ブライトウィッチーズ   作:大和 公木

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2017/07/04:サブタイトル修正しました。
同/同/05:サブタイトル修正、本文大幅追加しました。
2018/02/09:本文加筆・修正しました。


第一章 ーヒスパニアを取り戻せー 第一節〜ウィッチの旅立ち いざ欧州へ〜
第一部 〜扶桑を発つウィッチ〜


1947年、扶桑皇国青森県大湊町。

ここに、比較的小さな海軍基地があった。

扶桑皇国海軍横須賀基地大湊分隊基地、通称大湊基地。

遣欧艦隊に合流経験のあるウィッチや整備兵も多く在籍している、扶桑皇国本州最北端の海軍基地である。

1945年9月に勃発した樺太・北方危機の折に扶桑皇国が新設した基地で、戦いが最も激化した際には、参戦していた扶桑、オラーシャ、ファラウェイランド、リベリオンのウィッチや一般兵がやって来ていた状態であった。

この基地には現在、ウィッチ部隊である、飛行第一小隊、飛行第二小隊が編成されている。

また、それに合わせて、整備班も分けられている。

大湊分隊は特殊な整備班の構成をとっており、扶桑皇国海軍横須賀基地大湊整備局という、独自の括りとなっている。

大湊整備局は、第一整備班、第二整備班、第三整備班の3つに分けられ、それぞれ、第一整備班がストライカーユニット及びウィッチ使用の武器を、第二整備班が、航空機全般及びウィッチ以外使用の武器を、第三整備班が、船舶及び主副砲や機銃などの艦上使用武器を、それぞれ受け持っている。

このうち第一整備班には、一課と二課があり、それぞれ第一小隊と第二小隊を担当している。

また、大湊整備局の整備兵は、扶桑で唯一武器の常装が認められており、 ー大湊基地は、ウィッチ以外の戦力が乏しいために、整備兵らが自ら立案したシステムー 多くの者が、拳銃やライフルだけでなく、扶桑刀や短刀を常時身につけている。

しかし、その中でただ一人、武器を持たない者がいた。

整備局第一整備班一課所属、百里 焔(ももり ほむら) 一等整備兵である。

普段は温厚で人情味溢れる優しい男で、周囲をまとめあげることが上手く、人望も厚い。しかし、戦闘訓練には参加せず、武器も携帯しない。それ故に、整備班長としての素質は基地の中で一番と言われているが、戦闘行為に参加することを躊躇う臆病者だと言われ、未だに整備班長になれずにいる。焔自身も「俺はそんな偉い人にはなれないよ。」といつも言っている。

 

同年4月1日。

大湊基地の軍人全員が、港に集結していた。

もちろん例外なく、焔の姿もあった。

港には、横須賀が保有する駆逐艦が停泊しており、物資が大量に積み込まれていた。

その船に、海軍制服に身を包んだ、2人の女性が乗り込もうとしていた。

1人は、扶桑海軍横須賀基地大湊分隊飛行第一小隊小隊長の、習和 志野(ならわ しの)大尉である。

愛機は紫電改二の特別仕様で、焔とその同期の中西 弘(なかにし ひろし)一等整備兵、及び八雲 准(やぐも じゅん)一等整備兵が整備・調整を担当している。

通常の紫電改二に手を加え、加速度を低く抑えた分、最高速度までの加速度を常に一定の高さに保つよう設定、結果的に、魔力消費量の軽減を実現しつつも、旋回性と操縦性を向上させ、かつ従来のレシプロストライカーよりも航続距離を伸ばした機体である。

これは、習和の保有魔力量が平均より若干少ないことを考慮した焔による提案で、これが樺太・北方危機の際に、志野の戦果を大きく引き上げる最大の要因となった。

もう一人は、同分隊飛行第二小隊小隊長の百里 日向(ももり ひなた)大尉である。

焔の一つ上の実姉で、数年前に横須賀本隊より志願転属してきた ーちなみに、焔の入隊は、その1〜2年後のことであるー 。

愛機は紫電改二の通常仕様であるため、ここでは特に解説はしない。

二人はこれから、一度横須賀に向かい、遣欧艦隊第290艦隊に合流後、ヒスパニアの南部防衛線に派遣されることになっていた。

「でも、本当に大丈夫?ついてこなくて。」

そう問うのは日向である。問うた相手は焔だ。

「俺より優秀な整備兵なんて、きっと向こうにいくらでもいるよ。それに、姉さんに渡したメモを見せれば、嫌でも理解してくれるはずだ。」

腰に手を当て苦笑しながら返す焔。

「それにしても、あんた達に整備してもらえないって考えるとねぇ…しばらく寂しくなるわね…」

志野もそれに続けて話す。

「それが人事ってやつですから、仕方ないですよ。」

焔が返す。

「そうっすよ!それに、ヒスパニアの戦況が落ち着いて戻ってきたら、俺達が嫌ってほど整備してあげますから!」

次いで八雲が答える。

「お二人の無事と武運、お祈りいたします。そうでないと、我々がお二人の整備を担当する機会が、無くなってしまいますからね。」

最後に中西が答える。

「はははっ。そうだね、うん。必ず2人でここに帰ってくる。その時はまた整備頼むよ。」

「「「了解っ!」」」

志野の言葉に、三人は一斉に敬礼をした。

「それじゃあ…行ってきます…!」

志野と日向は、三人に敬礼を返すと、すぐに駆逐艦に乗り込んだ。

その後すぐに出港、整備兵や司令部官らが帽振れで送り出す。

十数分後には、陸地は遠くなり、おそらく基地には普段通りの日常が広がっていることだろう。

「すっかり基地見えなくなっちゃったね〜。」

日向が甲板から基地のあった方を見渡しながらつぶやく。

「そうねー。あ、見てみて、あれ多分箱館よ。」

そのつぶやきに志野が答え、反対側の陸地を指差す。

「あ、そういえば、私たちが2人で任務こなすの初めてだよね?」

「そういえばそうね…」

「じゃあさ、改めて挨拶しない?」

「えっ?うーん…まあいっか…じゃ、これからよろしくね、日向。」

「こちらこそよろしく、志野。」

硬い握手を交わす2人。

そんな様子を、他の軍人や整備兵達は微笑ましく見ていた。

船は既に津軽海峡を超え、太平洋に差し掛かっていた。

 

横須賀。

呉、佐世保と並んで三大扶桑軍港と呼ばれているこの基地には、主力の艦が数多く籍を置いており、今回ヒスパニアへ向かう空母「葛城」も、その一つである。

十条 真奈(じゅうじょう まな)少佐。

扶桑皇国陸軍第34飛行大隊に所属する機械化航空歩兵である彼女は今、その空母葛城に乗船していた。

彼女は、遣欧艦隊第290艦隊に陸軍から派遣されたウィッチである。

1947年当時でも、扶桑皇国の陸軍と海軍は互いにいがみ合っている状態が続いており、実際近くにいる海軍兵らもまた、気分のいいものとは言えない目を十条に向けていた。

「全く…上層部の啀み合いのせいで、私までとばっちり食らうとか…勘弁してよ…」

はぁ…と深いため息をつく十条。

十条には、今の上層部が考えることややっている事は何一つ分からない。というより、端から理解しようとすら考えていないわけであるが。

ただ一つ分かることは、扶桑の陸海の犬猿関係に、とっとと幕を下ろす努力が上層部に微塵も感じられないという一点に尽きる。

「いつまでも啀み合ってちゃ…どうしようもないのにな…」

独り言のようにボソッと呟く十条。

しかし、1人の海軍兵がこれを聞いていたようで、

「啀み合いは陸軍さんが始めたことだろう?だったら陸軍さんが引けばいいだけじゃないんですかねぇ?」と、まるで子どものように嫌味満載の台詞を、十条に聞こえるように言ったのである。

周りの海軍兵らは、おいよせ、ここで喧嘩なんか始めるなよ、と慌てて発言した海軍兵を宥め始める。

十条が今の文言に対して、激昂してくる可能性があったからだ。

しかし十条は

「やっぱりそうですよね…うちが始めたことですもん、そりゃあ陸軍が手を引かなきゃ終わらないっすよね…はぁ…さっさとやめてくれないかなぁうちの馬鹿上層部…」

と、素直な愚痴をため息混じりに力なくボヤく。

あまりに拍子抜けな反応に、その場の海軍兵は、口をぽかんと開けて固まる。

十条は続ける。

「私は正直、陸海関係なく、皆さんと仲良く出来た方が楽しいだろうし、なにより連携とりやすいだろうにな…って思ってるんですがね…如何せん、陸軍の司令部は、海軍さんのご尤もな指摘に全く耳を貸さないもんでね…みんな口に出せないだけで、現場の人間からしたら、本当にいい加減にしてって感じなんですよ…」

十条は淡々と自身の想いを呟く。誰に対して言うでもなく、ただ独り言のように、しかして皆に語りかけるように。

海軍兵らは、その呟きに、ただ黙って耳を貸していた。

十条は海軍兵らを振り返りこう言った。

「私のような陸軍人がこんな事言うのも変なんですが、ヒスパニアまでの一月間だけで構いませんから、仲良くしていただけませんか…?」

照れながら笑みを浮かべ、後頭部を左手で軽くポリポリと掻きながら言う十条。

返ってきた反応は…無反応。

十条の笑みは、苦笑へと変化した。

『やっぱりダメだったか…』なんてことを思った次の瞬間。

「…まあ、あんたは悪い人じゃないみたいだからな…いいぜ、一月間だけは仲良くしてやる。」

と、最初に口を出した海軍兵が、こう切り出したのだ。

それに続くように、「私は一月と言わず、ずっと仲良くしますよ!」「俺、もっと陸軍について知りたいっす!」等々。

続けざまに皆が笑顔で仲良くすると言ったのだ。

「…ありがとう…ありがとうございます!」

十条は、精一杯の笑顔でそれに応えた。

…これを機に十条は、陸海間相互の緊張緩和に向け、独自に動き出す決意をした。

1947年4月2日、遣欧艦隊第290艦隊は、間もなく出航準備に取り掛かろうとしていた。

 

しばらくして、横須賀に、1隻の船がやってきた。

見たところ駆逐艦のようだった。

駆逐艦は、空母葛城のすぐ横に接岸し、積んでいた物資類を、橋渡しの要領で葛城に移し始めた。

乗員や橋渡しが出来ない様な物資は、船から一度下ろしてから葛城に積み直していた。

少しして、2人の女性が葛城の甲板にやって来た。

海軍の白軍服に身を包んでいることから、十条はすぐにウィッチだと気づき、そちらに歩み始めた。

2人も十条の存在に気が付き、歩みをやめ、こちらに体を向けた。

「はじめまして、私は、扶桑皇国陸軍第34飛行大隊所属、十条真奈少佐であります。おふたりは海軍のウィッチさんとお見受けしましたが…?」

丁寧に頭を下げ、挨拶をする十条。

「あ、はい!私は、扶桑皇国海軍横須賀基地大湊分隊飛行第一小隊所属、習和志野大尉です!」

「同じく、大湊分隊飛行第二小隊所属、百里日向大尉です!」

同じように頭を下げる2人。

十条はここで、私の方が階級上なんだ…と思うと同時に、扶桑ウィッチの数が少なくなっていることも察した。

通常であれば、海軍は横須賀や佐世保、呉ないし舞鶴からウィッチを派遣するのが普通であるが、このウィッチ二人は、そのどこでもなく、横須賀の分隊である大湊からやって来たという。

横須賀基地に所属しているウィッチで現状派遣可能な戦力は、基本皆既に欧州に派遣済みだということなのだろう。

それに、海軍のウィッチと共に陸軍ウィッチである十条も派遣するということは、いよいよもって扶桑のウィッチ不足は否めないということになる。

しかし、そう考えた十条は、あることに気づきすぐにその考えを捨てた。

樺太・北方危機の際、一時期最大の拠点となったのは大湊だった。

そんな基地なのだから、隠れた強者がいても何ら不思議はない。

十条はそうやって、プラスの方向に考えを引っ張っていった。

「き、今日からしばらく、よろしくお願いします…!えっと、私のことは気軽に名前だけで呼んでくれて大丈夫ですし、敬語じゃなくても全然大丈夫ですよ!」

十条の言葉に、2人は困惑する。

「そ、そんな…上官に対して敬語を省略するなんてできませんよ…」

「私もできません…」

2人とも苦笑で返す。

それならばと十条は、

「でしたら…これは命令ということで!」

と微笑みながら返した。

2人は一斉に、「うぐっ…」と唸り、渋々了承した。

「で、でも、何でまた敬語禁止なんて…?」

「うーんと…その前に、2人は今何歳?」

まず志野が答える。

「私は18よ?」

言い終えるより早く日向が続ける。

「私も18!」

「私、17なんですよ…」

苦笑しながらそう話した十条に、2人は驚愕の表情を浮かべたまま固まる。

自分より年下で、自分より階級が上になる事例は、そう珍しくはない。

だが、その年齢と階級が驚きなのだ。

若干17歳にして、自分たちより上の階級である少佐、つまりは佐官という位を得ているという事実に、並々ならぬ実力の高さと経験が滲み出ている。

大尉までの位は、所謂下士官にあたり、まだ大部隊の統率を取るには値しない。

しかし、少佐となれば話は別である。

少佐ということは、大部隊の統率や指揮を任されることもある。

大部隊との統率となれば、様々な戦術などを駆使し、戦いに挑まねばならない。

それだけに、佐官となるためには、一定以上の実戦経験と戦闘の功績を積み重ね、佐官昇格に必要な試験をクリアしなければならない。

二人は、目の前にいるこの少女は、見た目と話し方こそ年相応の女の子だが、中身はウィッチとして完全に仕上がっているのだと、瞬間的に理解出来た。

同時に、最前線は、これ程の実力者を送り込むことが必要になるほどに緊迫している、という訳なのだろうと、改めて気を引き締めた2人であった。

「そういうことなら私たちに対しても敬語禁止ね!これ、年上命令だから!」

「年上命令ってなによそれ…」

「い、いいんでs…いいの?」

「もちろん!ね?志野?」

「まあ、お互いに仲を深めて行くのは、今後においても悪いことじゃないからね。私からもお願い。」

「は、はい…じゃなかった…うん!よろしくね、二人とも!」

「こちらこそ、よろしくね真奈ちゃん!」

「よろしく、真奈ちゃん。」

固い握手を交わした3人は、それから甲板上で談笑を続け、完全に打ち解けたようだった。

大湊から2人を載せてきた駆逐艦への補給も完了し、いよいよ出航することになった。

旗艦となる葛城が、出航の合図として汽笛を鳴らすと同時に動き始める。

港では、多くの人々が手を振り、また帽振れをしていた。

艦隊の乗員らも皆、手を振り、ないし帽振れで返す。

日向達3人も、港の人々に手を振り返す。

ここから、激戦地となっているヒスパニアの西の隣国、ルシタニアのリスボン基地に向かい、リスボンからは陸路と空路でヒスパニア西側国境まで向かうことになっている。

そこから先は、状況にもよるが、臨時拠点のあるグラナダまで進む予定となっている。

前線へ向かうことに対して緊張する者もいれば、これから向かう先での闘志を燃やす者もいた。

そして、最も最前線で戦うことになる少女3人は、やる気に満ちていた。

必ずネウロイからヒスパニアを、世界を守り、人々の暮らしを守るのだと、少女達は決意していた。

その決意は、いつしか少女達の団結へと繋がる。

しかし少女達は、否、誰ひとりとして知らなかった。

この欧州派兵が、これから生まれる悲劇とドラマの始まりであることを…




久々の投稿となりました。
ようやくウィッチ作品らしくなったかな…?( ̄▽ ̄;)
見ていただけたら幸いです!
ちなみに、樺太・北方危機については、時間があれば番外編で紹介しようかな…と考えています!

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