水見式
それは念能力者が己のオーラの系統を知るために使う一般的な方法である。
ハンター協会会長アイザック・ネテロが創設した拳法、心源流に伝わる方法で『発』の修業にも使われている。
やり方はグラスにあふれるギリギリの量の水を入れその上に葉っぱを乗せ手のオーラでグラスを包み『練』を行うと様々な変化が生じるためその変化で自分の系統を調べる。
強化系は水の量が増え、放出系は水の色が変わり、変化形は水の味が変化し、操作系は水に浮いた葉が動き、具現化系は水の中に不純物が出現し、特質系はそれ以外の葉が枯れるなどの現象が起こる。
「……」
今ベルゼリスは女ヶ島の森の奥地で一人水見式を行っていた。『練』も三時間ほど持続できるようになったため自分の念能力『発』を作ろうと思ったのだ。
水見式の結果は水の中に不純物が出現した。
ベルゼリスは具現化系だ。
「……クソッ!!」
バキッ
思わずベルゼリスは苛立ちのまま手近な木を殴り折った。自分の望む系統と違っていたのだ。
──強化系が一番シンプルで自分好みの系統だったのに……!
そう思わずにはいられないほど不満だったのだ。
念能力者は基本的には接近戦で戦いをするのだ。その接近戦では戦闘技術も大事だがそれ以上に重要視されるのは肉体の強化量と顕在オーラ量である。顕在オーラ量とは一度に自分が肉体を強化でき、かつそれを肉体にとどめることができるオーラの最大量のことでこの顕在オーラ量が多ければ多いほど肉体の攻撃力、防御力が上がるのだ。
もう一つの肉体の強化量とは系統によって自分の肉体をオーラで強化できる量は違うのである。
強化系が100%とするならば、放出系、変化形は80%、操作系、具現化系は60%、特質系は40%しかないのだ。
当然この強化量が一番多い強化系が念能力者の中では一番接近戦向けの系統なのである。
さらにこの強化量が多ければ肉体の自然治癒力も高まるために最も優れた系統とも言われている。
ベルゼリスも強化系を狙っていたのだが具現化系から強化系にわざわざ変えるような能力など作る気にはならないため小さくため息をついてどんな能力にするか考え始める。
HUNTER×HUNTERの原作に登場する具現化系能力者で印象に残っているのは、クラピカ、コルトピ、シズク、ノヴだ。
クラピカは片手に一本ずつ鎖を具現化しそれぞれに特殊な能力をつけていた。
コルトピは左手で触った物の贋作を右手に具現化し具現化した贋作はそれぞれ『円』の役割もこなし、また、生物の贋作も具現化できる。(具現化した生物は動くことはできない死体だが)
シズクは掃除機を具現化し掃除機には念で作った物や生き物以外なんでも吸い込む能力をつけている。
そしてノヴはマンションを具現化し自分や他人を自由にマンションと現実に転送することができる。
具現化系が自分の具現化したものに特殊な念を付けられるのは後天的に特質系に代わる可能性が操作系と並んで最も高いと言われているからと多くの念能力者に認識されている。
ここで考えるのはどんな能力をつけるかだ。
具現化するものは自分の愛用している薙刀がいいだろうが何の能力を付けるかで悩んでしまう。
特質系念能力者クロロ・ルシルフルは流星街という特殊な環境で育ち盗賊団を結成し、他人の念能力を盗むという能力を開発した。
『発』は己の人生の集大成のようなものだ。色々なものが欲しいと思ったからこそクロロの『発』は他人のから『発』を盗む『発』になったのだろう。
クロロの能力の最も素晴らしいことは盗みさえすれば何十、何百と色々な念能力を自由に使うことができることである。
念能力の修得において資質そのものとも言える「
それを考えればクロロの能力は反則である。クロロが使った
本当によく考えられた能力である。
そこまで思考してベルゼリスは前世の死を思い出す。
金欲しさにチンピラに襲われた事、自分の持ち物を奪われた事、結果的には殺して奪われた事、
…もう何も奪われたくない… …やり返したい… …今度は自分が奪う側になりたい…
ならば自分の能力は他人から奪う能力にしよう。
自分の『発』をどんな能力にするか決めたベルゼリスは自分の武器を具現化するための修業を始めていく。
一ヶ月後
ベルゼリスは具現化した薙刀を持って
しばらく潜り続けるとシマシマ模様の海王類を発見、海中を勢いよく蹴りつけかなりの速度で海王類に迫るベルゼリス。
そして近づいた海王類に向かってオーラを込めた薙刀で一閃、海王類は自分が両断されたことに気が付き目を見開き絶命する。
ベルゼリスは丁度半分に分かれた海王類の上半身に薙刀を突き刺す。
すると見る見るうちに海王類の上半身がベルゼリスの薙刀に吸い込まれていき、ついには何も残らなくなった。
これこそがベルゼリスの作った『発』である。
・具現化した薙刀はベルゼリスが殺した生物のオーラを吸い取る。直接死骸に薙刀を突き刺せば死骸をオーラに変換し、薙刀にオーラをため込むことができる。
・ため込んだオーラは自分がオーラを消費した場合任意で自分のオーラに変換し、消費した分だけ自分のオーラを回復することができる。
・薙刀にため込めるオーラ量は自分の潜在オーラ量(自分の持つすべてのオーラ量)の二倍まで。
・一ヵ月の終わりに、一ヵ月以内にため込んだオーラの一割を自分の潜在オーラ量の上限に足すことができる。
制約 1 自分以外のすべての生物の精孔を開くことができなくなる
2 自分以外のすべての生物に念能力取得方法を伝えてはいけない
3 一ヵ月以内に薙刀にため込んだオーラの九割は一ヵ月の終わりに消滅する
4 悪魔の実の能力者になってはいけない
誓約 制約2を破った場合破るたびに一ヵ月絶状態になる(他人に悪魔の実の能力などを使われて念能力取得方法が漏れた場合も制約2を破ったことになる)
制約4を破った場合一年間念能力を使えなくなる。悪魔の実の能力者になった後、能力で生物を傷つけるたびに一年間念能力を使えなくなる。
ベルゼリスは前世の死因の影響によってこの能力を作ったのである。
自分はもう何も奪われたくない、ならば他人から奪って強くなる。
そして制約についても『念能力を自分以外に使わせたくない』という思いによってこのルールを決めた。これについては冗談抜きで危険だからである。
このONE PIECEの世界はただでさえ地震を起こして島を傾けたりマグマと氷で天候を変えたり剣の一振りででかい氷山を切ったりするやつがいるのだ。
こんな奴らが念能力を覚えたら本当にシャレにならないのである。
念能力が使えるのは自分だけでいい。下手に誰かに教えて世界中に広まったりしたらろくなことにはならないだろう。
そしてベルゼリスは海王類から奪ったオーラが予想以上に多かったため満足している。
今までに様々な生物からオーラを奪ってきたが、『強い生物ほどオーラを大量に奪える』ということを発見した。
九蛇海賊団の一員として海賊や海兵とも戦い能力の実験台にしてきたが、三日前の覇気使いの海軍将校を殺した時に奪ったオーラ量は海王類よりも遥かに上だったのだ。
まあ、それでも海王類のオーラは下っ端の兵士たちよりも上だったのだが。
この能力によってベルゼリスは自分が飛躍的に強くなれるので、能力についてはとても気に入っている。
八つ当たりに木を殴りつけたとは思えないほどに今のベルゼリスは上機嫌だ。
そして残した海王類の下半身に他の海王類が群がってきたのを確認したベルゼリスは、視界に映るすべての海王類からオーラを奪うために海中を蹴って猛スピードで突撃して行った。
シャボンディ諸島近海の海を九蛇の海賊船は航海していた。
九蛇海賊団から一名行方不明者が出たのである。
名前はユーリン、戦闘員である。
以前億越えの海賊との戦闘があり戦闘自体は問題なく九蛇海賊団の勝利だったのだがユーリンがいつの間にか消えていたのである。
船員たちは誰も知らず倒した海賊を尋問しても何も知らずで困り果てていた。
海に落ちたのではないかと船員たちが海に潜り捜索したが見つからない。ユーリンは泳ぐのが得意なため海に落ちても自力で帰ってこれるはず…
死んだと決まったわけではない。見捨てるわけにはいかないと船長グレイス、以下船員たちはユーリンを探すために近くの島を捜索することに決めた。
絶対に見つけて見せる……! と決意する船長たちを尻目にベルゼリスは行方不明の原因について予測する。
もしかして人攫いかもしれないと。
熟練の覇気使いしか居ない九蛇海賊団から原作ではゴルゴン三姉妹を誰にも見つからずに攫った者たち。
只者ではないだろう。
さすがに今世の家族であるハンコック達が奴隷になるのは見過ごせないため常にハンコック達と共に行動していたが代わりに別の船員が攫われるとは…
まだ人攫いの仕業と決まったわけではないが仮にそうだったとしたら自分が気が付けなかったと言うことだ。
そこまで考えて背筋に冷や汗が伝った。
次は自分の家族が攫われるかもしれないと。
構いすぎて鬱陶しい時もあるが自分を大切にしてくれる姉たちのためにベルゼリスは『円』で船を覆いこれからの敵に備えるのだった。