周回数多すぎて辛いです。
時間は少々遡る。
ベルゼリス、レイリー、グロリオーサがセンゴクを気絶させグロリオーサが持っていた海楼石の手錠も嵌めて、捕えたセンゴクを九蛇の船に乗せてアマゾンリリーへ帰港し始めた頃。
「それで、いったいどうするつもりなんだね?」
レイリーがベルゼリスに尋ねる。
グロリオーサも気になっていた様で視線はベルゼリスの方に向いていた。
「簡単だよ。先ほど私がボルサリーノと言う男を人質にしてセンゴクに交渉したように、今度はセンゴクとボルサリーノの二人を人質にして世界政府と交渉するだけだ」
「……難しいと思うぞ……天竜人を殺した時点で交渉の余地はないだろう。もうすぐ海軍本部に連絡が入るだろうし、海軍、世界政府のほとんどの兵力が血眼になって九蛇海賊団を探すだろう。もしかしたら凪の帯にある女ヶ島まで攻め込んでくるかもしれない。凪の帯を渡る手段があるか分からんが、なくても上から命じられたら死ぬ覚悟で凪の帯を進んで来るだろう。そのあたりは考えているのか?」
「そうじゃな。天竜人の性格は自己中心的で傲慢じゃ。同じ天竜人が殺されたと言うニョにその始末を海軍ができなかったと耳に入れば必ず怒り狂い、どんな手段を使っても敵を討つじゃろう」
二人とも顔を顰めて自分の意見を言いだした。
普通に考えればそうなんだろうが九蛇と世界政府の戦争を回避する手段が一つあるのだ。
「要は私たち九蛇が天竜人を殺してないということにすればいいんだよ。ちょうどいい生贄もシャボンディ諸島にいるみたいだしな。今回の天竜人殺害事件は九蛇海賊団は犯人ではないと海軍、世界政府を脅して世間に公表させればいいんだ」
「ふむ。情報操作か……しかしいくら海軍の重要人物を人質にしたからと言ってそんな条件を飲むかね? あまり追い詰めすぎると相手は何をするか分からなくなるぞ」
「世界貴族を殺されて下手人である九蛇海賊団を討伐に向かった海軍大将と中将が九蛇海賊団に捕まり人質にされました、なんて世間に公表できるはずがない。いや、できればしたくないはずだ。だから其処をつくんだ。世界政府にも海軍にも面子があるんだからその面子を守るのに協力する。それプラス九蛇海賊団船長が七武海に入る。それなら向こうも納得できるんじゃないのか?」
おそらくこの条件なら確実に吞むだろう。
ネックなのは早めに交渉しないとニュース・クーなどで世間に九蛇海賊団が何かしらの大事件を起こしたと記載され七武海加盟がやりづらくなること。
もう一つは後の赤犬と呼ばれるサカズキ中将などの海軍強権派が上の命令を聞かずこちらと敵対すること。
徹底的な正義を掲げているだけあってサカズキには話が通じない可能性が高い。
これもちゃんと部下を抑えるようにと交渉の際に言わなくてはならない。
「……よく考えているな。うむ……それならば大丈夫だと思うぞ」
「グレイスが七武海となるニョか? お主、アヤツは七武海加盟を蹴ったと言わなかったか? グレイスが大人しく七武海に入るとは思えんぞ」
「グレイスの説得は先々代皇帝、あなたに頼みます。お前が七武海に入らないのならアマゾンリリーが滅ぶかもしれないとでも言って説明してください。駄々をこねるようなら私が力ずくでも納得させます。それでもダメなら処分して私が新しく九蛇の皇帝となり七武海に入ります」
「うむ。分かった。それとわしの事はニョン婆と呼ぶニョじゃ。先々代皇帝と呼ぶのも面倒じゃろう?」
「分かった、ニョン婆と呼ばせてもらうよ」
そこまで話した後レイリーから急いだほうがいいと言われたのでセンゴクを蹴り起こした。
「う……うぅぅ……うん? ……ハッ!? な、何が目的なんだ貴様ら!?」
少し寝ぼけたが問題ないようだ。
今センゴクは両手の関節が外された上に海楼石の手錠を嵌められているため何の抵抗もできないだろう。
そのことに気づいたセンゴクは憎々しげにこちらを睨みつける。
ちなみにボルサリーノもセンゴクの横に寝ているのだがこちらは安らかに眠っている。
「起きたかセンゴク大将。率直に言うが貴様は人質だ。今から交渉するからコング元帥の電伝虫の番号を言え」
「何?」
状況がよくわかっていないセンゴクに先ほどレイリーとニョン婆にした説明をすると顔を真っ赤にして怒り出した。なぜ怒るのだろうか?
「貴様ら……私が大人しく貴様らの言うことを聞くと思っているのか!? 何が交渉だ!! 我々の顔に泥を塗ったのは貴様らだろうが!! いい加減にしろ!!」
「グレイスの馬鹿が勝手にやったことだ。今更やったことをグチグチと言っても仕方なかろう。それに私の言うことを聞かなければどうなるか分かっているのか? 今度はボルサリーノだけでなくお前まで人質なんだぞ。お前達が死ねば海軍はどうなるのかよく考えたらどうだ? グレイスが七武海になって三大勢力の均衡は安定する。天竜人殺害事件は私達ではなく人攫いの悪魔の実の能力者に罪を被せる。お前達との戦いはなかったことにする。当然お前達が負けて人質にされたこともな。これでお前らの面子は立つだろ?これで妥協しろ」
「お、おのれぇ………! ……クソッ!!」
血管が切れそうなほど怒っているがしぶしぶ納得してコング元帥の電話番号を言ったセンゴク。
すぐにその番号へ掛ける。
掛けるとすぐに電伝虫に出たため声をかける。
「もしもし、九蛇海賊団の者だ。そちらはコング元帥で相違ないな?」
『そうだ…! センゴクとボルサリーノを返せ……! 返さなければお前達は確実に滅ぶだろう…! これは脅しではない。ただの事実だ!』
「返さなければ、ではなく返したら…の間違いだろ? こいつらは今から交渉に使うんだよ。我々の七武海加盟の条件にな。理解したか?」
『ふざけるなァ!! 今まで九蛇海賊団船長のグレイスには何度も七武海加盟の要請をしてきたんだぞ!? なぜこのタイミングで七武海に入るというんだ!? 既に天竜人を殺した九蛇海賊団のグレイスが七武海に入れると思うな!! それとお前はいったい誰だ!?グレイスではないな!? お前では話にならん! グレイスと替われ!!』
だめだ。完全に頭に血が上っている。これは交渉どころではないな。
まったく、元帥のくせに落ち着きがないとは……よくこれで元帥が務まるものだ…。
「……私はボルサリーノを倒した九蛇の戦闘員だ。今グレイスには意識が無いため替わることはできない。コング元帥。一度だけ言うぞ。落ち着け。そして私の話を最後まで聞け」
『ええい! ならばセンゴクかボルサリーノに替われ!! 速くしろ!! 急げ!! さっさと替われ!!』
ぶっ殺してやろうかこの爺。
イラつきながらセンゴクに電伝虫を替わるとセンゴクがコングに凄まじい勢いで謝罪を始め、その後に自分たちがどうなったか、今後九蛇海賊団はどうするかコングに説明を始めた。
しばらくセンゴクがコングに説明をしているのを待っているとセンゴクから替わってくれと言われたため、また替わる。
『つまりセンゴクの話を聞くと天竜人の殺害事件は人攫いの悪魔の実の能力者に擦り付けてお前達の船長が七武海に入る代わりにセンゴクとボルサリーノを返すというんだな?』
「そうだ。ちなみにその人攫いは一週間前に九蛇海賊団から戦闘員を一人攫ってヒューマンショップに売った奴だと聞いている。能力は超人系悪魔の実マボマボの実の幻惑人間だ。元は新世界で賞金稼ぎをしていたようだが、とある大物海賊と揉めてシャボンディ諸島まで逃げ出したと聞いている。性格は小心者で臆病だが分不相応の野心も持っているためちょくちょく修業しているらしい。名前はフライハイトだ。幻覚を見せて他人の精神を惑わしたり幻影を見せて人を騙すことができるそうだ。面倒な能力を持っている小物なんて厄介なだけだろう? ここで殺したほうがいい」
『むぅ……それはそうだが……民衆や海軍はまだしも天竜人を騙すことにもなるからなぁ。私だけでは判断できん。今から電伝虫をもう一つ配置して五老星に繋ぐ。お前が五老星に直接話してみてくれ』
「ああ、分かった。それとグレイスは七武海に入るつもりはないようだったがそれはこちらで説得する。できなかったらこちらで殺して代わりに私が入ろう。一対一でボルサリーノに勝ったんだから実力は問題ないだろう?」
『十分だ。それでは今から繋ぐぞ』
コングはそう言うと向こうでプルプルプルプルと電伝虫を掛ける音が聞こえてきた。
さて、ここからが本番だな。
相手は政治や交渉が得意な五老星だ。本来なら油断すると不利な条件を付けられるかもしれないが生憎最初から人質がいるこちらが有利だ。色々と条件を付けてやろう。
聖地マリージョア
「天竜人が殺されて数時間……未だ音沙汰なしだな」
「海軍は何をやっておるんだ? センゴクが九蛇海賊団討伐に向かったという話だが」
「それとボルサリーノもだ。あの能力から逃げるのは至難だろう。討伐も時間の問題なのだが」
「今まで九蛇海賊団を仕留められなかったのは兵士の質の違いと船の速度差による不利、加えて凪の帯に本拠地があるため手出しできなかったというのが大きい」
「シャボンディ諸島で宴会中とのことだ。今度こそ逃げられん。九蛇の命運もこれまでだな」
世界政府の最高権力者であるこの五人こそが五老星だ。
世界政府の方針はこの五人により決められており、170カ国以上の加盟国を持つ世界をまとめる一大組織をこの五人でまとめていると言っても過言ではない。
そんな事実上の世界のトップ達が居る部屋の電伝虫が突如鳴り響いた。
プルプルプルプル、プルプルプルプル
「ん?ようやくか」
「センゴクにしては遅かったな」
「まったく。天竜人への言い訳も考えねばならん。気が滅入るな」
「何。鬱陶しい九蛇海賊団が壊滅したのだ。悪いことだけではない」
「九蛇か、七武海に入ってくれればよかったんだがな」
「今更そんなこと言ってもどうしようもないだろう。それよりもさっさと取るぞ」
そう言って一人の五老星が電伝虫に出る。
「五老星だ。報告をしなさい」
『どうも。私です。元帥のコングです。実は少々……いえ、かなりの問題が発生しました。私だけで判断できる案件ではないので連絡させていた頂いた次第でして……申し訳ありません!」
そのコングの言葉と謝罪に疑問を持ち顔を見合わせる五老星。
……なんだかすごく嫌な予感がしてきた五人だがそれでも報告を聞かないわけにはいかずコングに続きを催す。
「いったい何があったというのだ? コング、まさか九蛇に逃げられたとでもいうのか?」
『それよりもまだ悪い報告です。センゴクとボルサリーノが九蛇海賊団に捕まり人質にされました」
『ハッ!?』
思わず五老星がハモった。
無理もない。海軍の最高戦力が人質にされるなど前代未聞の大事件だ。
普通ならパニックになるだろう。
それでも流石五老星と言うべきか。すぐに落ち着きを取り戻し一人の五老星がコングに聞く。
『それは……』
『そこからは私が説明しよう』
突如聞こえてきた若い少女の声に五老星は警戒する。
「何者だ?」
『九蛇海賊団所属戦闘員のベルゼリスだ。単刀直入に言うと我々九蛇海賊団の船長グレイスを新たな七武海に入れてもらいたい。そして天竜人の一件を誤魔化してもらいたいんだよ。そのために五老星と交渉を始めたいんだが、構わないか?』
次期元帥であるセンゴクを人質に取られている時点で拒否権はなかった。
「ああ、そちらの要求を聞かせてもらおう」
こうしてベルゼリスと五老星の交渉が始まった。