冥王シルバーズ・レイリー。
偉大なる航路を唯一制覇した海賊王ゴールド・ロジャーの右腕でありロジャー海賊団の副船長だ。
アマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサ。
グレイスを除けば唯一生きている九蛇の皇帝だった老婆。
センゴクが今まで何度も戦かったが仕留めきれなかった熟練の覇気使いだ。
この世界でも上位に位置する強者が二人もセンゴクに敵意を向けている。
この二人の覇王色の覇気で九蛇海賊団との戦いで生き残った海兵が全て気絶してしまい、海軍の残った戦力は大将センゴクただ一人になってしまった。
「九蛇海賊団! まだ出航してはならニュぞ! わしはアマゾンリリー先々代皇帝グロリオーサじゃ!! 今しばらくわしが指揮をとる!! 異論はニャいな?!」
『ハ、ハイッ!』
グロリオーサの老婆とは思えぬ大声と迫力に思わず九蛇海賊団は先々代皇帝だと知り、驚きながらも返事をする。
それに待ったをかけるのはセンゴクだ。
「待てっ! グロリオーサ! いきなり現れて何を言っているんだ!? 我々海軍はもうそこにいるベルゼリスと約定を交わしたのだ! 外野のお前が口を挟むな!!」
海軍の指揮官である自分に九蛇海賊団の暫定指揮官であるベルゼリスが交渉し、お互い納得できる結果となったと言うのに第三者が現れて一方的に指揮を出している。
とても容認できることではない。
しかしセンゴクの抗議もグロリオーサはセンゴクを一瞥し九蛇海賊団への指示を続ける。
グロリオーサの態度にセンゴクが実力行使をしようとした瞬間――――
「彼女と右腕はもらうぞ」
ボキッ
「ぐわぁあああ!?」
レイリーはセンゴクがグロリオーサに意識を向けた隙を突きセンゴクの右肩の関節を外し右手から手放したグレイスを自分の懐に引き寄せ九蛇海賊団の船まで跳躍し、近くにいる船員にグレイスを渡すとベルゼリスの横に移動する。
「味方…と考えていいのか?」
「ああ、私とグロリオーサは君たちの味方だよ」
ベルゼリスの問いにレイリーは答える。そしてレイリーは肩を抑えているセンゴクに向けて剣を構えた。
「レイリー! グロリオーサ! お前達が九蛇に手を貸すのか!? 不可解だ! レイリーはグロリオーサについてきただけなのだろうが、グロリオーサ! もうお前は九蛇と縁を切っているはずだ! アマゾンリリー先代皇帝からお前は九蛇を捨てた裏切り者扱いされたのだろう? そのお前がなぜ九蛇海賊団を助けるのだ!!」
センゴクはあらん限りの声を上げて九蛇海賊団を助けようとする二人に怒鳴り散らす。
「なに、私はただの付き添いだよ。グロリオーサのね」
「つい先日新世界からシャボンディ諸島に来たばかりなニョだが、九蛇海賊団が来たと諸島中がパニックになっておるではニャいか。ヒューマンショップを潰し客を襲いおまけに天竜人まで手にかけたと大騒ぎじゃ。気にニャってちょっと見に来たニョじゃよ」
観戦気分で野次馬に来たと言い放つグロリオーサにセンゴクが激怒する。
「面白半分に見に来ただけならば最後まで大人しくしていろ!! 私は今忙しいんだ! お前達とこんな時に遊んでいる暇などない!! この件が終わってからにしろ!」
「そのつもりだったんだが…なぁグロリオーサよ…」
「うむ。最早そういうわけにもいかなくニャった」
そう言って二人はベルゼリスに視線を向ける。
「先ほどの交渉、実に見事だったよ可愛いお嬢さん。船長を切り捨てたときは冷酷だと思ったが自分の身を犠牲にしてまで仲間を助けようとするとは…」
「ベルゼリスと言ったか? そなたはここで死ぬには惜しい。そしてなによりも、そなたの覚悟が気に入ったニョじゃ。故に助太刀したまでよ」
「そうか…礼を言うよ」
どうやらレイリーとグロリオーサは自分を気に入ったため割って入ってきたようだ。
本当はボルサリーノを渡した直後に逃げるつもりだったのだが確実に逃げられるとは言えないので正直助かる。
その様子に焦るのはセンゴクだ。
自分が掴んでいたグレイスは奪われ右肩の関節を外された。
嵌めようと思えばできるのだがレイリーがそれを視線で阻止する。関節を嵌めようとしたらすぐさま切り込んでくるだろう。自分は右腕が使えずグレイスとの戦いで少しだけだが消耗している。
しかもベルゼリスがボルサリーノを九蛇の船に投げ込んで仲間たちにそいつを抑えていろと指示をし、おまけにレイリー、グロリオーサと共に三人で自分を囲み始めた。
ただでさえ一対一でレイリーに勝てるかわからないのにボルサリーノ以上の実力者が二人もこの場にいる。
今までの人生でぶっちぎりの最悪な状況である。
「小娘ぇ!! 私との約定はどうするつもりだァ!? ボルサリーノを返すのではなかったのか!?」
「状況が変わったんだ…時間を稼いでも九蛇に援軍は来ないと普通思うだろう? むしろ時間稼ぎは海軍側に援軍が来ると思ったからあんな条件を出したんだ。冥王と九蛇の先々代皇帝が援軍に来た上にグレイスを取り返してくれたんだ。今のこの状況で私がグレイスと共に大人しく海軍に捕まるわけないだろ? 悪いがさっきの話はなかったことにしてくれ」
「ふ、ふざけるなぁ!!!」
怒髪天を衝く、といわんばかりに怒りの絶叫を上げるセンゴク。
最早完全に立場が逆転した。
「冥王、先々代皇帝、すまないが私と共にセンゴク大将を倒してくれないか? いい策を思いついたんだがまずはセンゴク大将を倒したい。そのあとに考えた策を実行するつもりだが二人に協力してもらえれば成功率が上がるんだ。私にできることなら可能な限り礼をするよ」
「かまわんよ。私はセンゴクには少々個人的な因縁と恨みがあってね。ここで晴らすとしよう。三対一になってしまったが文句を言うなよセンゴク。これはお前達海兵の基本戦術と同じ袋叩きだ。お前達海兵の戦術を真似しただけなんだから卑怯なんて言うんじゃないぞ。ワハハハハハ」
「実戦では卑怯卑劣は当たり前じゃ。わしらに文句を言うくらいならば対処できない自分を恨むんじゃニャ」
三人とも話しながらも覇気を纏い始めそれぞれ武器をセンゴクに向けて構えている。
最早完全に打つ手なしだ。
「こ、この、海のクズどもがァあああああ!!!」
憤怒の表情を浮かべ三人を罵倒した直後、三人の海賊がセンゴクに襲い掛かった。
数時間後
41番GRで気絶していた海兵の一人が目を覚ます。
はて…自分は何をしていたのだろうか?
気絶する前の何があったかを少しづつ思い出していく海兵。
(たしかセンゴク大将が九蛇海賊団船長のグレイスを倒して…ボルサリーノ中将を倒した九蛇の少女がボルサリーノ中将を人質にとって…センゴク大将と交渉して…その後は…?)
最後にある記憶は自分の身柄を差し出した九蛇の少女に泣きながら手を振る九蛇海賊団を見て、何者かの覇気に当てられた直後記憶が途切れている。
「そ、そうだ! 皆は!?」
全てを思い出した海兵はすぐさま倒れている仲間を見渡す。どうやら九蛇海賊団と戦い終わった後に生きていた海兵は全員気絶してるだけのようだ。皆自分と同じく誰かの覇王色の覇気で気絶したんだろう。
しかし九蛇海賊団がここに居ないということは逃げられてしまったのだろうか?
そんなことを考えながら気絶している仲間達を起こそうとしてふと気づく。
「せ、センゴク大将!! ボルサリーノ中将!! 居ないんですか!? 居るなら返事をしてください! どこにいるんですか!?」
そう。この場には倒れている仲間たちが居るのにセンゴクとボルサリーノだけが居ないのである。
九蛇海賊団は消え、海軍の指揮官であるセンゴクとボルサリーノだけが居ない。
この事実に気づいた海兵の顔は青ざめてしまい、すぐさま持っていた電伝虫を使い本部に連絡を入れコング元帥に報告する。
マリンフォードにある元帥の執務室で海軍本部元帥のコングは信じられない報告に聞き返す。
「…最近耳が遠くなってきたようだ…すまないがもう一度言ってくれないか?」
「ほ、報告! センゴク大将率いる九蛇海賊団殲滅部隊は九蛇海賊団と戦闘し、センゴク大将は九蛇の船長グレイスを生け捕りにしましたがボルサリーノ中将が九蛇の戦闘員との一騎打ちに敗れ人質とされました。その後にセンゴク大将はボルサリーノ中将を倒した九蛇の戦闘員と交渉、内容は九蛇の皇帝グレイスと次期九蛇の皇帝であるその戦闘員が大人しく身柄を差し出すため他の九蛇を見逃すように要求されました。逃がしてくれるならばボルサリーノ中将を無事に返すと約束したためにセンゴク大将はそれを了承し交渉は無事に終わったのですが…」
「ですが?」
「突如巨大な覇王色の覇気が我々海兵を気絶させ、数時間後に自分が目覚めたときには他の海兵たちは皆気絶し九蛇海賊団は姿を消しセンゴク大将、ボルサリーノ中将が行方不明です。おそらくですが二人は九蛇海賊団かその関係者に攫われた模様です」
「アパァアアアアアアアアアアアアアア!!?」
その報告を理解したコングはムンクの如く叫び散らした。
白目を剥き大声で叫ぶコングに声が聞こえた他の将校たちが何事かとドアを開け白目を剥いたコングを驚愕して見つめる。叫び終わったコングは集まった将校たちを無視し連絡をした海兵にすぐに医療班を送ると伝え電伝虫を切る。そして集まった海軍将校たちに簡潔に説明をする。
天竜人を殺害した九蛇海賊団をセンゴクが討伐に向かった事。
九蛇の皇帝グレイスをセンゴクが生け捕りにしたがボルサリーノが九蛇の戦闘員と一騎打ちで敗れ人質にされた事。
その後に何者かの覇王色の覇気が海兵達を気絶させた事。
気が付いた時には九蛇海賊団とセンゴク、ボルサリーノが消えたため二人は九蛇達に攫われたとの事。
説明を聞いた将校たちは皆信じられないといった表情を浮かべている。無理もない。海軍の中ではセンゴクはガープと並び海軍の二枚看板と言われ次期元帥にとコングから直々に通達されているのは海軍の中では周知の事実である。能力に頼りすぎる癖のあるボルサリーノはともかくセンゴクまで攫われるなど、彼の強さを知っている者はとてもではないが信じられないのだ。
しかし呆然としている暇はない。今は少しでも情報を集めセンゴクとボルサリーノを救出しなければならない。
コングがそう決意し捜索隊の派遣を将校たちに指示を出し将校たちが退出した後コングの電伝虫が鳴り響く。
即座に電伝虫を取ったコングだが連絡をしてきた相手は海兵ではなかった。
「もしもし、九蛇海賊団の者だ。そちらはコング元帥で相違ないな?」
それは自分達の仲間を攫ったと思わしき九蛇海賊団からの連絡だった。