ろしい。

 

真新しいマンションを見上げた。私はその中に入り扉を開いた。そこにはどうしてか影浦雅人と刈谷裕子がいた。彼らはそれぞれ別な本を持っていた。そしてその本を読んでいる影浦雅人は顔を真っ赤にしていた。

 

「おい!これなんだよ!」

「影浦でも読みやすいと思われる百合小説。」

「ふ、ざけんなっ!」

 

と、影浦雅人は本を床に叩きつけた。刈谷裕子は自分が読んでいた本を閉じて、影浦雅人の方に差し出した。

 

「なんだよ、これ?」

「影浦には少し早いと思われる薔薇小説。」

「貴方達、人の部屋で何してるの?」

 

二人はそういうと二人はこちらを見た。影浦雅人は少しだけ嫌な顔をして、刈谷裕子は嬉しそうな顔をした。

 

「namelessさん!暫くここにいるって本当?」

「うん、本当。それから名前は取り敢えず、如月結城のままだから。いつも通り呼んで?」

「うん、わかったよ。如月さん。」

 

刈谷裕子はとびきりの笑顔でそう答えた。それにつられて私も笑みを浮かべる。

 

「お前、何処いってたんだよ。」

 

影浦雅人は私にそう尋ねた。

 

「ボーダーの基地にね。私、新しい部屋が見つかるまで玉狛支部って所でお世話になるから。もうここには来られないよ。」

「流石に不法占拠はまずいよね。」

「うん、だから取り敢えず片付けてくれるかな?ここ。」

 

刈谷裕子は少しだけ不満そうに返事をした。私はクローゼットにかけてあった制服を取り出した。そしてカバンの中に教科書の類を全て詰めた。私は今床に落ちていた本を拾い上げた。

 

『さめない夜』

 

とだけ書かれたタイトル。先ほど影浦雅人が床に投げた本。表紙には女の子二人が描かれている。小さめの本だ。ある程度の厚さがある。適当にページをめくるとこれが小説なのは理解できた。私はその本を立ち読みした。しかし、日本語が達者ではない私にはその本に書かれている事が理解できなかった。ひらがなは大丈夫なのだが、カタカナや漢字が入ってくると読めない。

 

「お前、それ!」

「これ、影浦君の本?」

「ちげーよ!俺にそんな趣味はねぇ!」

 

彼は赤みが引いて来ていた顔を再び真っ赤にして答えた。この本はどうやら彼には恥ずかしいと思えるような事が書かれているのだろうか?

 

「如月さん。その本、私のなんだ。」

「ああ、刈谷さんの。」

「うん、でも、如月さんに貸してあげる。読んだら感想聞かせてよ。」

「そう、わかったわ。頑張って読んでみる。」

「あとこれも。」

 

刈谷裕子はそう言って手に持っていた本を渡して来た。私はそれを受け取ってカバンにしまった。迅悠一にでも読み聞かせてもらおうか。小説の内容など知る由もない私は犠牲者を増やすのだった。

影浦雅人はなぜか頭を抑えていた。

 

「ねぇ、如月さん。学校は来るの?」

「ええ、中学校や高校くらいは出た方がいいって言われたから。」

「そう!じゃあこれからはまた一緒に居られるのね。」

「そうね、私も嬉しいわ。」

「そんなの私もよ。」

 

「あの話さえ、聞いてなきゃただの女の友情なのに…。」

 

影浦雅人は嘆くように呟く。私は影浦雅人の声に振り返った。

 

「何か言った?」

「いや、なんでもなねぇよ。」

「そう?」

 

影浦雅人はため息をついた。それでも前のような無表情ではない。表情のある如月結城の顔を見てどんな顔をしていいのかわからない。楽しそうに刈谷裕子と話をする如月結城。

 

「仕方ねぇな。おら、テメェら。いつまで話してんだよ。行くぞ。」

「なんでアンタが仕切るのよ!」

「ああ!?やるのか!」

「如月さん!この不良どうにかしてよ!」

「本当に仲良いのね。」

「「良くない!!」」




お疲れ様でした。

感想、お待ちしています。

次からは原作に入ります。その間の事は番外編として書くかもしれないですね。

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