小説を書き始めてしばらくするとリアルが忙しくなりました。
そう言うことってありますよね?
鋭く尖った鋭利な爪が赤い髪の少女に振り下ろされる。
少女は感情を感じさせない無機質な目で爪の軌道を見切り、六式の『紙絵』で紙一重に躱し、自分を襲った大熊の腕に飛び乗る。そのまま大熊の腕を駆け上がり、『凝』で自分のオーラを右足にたっぷりと集め大熊の顔を抉るように足の甲で蹴り飛ばす。
体重が何トンあるかも分からないほどの巨大な大熊が、自分の十分の一にも満たない小さな少女に蹴り飛ばされるのは現実味のない光景だった。
鼻は折れ、大量に流血しても大熊の覇気は衰えず──寧ろ戦意と殺意に満ち溢れ、残った力を四肢に籠め、弾丸のような速度で少女に向かって突撃する。
そして大熊は、少女が自分の間合いに入る直前に、全身に『武装色の覇気』による硬化を施し、一片の油断なく自分の全力をもって少女を狩ろうとして──少女の理不尽な力に捩じ伏せられた。
少女は殺意を滾らせ自分に弾丸の如く向かってくる大熊を相手に眉一つ動かさず、ただ自分の右腕に、全身を覆っている顕在オーラをすべて集める念能力の応用技『硬』を行い──大熊を迎え撃った。
結果──大熊の体は、トマトを潰したかの如く弾け、肉片が地面に散らばり──少女の右腕は傷一つなく大熊の体を貫通し、獰猛な獣の命を奪った。
「……チッ」
大熊をたやすく屠った赤い髪の少女──ボア・ベルゼリスは力加減を間違えた自分とあっさりと死んだ大熊に向けて大きく舌打ちをした。
(硬化していたのなら原形は保つと思っていたのだが……流石に『硬』で殴るのは失敗だったか?)
今回のように死体が激しく損傷すると自分の持つ念能力『
せめて薙刀の切っ先を突き刺すほど死体が残っていれば吸収できるのだが、ここまで小さな肉片になるとそれも無理な話だ。
今、ベルゼリスは自分のオーラを増やすために、覇気を使いこなせる猛獣が闊歩しているルスカイナ島で猛獣を狩っていた。
ベルゼリスは、センゴクやレイリーなどの強者を超えるのならば、自分には戦闘経験、技量、身体能力が足りないと考えたのだ。
しかし、技量も経験も未だ子供の自分ではどうしようもない。
どちらも実戦を多く積まねば得られぬものであるため、この二つに限っては基礎訓練だけ積んで後回しとする。
だが、身体能力に限っては他人と比べてベルゼリスにはアドバンテージがある。
念能力だ。
オーラさえあれば身体能力を格段に強化することができ、歴戦の海賊や海兵も一溜まりも無い攻撃を繰り出すこともできる。
他にも『円』による無機物の探知もできるため、ベルゼリスはとても重宝している。
『見聞色の覇気』では基本的には生物しか探知できないため、場合によって使い分けているのだ。
オーラはたくさん有るほうができることも増え、継戦能力も上がる為、わざわざオーラの変換量が多い覇気使いの猛獣が居るルスカイナ島に来たのだ。
それと言うのもベルゼリスのオーラの貯蔵量を一月ごとに満タンにしていたらその辺の海王類では変換できるオーラが足りなくなったからだ。
ベルゼリスの『
つまりベルゼリスは、己のオーラを一月に二割増やすことができる。
……尤も、限界までオーラを貯めることができればだが。
『
オーラの変換量は、悪魔の実の能力者>覇気使い>海王類>一般兵となっている。
悪魔の実の能力者はそこら辺を探せば出てくるわけじゃないので、専らベルゼリスは凪の帯とルスカイナ島でオーラを集めていた。
九蛇海賊団船長グレイスが、七武海に加盟してから四年。
この四年間でベルゼリスのオーラ量は凡そ十倍まで増え、六式を習得し、纏う覇気の密度も上がっている。
十二歳になったベルゼリスは背丈が150センチメートルほどまで伸び、体も丸みを帯びて女性らしく成長し誰もが振り返るほどの美しい少女になった。胸も三人の姉達ほどではないが年齢にしては大きく育ち、着ている服によっては胸のふくらみを見ることができるだろう。
服装はノースリーブの黒と赤のアオザイを着て、動きやすいカンフーシューズを履いている。
九蛇の仲間達には言えないが、ベルゼリスはアマゾンリリーの痴女染みた服装をあまり着たくないのだ。
下着同然の薄い皮を局部に巻き付けマントを羽織り、靴はブーツを着けている。
気候の暑いアマゾンリリーならともかく、他の島に行くときは少なくとも自分は着替えるつもりだ。
なので国の服屋に特注で、アオザイなどの露出の少ない服を作らせているのだ。
(一旦アマゾンリリーに帰るか……)
そう思考したベルゼリスは新しく作った『発』を発動させアマゾンリリーに向けて飛び立った。
この世界で有用な能力とはいったいどんな能力か?
この世界の殆どは海であり、移動するには船を使うしかない。
しかし、この世界の海には現代日本の近海などには絶対に存在しないような凶悪な生物が星の数以上に存在するのだ。
人間など当然のごとく蹴散らす海獣や海王類。
こんな凶悪な生物に狙われたらほとんどの人間はなすすべもなく死んでしまうだろう。
その上、海の天候や気候はデタラメで一流の航海士を船に乗せても安全に航海できるか分からない。
ならばこそ【暴君】バーソロミュー・くまが持つニキュニキュの実のような移動、運搬に長けた能力などが、多くの人たちに求められるだろう。
なので、ベルゼリスは自分の二つ目の『発』を移動、運搬を目的とした能力にしたのだ。
『
【変化系能力】
・自分のオーラを好きな形に変化させ、伸縮することができる。
・変化させる形が大きいほどオーラを消費する。
制約 1 自分の体から『
制約 2 『
制約 3 『
制約 4 『
誓約 制約3を破った場合、破ってから二十四時間ベルゼリスのオーラ消費量が二倍になる。(威力、出力は普段のまま)
今ベルゼリスは『
自分のオーラを翼の生えた蛇、蛇竜とでも言うような見た目に変化させて器用にも蛇竜の翼を羽ばたかせているのだ。
足の裏からオーラ放出し、蛇竜に変化させているため、あたかも蛇竜の背に乗っているように見えるだろう。
(やはり空を飛べるのは良いな……)
この能力の元となったのは、HUNTER×HUNTERに登場する『暗殺一家ゾルディック家』の先代当主であるゼノ・ゾルディックの『
変化形の能力で自分のオーラを龍を模した形に変え、それを伸ばして攻撃する。伸縮や旋回も自由自在。更に龍に乗ることで長距離を移動することもできると言う応用性の高い能力だ。
もし自分が変化系能力者だったのならゼノの能力を真似していたかもしれない。
そう思うほどゼノ・ゾルディックの能力はバランス良く完成されているのだ。
『
移動良し、攻撃良し、制圧、殲滅良しのほぼ万能な能力だ。
しかしベルゼリスは具現化系能力者。
変化形とは隣り合っている系統で相性が良いとはいえ『
制約1の効果で原作でのゼノのように他人だけを運ぶことはできない。
制約2と4で能力を隠すこともできない。
制約3で必ず攻撃できないわけではないが、積極的に攻撃することもしないだろう。
これだけ制約を付ければ使い所が限られる能力になるだろうが問題はない。
攻撃は自分の鍛えた体と技術がある。
制圧、殲滅能力は正直惜しかったが、こちらも【鷹の目】のように斬撃を飛ばせば代用にはなる。
なので一番欲しかった移動、運搬系の能力を作ったのだ。
ベルゼリスは帆船でノロノロと移動する時間が大嫌いなのだ。
……まあ、現代日本のフェリーや飛行機などの移動手段を知っているため仕方ないかもしれないが。
ベルゼリスの当面の目的は九蛇海賊団の強化である。
シャボンディ諸島で賞金稼ぎを行い、主に悪魔の実を購入するための資金を貯める。
襲った海賊の持っている金目の物もすべて頂き、優れた武器や色々な島の永久指針もあれば手に入れる。
運が良ければ悪魔の実も手に入るかもしれない。
売却すれば最低価格一億ベリーなので、食わずにとって置く者も多いのだ。
武器や悪魔の実は九蛇海賊団の面子やセンゴクの娘たちに与えるのもいいだろう。
そんなことを考えているとアマゾンリリーが見えてきた。
「ハァッ!!」
掛け声と共に踏み込み、黒い髪の美女が『武装色の覇気』を纏いながら老婆に拳を突き出した。
拳は空気を切り裂く風切音を鳴らしながら老婆を砕こうと迫っていく。
「甘いわァ!!!」
しかし、老婆も同じく拳を握り、迫る女の右腕に覇気を纏った己の右腕をぶつけ、相殺する。
瞬間、互いの一撃で周囲に衝撃が走り、地面がひび割れていく。
相殺の衝撃から逸早く老婆は動き出すが、それに続く形で女も移動し十分な間合いを取った。
「指銃”撥”!!」
黒い髪の女は老婆の背後を取り続けながら指圧を弾丸の如く飛ばし牽制する。
「鉄塊!!」
老婆はその全ての指弾を『鉄塊』で受けきり、隙を見て上空に跳び上がる。
「嵐脚”凱鳥”!!」
女の頭上から鋼鉄も両断する鋭い斬撃が襲い掛かり、女は防ぐのを諦め回避に専念する。
「剃刀!」
『剃』と『月歩』の複合業である剃刀で素早く斬撃から逃れ、間合いを取り、仕切りなおそうとするが──
「残念だったねぇ……六王銃!!」
「うぐっ!?」
いつの間にか懐に入り込んでいた老婆の技に、あえなく倒れることになった。
「技の練度は良く仕上がってるよ……あとは対人戦の経験を積みなぁ」
「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……ございました……」
倒れている黒い髪の美女──ボア・ハンコックは、新しく世界政府から派遣された六式の教官に膝を突き、倒れ込んだままの姿勢で、模擬戦の礼を言った。
倒れ込んだハンコックを見下ろしている老婆の名はクマドリヤマンバ子と言う世界政府の殺し屋である。
原作に登場するCP9のメンバー、クマドリがたまに口にしていたクマドリのおっかさんだ。
最初に派遣された海軍の女将校が六式の指導をしていたのだが、一ヵ月も経たぬうちに、本来習得に長い年月をかける六式をハンコックやベルゼリスが習得し、二ヵ月後には練度も上回られて女将校は自信を無くし帰って行ったのだ。
そのためもっと六式の練度が高い人物を世界政府に呼ぶように頼んで来たのがクマドリのおっかさんだ。
名前が長いのでヤマンバと九蛇の者達から呼ばれている。
最初はこんな婆で大丈夫なのか?と、不安だった戦士達もニョン婆とヤマンバの手合わせを見て考えを改めた。
何しろこの国の皇帝であるグレイスよりも更に強いニョン婆と引き分けるほどの実力を持っているのだ。
……この世界の爺や婆はなぜこうも強いのだろうか。
ベルゼリスはよくそんなことを思うようになった。
ヤマンバも五老星から命じられた時は、七武海になったとはいえ海賊と海賊予備軍の九蛇の民達を鍛えていいものかと悩んでいたが、いざ接してみると、素直ないい娘ばかりだったので現在は疑念なく鍛えている。
戦闘民族である九蛇の民は身体能力もその辺の一般兵とは比べ物にならず優れており、それは六式を習得するための下地としてとても役立つものだった。
才能面でもほとんどの九蛇の戦士は、今まで教えてきたCPの訓練生よりも呑み込みが早く教え甲斐がある為、
ヤマンバも水を得た魚のように成長する生徒たちを見て、いつの間にか乗り気になっていた。
「最後の六王銃は加減したからダメージは少ないはずだよ。ほら!さっさと立ちな!」
「は、はい!」
慌てて立ち上がるハンコック。浸透系の技である六王銃を食らったがヤマンバの絶妙な手加減によりほぼダメージは無い。
このハンコックとヤマンバの模擬戦だがヤマンバが女ヶ島に来てから毎日。それも一日に数回ほど行われている。
それというのも弟子の中でもお気に入りのハンコックが、ベルゼリスより強くなりたいと言うので、毎朝ある基礎訓練の後に模擬戦。朝食後に模擬戦。ハンコックに割り当てられた仕事の後に模擬戦。昼食を食べた後に模擬戦。
夕食前に模擬戦と言う風にずっと戦っているのだ。
ハンコックは六式が気に入っているのでニョン婆ではなく、ヤマンバに師事することが多い。
当たり前の事だが、ヤマンバが数十年研磨した六式の技術は、習得して数年のハンコックよりも格段に高い。
それは六式の奥義である六王銃を使えることから、極めている、と言ってもいいだろう。
「そろそろ六王銃のコツは掴めたかい?」
「う~ん……微妙ですね。体に食らったらわかると思ったんですけど」
「そんなもんでわかるのは一握りの天才だけだよ。地道に六式の技を磨いていけばいつかは習得できるさね」
「そうですか?私としてはさっさと覚えたいんですが……」
「そんな簡単にいくもんか……私より遥かに才能があるくせに。欲張りすぎだよ」
楽して手っ取り早く覚えられないかと思ったハンコックは、ヤマンバに六王銃を自分に使ってほしいと頼んでいたのだ。
攻撃されたときになんとなくわかるかもしれない、と思い付きで言ったアイデアだが意外と覚えるかもしれないと判断したヤマンバによって加減された六王銃を叩き込まれたハンコック。
たぶん、あまり時間をかけずに覚えられるだろうと言って先ほどの模擬戦の内容の反省を話す二人。
そのまま二人は話し込んでいたが、ふと、自分たちのいる地面に大きな影ができたのに気付いた。
頭上を見上げれば、そこにはハンコックの妹であり、目標でもあるベルゼリスが能力によって作った蛇に乗ってこちらに近づいてきた。
原作開始13年前
ベルゼリス12歳
ハンコック16歳(非能力者)