女ヶ島の念能力者   作:C3PO

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第7話

 ズガーンッ!!

 

 激しい轟音が鳴り響く。

 

 先ほどまで大砲が爆発するような音が頻繁に鳴っていたがそれもついに終わる。

 

 海軍大将センゴクと九蛇の皇帝グレイスの戦いが終わったのだ。

 

 「そ、そんな!?グレイス様が男なんかに……!」

 「嘘よ!?そんなはずないわ!?何か卑劣な事をしたに決まってる!」

 「一対一でグレイス様が負けるなんて……!ありえないわ!?」

 

 九蛇海賊団の船員たちは目の前の光景が信じられなかった。

 いつだって誰よりも強く、美しく戦っていた自分たちの王が地に臥している。

 今までどんなに強い敵にも怯まず戦いを挑み最後には必ず勝利する九蛇の皇帝が。

 

 一騎打ちで敗北した。

 

 体中から血を流しもはや意識すらないグレイス。手足は本来曲がらない方向に向いており、もし意識があったとしてもこれ以上戦うことはできないだろう。

 

 自分たちの船長の敗北した姿を見て戦意を喪失する九蛇海賊団。ある者はグレイスの姿を呆然と見て、ある者は泣きながら蹲り、ある者はグレイスを倒した敵に怯え尻餅をついている。

 

 最早勝負ありだ。

 

 「終わったな……」

 「お疲れ様です! センゴク大将!」

 「流石です! あの九蛇の王をこんなにあっさりと!」

 

 センゴクの姿はそれなりの傷が幾つか付いて血を流しているがただそれだけなのだ。

 グレイスの斬撃はセンゴクが能力を発動して大仏になった姿の防御を突破することができなかったのだ。

 センゴクは動物(ゾオン)系ヒトヒトの実モデル大仏の能力者だ。巨大化し肌は黄金色に変わり大仏のような姿になり衝撃波を放つことができる。

 

 「九蛇海賊団!! 貴様らの船長は私が倒した! 最早何をしようと無駄だ! 大人しく降伏すれば命は奪わん!」

 今この場限り、だが…。

 

 戦意を喪失した九蛇海賊団の生き残りはその言葉に武器を置こうとする。

 その様子を見たセンゴクは部下に九蛇達の捕縛を命じた瞬間……。

 

 ドクン!

 

 『ウッ!』

 

 自分達を強烈な寒気が包み込みある者は失神し、ある者は体を抱きしめ座り込む。

 

 「こ、これはっ!?」

 

 ──覇王色の覇気か……! いったい誰が……!

 

 誰の仕業か考え始めたセンゴクに巨大な斬撃が襲い掛かる。センゴクは自分の足元で倒れているグレイスを掴み後ろに大きく跳ぶ。そして斬撃を放った者を見ると驚くべき光景があった。

 

 それは自分の信頼する部下ボルサリーノが薙刀を持った小さな少女に襟を掴まれ引きずられていると言う信じられない光景だった。

 

 ──こいつは…ボルサリーノの奇襲を妨害し手傷を負わせた九蛇の少女…! どうやってボルサリーノを…!

 

 ボルサリーノには両足に深い切り傷が刻まれている。頭からも血を流し完全に意識がないようだ。

 そしてボルサリーノの両腕には手錠が付けられている。あの手錠は海軍の技術チームが作ったもので間違いなく海楼石入りの手錠だ。

 対して少女のほうは服がボロボロになっている事と多少の血が流れた痕があること以外何もない。

 息すら切らしていないのだからまだ戦えるのだろう。

 

 この少女とグレイスの二人掛かりなら自分もかなりてこずると思いボルサリーノを向かわせたのだ。

 最初にボルサリーノを殴り飛ばした事は驚いたがまだ経験の少ないであろう子供。戦闘経験の豊富なボルサリーノなら問題なく勝てると思っていたのでセンゴクにとってこの結果は予想外だ。

 

 そして九蛇の少女─ベルゼリスはボルサリーノの首を掴み上げセンゴク達海軍に向かって警告する。

 

 「全員動くな…動いたらこいつの首を圧し折る」

 「クッ」

 

 思わず歯噛みするセンゴク。将来確実に大将まで上り詰めるであろう有能な海兵をこんなところで失うわけにはいかない。

 今は大海賊時代なのだ。どれだけ海賊を殲滅しても無限のように海賊が湧いて出てくるのだから絶対にボルサリーノを助けなければ……!

 

 焦るセンゴクと海兵たち。しかしふとセンゴクは思い出す。

 

 「貴様の船長は私が倒した。今私が気絶したグレイスを右手に掴んでいるだろう。ボルサリーノを殺せば私が貴様たちの船長を殺すぞ…!」

 

 そう怒鳴りつけるセンゴクは先ほどまでの焦りはない。こう言えばボルサリーノを殺すことなどできないと判断したからだ。ただの下っ端ならば見捨てられることもあるだろうが生憎自分が掴んでいる者は九蛇の皇帝であるグレイスなのだ。このまま人質交換か時間稼ぎでもしていれば自分達側が好転すると思っているのだ。

 人質交換の場合交換中に相手の隙ができたらそこで自分が仕留める。この状態のまま時間稼ぎをされても九蛇には援軍は絶対に来ないが自分達には来るかもしれないのだ。

 

 常識で考えた場合はそうなのだろうが。

 

 「好きにしろ。そいつが死んでも誰かが新しく皇帝になればいいだけだ」

 「何だとっ!」

 

 思わず驚くセンゴク、そして九蛇の戦士たち。当然だ。自分たちの王を仲間が見捨てようとする発言をしたのだ。本来皇帝を守るはずの九蛇の戦士が王を切り捨てたために皆驚愕している。

 

 「ベルゼリス様!? どうしてですか!? どうしてグレイス様を見捨てるような事を……!」

 仲間達から当然の非難がベルゼリスに殺到する。

 ベルゼリスは自分に対する非難に口を開き仲間たちに説明し始めた。

 

 「攫われた仲間を取り返そうとするのはまだいい……人身売買などやっている客たちと店の人間に報復するのも理解できる……だが…世界貴族を傷つければ海軍の最高戦力が我々を殺しに来ると私は皆に伝えたはずだ。私達九蛇は確かに強いだろう。実際に今まで負けたことなんてないだろう。しかし、だからと言って慢心して敵の情報も集めず宴会し、酔っぱらったまま戦って負けるなんて情けないにもほどがある。頭も悪い…部下の進言も聞かん…油断して一騎打ちで負ける…このままそいつを皇帝にしていればその内九蛇は滅ぶだろう…現に今九蛇海賊団は壊滅の危機に瀕しているだろう。違うか? そいつが死んでも代わりは居るんだ。グレイスは見捨てろ」

 

 ベルゼリスは淡々と冷酷に仲間達を説得し始める。次期皇帝と目されるベルゼリスの言うことに納得するものが出始め非難の眼差しがなくなり、ついには反対意見もなくなった。

 

 その様子に困るのはセンゴクだ。見たところ本気であのベルゼリスと言う少女は皇帝のグレイスを見捨てるつもりのようだ。他の九蛇の戦士達も説得されこれでは下手なことをすると本当にボルサリーノが危ない。

 

 「さて……静かになったところで交渉を始めよう」

 「交渉だと…?」

 

 思わず呟いた。いったい何を要求するのか……

 

 「まず聞きたいことがある。貴様らはどんな命令を受けてここに来たんだ?」

 「…天竜人および各国の貴族や富豪達を殺害した九蛇海賊団の殲滅だ…」

 「ならばグレイス一人の首でどうだ?最低限こいつの身柄があればマリージョアの天竜人達に顔が立つだろ?」

 

 ベルゼリスの言葉に首を横に振るセンゴク。

 

 「無理だ…元々お前達九蛇は見境なく船を襲い物資を奪い人を殺していく…民間からもひどい討伐要請がある上に我々海軍や世界政府の役人たちも被害にあう。そして今回の天竜人殺害事件…これだけやれば九蛇は一人残らず殲滅対象だ。せめて天竜人に手を出さなければグレイスの七武海加盟と引き換えにお前たちを討伐対象外にできたのだがな…」

 

 そういえば政府から伝書バットが何度も来ていたな。グレイスは一度目を通すと返事を書かずに伝書バットを切り捨てたため今までに四回も伝書バットが来ていたからそろそろ自分が断りの返事を書こうと思っていたところだった。

 

 「何より…ボルサリーノを倒したお前だけは絶対に見逃すことはできん」

 

 まあそうだよな。こんな子供がピカピカの実の能力者であるボルサリーノを倒したんだ。これ以上強くなる前に殺しておきたいと思うのが当然だ。

 

 「でもこの海兵を見捨てることはできないだろ?」

 「……」

 思わず押し黙るセンゴク。まったくもってその通りだ。

 

 「この海兵はかなり強かった…生きていればいずれ海軍大将にも昇格するだろうな。ここでコイツが死ぬのは海軍にとって大きな損失なんだろ? それとも九蛇を殺すための必要な犠牲として容認するのか?」

 「そんなことができるかっ!!」

 「じゃあどうするんだ? グレイス以外の私達も逃がすわけにはいかないんだろう? このまま時間稼ぎを続けるのならコイツは殺すぞ」

 「ぐ、ぬぅ……」

 

 センゴクはとても悩んでいる。どう考えても九蛇を見逃すことはできない。

 かといってボルサリーノを見殺しにするのはとんでもない損失だ。割に合わないどころではない。

 どうしたらいいのか高速で思考しているセンゴクにベルゼリスは声をかける。

 

 「だったらグレイスの他に私も残ろう。皇帝と次期皇帝確実と言われた私が残るんだ…これで文句はないだろ? 他の仲間たちは見逃せ」

 『だめです!! ベルゼリス様!!』

 

 思わず九蛇の仲間たちが悲鳴のように叫ぶ。だが、ベルゼリスはそれに応じない。

 

 「聞き分けろ九蛇海賊団…今あの男が欲しがっているのはこの海兵と私の首だ…このまま時間を稼がれては奴らに援軍が来るかもしれない…そうなれば更に我々は不利になるんだぞ」

 『……』

 ベルゼリスの言葉に仲間たちは何も言えなくなる。そして皆が絶望し涙を流し始める。

 

 「さて…この条件ならどうだ? まず私とグレイス以外の九蛇海賊団がこのままアマゾンリリーに帰還する。九蛇の船は見ての通り獰猛な毒海蛇「遊蛇」が船を引いているため出航して一時間もすればお前たちの軍艦では追いつけないだろう? 今から一時間お前たちが動かないのならば一時間後にこの海兵を無事にお前たちに渡そう。悪い話ではないだろう?これ以上の妥協はできんぞ」

 「ふむ」

 

 確かに悪い話ではない。

 今現在センゴクが絶対にやらなければならないことはボルサリーノの救出とベルゼリスを捕まえる、または殺すこと。九蛇の皇帝グレイスは既に倒した。ベルゼリスもここに残り一時間後にはボルサリーノも帰ってくる。

グレイスとベルゼリスさえ残るのならば他の九蛇は今は逃がしてもいいだろうと判断する。

 

 「いいだろう…ボルサリーノを一時間後に無事に返し、お前とグレイスがここに残るのならば他の九蛇達は見逃そう」

 「ああ。それで構わない」

 

 そのベルゼリスの言葉に泣きながらベルゼリスを見つめる九蛇の仲間達。

 ベルゼリスが一睨みすると気絶や負傷し動けない九蛇の戦士、そして既に事切れた仲間の亡骸を抱え船に運び始めた。

 どうやら自分の姉三人は気絶していたようだ。

 もしハンコック達が気絶していなかったら三人ともこの条件に反対し、説得するのはベルゼリスにできなかっただろう。そうなった場合無理やり気絶させるしか方法は浮かび上がらないため正直助かったのだ。

 

 自らを犠牲にする条件を付けたベルゼリスにセンゴクや他の海兵たちは痛ましいものを見るような視線を投げかける。しかしベルゼリスは九蛇の戦士で海賊だ。殺しも略奪も今までしてきただろう。だから彼女を殺すことは仕方ないことだと己を納得させセンゴクはせめて彼女との条件は守ろうと思った。

 

 しかしベルゼリスはこのまま一時間後にボルサリーノを開放する約束は守るつもりだが大人しく捕まるつもりはないのである。

 ベルゼリスが出した条件は一時間後にボルサリーノを無事に返すことのみ。返した直後逃げ出す。それができなくても気絶したボルサリーノ目掛けて覇気を込めた斬撃を飛ばし続ければセンゴクはボルサリーノを守るしかないのだ。それでセンゴクを倒せればそれでよし。できなくても足手まといが居ない自分なら逃げることくらいできるだろうと思っているためこの条件で全く問題ないのである。

 

 まあグレイスの事は置いていくが仕方ないことである。

 

 ベルゼリスがそこまで考えたとき既に九蛇海賊団は準備を終えたようだ。

 皆が泣きながら自分に手を振っているのを確認し自分も手を振り返した直後に…

 

 ドクン!

 

 と自分以外の覇王色の覇気が二つ周囲にまき散らされ残った数少ない海兵たちが気絶していく。

 

 「な、何ぃ!?いったい誰の覇気だ!?」

 

 驚愕しながら辺りに叫ぶセンゴクの前に二人の老人が現れる。

 

 「私たちの覇気だよ……久しいなセンゴク…」

 「何年振りかニョ…センゴク…」

 

 センゴクはその余りにも有名な二人の老人たちを知っていたため狼狽しながら問いかける。

 

 「なぜだ…! なぜこんな時に出てくるのだ!? レイリー!! グロリオーサ!!」

 

 ここに二人の強者が現れた。

 




戦闘描写って難しいですね…


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