戦いしかしらない男の記憶を持ってしまった少年の物語。

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プロローグ

「行くんだよ」

「どこへ?」

「ここじゃないどっか…俺たちの本当の居場所に」

「ほんとの?」

「ん」

「それってどんなとこ?」

「えっ?う〜ん、わかんねぇけど…すげぇとこだよ、メシがいっぱいあってよ、寝床もちゃんとあってよ、あとは……えっと……あとは……行ってみなきゃわっかんねぇ。見てみなきゃわかんねぇよ」

「見てみなきゃ?」

「そうだよ。どうせこっから行くんだからよ」

「そっか、オルガについていったら見たことないものいっぱい見れるね」

「ああ。だから行くぞ!」

 

それに、俺は……

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

目の前に手を伸ばしながら、目を覚ます。

 

「……またこの夢か……」

 

所在ない手を顔に持ってきて目を擦る。時計を見て、起きなければならない時間だと理解した。

 

何故か慣れないふかふかのベッドから起きて、肩を回しながら、外の景色を眺めた。

そして、指を服の中に滑らせて、背骨に沿って撫でる。その先には明らかに異物である突起物があった。

 

産まれながらして存在するそれはもう長い付き合いだ。自身の家族の中で知っているのは親だけだろう。

 

朝の恒例行事を終えて、ベッドから立ち上がる。

 

そこへ、

 

「おにーちゃん!おっはよー!」

 

背中のことは知らないであろう妹が彼の部屋に突っ込んできた。

 

「琴里、うるさい」

「はーい!でもおにーちゃん、おとーさんもおかーさんもいないから、今日は早く起こしてくれって言ってたよ?」

「そう、ありがと」

「うん!じゃあ先に降りるね!」

「わかった」

 

そうして嵐が過ぎ去った後、彼は一度目を閉じた。

 

「オルガ、次はどうすればいい?」

 

彼はそのまま誰かに問いかけた。無論、その部屋にいるのは彼だけなので、返事があるはずもない。のだが、

 

「うん、わかってる。立ち止まってなんていられない。でしょ?オルガ」

 

彼、五河士道は記憶の中の男に向かって笑った。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

衣服を着替え、一階に降りた士道。

それから簡単な料理を開始して、数分後、琴里がつけたのかテレビのニュースがやっていたのを耳にした。

 

『——今日未明、天宮市近郊の——』

「……?」

 

そこに聞き慣れた街の名前が出たので、士道は手を止めた。

世界情勢などに興味のかけらも示さない男でもそればかりは気になり目を向ける。

画面に映ったのは滅茶苦茶に破壊された街の様子が映っていた。

ビルや道路が崩落し、瓦礫の山になっている。

 

「……空間震……だっけ?」

「そーみたい」

 

士道の問いかけに琴里は興味なさげに応える。

空間の地震と言われる広域空間震動現象。

発生原因、発生時期が一切分かっていない、被害規模不確定の爆発、震動、消失などの現象の総称だ。

この現象が初めて確認されたのは30年前のユーラシア大陸のど真ん中。当時のソ連、中国、モンゴル一帯がくりぬかれたかのごとく消失したのだ。

士道の世代なら教科書で嫌でも知ることになる。(のだが、あんまり興味のなかった士道は朧げに覚えているだけのようだった。)

死傷者、およそ1億5000万人。人類史上、最大最悪の災害である。

そしてそれから半年間、世界各地で似たような現象が起きていた。

場所は不特定で、地球上の至る所でそれは起こっていた。

もちろん日本も例外でなく、ユーラシア大陸の惨事から6か月後、東京南部から神奈川県北部、今士道たちが住んでいる地域がごっそりと焦土に変わってしまったのだ。

そんなことに対して、士道はというと……

 

「へー、すごいね」

 

と、小学生並みの感想を述べただけだった。

 

内心穏やかではないのに、記憶がそうさせるのだ。

 

そう、三日月・オーガスとしての記憶が……

 




主人公はは三日月・オーガスではなく、三日月・オーガスの記憶を持った士道です。そこを間違えないでほしいなぁと思ったり……


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